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I wouldn't have nothing if I didn't have you. 前奏
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草花が生い茂る立派な庭園で、男の子が泣いている。柔らかな金髪に陽光が反射する。目の前には古びた屋敷がそびえ立っている。人気はない。
「どうして……どうして父さんは、僕を閉じ込めるの……っ?」
男の子はしゃくり上げながら、地面を何度も蹴りつけた。砂埃が舞い、目を押さえる男の子――赤い瞳が、痛みに歪む。砂が目に入ってしまったようだ。
「っもう、嫌だ!!」
男の子が叫んだ瞬間、その小さな体から衝撃波が放たれた。すさまじい風圧。土は抉られ、木々は煽られ、無数の花びらが巻き上げられる。
そして八メートルほど先の正門が大きく揺れ、けたたましい金属音が響き渡った。ハッとして顔を上げ、青ざめる男の子。瞳が淡く発光している。
「いってぇ……なんだ? 急に」
門の外で、金色がかった白髪の男の子が尻もちをついている。がっしりとした体格。ちょうど道を通りがかったようだ。
その横には、ピンク色の髪の女の子――イリアだ。短いツインテールが愛らしい弧を描いている。
「ロカリオ、大丈夫?」
イリアが手を貸し、白髪の男の子――ロカリオは困惑した表情で立ち上がった。そして呆然と屋敷の前で立ち尽くす、男の子と目が合う。
「! ぁ……」
男の子は慌てて屋敷へと走りかけ、しかし思いとどまったように足を止めた。
「謝らないと……でも話したら怒られる、よね……」
そうブツブツと呟きながら、恐る恐る正門を振り返る。仏頂面のロカリオ。イリアは男の子と目が合うなり、満面の笑みで手を振った。
優しそうなイリアに背中を押され、男の子は意を決して正門に駆け寄った。ロカリオが思わず後ずさりをする。
「あのっごめんなさい!! 大丈夫ですか……?」
男の子がそう声をかけると、ロカリオは目をそらした。
「……べつに? てか何が?」
まるで何も起きていないとでも言いたげなロカリオ。転んでしまったのが恥ずかしいらしい。
「大丈夫だよ! 門が揺れただけで、こっちまでは来なかったから。ちょっと驚いちゃっただけだよね?」
イリアの容赦ないフォローに、ロカリオは顔を真っ赤にして震えている。
「それより今の、あなたがやったの? 魔術? すごいねっ」
目を輝かせるイリア。男の子は申し訳なさそうに目を伏せた。
「わ、わざとじゃないんだ。時々、気持ちが抑えられなくて……ごめんなさい」
「謝らないで、大丈夫だから。私、イリア。こっちがロカリオ。あなたは?」
「えっと……僕、ユーク」
不安げに名乗る男の子。ロカリオがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ユーク! 今、何才?」 前のめりになるイリア。
「あ……九百才くらい……」
しどろもどろに答えるユーク。話していいのかわからない、といった様子だ。
「ほんと?! 同年代!! ロカリオはちょっとオジサンだけど」
「オニイサンと言え! こんなオジサンいるかっ」
すかさず切り返すロカリオ。ユークが目を瞬かせると、ロカリオは不満げに顔を背けた。
「ここって、アーキンさんのお家だよね? 銀河連合お抱えの唯一の魔術師! あ、ロカリオの親戚が関係者でね、よく話聞くんだ」
「そ、そうなんだ」 口ごもるユーク。
「でも息子さんがいたなんて知らなかった~……ね、今一人? よかったら一緒に遊ばない?」
人懐っこい笑顔でユークを誘うイリア。「えぇ」と不服そうなロカリオ。ユークは嬉しそうに目を見張ったが、すぐにその表情は陰った。
「ごめん。僕、体が弱いから……外に出ないよう父さんに言われてるんだ」
「そうか! それなら仕方がない! よし! 帰ろうイリア!」
すぐさま話を切り上げようとするロカリオを、イリアが制止する。
「ちょっとだけでもダメ? 調子悪くなったらすぐ帰れるよう、遠くには行かないから」
「は?! 何言ってんだ迷惑だろ! 悪いな、イリアはちょっと変なんだ。もう一生来ない、約束する」
「ちょっと、勝手に約束しないでよ! そんなに帰りたいなら一人で帰ってっ」
騒がしく言い合うイリアとロカリオ。その様子を目の当たりにしたユークは、思わず吹き出した。
「あっごめん。楽しそうだなと思って……」
我に返って小競り合いをやめた二人に、ユークが謝る。イリアは頭を振り、微笑んだ。ユークが重い口を開く。
「あの、僕も外に出てみたい……んだけど、結界が張ってあるんだ。だから出たくても、出られなくて」
「そりゃ大変だぁ! 残念だが諦めるしないな! な?!」
嬉しそうにイリアに同意を求めるロカリオ。対するイリアは思案顔だ。
「……出られると思う、多分。こういうのって綻びがあるんだよ。ロカリオなら探せるよね?」
「はぁ?!?! いやないだろ!! そんじゃそこらの術者じゃないんだぞ?! いやあったとしても、俺は嫌だ! あのおっさん、なんかこえーもん! 関わりたくない!」
全力で拒否するロカリオに、わざとらしく残念がるイリア。
「そっかぁ。あのアーキンさん相手じゃ、流石のロカリオもお手上げか……」
イリアの反応に、ロカリオが固まる。何かと葛藤しているようだ。かと思うと、イリアを睨み付ける。
「そうやってたきつけてもな、嫌なものは嫌なんだよ! っでもまーちょうど暇だし?! 今回だけだからな!!」
「やったぁ!! ロカリオありがとうっ」 ジャンプするイリア。
「なかなか暇じゃないからな? 俺?」
ロカリオは恩着せがましくそう言うと、見えない結界に手をかざし始めた。表面を撫でるように何かを確認しながら、横歩きで移動していく。
数十分後、裏門近くの生け垣の前でロカリオが歓声を上げた。どうやら見つかったらしい。
正門越しに談笑していたユークとイリア。イリアは嬉しそうにロカリオの元へ、ユークも敷地内を縦断して裏門へと向かう。
「ちょうど生け垣のとこでよかったな。動かしやすい」
そう言って、腰紐に挟んでいた棒状のものを手に取るロカリオ。美しく白い木目、滑らかな光沢を持っている――魔術師の杖だ。
そしてロカリオが杖を一振りすると、メキメキと音を立てながら生け垣の一部が変形していく。やがて直径四十センチほどの抜け穴が完成した。
「すごい……」 感嘆するユーク。
「ちょっと小さくない? これじゃユークが怪我しちゃうかも」
イリアは不満そうだ。たしかに慎重に通らなけらば、いくつか飛び出ている枝先が体に刺さってしまいそうだ。
「これくらい通れないでどうする。外は危険でいっぱいだからな。訓練だ訓練」
聞く耳を持たないロカリオに、ため息をつくイリア。
「もういい、バカリオ。私がやる」
「バッ……っ」
狼狽するロカリオをよそに、肩掛け鞄に差した杖を引き抜くイリア。淡いベージュ色の長い杖だ。
イリアがふわりと杖を振ると――、生け垣に変化はない。無言で何度も杖を振るイリアだったが、微動だにしない生け垣。
「も~なんで~? 全然動かないよぉ~」
「ま、まぁそういう日もある。気にするな」
ロカリオが励ますが、イリアは意地になっているようで諦めない。心配そうに様子をうかがっているユーク。
「生やすことはできるのに……っ」
「おいっ狭めてどうする!」
イリアの育成魔術により、穴は先ほどの半分くらいのサイズになってしまった。猫なら通れそうだ。
