悪役令嬢の兇器はドス黒い鈍器《パイプ椅子》です ~前世は病弱、今世は物理最強。魔法もチートも私には勝てません~

みやもと春九堂@月館望男

文字の大きさ
156 / 200
【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~

第156話 黒船の商人:略奪? いえ、「爆買い」ですわ!

しおりを挟む
 陸側での騒乱が「建設的な破壊」へと変わりつつある頃。
 わたしは、瓦礫の山となった管理棟のバルコニーから、視線を海へと転じた。
 沖合を覆っていた朝霧が、強い海風によって払われていく。

 ボォォォォォォォォォォッッ……!!

 腹の底に響くような重厚な汽笛の音が、波濤を越えて届いた。
 水平線を埋め尽くす黒い影。
 その数、大小合わせて百隻以上。
 かつてわたしがトヨノクニへ向かった時とは比べ物にならない、堂々たる大船団だ。
 旗艦の帆には、二匹の海竜が絡み合う『黒船屋』の紋章が、誇らしげに掲げられている。

「来ましたわね。……第三の矢が」

 わたしは口元を緩めた。
 陸からは土木部隊。空からはわたし。
 そして海からは――最強の「兵站サプライヤー」が到着だ。

◆◆◆

 港の桟橋には、まだ状況を飲み込めない連邦軍の兵士や、恐る恐る家から出てきた市民たちが集まっていた。
 彼らの目前に、漆黒の船体が接岸する。
 タラップが降ろされると、そこから降り立ったのは、武装した海兵隊……ではない。
 ねじり鉢巻に法被はっぴ姿、肩には巨大な木箱や米俵を担いだ、屈強な「人足」たちだ。

「オイサッ! オイサッ!」

 威勢の良い掛け声と共に、広場に次々と物資が積み上げられていく。
 そして、最後に悠然と降りてきた男。
 無造作に被った帽子、潮風に晒されたコート、そして懐には魔導計算機電卓
 トヨノクニの海運王、サカモト・リョウマだ。

「よう! 待たせたのう、レヴィーネの姐さん!」

 彼はわたしを見上げ、ニカっと白い歯を見せた。

「こじゃんと持って来たぜよ! トヨノクニの倉庫が悲鳴を上げゆうき、全部吐き出しに来たわ!」

「ええ、ご苦労様。……さあ、リョウマ。店開きなさい」

 わたしの合図で、リョウマは積み上げられた俵の一つに歩み寄り、腰の小刀でその腹を裂いた。
 ザラァァァ……!!
 溢れ出したのは、陽光を浴びて宝石のように白く輝く精米――トヨノクニ産最高級品種『タカニシキ』だ。

「こ、米……? しかも、見たこともないほど白い……」
「おい見ろ! あっちの箱は干し肉だ!」
「野菜だ! 果物だ! 新鮮な魚の干物だ!」

 どよめきが広がる。

 無理もない。かつて金融と貿易で栄えたこの国も、今は見る影もない。
 主要国がこぞって『トヨノクニ保険』へ乗り換えたことで金融業は破綻寸前。

 起死回生を狙ってトヨノクニへの経済封鎖(輸出入禁止)を断行したが、それは自国民の生命線――安くて高品質なトヨノクニ製品の輸入――を自ら断ち切る自殺行為でしかなかったのだ。

 飢えた市民たちの視線が、山積みの食料に釘付けになる。
 リョウマは木箱の上に飛び乗り、声を張り上げた。

「さあさあ、大市(バザール)の開幕ぜよ! こちとら商売しに来たんだ、略奪なんざ興味ねぇよ! 腹減ってんだろ? トヨノクニの百姓たちが丹精込めて作った最高傑作だ! 食ってみろやぁ!」

 人足たちが、その場で巨大な釜に火を入れ、炊き出しを始める。
 甘く、芳醇な炊きたての米の香りが、潮風に乗って広場を満たしていく。
 その暴力的なまでの「食欲への刺激」に、市民だけでなく、武装解除された兵士たちさえも生唾を飲み込んだ。

「け、けどよぉ……」

 一人の商人が、やせ細った体で前に出た。

「俺たちは……あんた達を『封鎖』した敵国だぞ……? それに、こんな上等なもの、買う金なんて……」

 かつての栄華はどこへやら。彼らの財布は、長引く不況と重税で空っぽだ。
 そんな彼らの前に、わたしは『漆黒の玉座オリジン』を携えて、ふわりと着地した。

「金がない? ……ならば、モノを持ってきなさい」

 わたしは鉄扇を開き、街の倉庫街を指し示した。

「あなた方の政府は、わたくしたちとの交易を禁じました。……そのせいで、あなた方の倉庫には『売り損ねた在庫』が山ほど眠っているのではありませんこと?」

 図星だったのだろう。商人の顔が歪む。
 輸出できずに積み上がったスパイス、織物、工芸品。それらは飯の種にはなっても、直接腹を満たしてはくれない。

「倉庫のガラクタ……いえ、あなた方の『宝』を持ってきなさい。……全てわたくしが買い取りますわ!」

「で、でも……どうせ足元を見て、タダ同然で買い叩くんだろ……? 俺たちには拒否権なんて……」

 諦めかけた商人の言葉を、わたしは鼻で笑い飛ばした。

「買い叩く? ……心外ですわね」

 わたしは懐から、ずっしりと重い革袋を取り出した。
 紐を解き、逆さにする。

 ジャララララッ……!!

