悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

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【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~

第155話 再就職斡旋(物理):そのパワードスーツ、道路工事に最適ですわね!

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 上空、高度八千メートル。
 そこは、吐く息さえ凍りつく、神々の領域だ。
 眼下には、見渡す限りの雲海。その切れ間から、豆粒のように小さな地上が見え隠れしている。

「……良い風ですわ」

 わたしは、天蓋都市『揺り籠』のへりに立ち、眼下の景色を見下ろしていた。

 身に纏っているのは、いつもの漆黒のドレスではない。空気抵抗と防寒、そして何より「着地時の衝撃」に耐えうるよう、ドワーフの匠たちが特別に仕立てた『黒鋼繊維の戦闘用ドレス(フォーマル仕様)』だ。

 パラシュートなどという無粋なものは背負っていない。
 わたしの手にあるのは、相棒であり、最強の鈍器であり、そして至高の座席である『漆黒の玉座オリジン』だけだ。

『レヴィーネ様。降下地点、座標固定。……西方連邦、西海岸の要衝、港湾都市バルバロスです』

 イリスの冷徹な声が、イヤーカフ型の通信機から響く。

『当該エリアには、連邦軍の機甲師団が展開中。……再稼働した古代兵器「ゴリアテ」および「タラスク」の多数反応あり。……本当に、生身で行くのですか?』

「愚問ですわね、イリス」

 わたしは、鉄扇をパチンと閉じた。
 風が、黄金の髪を激しく煽る。
 彼らは、自分たちが『侵略する側』だと信じ込んで、玩具(古代兵器)を並べて悦に浸っているようだ。
 まさか、攻め込む前に『話し合い(物理)』の場が、空から降ってくるとは夢にも思っていないだろう。
 だからこそ、ド派手に挨拶するのが悪役ヒールの礼儀というものだ。

「行ってまいりますわ!」

 わたしは玉座を小脇に抱え、虚空へと身を躍らせた。

◆◆◆

 落下速度が、音速を超えた。
 視界が白く滲み、風切り音が轟音となって鼓膜を叩く。
 死と隣り合わせの速度。だが、わたしは笑っていた。
 風を切り裂き、雲を突き破るこの感覚。
 危険に身を躍らせながら、わたしは今、誰よりも自由と「生」を感じていた。

 眼下の街が、急速に拡大していく。
 西方連邦の玄関口、港湾都市バルバロス。
 海岸線には、蟻のように蠢く兵士たちと、無骨な鉄塊がひしめき合っているのが見える。

「……ふふ。いいエンジンを積んでいそうですわね」

 わたしは空中で身を捻り、抱えていた玉座を展開した。
 ガシャン、という小気味よい音と共に、それは椅子の形を成す。
 わたしは落下しながら、優雅にそこへ腰を下ろした。
 脚を組み、頬杖をつき、あくまで傲岸不遜に。
 全身の魔力を循環させ、身体強化と身体操作の出力を最大まで引き上げる。

 狙うは一点。
 敵司令部が置かれている、港湾管理棟の屋上だ。

「――ごきげんよう(物理)ッ!!」

 ズドォォォォォォォォォォォォォンッッ!!!!!

 激突。
 質量と速度、そして魔力による身体強化が一点に集中し、爆発的な衝撃波を生み出す。
 管理棟の堅牢な屋根が、まるで紙細工のように粉砕された。瓦礫が四方八方へ弾け飛び、衝撃で周囲のガラス窓が一斉に割れる。

 土煙がもうもうと立ち込める中、わたしは静かに立ち上がった。

「な、な、なんだ……!?」
「り、竜騎士の空襲か!? いや、隕石か!?」

 瓦礫の山となった司令室で、腰を抜かした将軍らしき男が、パクパクと口を開閉させている。
 わたしは、埃一つついていないドレスの裾を払い、鉄扇を開いて口元を隠した。

「初めまして、そしてお邪魔しますわ。……トヨノクニより、教育的指導のデリバリーに参りました」

「き、貴様……レヴィーネ・ヴィータヴェンか!? 馬鹿な、空から……人間が……!?」

「人間ではありませんわ。……通りすがりの『悪役令嬢面接官』です」

 わたしは、瓦礫の山をヒールで踏み越え、バルコニーへと出た。
 眼下の広場には、何が起きたか分からずに混乱する数千の兵士たちと、古代兵器の群れが見える。

「撃て! あの女を殺せ! 悪魔だ!」

 将軍の絶叫に近い命令が響く。
 それを合図に、広場に展開していた『ゴリアテ』部隊が一斉に動いた。
 油圧シリンダーが唸りを上げ、鋼鉄の巨人が跳躍する。
 搭載された魔導パイルバンカーが、青白い火花を散らしながら、わたしに向けて突き出された。

「死ねぇぇぇッ!!」

 パイロットの殺気。岩盤をも貫く必殺の一撃。
 だが。

「……遅い」

 わたしは、欠伸を噛み殺しながら、左手一本でそれを止めた。

 ガギィィィンッ……!!

 金属同士が軋む不快な音が響く。
 『ゴリアテ』の巨大な拳が、わたしのてのひらで完全に静止していた。

「な、に……っ!?」

 パイロットが驚愕に目を見開く。
 わたしは、受け止めた拳を愛でるように撫でた。

「あら。……悪くないトルクですわね。関節の可動域も広い。出力安定性も、現代のゴーレムより遥かに上ですわ」

「き、貴様……何を……!?」

「合格ですわ」

 わたしはニッコリと笑い――握りしめた。

 メキメキメキッ!!