かと思うと、バキバキと何本もの枝葉が折れ、子供一人なら立って通り抜けられるくらい、大きく広がる穴。ロカリオが息をのんだ。
「えっ時間差? やった~私にもできた!!」 喜ぶイリア。
「いや、違う。あいつがやったんだ」
ロカリオが悔しげにユークを指差した。穴の向こうで、枯れ枝を片手に立ち尽くしているユーク。
「ほんと?! え、それ杖じゃないよね? 落ちてたやつ使って?! すごーいっ!!!」
イリアが興奮して飛び跳ねる。ユークはというと、自分でも信じられないとばかりに自らの手を確認している。
「魔力があっても筋力がないことには……」
なにやらブツブツと呟いているロカリオ。出口を前にして一歩を踏み出せないでいるユークに、イリアが手を差し伸べる。
「大丈夫だよ、ユークは悪くない。私たちが勝手に連れ出したんだから。ね?」
「ちょ、俺は違うぞ?!」
ロカリオが慌てて訂正するが、誰も聞いていない。ユークが神妙な面持ちで頷き、イリアの手を取る。
「ありがとう。僕なんかに、優しくしてくれて」
生まれて初めて外に出たユークの表情は、とても晴れやかだった。日差しがいつもより強く感じる。
街は、聞いたことも見たこともない音と色で溢れていた。全てが生き生きと輝いている。
「こんなの当たり前だよっ友達だもん!」
「友達……」
ユークの瞳が、キラキラと細かく光を反射する。イリアは屈託なく笑い、繋いだままの手を強く引いた。
「うん! 行こっ!」
そう言って駆け出すイリア。軽く躓きがらも、嬉しそうに走り出すユーク。
「俺は知り合い以上、友達未満だからなっ」
よくわからない釘を刺したロカリオも、二人の後を追う。どこからか、鐘の音が聞こえた。
それから三人は、毎日のように遊ぶようになった。ユークの父、アーキンが出かけると、待ってましたとばかりにイリアとロカリオが迎えに来る。
街の外れにある空き地で、寝転びながら他愛のない話に花を咲かせる。ユークにとってイリアとロカリオの存在は、暗闇から連れ出してくれた光そのものだった。
「ユーク! あーそぼっ!」
屋敷の庭でレンガを積み上げているユークに、イリアが声をかける。しゃがみ込んでいたユークは嬉しそうに振り返った。今日は朝からアーキンは不在だった。
「おいおい、九百才にもなって積み木遊びか? 相変わらずお子様だな。背も小さいし」
憎まれ口を叩くロカリオに対し、ユークは朗らかな笑みを浮かべる。全く意に介していないようだ。
「うん、ちょっと魔術の練習をしてたんだ」
そう言って、衣服に付いた土埃を払いながら立ち上がるユーク。右手には――枯れ枝。初めて魔術を意識的に発動した、あの時の枝だ。
「まっ魔術って、その棒切れでか?! それだけでここまで?!」 動揺するロカリオ。
「うん。もうちょっと大きくしたかったんだけど、僕の魔力じゃこれが限界」
ユークの足元のレンガは、美しいピラミッド型に積み上げられていた。繊細な調整を要したことが見て取れる。
「え~すっごい、ユーク!! どんどん上達してる! ねぇねぇ、私もやってみたい! いつものとこで色々積み上げてみよっ!!」
目を輝かせるイリア。無邪気な高揚感がユークとロカリオに伝染する。三人ははしゃぎながら屋敷を後にした。
「や~も~ぜんっぜん、できないっ!!」
ユークから借りた枝を両手で握り締め、涙目になっているイリア。イリアの前には、白い大理石のブロックがいくつも転がっている。
「僕はいつもそれでやってるから、慣れてるだけだよ」
ユークのフォローに、イリアは「優しいなぁ」と呟いた。絶えず降り注ぐ柔らかな日差しに、ユークは目を細めた。
過去に何かしらの建物があったらしい空き地は荒れ果て、瓦礫でいっぱいだった。片隅の、首から上が欠損した天使の彫像が目につく。右手で剣を振り上げ、左足で魔物を踏み潰している。何者かが手入れをしているのか、それだけは苔や汚れがない。
「よし、俺に任せろ」
ロカリオがイリアから枯れ枝を受け取る。枝を握り直し、真剣な眼差しで力を込めるロカリオ。すると下から風が吹き、ロカリオの前髪がふわりと浮いた。
そして次の瞬間、鈍い動きではあるがひとつのブロックが微かに宙に浮いた。かと思うと、全てのブロックが同時に宙に浮く。
「すごい……」 ユークが口走る。
ロカリオが枝を軽く振るう。すると、ブロックは流れるような速さで縦に積み上がっていく。やがて二メートルほどの高さになり、ロカリオは手を止めた。
「どうだ、このバランス感。一ミリでもズレたら崩れるからな。ユークのお遊びとはわけが違う」
「すっごーい……けどなんか、地味だねっ」
鼻高々なロカリオに、悪気なくそう言い放つイリア。ロカリオの表情が消える。
「あっじゃあ今度はさ、あの天使像、直してみてよ! 前ね、瓦礫の中に目の部分があったんだ。だから今みたいに、ふわっと集めてシュッってくっ付ければいけると思うっ!」
「っ無理に決まってるだろ! どれだけ破片があると思ってんだ? 魔術は万能ではない!」
イリアの無茶ぶりに、思わず声を荒げるロカリオ。苦笑いを浮かべるユーク。
「そっか……ごめん。ロカリオならできちゃうんじゃないかって、つい思っちゃって」
いつになくしおらしいイリアに、動揺している様子のロカリオ。
「いや、まあ~できないとは、言ってない……やってみないこともない……」
「ほんと!? えへへっありがとうロカリオ! 楽しみにしてる!!」
「おう……」
イリアに満面の笑みを向けられ、重い足取りで天使像へと歩いていくロカリオ。背中に哀愁が漂っている。
「はぁ~やっぱ魔力って遺伝なのかな。ロカリオは光の血族だし、ユークもアーキンさんからの遺伝だよね、絶対」
イリアが大きく伸びをして、地面に寝っ転がる。白い素肌が淡く照らされ、深緑の瞳が輝きを放つ。
「うーん、わかんないけど……父さんは僕に魔術使わせたくないみたいだし、役に立たないかも」
「え、でもユーク、銀河連合に入りたいんでしょ? 絶対役に立つよ。アーキンさんにはもう言ったの?」
「ううん、まだ。というか自信なくて……僕なんかが人の力になれるのかなって。こんなんじゃきっと、父さんを説得できない……」
ユークは言葉に詰まり、俯いた。そんなユークをまっすぐに見つめるイリア。背後でロカリオが歓声を上げた。魔術がうまくいったらしい。
イリアが勢いよく起き上がり、ユークの顔を覗き込む。あまりの至近距離に、頬を染めるユーク。
「自信なんてなくて当たり前だよ。初めてのことなんだから。私なんかこんな魔力で連合に入ろうと思ってるんだよ? 未来はわからない。ならその時その時、全力でやりたいことやってたい。そう思って私は生きてる」
「そっか……そうだよね。やってみないとわからないよね」
ユークは表情を変え、何度も頷いた。イリアもつられて頷く。桜色のツインテールが可憐に揺れる。
「おい! おいって! こっち見ろ! 結構できたぞ! この一瞬で!!」
ロカリオが叫んでいるが、イリアもユークも気に留めていない。
「ありがとう、イリアちゃん。大事なことがわかった気がする」
「イリア、でいいよ。てかイリアがいいっ」
声を弾ませるイリア。ユークは気恥ずかしそうに目を泳がせた。
「えっと……イ、イリア、ありがとう」
「ふふっ。どういたしまして、ユーク」
顔を見合わせ、破顔するイリアとユーク。と、そこに猛スピードでロカリオが割って入る。
「っおい! 俺抜きで良い感じになるな!! というかあれを見ろ!! 首から口まで復元できたぞ! これは文句なしにすごいだろ?!」
汗びっしょりのロカリオ。息も上がっている。魔力を使い果たしたようだ。