 黄金の滝。純度100%のトヨノクニ金貨が、石畳の上に小山を築く。

「勘違いされているようですが、これは『大人買い』ですのよ? ……すべて、あなた方の『言い値』で買い上げますわ!」

「「「は……?」」」

 呆然とする群衆に、わたしは畳み掛ける。

「市場価格の倍でも三倍でも構いませんわ! わたくしが欲しいのは『質』と『量』! 金に糸目はつけません!」

 わたしはリョウマに目配せをした。
 彼もまた、ニヤリと笑って頷く。

「聞いたかおんしら! 姐さんの奢りじゃ! ……おんしらが売れなくて困ってる在庫と、わしらが余らせて困ってる食い物を交換じゃ! 手にした金貨はとっておくんじゃねえぞ? その金で、さらに黒船屋から飯や日用品を買え! 止まった経済を、無理やり回すんじゃ!」

 その瞬間、世界の色が変わった。
 灰色だった市民たちの顔に、赤みが差す。絶望で濁っていた瞳に、欲望と希望の火が灯る。

「い、言い値だと……!?」
「俺たちの織物が……金になるのか!?」
「あの米と……交換してもらえるのか!?」

「ええ! 食べて、元気になって、そしてまた良いモノを作りなさい! トヨノクニは良い仕事には正当な対価を払いますわ!」

 わぁぁぁぁぁぁっ……!!!

 歓声が爆発した。それは恐怖の叫びではない。生の歓喜だ。

「売るぞ! 倉庫を開けろぉぉ!」
「一番いいスパイスを持ってこい!」
「親父の作った壺も売れるか!?」

 街中から人々が物資を持ち寄り、港は瞬く間に巨大な市場へと変貌した。

 リョウマの手下たちがテキパキと査定し、金貨を渡し、代わりに米俵を渡す。
 ヒデヨシの黒鉄組が、その米を運ぶための即席屋台を組み立てる。

 先ほどまで殺気立っていた兵士たちも、いつの間にか列に並び、配給されたおにぎりを頬張りながら涙を流している。

「うめぇ……なんだこれ、うめぇよぉ……」
「政府は俺たちに『耐えろ』としか言わなかったのに……敵だったはずのあんた達が、なんでこんな……」

 わたしは、持ち込まれた特産品――西方特有の珍しい香辛料の瓶を手に取り、蓋を開けた。
 ツンと鼻をくすぐる、刺激的で複雑な香り。

「……ん! 素晴らしい品質ですわ」

 わたしは満足げに頷き、震える手でそれを差し出した老商人に告げた。

「気に入りましたわ。……我が商会の『特選品』として認定します。定期的に買い取りますから、もっと作りなさいな」

 その一言で、老商人は崩れ落ち、地面に額を擦り付けて感謝した。
 自分たちを苦しめていた「封鎖」という名の壁が、物理と経済、そして圧倒的な食欲によって粉砕された光景。

「……わけがわからないが、すげえ」
「これが……トヨノクニの戦争やりかたか……」

 リョウマがわたしの隣に来て、帽子を目深に被りながら笑った。

「へっ。……鉄砲も大砲もいらんぜよ。金と飯がありゃあ、人は笑うもんじゃき」

「ええ。……これこそが、わたくしたちの『武器』ですもの」

 わたしは、活気に沸く港を見下ろし、扇子をパチンと閉じた。
 兵站基地は確保した。民心も掌握した。
 あとは、ここを起点に、内陸へと道を伸ばすだけだ。

「さあ、お腹が満たされたら、お仕事ですわよ? ……スコップを持ちなさい。ここから東へ、世界を変える道を造りに行きますわよ!」

「「「うおおおおおおおッッ!!!」」」

 こうして、西の果てから東へと向かう、前代未聞の大陸横断プロジェクト――『黒鋼大回廊クロム・コリドー』建設の幕が、熱狂と満腹感と共に切って落とされたのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

【完結】異世界で幽霊やってます!?

かずきりり
ファンタジー
目が覚めたら、豪華絢爛な寝室……に、浮かぶ俺。 死んだ……? まさかの幽霊……? 誰にも認識されず、悲しみと孤独が襲う中で、繰り広げられそうな修羅場。 せめて幽霊になるなら異世界とか止めてくれ!! 何故か部屋から逃げる事も出来ず……と思えば、悪役令嬢らしき女の子から離れる事が出来ない!? どうやら前世ハマっていたゲームの世界に転生したようだけど、既にシナリオとは違う事が起きている……。 そして何と!悪役令嬢は転生者! 俺は……転……死?幽霊……? どうなる!?悪役令嬢! ってか、どうなるの俺!? --------------------- ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

【完】相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)

桜 鴬
恋愛
私は公爵家令嬢のエリザベート。弟と妹がおりますわ。嫡男の弟には隣国の姫君。妹には侯爵子息。私には皇太子様の婚約者がおります。勿論、政略結婚です。でもこればかりは仕方が有りません。貴族としての義務ですから。ですから私は私なりに、婚約者様の良い所を見つけようと努力をして参りました。尊敬し寄り添える様にと努力を重ねたのです。でも無理!ムリ!絶対に嫌!あからさまな変態加減。更には引きこもりの妹から明かされる真実?もう開いた口が塞がらない。 ヒロインに隠しキャラ?妹も私も悪役令嬢?ならそちらから婚約破棄して下さい。私だけなら国外追放喜んで!なのに何故か執着されてる。 ヒロイン!死ぬ気で攻略しろ! 勿論、やられたら倍返ししますけど。 (異世界転生者が登場しますが、主人公は異世界転生者では有りません。) 続編として【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない。】があります。

処理中です...