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【第15部】大陸横断大工事編 ~神の雷を買い取り、断絶の壁をブチ抜いて、最愛(既読スルー男)に右ストレートを叩き込みますわ~
第164話 建国宣言とプロポーズ:その十字鍬(つるはし)は、星を耕すためにある
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大陸中央、大断裂帯。
かつて世界を東西に分断していた絶望的な深淵は今、物理的に「埋め立て」られていた。
空から降下させた『天蓋都市』の基部ユニットが、まるでパズルのピースのように断裂帯に嵌まり込み、巨大な「橋」兼「大地」となっていたのだ。
その中央に、漆黒のドレスを纏ったわたしは立っていた。
目の前には、リョウマの兵站船で運ばれ、そこからデコトラ隊が特急で届けてくれた、トヨノクニからの補給物資――巨大な桐箱が鎮座している。
わたしは、通信機越しに、東の魔王へ報告を入れた。
「……ノブナガ。報告しますわ。西から中央まで、道は繋がりました」
『うむ。見ておるぞ、イリスの映像でな』
ノブナガの声は、いつになく穏やかだった。
『大儀であった。……だがレヴィーネよ。お主が作ったその場所は、もはやトヨノクニの領土でも、西方の領土でもない。お主らが切り拓いた、新しい土地じゃ』
「ええ。ですから……」
『言わんで良い』
ノブナガが遮った。
『わしからの「所払い」じゃ。……レヴィーネ、そしてアリス、ミリアよ。お主らはもう、誰の庇護も必要ない。トヨノクニから独立し、その地で国を興せ』
突き放すような言葉。だが、そこには親愛と、背中を押す温かさがあった。
『いつでも遊びに帰ってこい。……そこにある桐箱は、わしからの「建国祝い」じゃ。面白いものを送った故、楽しみにしておけ。……息災でな』
通信が切れる。
わたしは、静かに頭を下げた。
そして、目の前の桐箱を開ける。
「こ、これは……!?」
ミリアが息を呑む。
中に入っていたのは、異様な存在感を放つ、巨大な「十字鍬」だった。
片側は鋭利な鶴嘴(つるはし)、もう片側は岩をも砕く鎚(ハンマー)。
折紙には、銘を『天魔・伐折羅砕き』。
隕鉄、緋緋色金(ヒヒイロカネ)、そして黒鋼を素材とし、それらをドワーフの名工たちが狂気的な折り返し鍛造で練り上げ、一つの武具として昇華させたものとあった。
「……ふふ。やってくれますわね」
わたしは、その柄を握った。
ズシリ、と腕にかかる重み。重量にして、およそ1トン強。
だが、今のわたしには、羽根のように軽く、そして手足のように馴染む。
「……最高の餞ですわ」
わたしはそれを軽々と担ぎ上げ、高らかに宣言した。
「これより、建国を宣言します! 我が国の名は――『ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国』! 食と物理と自由の国ですわ!」
歓声が爆発する。
西方からの移民、トヨノクニの職人、砂漠の遊牧民、森のエルフ、北の獣人。
肌の色も、耳の形も、出身も違う数万の民が、新しい旗の下に集っている。
わたしは、興奮する彼らを手で制し、さらに声を張り上げた。
「まずは、この国の『法』について!」
わたしは不敵に笑い、手にした巨大な十字鍬を掲げた。
「もちろん基本的な司法は設けますが、揉め事は基本リング上で決着をつけなさい。ルールは武器の使用禁止、そして不殺。荒事に自信のないものは代理人を立てるもよし。それもまた力です」
ドッと笑いが起きる。
獣人や黒鉄組の男たちが「望むところだ!」と拳を突き上げる。
だが、わたしはそこで表情を引き締め、低い声で釘を刺した。
「ただしッ! 相手の言い分を受け入れることもできないような、一方的または消極的な試合は『塩試合』とし、私が介入して強制終了しますわよ!」
プロレスとは、受けの美学。相手の全力を受け止め、それを上回る力で返してこその対話だ。
ただ逃げ回るだけ、ただ一方的に殴るだけの行いは、この国では「粋ではない」とされる。
「そして――この国における『信仰』について、最初の法を定めます!」
続いて発せられた言葉に、場が静まり返る。