「わ、すご~い! ……あ、そうだユーク。ロカリオも呼び捨てにしよ?」
切り替えの早いイリア。復元された天使像の口元は、優しく微笑んでいるように見える。
「反応うす!! ってか勝手に決めるな! 俺は呼び捨て嫌だから! むしろ様付けにしろ!!」
「えっえ~……なっ何でもできてすごいね、ロカリオは」
ロカリオの抵抗をよそに、呼び捨てに挑戦するユーク。
「なっ、まっまぁな……お、お前もそれなりに素質はある方、だと思うぞ……?」
しどろもどろになるロカリオ。ユークが吹き出す。そんな二人を見て、イリアは満足そうに微笑んだ。
「……でもさ、気付いてると思うんだよね」
「「何が?」」
ユークとロカリオが同時に反応する。ロカリオは気まずそうに、あさっての方向を見やった。
「アーキンさん。私たちがユークを連れ出してること。痕跡だって完璧には消せてないだろうし」 イリアが続ける。
「それは俺も考えた。やっぱ本当はさ、自由にさせてやりたいんだよ。ただなんか色々あって……折り合いがつかないんだろうな」
遠い目をしながら語るロカリオ。ふいに日が陰り、そよ風が通り抜ける。
「え~ロカリオおじさん~!」
「そこは大人~だろっ」
感激するイリアに、顔を曇らせるロカリオ。どこからか、香ばしい料理の匂いが漂ってくる。
「……たしかに、父さんは僕は体が弱いから家にいろって言うけど、それだけじゃない気がする。今度聞いてみる。あと、連合に入りたいってことも」
ユークは決意を込めて言葉を紡いだ。瞳には力強い意思が宿っている。
「うんっ。なにか手伝えることがあったら言ってね」
イリアはそう言い、ロカリオは黙って頷いた。お互いがいれば大丈夫だと、言葉にならない思いが三人を結びつける。
ユークは生まれて初めて、心が満たされるのを感じたのだった。
およそ三百年後、ユークはアーキンに連れられ、街の中心部にある大聖堂に訪れていた。
あの後、ユークは百年かけてアーキンを説得し、入隊条件である千七百才になったら連合入りすることを認めさせた。そしてイリアとロカリオの存在も明かし、隠れて会う必要はなくなった。親子の距離も幾分か縮まっていた。
慣れない人混みに戸惑うユーク。早足でどんどん先を行くアーキンの後を、必死で追いかける。
「わ……っ」
ユークの目の前を、数人の子供が勢いよく横切った。避けようとした反動で尻もちをつくユーク。続けて沢山の人が眼前を行き交い、アーキンの姿が見えなくなる。
「父さんっ!! 待って!」
起き上がりながら叫ぶが、喧騒にかき消される。慌てて人を掻き分けながらアーキンを探すユーク。見渡す限り人、人、人。目が回りそうだ。今日は年に一度の典礼がある為、一層賑わっているようだ。
!
数メートルほど先に、アーキンの後ろ姿が見えた。安堵して駆け寄るユーク。
「ユーク、こっちだ」
後ろから腕をつかまれ、ユークは驚いて振り向いた。そこには――アーキンがいた。すぐさま前に向き直るユーク。もう一人のアーキンの姿は、消えていた。
「どうした? 誰かいたのか?」
呆然としているユークを見て、アーキンは首を傾げた。軽くウェーブのかかった金色の短髪、ユークと同じ赤い目をしている。
「っいや、父さんがあっちにいたと思ったんだけど、人違いだったみたい」
「……そうか」
アーキンは険しい表情で、ユークの示した方向を見つめた。複数の天窓から降り注ぐ、うららかな日差しに満たされた聖堂。集まった人々はみな、穏やかな表情をしている。
「すまないな、ユーク。私の用事に付き合わせて」
アーキンは短く息を吐くと、ユークに向き直った。
「ううん。父さんと出かけるの初めてだから、嬉しいよ」
屈託のない笑顔で応えるユーク。アーキンは少し寂しそうに目を細めた。黒いシャツに、黒いスラックス姿のアーキン。
胸元には黒い五芒星のペンダント。よく見ると下側の二つの突起の間にも、鎖を通す金具が取り付けられている。上下両用のようだ。ユークの視線にアーキンが気付く。
「これか? これは聖なる呪いだよ。さだめに抗う為の」
悲しげに微笑むアーキンの言葉の意味が、ユークにはわからなかった。アーキンは呆けているユークの背後に目を移し、会釈をする。
ユークが振り返ると、聖堂の内部に繋がる扉から、白髪の男性が出てきたところだった。長い髪が繊細な輝きを放っている。男性はアーキンに気付くと僅かに微笑み、頷いた。吸い込まれそうなほどに澄んだ、青い瞳。
「クローディア司令官、だよね? 銀河連合の。ロカリオの伯父さんにあたる……」
ユークが尊敬の眼差しでクローディアを見つめる。隊服のフードを深くかぶった男女を数人、連れている。
「ああ。今日はその司令官に用があってね。終わるまで、中庭で待っていてくれないか。少し時間がかかるかもしれない」
アーキンは淡々とそう言った。聖堂の両脇には中庭があり、市民の憩いの場として親しまれている。
「……先に帰ってようか?」
ユークは気を利かせたつもりだったが、アーキンは力強く首を振った。
「駄目だ、危険だ。……実は昨日、屋敷に空き巣が入ったんだ。また狙われるかもしれない。今日連れてきたのもその為だ」
「そう、なんだ……わかった。中庭で待ってるね」
ユークは精一杯の笑顔でそう返すと、脇目も振らず中庭へと駆け出した。アーキンがハッとしてユークに声をかけようとするが、言葉にならない。しばらくユークの後ろ姿を見守っていたが、踵を返し、クローディアの元へと向かう。
「おいっユーク!」
中庭に入ってすぐ、ロカリオに呼び止められるユーク。
「? 何かあったのか? アーキンさんはどうした」
気落ちしているユークを見て、ロカリオが心配する。
「と、父さんはちょっと用があって……ロカリオこそ、どうしてここにいるの?」
努めて明るく振る舞おうとするユーク。アーキンが連れ出してくれた理由が、防犯目的だったのがショックだったようだ。
「どうしてって、ここ俺の家だからな! まぁ普段は上にいるけど。クロ兄がユークが来てるって教えてくれたから」
「あっそっか、大聖堂は光の血族が運営してるんだもんね。で、何か用?」
「っお前、そういうとこあるよな。今日は用があって来たからいいけどさ」
思わずムッとするロカリオ。ユークは意図がわからず、言葉に詰まった。
「半年後にさ、イリアの誕生日あるだろ? 千二百才の。プレゼント、いつもそこらへんで見繕ってたけど、今回は手作りしてみようかと思って」
そう言って、何かをユークに差し出すロカリオ。――生成りの毛糸玉と、金属製の棒だ。
「母親がこういうの得意でさ。レースの髪飾りを作ってやろうかと……で、イリアは二つ結びだから二つ、必要だろ?」
ロカリオは少し照れ臭そうに、ユークを見やった。ユークは目を輝かせる。
「へ~! 大変そうだけど、すごいね。絶対喜ぶよ。頑張ってね!」
「いやいやいやいや! お前も作るって話だろ、流れ的に! ……その方がイリアも喜ぶだろうし」
拗ねたように視線をそらすロカリオ。小鳥のさえずりが耳をくすぐる。
「えっ~やったことないけど、うまくできるかな」
「簡単なやつだし、慣れるまで教えてやるから。あっちのベンチでやろうぜ」
「う、うん! ありがとう。やってみたい」
ロカリオに連れられ、中庭を横断するユーク。ふと、花壇の前に座り込んでいる女性が目に入る。
ゆるい巻き毛の銀髪、毛先が地面に付くほど長い。透明感のある肌、薄い生地が幾重にも重なった純白のワンピース。後ろ姿だけでも、眩い存在感を放っている。
「レステローテさん!?」
ユークの視線に気付いたロカリオが足を止め、女性に呼びかける。
