悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

文字の大きさ
142 / 200
【第13部】天を衝く悪役令嬢編 ~空に道がないなら、番人をへし折って「お迎え」にすればよろしいのです~

第142話 最強の安全地帯:私を置いていく? そんなことしたら、誰がツッコミを入れるんですか!

しおりを挟む
「……あなた達も、島を離れなさい」

 タネガシマに吹き荒れる海風の中で、わたしの声は冷たく響いた。

「ビーコンを出したら、あとは野となれ山となれよ。……アリスの『光の繭』の術式は、魔石に登録してもらったわ。ミリアの計算式も、イリスにインストール済みよ」

 わたしは二人から視線を逸らし、空を見上げた。

「あとは、わたくし一人でなんとかするわ」

「……何とかするって、どうやってですか?」

 ミリアが、静かだが怒りを孕んだ声で問い返す。

「国を一つ焼いて潰すような『システム』が相手になるかもしれないのでしょう? レヴィーネ様といえど、無事で済む保証なんて……」

「ないわよ。だから逃げろと言っているの」

 わたしはぴしゃりと言い放ち、二人を睨んだ。

「あなた達、怖くないの? 死ぬかもしれないのよ?」

 イリスの試算では、ドラゴンの迎撃能力は未知数。最悪の場合、島ごと消滅させられる可能性だってある。
 けれど。

「怖くなんて、ありません!」

 ミリアが一歩、前に出た。
 いつも冷静沈着な彼女が、眼鏡の奥の瞳を潤ませ、声を張り上げた。

「そんなのが相手になったとしても……レヴィーネ様のそばこそが、この世界で最高の安全圏です!!」

「ミリア……」

「私はV&C商会の社長です。社長が、会長オーナーの危機に逃げ出すなんてありえません! それに……もしレヴィーネ様がいなくなったら、誰がこの国の経済を回すんですか! 誰が無茶な発注をして、私を困らせてくれるんですか!」

 彼女は胸に手を当て、毅然と言った。

「私は離れません。……地獄の底でも、空の果てでも、お供します」

 その揺るぎない忠誠心に、わたしは言葉を詰まらせた。
 と、その横から。
 ペチッ、と軽い音がして、杖の先がわたしの脇腹を突っついた。

「……で、アリス。あんたも……」

「痛いのは嫌だよ?」

 アリスがあっけらかんと言った。

「寒いのも嫌だし、怖いのも嫌。……できればこたつで蜜柑食べてたい」

「なら……」

「でーも! 置いていかれるのは、もっと嫌だよ!!」

 アリスは頬を膨らませ、わたしの顔を覗き込んだ。

「あのね、レヴィちゃん。もしレヴィちゃん一人で行ってみなよ。……絶対、ろくなことにならないから」

「失礼ね。わたし一人でも……」

「無理無理。絶対、空の遺跡についた瞬間に『あら、邪魔な壁ですわね』って破壊して、貴重な古代遺産をガラクタにしちゃうでしょ?」

「う……」

「それに、もしすごい絶景があっても、一人じゃ写真も撮れないじゃん。……『わぁ、綺麗!』って言い合える相手がいなかったら、どんな景色もただの背景だよ?」

 アリスはにへへと笑い、わたしの腕に抱きついた。

「私はレヴィちゃんの相棒バディだよ? 共犯者だよ? ……レヴィちゃんが暴走しないようにブレーキ踏んで、レヴィちゃんが寂しくないように騒ぐのが、私の役目でしょ」

「アリス……」

「それにね。……私の新しい魔法『光の繭ルミナス・コクーン』は、レヴィちゃんを守るために編んだんだよ? 本人がいないで、どうやって使うのさ」

 彼女は空を見上げた。

「世界中の子供たちに笑顔と温もりを届けるのが、アイドル聖女の覚悟だよ。……そのためなら、空の大家さんくらい、物理込みの笑顔で説得してみせるよ!」

 二人の瞳を見る。
 そこには、恐怖よりも強い、信頼と覚悟が宿っていた。
 ……ああ、本当に。
 わたしは、とんでもない部下と相棒を持ってしまったものだ。

「……はぁ。わかったわよ」

 わたしは降参するように両手を上げた。
 そして、ニヤリと不敵に笑う。

「後悔しても知らないわよ? ……地獄だろうが、宇宙そらだろうが、付き合ってもらうわ」

「「はいっ!!」」

 二人の返事が重なる。
 わたしは通信塔の基部に設置された、巨大なレバーに手をかけた。

「さあ、覚悟を決めなさい! ……お迎えのタクシーを呼ぶわよ!」

 ガコンッ!!!

 レバーが下ろされる。
 その瞬間、背後に停泊していた『ヴィータヴェン号』が、獣のような咆哮を上げた。

 『ヌヴォオオオオオオオオオオォォォォォンッッッ!!!!』

 ドワーフたちが魔改造を施した超高出力魔導エンジンが、リミッターを解除され、臨界点まで回転数を上げたのだ。
 船体から伸びる極太の魔導ケーブルを通じて、発電所数基分にも匹敵する莫大な魔力が、通信塔へと暴力的に流し込まれる。

 バチバチバチッ……!!!

 通信塔の基部が赤熱し、周囲の空間が歪む。
 あまりの高エネルギー密度に、タネガシマの岩盤が悲鳴を上げ、島全体が地震のように激しく振動した。

「うわわっ!? じ、地面が揺れてるぅぅ!?」
「エネルギー充填率120%突破! 塔が保ちません、放出します!」

 ミリアが叫ぶのと同時。
 通信塔の先端、巨大な魔石のアンテナが、太陽ごとき輝きを放った。

「征けぇぇぇぇぇッッ!!!」

 わたしの号令と共に、圧縮された魔力の塊が弾け飛ぶ。
 それはもはや通信などという生易しいものではなく、空を穿つ「光の槍」だった。

 ズドォォォォォォォンッッ!!!!!

 『ピーーーーーーーーーヒョロロロロロ…………!!!』

 大気を引き裂く衝撃波と、鼓膜をつんざく高周波のデータ音が入り混じり、タネガシマの空へと垂直に射出された。
 雲が一瞬で消し飛び、蒼穹に巨大な風穴が開く。
 地上の人間が、初めて神の領域宇宙へと、全力のノックを叩き込んだ瞬間だった。

 空を見上げる。
 来るか、お迎えドローン
 それとも、番人ドラゴン

 わたしたちの戦いが、今、幕を開ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずきりり
ファンタジー
目が覚めたら、豪華絢爛な寝室……に、浮かぶ俺。 死んだ……? まさかの幽霊……? 誰にも認識されず、悲しみと孤独が襲う中で、繰り広げられそうな修羅場。 せめて幽霊になるなら異世界とか止めてくれ!! 何故か部屋から逃げる事も出来ず……と思えば、悪役令嬢らしき女の子から離れる事が出来ない!? どうやら前世ハマっていたゲームの世界に転生したようだけど、既にシナリオとは違う事が起きている……。 そして何と!悪役令嬢は転生者! 俺は……転……死?幽霊……? どうなる!?悪役令嬢! ってか、どうなるの俺!? --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

処理中です...