宗教問題は、いつの世も争いの火種だ。
元聖女のアリスを擁し、精霊信仰のエルフや、祖霊信仰の遊牧民が入り混じるこの国では、避けて通れない問題である。
「我が国は、『信仰の自由』を絶対とします。……精霊を敬うもよし、獣の王を崇めるもよし、あるいは特定の神を持たぬもよし。全ての祈りは尊く、何人たりともそれを侵すことはできません」
エルフや獣人たちが、安堵の表情を浮かべる。
だが、わたしはここで目を鋭く光らせ、『天魔・伐折羅砕き』の石突きをドン!と壇上に打ち付けた。
「ただしッ! 『他者の信仰を否定すること』、そして『信仰を強制すること』……これだけは、万死に値する重罪と断じます!」
わたしの視線は、群衆の一人一人を射抜くように巡る。
「『自分の神だけが正しい』と叫び、隣人の神を蔑む者。『祈らねば救われない』と、他者の自由意志を縛る者。……そのような狭量な精神は、この国の広大な大地には不要です」
かつて道なき荒野の夜、見上げた満天の星空と、タクラの民が捧げた静かなる儀式。
あの美しい祈りの多様性こそが、この国の礎なのだ。
「異なる祈りを笑う者は、我々も受け入れることができません。……ここにあるのは、互いの違いを認め、共に飯を食うための『敬意』のみ。……その覚悟がある者だけが、この国の民となりなさい!」
一瞬の空白。
そして、先ほどよりも深く、重く、熱狂的な歓声が沸き起こった。
「「「ウオオオオオオオッッ!!!」」」
「レヴィーネ陛下、万歳!」
「自由万歳! 物理万歳!」
初代女帝としての戴冠。
わたしはその場で、ミリアを初代宰相に、アリスを農林水産大臣に任命した。
◆◆◆
その夜。
執務室で、一本の通信が入った。
相手は、ガルディア帝国第二皇子、アレクセイ・ガルディア。
『やあ。……初代皇帝への即位、おめでとう。レヴィーネ陛下』
通信機から流れる声は、相変わらず人を食ったような、それでいて甘い響きを帯びていた。
「あら、嫌味ですの? ……陛下だなんて、まだ掘っ立て小屋と橋しかない国ですわよ」
『とんでもない。……人材だけ見れば、既に大国に匹敵する盤石さだ』
彼は少し間を置き、言葉を続けた。
『だが、国家を運営し、世界と渡り合うとなれば……「政治のエキスパート」が必要になる。理不尽を直接物理で殴ってきた君たちからすれば、あまり得意な分野ではないだろう?』
「……否定はしませんわ。で、誰か心当たりでもありまして?」
『私さ』
「……は?」
予想外の答えに、思考が一瞬停止する。
『どうだろうか。私を、君の国の「王配」として契約してみないか? ……損はさせないつもりだよ』
ドクン。
唐突な言葉に、心臓が、早鐘を打った。
王配。夫。結婚。
そんな言葉とは無縁の人生だったわたしが、この腹黒皇子に、サラリと言ってのけられたのだ。
前世は病弱な体で、乙女ゲームと小説の中にしか「恋」を知らなかったわたし。今世ではプロレスと筋肉に魂を捧げ、「自分より強い者」以外はオスとして見てこなかったわたし。
そんなこじらせたトータル精神年齢アラフォーの心を揺さぶるこの男は、本当にタチが悪い。
「ま、まあ……。随分と大胆ですのね」
わたしは扇子で顔を仰ぎ、必死に動揺を隠した。
『一顧だにされないという成果だけでも、まずは上々かな。……さて、自分で売り込んでおいて何だが、少しだけ時間が欲しい。実は、兄上の即位のために帝国の地盤を完璧に整えておきたいんだ。……それが済んだら、正式な契約書を持参して、君の元へ面接にうかがうよ』
「……ふん。お手並み拝見ですわね。……私のお婿様になりたいのなら、それなりの『お土産』を用意してきてくださいな」
『ああ、期待していてくれ。……では、また』
通信が切れる。
静寂が戻った部屋で、わたしはベッドに倒れ込んだ。
「……バカみたい。心臓がうるさいですわ」
枕に顔を埋め、足をバタつかせる。
待っていてやる。
どうせ、道を作るのに時間はかかるのだ。
彼が仕事を終えて来る頃には、わたしも大陸の半分を庭にしていることだろう。
――だが。
この時のわたしは知らなかった。
ここから三年間。
彼からの連絡が、プッツリと途絶えることになるなんて。
そして、その沈黙が、乙女心を通り越して、殺意に近い破壊衝動へと変わっていくことを。