振り向いた女性を見て、ユークは声を漏らした。長く白い睫毛。貴石のような輝きを持った、白はなだ色の瞳。赤く色づいた薄い唇。憂いを帯びた眼差し、緩慢な所作。
強い光に照らされたその姿は、この世のものとは思えないほど、美しく見えた。
「親父の妹なんだ。クロ兄の妹でもある。詳しくは知らないが……九百年前に事故に遭って、記憶を失ってる」
ロカリオはそう話すと、レステローテの元へと向かった。ユークも慌てて後を追う。
「レステローテさん、大丈夫? 付き添いの人はどうしたの?」
ロカリオが遠慮がちに話しかける。レステローテは視線を下げ、ゆっくりと首を振った。よく見ると、両手で青い花束を握り締めている。
「あっこっちこっち!!」
周囲を見回しながら中庭に入ってきた数人に向かって、ロカリオが手を振る。レステローテを連れ戻しに来たようだ。
「外にいちゃ、だめなの?」
ユークが思わずそう問いかけると、レステローテは驚いた様子で立ち上がった。そしてユークに歩み寄る。
「えっ……?」
戸惑うユークの頬に、レステローテは片手を添えた。弱々しく震える指の感触が、ユークの胸を締め付ける。
「綺麗な、目ね……」
そう言って、レステローテは一筋の涙を流した。それまで虚ろだった瞳から、はっきりとした感情が伝わってくる。なんて美しくて悲しい目なんだろうと、ユークはそう思った。
レステローテは優しく介抱されながら、聖堂の奥へと消えていった。ロカリオは困惑した表情でユークを見つめていたが、ユークが見返すと、気まずそうに目をそらした。
「よっし続き! やるかっ」
ロカリオが気を取り直す。それからアーキンが迎えに来るまでの数時間、二人はレース編みに熱中したのだった。
「わ~すっごい! これ、二人が編んだの?」
ロカリオとユークに、いつもの空き地に呼び出されたイリア。愛らしくラッピングされた髪飾りを手に、顔をほころばせる。
「ああ。意外と難しくて、ところどころ歪んでるんだが……こ、こっちのマシな方が、俺が作ったやつな!」
ロカリオが苦し紛れでそう言うと、少し離れた場所にいたゼロがイリアの手元を覗き込む。
「え、どっちも下手くそじゃん」
ゼロの歯に衣着せぬ物言いに、ロカリオが硬直する。
「こらっゼロ! 謝りなさい!!」
「なんで? 正直なのは良いことでしょ?」
全く悪びれる様子のないゼロ。青い右目、赤い左目、オッドアイの少年。淡藤色のミディアムヘアー、真っすぐでサラサラだ。
「っだいたいなんで、ここにゼロがいるんだ?」
ロカリオが怒りを抑えながら、恨めしげにイリアを見やる。
「俺だって好きで来てるわけじゃない。プレゼントは何がいいかイリアに聞いたら、ここでお前らと遊ぶことだって言われたってだけ」
「おっお前ら?! 四百才も年下のくせにっ生意気だぞ!!」 ロカリオが憤慨する。
「そっちこそ、俺より魔力弱いくせに生意気じゃない?」
淡々とそう言い放つゼロ。挑戦的な視線がロカリオを射抜く。長い睫毛が、大きな瞳を際立たせている。
「っっくっくぅぅ~~~腹立つ!!!」
思わず地団駄を踏むロカリオ。イリアは困り果てている。
「まぁまぁ。でもゼロくんがいるなんて珍しいと思ったら、そういうことだったんだ」
見かねてユークが仲裁に入った。空は高く、雲一つない。快晴だ。
「うん、だってゼロ、こんな感じでしょ? 友達少ないんじゃないかって、心配で」
「余計なお世話。友達なんて、意識して増やすもんじゃない。そもそも俺にだって、選ぶ権利はある」
ゼロの毒舌が止まらない。説得力あるなぁと、ユークはのんきに思った。
「おまっそれ、どういう意味だ~?!!」 いちいち反応してしまうロカリオ。
「ロカリオにはわかりにくかったかな? ごめんね」
「っっ!!!!!」
ロカリオが声にならない叫びを上げる。ゼロは悪戯っぽく、小さく舌を出して見せた。
「ねっ見て見て、付けてみた! どうかな、似合う?」
イリアがプレゼントの髪飾りを付け、頭を左右に揺らす。ツインテールと共に、長いリボンが優雅になびく。
「! お、おう。悪くないな。いや、その、良いな」
「……まぁ、まぁまぁじゃない。うん」
歯切れの悪いロカリオとゼロ。妙にそわそわしている。
「すごくかわいいよ。イリアは何でも似合うね」
イリアを真っすぐに見据え、そう言い放つユーク。度肝を抜かれるロカリオとゼロ。
「えっえへへ、そんなっかわいいだなんて、ありがとう……ふふ」
イリアは顔を赤らめ、嬉しそうに破顔した。ユークは満足げに目を細める。
「なんなんだあいつ……」「これ他に女いるでしょ」
ユークを横目に囁き合う、ロカリオとゼロ。ユークは不思議そうに二人を見やった。
「っは~幸せだなぁ!」
そう言って、イリアはその場に寝っ転がった。そして静かに目を閉じる。深く息を吸い込み、澄んだ声を響かせる。
♪ 光は星――光は花――光は鳥――光はあなた――あなたはわたし――
ぶわっと風が吹いて、木々がざわめいた。薄い雲が、淡く虹色に染まる。
♪ 解けぬ世界――煌めき合う――とわに――
ゆっくりと目を開けるイリア。身じろぎひとつせず、思わず聴き入っていた三人。
「これ、お母さんがよく歌ってくれた、子守歌なんだ。ゼロは最近まで歌ってもらってたから、覚えてるよね」
「最近じゃない。三百年も前だ」
不服そうに口を尖らせるゼロ。するとこれ好機とばかりに、ロカリオが目を輝かせた。
「最近じゃん! そっかそっか~ゼロくんまだ九百才だもんね~三百年が長く感じちゃうんだ~」
「……へえ。オッサンになったら三百年が短く感じるほど、実のない毎日を過ごすんだ」
ロカリオの挑発を物ともせず、ゼロはそう言い放った。全く歯が立たない。
「っっオッサンではない!!! どいつもこいつも……っ」
怒り心頭のロカリオを、せせら笑うゼロ。ユークは微笑ましげにその様子を見守っている。
「ユークのお母さんって、どんな人だったの?」
しばらく思案顔だったイリアが、ユークに切り出す。ユークの表情が僅かに陰る。
「それが……僕を生んですぐ死んじゃったから、思い出がないんだ。父さんが飾ってる写真でしか見たことないけど、すごく優しそうだった。……どことなくイリアに似てるかも」
「えっ私に? へへ、そうなんだ。なんか嬉しい」
「うん……」
ユークは強張った笑みを浮かべると、静かに座り直した。イリアが心配そうにユークを見つめる。
「……ね、ユーク。何かあった? 実は最近ずっと元気ないなと思ってて」
「あ……えっと、そんな大したことじゃないんだけど、父さんが帰ってこなくて、ちょっと心配で……一緒に大聖堂に行った後からだから、半年くらい経つんだけど」
途切れ途切れに言葉を紡ぐユーク。赤い瞳が、不安げに揺らいだ。
「大したことだよっ! 何か聞いてないの?」
血相を変えるイリア。ロカリオとゼロも、真剣な表情で耳を傾けている。
「ううん、何も。しばらく留守にするって言って出てったきり。でも父さんのことだから、何かあったわけではないと思う。忙しいんだよ、きっと」
「そんな……じゃあ今、屋敷で一人なの?」
「うん。でも慣れてるし、大丈夫。心配しないで」
話はこれで終わりとばかりに、語気を強めるユーク。半年もの間、誰にも相談しなかったのは、心配をかけたくなかったからのようだ。イリアは言葉を失い、悲しげにユークを見やった。
「俺、クロ兄に話してみるわ。何か知ってるかもしれないし。っつっても任務が忙しいみたいで、最近見かけないんだけどな。まぁすぐ帰ってくるだろ」
ロカリオはそう言い、ユークとイリアの顔を交互に見やる。ユークは「ありがとう」と言って微笑んだ。
「……大人って勝手だね」 呟くゼロ。