 分厚い装甲板が、アルミホイルのようにひしゃげる。
 わたしはそのまま、『ゴリアテ』を片手で軽々と持ち上げ、玉座で殴り飛ばした。

「さあ、次の面接者はいなくて!? まとめてかかってらっしゃい!」

 ドガッ! バキッ! グシャァッ!

 広場は一瞬にして鉄屑の山と化した。
 わたしは玉座を振るい、群がる敵機を次々となぎ払う。
 ただし、壊すのは「武装」と「装甲」だけ。動力源である魔力炉と、駆動系であるフレームは、絶妙な手加減で残しておく。

「ひ、ひぃぃぃ! 化け物だ! 古代兵器が、玩具みたいに!」

 数分後。
 広場には、武装をもぎ取られ、ダルマのようになった『ゴリアテ』と、戦意を完全にへし折られた兵士たちが転がっていた。
 わたしは、玉座に座り直し、震える将軍を見下ろした。

「あなた方、今日から『黒鉄組・機甲土木小隊』として採用して差し上げます。……そのパワードスーツ、人を殺すにはオーバースペックですが、道路工事には最適ですもの。……さて」

 わたしは立ち上がると、広場の瓦礫を玉座の豪快なスイング一閃で掃き清め、懐から一本の巨大な杭――「空間固定用アンカー」を取り出した。
 それを地面に突き立てると、そのまま玉座を大きく振りかぶる。

「……ふんっ!!」

 ガギィィィンッ!!

 轟音と共に、アンカーが石畳を貫き、大地の深くまで打ち込まれた。
 わたしは丹田から湧き上がる膨大な魔力を玉座を通じてアンカーへと流し込み、イヤーカフの通信機を通じて叫んだ。

「――『繋げる』わよ!!」

『座標固定、リンク確立。いつでもいけます』

 イリスの応答とほぼ同時に、天蓋の管理人工知能デメテルからの割り込みが入る。

『魔力供給ライン、直結しました。「天蓋」の魔力をフルバーストで送りますわよ、レヴィーネ様マスター|』

 次いで聞き覚えのあるガラッパチな声が怒鳴り込んできた。

『おうよ! こっちはいつでも突っ込めるがや、姐さん!』

 イリス、デメテル、ヒデヨシからの応答が重なる。
 次の瞬間、上空の天蓋都市から、目に見えるほどの太い魔力の柱が降り注ぎ、アンカーへと突き刺さった。
 ブォォォォン……!!
 アンカーを中心に、幾重もの複雑な魔方陣が展開される。古代語の文字がまばゆい光を放ち、空間そのものが軋みを上げて歪み始めた。
 物理法則をねじ曲げ、距離という概念を無効化する、神代の超技術。

 そして。

 バシュゥゥゥッ!!

 広場の空間が弾け飛び、巨大な光の渦が出現した。
 わたしが打ち込んだ「アンカー」と、トヨノクニの「オワリ」で今か今かと待ち受ける『黒鉄組』とを繋ぐ、一回限りの使い捨て超高級転移門――『天の掛橋ゲート』だ。

『開いたがや! 突入だわ、姐さん!!』

 イヤーカフから、ヒデヨシの興奮した尾張弁が響く。
 直後、ゲートの向こう側から、内燃機関の爆音と、男たちの雄叫びが轟いた。

 ズドドドドドドドドドドッッ!!

「「「工事の時間だぁああああぁぁぁッッ!!!」」」

 怒号のような咆吼と共に、光の渦から雪崩れ込んできたのは、極彩色の装飾を施した魔導トラック(デコトラ)の軍団。
 先頭を走るのは、悪夢のような巨大重機『鋳潰し三号』。
 さらにその後ろから、全高4メートルの作業用強化外骨格――ミリアが開発した『魔導農業外骨格・豊穣壱型ハーベスト・ワン』をヒデヨシが魔改造した、『土木工事専門外骨格・土木弐型インフラ・ツー』部隊が続く。

「ここが西海岸か! なんだかシケた空気だぜ!!」

 トラックの窓から身を乗り出した男が叫ぶ。それに呼応するように、別の車両から指示が飛ぶ。

「野郎ども、手はず通りだ! まずは港の整備と拡張だあ!」
「へい! 邪魔な瓦礫は『鋳潰し三号スクラップ・スリー』に食わせちまえ!」

 ドリルと粉砕機(クラッシャー)を備えた重機が、瓦礫の山に突っ込んでいく。

「おっ、そこにいい素材が転がってるじゃねぇか!」
「手の空いたヤツは姐さんが伸した連中を改造しちまえ!! 即戦力だ!」

 黒鉄組の男たちが、唖然とする連邦軍の兵士たちに群がっていく。
 スパナと溶接機を持った彼らの目は、敵を見る目ではない。使える「資材」を見る目だ。

「ちょ、やめろ! それは主砲だぞ!」
「うるせぇ! 今日からそれは『煙突』だ! 排土板ブレードを溶接してやるからありがたく思え!」

 戦場は、一瞬にして喧騒と熱気に包まれた巨大な「工事現場」へと変貌した。
 あまりの理不尽と圧倒的なエネルギーに、将軍が膝から崩れ落ちる。
 武力による制圧ではない。これは、トヨノクニが誇る「現場力」による、強引な吸収合併だ。

「さあ、陸の次は海ですわよ!」

 わたしは混乱の極みにある広場を見下ろし、満足げに指を鳴らした。
 沖合の霧が晴れ、水平線を埋め尽くすほどの黒い影――リョウマの『黒船屋』大船団が姿を現す。

 空からは悪役令嬢、陸からは土木軍団、海からは商人。
 三本の矢が突き刺さった今、この都市の運命は決した。
 破壊と創造、そして商魂の宴の始まりである。
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