一方、テントの外では。
農林水産大臣に就任したばかりのアリスが、エルウィンと二人で星を見上げていた。
「お師匠様……私、決めたよ」
アリスの声は、いつになく真剣だった。
それぞれの道が、ここからまた始まろうとしていた。
かつて世界を東西に分断していた絶望的な深淵は今、物理的に「埋め立て」られていた。
空から降下させた『天蓋都市』の基部ユニットが、まるでパズルのピースのように断裂帯に嵌まり込み、巨大な「橋」兼「大地」となっていたのだ。
その中央に、漆黒のドレスを纏ったわたしは立っていた。
目の前には、リョウマの兵站船で運ばれ、そこからデコトラ隊が特急で届けてくれた、トヨノクニからの補給物資――巨大な桐箱が鎮座している。
わたしは、通信機越しに、東の魔王へ報告を入れた。
「……ノブナガ。報告しますわ。西から中央まで、道は繋がりました」
『うむ。見ておるぞ、イリスの映像でな』
ノブナガの声は、いつになく穏やかだった。
『大儀であった。……だがレヴィーネよ。お主が作ったその場所は、もはやトヨノクニの領土でも、西方の領土でもない。お主らが切り拓いた、新しい土地じゃ』
「ええ。ですから……」
『言わんで良い』
ノブナガが遮った。
『わしからの「所払い」じゃ。……レヴィーネ、そしてアリス、ミリアよ。お主らはもう、誰の庇護も必要ない。トヨノクニから独立し、その地で国を興せ』
突き放すような言葉。だが、そこには親愛と、背中を押す温かさがあった。
『いつでも遊びに帰ってこい。……そこにある桐箱は、わしからの「建国祝い」じゃ。面白いものを送った故、楽しみにしておけ。……息災でな』
通信が切れる。
わたしは、静かに頭を下げた。
そして、目の前の桐箱を開ける。
「こ、これは……!?」
ミリアが息を呑む。
中に入っていたのは、異様な存在感を放つ、巨大な「十字鍬」だった。
片側は鋭利な鶴嘴(つるはし)、もう片側は岩をも砕く鎚(ハンマー)。
折紙には、銘を『天魔・伐折羅砕き』。
隕鉄、緋緋色金(ヒヒイロカネ)、そして黒鋼を素材とし、それらをドワーフの名工たちが狂気的な折り返し鍛造で練り上げ、一つの武具として昇華させたものとあった。
「……ふふ。やってくれますわね」
わたしは、その柄を握った。
ズシリ、と腕にかかる重み。重量にして、およそ1トン強。
だが、今のわたしには、羽根のように軽く、そして手足のように馴染む。
「……最高の餞ですわ」
わたしはそれを軽々と担ぎ上げ、高らかに宣言した。
「これより、建国を宣言します! 我が国の名は――『ヴィータヴェン・アクシス連邦皇国』! 食と物理と自由の国ですわ!」
歓声が爆発する。
西方からの移民、トヨノクニの職人、砂漠の遊牧民、森のエルフ、北の獣人。
肌の色も、耳の形も、出身も違う数万の民が、新しい旗の下に集っている。
わたしは、興奮する彼らを手で制し、さらに声を張り上げた。
「まずは、この国の『法』について!」
わたしは不敵に笑い、手にした巨大な十字鍬を掲げた。
「もちろん基本的な司法は設けますが、揉め事は基本リング上で決着をつけなさい。ルールは武器の使用禁止、そして不殺。荒事に自信のないものは代理人を立てるもよし。それもまた力です」
ドッと笑いが起きる。
獣人や黒鉄組の男たちが「望むところだ!」と拳を突き上げる。
だが、わたしはそこで表情を引き締め、低い声で釘を刺した。
「ただしッ! 相手の言い分を受け入れることもできないような、一方的または消極的な試合は『塩試合』とし、私が介入して強制終了しますわよ!」
プロレスとは、受けの美学。相手の全力を受け止め、それを上回る力で返してこその対話だ。
ただ逃げ回るだけ、ただ一方的に殴るだけの行いは、この国では「粋ではない」とされる。
「そして――この国における『信仰』について、最初の法を定めます!」
続いて発せられた言葉に、場が静まり返る。
宗教問題は、いつの世も争いの火種だ。
元聖女のアリスを擁し、精霊信仰のエルフや、祖霊信仰の遊牧民が入り混じるこの国では、避けて通れない問題である。
「我が国は、『信仰の自由』を絶対とします。……精霊を敬うもよし、獣の王を崇めるもよし、あるいは特定の神を持たぬもよし。全ての祈りは尊く、何人たりともそれを侵すことはできません」