「急にどうした。色々あるんだ、仕方ないだろ。大人の事情ってやつだ」
ため息混じりにそう言い、肩をすくめて見せるロカリオ。ゼロは眉を顰め、苛立ちを露わにする。
「事情があるのは大人も子供も変わらない。不義を働く為の、醜い言い訳にしか聞こえない」
「なっ……お前、ほんとに九百才か?」 面食らうロカリオ。
「そっちこそ、オッサンなのは見た目だけ?」
「……っきぃぃいいぃぃぃ~!!!!」
お決まりの展開に、吹き出すユーク。イリアも笑い出し、和やかな空気に包まれる。
父さんがいなくても大丈夫だと思えるのは、みんながいてくれるからだと、ユークは痛感した。
三人と別れ、屋敷に戻ったユーク。するとリビングのテーブルに、何かが置かれてることに気付く。地図だ。街の外れの湖に、赤いインクで目印が付けられている。右上には走り書き――アーキンの字だ。
話がある。
とだけ書かれている。ユークは地図を手に取ると、すぐさま屋敷を飛び出した。夜は深く、空は星々で満ちている。
「父さん!!」
湖の淵に立つ人影に向かって、走り寄るユーク。様子が、おかしい。
「ああ、ユーク。心配かけてすまない。思ったよりも、時間がかかってしまった」
そう答えるアーキンの左手は、血だらけだ。指先から絶え間なく落ちる血液が、足元の緑に染みを作っている。鼻をつく、血の匂い。
「それっどうしたの!? 治癒魔術は!?」
「いいんだ。それより、これを」
震える腕で、ユークに何かを差し出すアーキン。黒い五芒星――アーキンがいつも着けていたネックレスだ。しかし少しばかり様子が違っていて、表面に何本もの赤い亀裂が走っている。何か異様な魔力が込められていることを、ユークは察した。
「これ……、」
恐る恐る手を伸ばすユーク。ユークが触れた瞬間、ネックレスは浮かび上がり、ユークの首に収まった。驚き、狼狽えるユーク。強固な感触。鎖に継ぎ目がなく、外したくても外せない。
「当主の証だ。そして、ライトニングクオーツ……通常は、雷によって衝撃を受けた水晶のことをいう」
石に目を落とすユーク。赤い亀裂は、溶けたような質感の傷にも見える。不気味に光を反射している。
「……それは私の全てだ。このまま、隠し通す強さが私にはなかった。憎まれれば、責め蔑まれればどんなに救われるだろう、そう思っていた。ずっと。そして結局、このような形でユークに託そうなど、どこまでも卑怯者だよ……」
ぼうっと空を見つめながら話すアーキン。血の気のない、青白い顔。風が吹けば倒れてしまいそうな、痩せ細った体。
「サングイス※レスポンスム※ドミヌス※レウェルティ」 アーキンが呟く。
「え……?」
「立ち入らぬよう言い付けていた、書斎に入る為の呪文だ。本家の者でないと反応しない」
アーキンはそう言って、湖を見下ろした。水面には満天の星空が映っている。
「本家? ねぇ、さっきから何言ってるの、父さん。とにかく早く、手当てしないと」
ユークは戸惑いながらも、アーキンの腕をつかんで引き寄せようとする。しかし強い力で振り払われ、ユークは吹っ飛ばされた。満身創痍とは思えない。ユークの顔に、アーキンの血しぶきがかかった。
「お前はどうして私に似なかったんだろうな。素直で優しくて、より一層かわいそうだ。いつも、お前を見る度に、罪悪感が込み上げて……っお前は何も悪くない。すまない、本当にすまない」
ユークを見下ろし、苦痛に顔を歪ませるアーキン。その時――眩い彗星が頭上を流れた。辺りが青く照らされる。かなり大きい。それを目の当たりにしたアーキンが、「失敗か」とぽつり呟いた。
「……自分の為に生きてくれ、ユーク。お前はもう、犠牲にならなくていい」
アーキンが一歩、湖へと歩み出した。水面まで五十メートルはあるだろうか、落ちたらひとたまりもない。
慌てて立ち上がろうとするユークだったが、体が縛られたように動かない。振り向いたアーキンの目が、赤く光っている。
「父さん!! やめて!!!」
「我ながら支離滅裂だな……だが、本心なんだ。全部、忘れてくれたら、それが一番良い」
アーキンの瞳が一際明るく光った。足元の血だまりも共鳴するかのように赤く発光する。そして同時に、ユークの体の呪縛が解けた。
「テネブラエ※ダーレ※プロ※オムニス※サングイス※リシリーレ※アラーネア」
呪文を口にし、背中から、倒れるように落ちるアーキン。全力で駆け寄るユーク。
――間に合わない。
伸ばした手は、無情にも空を切った。星の海に落ちていく、唯一の肉親。
走馬灯のように、ユークの脳裏に記憶の数々がよぎる。口数は少なかったが、アーキンはいつもユークを気にかけていた。身の回りの世話をしてくれたり、読み書きを教えてくれたり、お菓子を作ってくれたり。
外に出られないこと以外に、不満はなかった。寂しいと思ったことは一度もなかった。アーキンの愛情を、確かに感じ取っていたからだ。
「ありがとう。お前は私の光だ」
アーキンはそう言って、笑った。ユークが見た、初めての笑顔だった。
――!!
アーキンが水面に達すると同時に、湖全体が赤く燃え上がるように光った。そしてそのまま空へと高く昇っていく。地面では、赤く光る曲線が交錯している。どうやら巨大な魔術陣が浮かび上がったようだ。全貌は捉えられない。
街の各所から、同じように赤い柱が発現するのが見えた。光はある一定の高さまで昇ると、それぞれが枝分かれし、網目のようなものを形成した。
そして全てが繋がり、一瞬光が強まったかと思うと、夜空に溶けるように消失した。
呆然と、膝を折り、空を仰ぐユーク。
何事もなかったかのように、星々は優しく瞬いている。
背後で足音がして、ユークは我に返った。いつの間にか、朝になっている。足の感覚がない。小鳥のさえずりが聞こえる。湖の水面は、揺らぐことなく青空を映している。
「ユーク、大丈夫ですか」
透き通った、穏やかな声。思わず涙が出そうになるのを、ユークはこらえた。
振り向くと――クローディアが立っていた。隊員を二人、連れている。よく見ると三人共、隊服が汚れており、怪我もしているようだ。
「と、父さんが……父さんが……っ落ちて…………、」
もたつきながらも必死で足を動かし、クローディアに向き直るユーク。クローディアは静かに頷き、ユークの前に正座した。
「やはりアーキンの魔術だったのですね。彼は……宇宙を救いました」
「え……」
涙目でクローディアを見上げるユーク。クローディアが目配せをし、隊員が席を外す。
「数日前、この宇宙に侵略者が侵入しました。混乱を避ける為、一般市民には知らせておりません。銀河連合の精鋭部隊にて出撃し、排除を試みましたが失敗。私と二名の隊員だけが生き残り、脱出ポットにてエウオイクルアへ一時退避を図るも、侵略者の執拗な追跡を振り払うことはできず……、」
クローディアが言葉に詰まる。珍しく険しい表情、隊員らの死に胸を痛めているようだ。ユークはひたすらに次の言葉を待つ。
「……度重なる攻撃により、脱出ポットは操縦不能に陥っていました。私たちは半ば墜落するように、エウオイクルア上空に至りました。故郷に悪魔を引き入れてしまった、拠点であるエウオイクルアが落ちればこの宇宙に未来はない、そう絶望していた時……、強力な結界魔術が発動され、侵略者を阻んだのです」
クローディアは一呼吸置き、空を見上げた。限りなく青い空。空気は澄んでおり、平穏そのものだ。
「その後、なんとか無事に着陸することができました。そして魔術の痕跡を辿り、こちらに行き着いた次第です。侵入者の件は通信機器を介し、アーキンに知らせてありました。しかし、まさかこのような魔術を発動させるとは……。目には見えませんが、結界は今もこの星と人々を守っています。もちろん、ユーク、あなたのことも」
そう言ってクローディアは微笑んだが、瞳には深い悲しみが宿っている。顔には痣、体中に無数の切り傷があり、司令官といえど隊員と共に最前線で戦っていたことがわかる。
「で、でも……父さんは、半年前から行方不明で……多分ずっとこの為に、っでもどうしてこうなるって、わかったのか…………それにっ様子がおかしくて……、本家がっ当主がどうとか、自分のせいだとか、でも最後には全部忘れろって……僕、なにがなんだが……っ」
ぐちゃぐちゃの頭で、必死に言葉を絞り出すユーク。クローディアは目を細めながら、何度も頷いた。
「そうですか。……アーキンがそう言ったのなら、気にするほどのことではないのかもしれません」
「そう、かな……」
ユークは俯き、視線を泳がせた。アーキンの足元にあった血だまりは、消えている。改めて見ると、何の痕跡もない。ユークには、昨夜のことが全て夢のように思えた。そう思いたかった。
「……代償は大きい。彼は頼もしい仲間であり、私の友人でもありました。どうか、彼の魂が安息の地に辿り着けますよう、そして再び、かけがえのない天資を持って芽吹きますよう、祈ります」
アーキンを弔う言葉のひとつひとつが、ユークの心に突き刺さり、感情がせきを切って溢れ出してくる。
零れ落ちた大粒の涙を拭い、ユークは深く息を吐いた。そして力強い眼差しで、クローディアを見据える。
「司令官。無茶なお願いだとはわかっています。だけど、このままじっとしていることはできません」
少し驚いたようにユークを見つめ、姿勢を正すクローディア。ユークが続ける。
「僕を、今すぐ銀河連合に入れてください」
はっきりとした声で、ユークはそう言った。アーキンの死に対する葛藤は、もう感じられない。そこには、無垢な願いがあるのみ。
「今すぐに……は難しいですが、千七百才……あと五百年もすれば、入隊可能です」
なだめるように、クローディアは優しく答えた。しかし、ユークは激しく首を振る。
「五百年も耐えられません。この結界もいつまで持つかわからない、父の死を無駄にしたくないんです。絶対。入れてくれないなら、単独で動きます。それでもいいですか」
「それは……脅しですか?」
諭しているような、呆れているような、なんともいえぬ表情になるクローディア。はっと我に返るユーク。
「っ……ごめんなさい。でも、本気です」
「うん、困りましたね。どうしたものか……」
クローディアは立ち上がり、コートから金色のネックレスを取り出す。金属製の球体を指先で弄ぶクローディア。ユークは思い詰めた表情で、唇を噛んだ。
「クロ兄。俺からもお願いします」
いつからそこにいたのか、数メートル後方にロカリオが立っていた。横にはイリアもいる。
「ロカリオ……イリア……」
ユークは嬉しそうに、同時にまた涙をこらえながら、二人の名を呼んだ。それを受けて、力強く頷いて見せるロカリオ、遠慮がちに微笑むイリア。
「あと俺も……俺とイリアも、入隊させてください。ユークを一人にはできません。危なっかしくて」
「私からもお願いしますっ。三人一組で動くので! 合、合わせたら三千七百才ですっ!!」
いつになく緊張している様子のロカリオとイリア。銀河連合の司令官がどういう存在なのか、ユークはひしひしと感じ取り、自分が恥ずかしくなった。
クローディアはふっと笑い、慣れた手つきでネックレスをコートにしまった。朝日そのものかのような、清廉な碧眼。
「その考えはありませんでした、ふふ。……そうですね、いいでしょう。特例措置です」
「「「ありがとうございます!!!」」」
顔を見合わせて喜び合う、ユーク、ロカリオ、イリア。どこからともなく、真っ白な蝶が現れ、ユークの頭にとまる。
「ただし、すぐに前線にとはいきませんよ。しっかり訓練、それからです」
「「「はいっ」」」
クローディアに釘を刺され、慌てて背筋を伸ばす三人。愛おしそうに、その様子を見つめるクローディア。
「……アーキンの覚悟に報いたい、思いは私も同じです。侵略者はこの瞬間にも、他星にて破壊行為を繰り返しています。気高く意思を貫いた全ての者の為、必ずや平和を取り戻しましょう」
その言葉には、クローディア自身の強い決意が込められているように思えた。噛み締めるように、頷いて見せる三人。どんな未来が待っていようとも乗り越えられる、乗り越えてみせる、心が一つになるのをユークは感じた。
ユークの頭から、蝶が飛び立った。名残惜しそうに、しばらく四人の周りを旋回したのち、風に乗って天まで高く舞い上がる。
やがて蝶が見えなくなっても、ユークはいつまでも空を見上げていた。
――――――――――
草花が生い茂る立派な庭園で、男の子が泣いている。柔らかな金髪に陽光が反射する。目の前には古びた屋敷がそびえ立っている。人気はない。
「どうして……どうして父さんは、僕を閉じ込めるの……っ?」
男の子はしゃくり上げながら、地面を何度も蹴りつけた。砂埃が舞い、目を押さえる男の子――赤い瞳が、痛みに歪む。砂が目に入ってしまったようだ。
「っもう、嫌だ!!」
男の子が叫んだ瞬間、その小さな体から衝撃波が放たれた。すさまじい風圧。土は抉られ、木々は煽られ、無数の花びらが巻き上げられる。
そして八メートルほど先の正門が大きく揺れ、けたたましい金属音が響き渡った。ハッとして顔を上げ、青ざめる男の子。瞳が淡く発光している。
「いってぇ……なんだ? 急に」
門の外で、金色がかった白髪の男の子が尻もちをついている。がっしりとした体格。ちょうど道を通りがかったようだ。
その横には、ピンク色の髪の女の子――イリアだ。短いツインテールが愛らしい弧を描いている。
「ロカリオ、大丈夫?」
イリアが手を貸し、白髪の男の子――ロカリオは困惑した表情で立ち上がった。そして呆然と屋敷の前で立ち尽くす、男の子と目が合う。
「! ぁ……」
男の子は慌てて屋敷へと走りかけ、しかし思いとどまったように足を止めた。
「謝らないと……でも話したら怒られる、よね……」
そうブツブツと呟きながら、恐る恐る正門を振り返る。仏頂面のロカリオ。イリアは男の子と目が合うなり、満面の笑みで手を振った。
優しそうなイリアに背中を押され、男の子は意を決して正門に駆け寄った。ロカリオが思わず後ずさりをする。
「あのっごめんなさい!! 大丈夫ですか……?」
男の子がそう声をかけると、ロカリオは目をそらした。
「……べつに? てか何が?」
まるで何も起きていないとでも言いたげなロカリオ。転んでしまったのが恥ずかしいらしい。
「大丈夫だよ! 門が揺れただけで、こっちまでは来なかったから。ちょっと驚いちゃっただけだよね?」
イリアの容赦ないフォローに、ロカリオは顔を真っ赤にして震えている。
「それより今の、あなたがやったの? 魔術? すごいねっ」
目を輝かせるイリア。男の子は申し訳なさそうに目を伏せた。
「わ、わざとじゃないんだ。時々、気持ちが抑えられなくて……ごめんなさい」
「謝らないで、大丈夫だから。私、イリア。こっちがロカリオ。あなたは?」
「えっと……僕、ユーク」
不安げに名乗る男の子。ロカリオがつまらなそうに鼻を鳴らした。
「ユーク! 今、何才?」 前のめりになるイリア。
「あ……九百才くらい……」
しどろもどろに答えるユーク。話していいのかわからない、といった様子だ。
「ほんと?! 同年代!! ロカリオはちょっとオジサンだけど」
「オニイサンと言え! こんなオジサンいるかっ」