エルフや獣人たちが、安堵の表情を浮かべる。
だが、わたしはここで目を鋭く光らせ、『天魔・伐折羅砕き』の石突きをドン!と壇上に打ち付けた。
「ただしッ! 『他者の信仰を否定すること』、そして『信仰を強制すること』……これだけは、万死に値する重罪と断じます!」
わたしの視線は、群衆の一人一人を射抜くように巡る。
「『自分の神だけが正しい』と叫び、隣人の神を蔑む者。『祈らねば救われない』と、他者の自由意志を縛る者。……そのような狭量な精神は、この国の広大な大地には不要です」
かつて道なき荒野の夜、見上げた満天の星空と、タクラの民が捧げた静かなる儀式。
あの美しい祈りの多様性こそが、この国の礎なのだ。
「異なる祈りを笑う者は、我々も受け入れることができません。……ここにあるのは、互いの違いを認め、共に飯を食うための『敬意』のみ。……その覚悟がある者だけが、この国の民となりなさい!」
一瞬の空白。
そして、先ほどよりも深く、重く、熱狂的な歓声が沸き起こった。
「「「ウオオオオオオオッッ!!!」」」
「レヴィーネ陛下、万歳!」
「自由万歳! 物理万歳!」
初代女帝としての戴冠。
わたしはその場で、ミリアを初代宰相に、アリスを農林水産大臣に任命した。
◆◆◆
その夜。
執務室で、一本の通信が入った。
相手は、ガルディア帝国第二皇子、アレクセイ・ガルディア。
『やあ。……初代皇帝への即位、おめでとう。レヴィーネ陛下』
通信機から流れる声は、相変わらず人を食ったような、それでいて甘い響きを帯びていた。
「あら、嫌味ですの? ……陛下だなんて、まだ掘っ立て小屋と橋しかない国ですわよ」
『とんでもない。……人材だけ見れば、既に大国に匹敵する盤石さだ』
彼は少し間を置き、言葉を続けた。
『だが、国家を運営し、世界と渡り合うとなれば……「政治のエキスパート」が必要になる。理不尽を直接物理で殴ってきた君たちからすれば、あまり得意な分野ではないだろう?』
「……否定はしませんわ。で、誰か心当たりでもありまして?」
『私さ』
「……は?」
予想外の答えに、思考が一瞬停止する。
『どうだろうか。私を、君の国の「王配」として契約してみないか? ……損はさせないつもりだよ』
ドクン。
唐突な言葉に、心臓が、早鐘を打った。
王配。夫。結婚。
そんな言葉とは無縁の人生だったわたしが、この腹黒皇子に、サラリと言ってのけられたのだ。
前世は病弱な体で、乙女ゲームと小説の中にしか「恋」を知らなかったわたし。今世ではプロレスと筋肉に魂を捧げ、「自分より強い者」以外はオスとして見てこなかったわたし。
そんなこじらせたトータル精神年齢アラフォーの心を揺さぶるこの男は、本当にタチが悪い。
「ま、まあ……。随分と大胆ですのね」
わたしは扇子で顔を仰ぎ、必死に動揺を隠した。
『一顧だにされないという成果だけでも、まずは上々かな。……さて、自分で売り込んでおいて何だが、少しだけ時間が欲しい。実は、兄上の即位のために帝国の地盤を完璧に整えておきたいんだ。……それが済んだら、正式な契約書を持参して、君の元へ面接にうかがうよ』
「……ふん。お手並み拝見ですわね。……私のお婿様になりたいのなら、それなりの『お土産』を用意してきてくださいな」
『ああ、期待していてくれ。……では、また』
通信が切れる。
静寂が戻った部屋で、わたしはベッドに倒れ込んだ。
「……バカみたい。心臓がうるさいですわ」
枕に顔を埋め、足をバタつかせる。
待っていてやる。
どうせ、道を作るのに時間はかかるのだ。
彼が仕事を終えて来る頃には、わたしも大陸の半分を庭にしていることだろう。
――だが。
この時のわたしは知らなかった。
ここから三年間。
彼からの連絡が、プッツリと途絶えることになるなんて。
そして、その沈黙が、乙女心を通り越して、殺意に近い破壊衝動へと変わっていくことを。
一方、テントの外では。
農林水産大臣に就任したばかりのアリスが、エルウィンと二人で星を見上げていた。
「お師匠様……私、決めたよ」
アリスの声は、いつになく真剣だった。
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