すかさず切り返すロカリオ。ユークが目を瞬かせると、ロカリオは不満げに顔を背けた。
「ここって、アーキンさんのお家だよね? 銀河連合お抱えの唯一の魔術師! あ、ロカリオの親戚が関係者でね、よく話聞くんだ」
「そ、そうなんだ」 口ごもるユーク。
「でも息子さんがいたなんて知らなかった~……ね、今一人? よかったら一緒に遊ばない?」
人懐っこい笑顔でユークを誘うイリア。「えぇ」と不服そうなロカリオ。ユークは嬉しそうに目を見張ったが、すぐにその表情は陰った。
「ごめん。僕、体が弱いから……外に出ないよう父さんに言われてるんだ」
「そうか! それなら仕方がない! よし! 帰ろうイリア!」
すぐさま話を切り上げようとするロカリオを、イリアが制止する。
「ちょっとだけでもダメ? 調子悪くなったらすぐ帰れるよう、遠くには行かないから」
「は?! 何言ってんだ迷惑だろ! 悪いな、イリアはちょっと変なんだ。もう一生来ない、約束する」
「ちょっと、勝手に約束しないでよ! そんなに帰りたいなら一人で帰ってっ」
騒がしく言い合うイリアとロカリオ。その様子を目の当たりにしたユークは、思わず吹き出した。
「あっごめん。楽しそうだなと思って……」
我に返って小競り合いをやめた二人に、ユークが謝る。イリアは頭を振り、微笑んだ。ユークが重い口を開く。
「あの、僕も外に出てみたい……んだけど、結界が張ってあるんだ。だから出たくても、出られなくて」
「そりゃ大変だぁ! 残念だが諦めるしないな! な?!」
嬉しそうにイリアに同意を求めるロカリオ。対するイリアは思案顔だ。
「……出られると思う、多分。こういうのって綻びがあるんだよ。ロカリオなら探せるよね?」
「はぁ?!?! いやないだろ!! そんじゃそこらの術者じゃないんだぞ?! いやあったとしても、俺は嫌だ! あのおっさん、なんかこえーもん! 関わりたくない!」
全力で拒否するロカリオに、わざとらしく残念がるイリア。
「そっかぁ。あのアーキンさん相手じゃ、流石のロカリオもお手上げか……」
イリアの反応に、ロカリオが固まる。何かと葛藤しているようだ。かと思うと、イリアを睨み付ける。
「そうやってたきつけてもな、嫌なものは嫌なんだよ! っでもまーちょうど暇だし?! 今回だけだからな!!」
「やったぁ!! ロカリオありがとうっ」 ジャンプするイリア。
「なかなか暇じゃないからな? 俺?」
ロカリオは恩着せがましくそう言うと、見えない結界に手をかざし始めた。表面を撫でるように何かを確認しながら、横歩きで移動していく。
数十分後、裏門近くの生け垣の前でロカリオが歓声を上げた。どうやら見つかったらしい。
正門越しに談笑していたユークとイリア。イリアは嬉しそうにロカリオの元へ、ユークも敷地内を縦断して裏門へと向かう。
「ちょうど生け垣のとこでよかったな。動かしやすい」
そう言って、腰紐に挟んでいた棒状のものを手に取るロカリオ。美しく白い木目、滑らかな光沢を持っている――魔術師の杖だ。
そしてロカリオが杖を一振りすると、メキメキと音を立てながら生け垣の一部が変形していく。やがて直径四十センチほどの抜け穴が完成した。
「すごい……」 感嘆するユーク。
「ちょっと小さくない? これじゃユークが怪我しちゃうかも」
イリアは不満そうだ。たしかに慎重に通らなけらば、いくつか飛び出ている枝先が体に刺さってしまいそうだ。
「これくらい通れないでどうする。外は危険でいっぱいだからな。訓練だ訓練」
聞く耳を持たないロカリオに、ため息をつくイリア。
「もういい、バカリオ。私がやる」
「バッ……っ」
狼狽するロカリオをよそに、肩掛け鞄に差した杖を引き抜くイリア。淡いベージュ色の長い杖だ。
イリアがふわりと杖を振ると――、生け垣に変化はない。無言で何度も杖を振るイリアだったが、微動だにしない生け垣。
「も~なんで~? 全然動かないよぉ~」
「ま、まぁそういう日もある。気にするな」
ロカリオが励ますが、イリアは意地になっているようで諦めない。心配そうに様子をうかがっているユーク。
「生やすことはできるのに……っ」
「おいっ狭めてどうする!」
イリアの育成魔術により、穴は先ほどの半分くらいのサイズになってしまった。猫なら通れそうだ。
かと思うと、バキバキと何本もの枝葉が折れ、子供一人なら立って通り抜けられるくらい、大きく広がる穴。ロカリオが息をのんだ。
「えっ時間差? やった~私にもできた!!」 喜ぶイリア。
「いや、違う。あいつがやったんだ」
ロカリオが悔しげにユークを指差した。穴の向こうで、枯れ枝を片手に立ち尽くしているユーク。
「ほんと?! え、それ杖じゃないよね? 落ちてたやつ使って?! すごーいっ!!!」
イリアが興奮して飛び跳ねる。ユークはというと、自分でも信じられないとばかりに自らの手を確認している。
「魔力があっても筋力がないことには……」
なにやらブツブツと呟いているロカリオ。出口を前にして一歩を踏み出せないでいるユークに、イリアが手を差し伸べる。
「大丈夫だよ、ユークは悪くない。私たちが勝手に連れ出したんだから。ね?」
「ちょ、俺は違うぞ?!」
ロカリオが慌てて訂正するが、誰も聞いていない。ユークが神妙な面持ちで頷き、イリアの手を取る。
「ありがとう。僕なんかに、優しくしてくれて」
生まれて初めて外に出たユークの表情は、とても晴れやかだった。日差しがいつもより強く感じる。
街は、聞いたことも見たこともない音と色で溢れていた。全てが生き生きと輝いている。
「こんなの当たり前だよっ友達だもん!」
「友達……」
ユークの瞳が、キラキラと細かく光を反射する。イリアは屈託なく笑い、繋いだままの手を強く引いた。
「うん! 行こっ!」
そう言って駆け出すイリア。軽く躓きがらも、嬉しそうに走り出すユーク。
「俺は知り合い以上、友達未満だからなっ」
よくわからない釘を刺したロカリオも、二人の後を追う。どこからか、鐘の音が聞こえた。
それから三人は、毎日のように遊ぶようになった。ユークの父、アーキンが出かけると、待ってましたとばかりにイリアとロカリオが迎えに来る。
街の外れにある空き地で、寝転びながら他愛のない話に花を咲かせる。ユークにとってイリアとロカリオの存在は、暗闇から連れ出してくれた光そのものだった。
「ユーク! あーそぼっ!」
屋敷の庭でレンガを積み上げているユークに、イリアが声をかける。しゃがみ込んでいたユークは嬉しそうに振り返った。今日は朝からアーキンは不在だった。
「おいおい、九百才にもなって積み木遊びか? 相変わらずお子様だな。背も小さいし」
憎まれ口を叩くロカリオに対し、ユークは朗らかな笑みを浮かべる。全く意に介していないようだ。
「うん、ちょっと魔術の練習をしてたんだ」
そう言って、衣服に付いた土埃を払いながら立ち上がるユーク。右手には――枯れ枝。初めて魔術を意識的に発動した、あの時の枝だ。
「まっ魔術って、その棒切れでか?! それだけでここまで?!」 動揺するロカリオ。
「うん。もうちょっと大きくしたかったんだけど、僕の魔力じゃこれが限界」
ユークの足元のレンガは、美しいピラミッド型に積み上げられていた。繊細な調整を要したことが見て取れる。
「え~すっごい、ユーク!! どんどん上達してる! ねぇねぇ、私もやってみたい! いつものとこで色々積み上げてみよっ!!」
目を輝かせるイリア。無邪気な高揚感がユークとロカリオに伝染する。三人ははしゃぎながら屋敷を後にした。
「や~も~ぜんっぜん、できないっ!!」
ユークから借りた枝を両手で握り締め、涙目になっているイリア。イリアの前には、白い大理石のブロックがいくつも転がっている。
「僕はいつもそれでやってるから、慣れてるだけだよ」
ユークのフォローに、イリアは「優しいなぁ」と呟いた。絶えず降り注ぐ柔らかな日差しに、ユークは目を細めた。
過去に何かしらの建物があったらしい空き地は荒れ果て、瓦礫でいっぱいだった。片隅の、首から上が欠損した天使の彫像が目につく。右手で剣を振り上げ、左足で魔物を踏み潰している。何者かが手入れをしているのか、それだけは苔や汚れがない。
「よし、俺に任せろ」
ロカリオがイリアから枯れ枝を受け取る。枝を握り直し、真剣な眼差しで力を込めるロカリオ。すると下から風が吹き、ロカリオの前髪がふわりと浮いた。
そして次の瞬間、鈍い動きではあるがひとつのブロックが微かに宙に浮いた。かと思うと、全てのブロックが同時に宙に浮く。
「すごい……」 ユークが口走る。
ロカリオが枝を軽く振るう。すると、ブロックは流れるような速さで縦に積み上がっていく。やがて二メートルほどの高さになり、ロカリオは手を止めた。
「どうだ、このバランス感。一ミリでもズレたら崩れるからな。ユークのお遊びとはわけが違う」
「すっごーい……けどなんか、地味だねっ」
鼻高々なロカリオに、悪気なくそう言い放つイリア。ロカリオの表情が消える。
「あっじゃあ今度はさ、あの天使像、直してみてよ! 前ね、瓦礫の中に目の部分があったんだ。だから今みたいに、ふわっと集めてシュッってくっ付ければいけると思うっ!」
「っ無理に決まってるだろ! どれだけ破片があると思ってんだ? 魔術は万能ではない!」
イリアの無茶ぶりに、思わず声を荒げるロカリオ。苦笑いを浮かべるユーク。
「そっか……ごめん。ロカリオならできちゃうんじゃないかって、つい思っちゃって」
いつになくしおらしいイリアに、動揺している様子のロカリオ。
「いや、まあ~できないとは、言ってない……やってみないこともない……」
「ほんと!? えへへっありがとうロカリオ! 楽しみにしてる!!」
「おう……」
イリアに満面の笑みを向けられ、重い足取りで天使像へと歩いていくロカリオ。背中に哀愁が漂っている。
「はぁ~やっぱ魔力って遺伝なのかな。ロカリオは光の血族だし、ユークもアーキンさんからの遺伝だよね、絶対」
イリアが大きく伸びをして、地面に寝っ転がる。白い素肌が淡く照らされ、深緑の瞳が輝きを放つ。
「うーん、わかんないけど……父さんは僕に魔術使わせたくないみたいだし、役に立たないかも」
「え、でもユーク、銀河連合に入りたいんでしょ? 絶対役に立つよ。アーキンさんにはもう言ったの?」
「ううん、まだ。というか自信なくて……僕なんかが人の力になれるのかなって。こんなんじゃきっと、父さんを説得できない……」
ユークは言葉に詰まり、俯いた。そんなユークをまっすぐに見つめるイリア。背後でロカリオが歓声を上げた。魔術がうまくいったらしい。
イリアが勢いよく起き上がり、ユークの顔を覗き込む。あまりの至近距離に、頬を染めるユーク。
「自信なんてなくて当たり前だよ。初めてのことなんだから。私なんかこんな魔力で連合に入ろうと思ってるんだよ? 未来はわからない。ならその時その時、全力でやりたいことやってたい。そう思って私は生きてる」
「そっか……そうだよね。やってみないとわからないよね」
ユークは表情を変え、何度も頷いた。イリアもつられて頷く。桜色のツインテールが可憐に揺れる。
「おい! おいって! こっち見ろ! 結構できたぞ! この一瞬で!!」
ロカリオが叫んでいるが、イリアもユークも気に留めていない。
「ありがとう、イリアちゃん。大事なことがわかった気がする」
「イリア、でいいよ。てかイリアがいいっ」
声を弾ませるイリア。ユークは気恥ずかしそうに目を泳がせた。
「えっと……イ、イリア、ありがとう」
「ふふっ。どういたしまして、ユーク」
顔を見合わせ、破顔するイリアとユーク。と、そこに猛スピードでロカリオが割って入る。
「っおい! 俺抜きで良い感じになるな!! というかあれを見ろ!! 首から口まで復元できたぞ! これは文句なしにすごいだろ?!」
汗びっしょりのロカリオ。息も上がっている。魔力を使い果たしたようだ。
「わ、すご~い! ……あ、そうだユーク。ロカリオも呼び捨てにしよ?」
切り替えの早いイリア。復元された天使像の口元は、優しく微笑んでいるように見える。
「反応うす!! ってか勝手に決めるな! 俺は呼び捨て嫌だから! むしろ様付けにしろ!!」
「えっえ~……なっ何でもできてすごいね、ロカリオは」
ロカリオの抵抗をよそに、呼び捨てに挑戦するユーク。
「なっ、まっまぁな……お、お前もそれなりに素質はある方、だと思うぞ……?」
しどろもどろになるロカリオ。ユークが吹き出す。そんな二人を見て、イリアは満足そうに微笑んだ。
「……でもさ、気付いてると思うんだよね」
「「何が?」」
ユークとロカリオが同時に反応する。ロカリオは気まずそうに、あさっての方向を見やった。
「アーキンさん。私たちがユークを連れ出してること。痕跡だって完璧には消せてないだろうし」 イリアが続ける。
「それは俺も考えた。やっぱ本当はさ、自由にさせてやりたいんだよ。ただなんか色々あって……折り合いがつかないんだろうな」
遠い目をしながら語るロカリオ。ふいに日が陰り、そよ風が通り抜ける。
「え~ロカリオおじさん~!」
「そこは大人~だろっ」
感激するイリアに、顔を曇らせるロカリオ。どこからか、香ばしい料理の匂いが漂ってくる。
「……たしかに、父さんは僕は体が弱いから家にいろって言うけど、それだけじゃない気がする。今度聞いてみる。あと、連合に入りたいってことも」
ユークは決意を込めて言葉を紡いだ。瞳には力強い意思が宿っている。
「うんっ。なにか手伝えることがあったら言ってね」
イリアはそう言い、ロカリオは黙って頷いた。お互いがいれば大丈夫だと、言葉にならない思いが三人を結びつける。
ユークは生まれて初めて、心が満たされるのを感じたのだった。
およそ三百年後、ユークはアーキンに連れられ、街の中心部にある大聖堂に訪れていた。
あの後、ユークは百年かけてアーキンを説得し、入隊条件である千七百才になったら連合入りすることを認めさせた。そしてイリアとロカリオの存在も明かし、隠れて会う必要はなくなった。親子の距離も幾分か縮まっていた。
慣れない人混みに戸惑うユーク。早足でどんどん先を行くアーキンの後を、必死で追いかける。
「わ……っ」
ユークの目の前を、数人の子供が勢いよく横切った。避けようとした反動で尻もちをつくユーク。続けて沢山の人が眼前を行き交い、アーキンの姿が見えなくなる。
「父さんっ!! 待って!」
起き上がりながら叫ぶが、喧騒にかき消される。慌てて人を掻き分けながらアーキンを探すユーク。見渡す限り人、人、人。目が回りそうだ。今日は年に一度の典礼がある為、一層賑わっているようだ。
!
数メートルほど先に、アーキンの後ろ姿が見えた。安堵して駆け寄るユーク。
「ユーク、こっちだ」
後ろから腕をつかまれ、ユークは驚いて振り向いた。そこには――アーキンがいた。すぐさま前に向き直るユーク。もう一人のアーキンの姿は、消えていた。
「どうした? 誰かいたのか?」
呆然としているユークを見て、アーキンは首を傾げた。軽くウェーブのかかった金色の短髪、ユークと同じ赤い目をしている。
「っいや、父さんがあっちにいたと思ったんだけど、人違いだったみたい」
「……そうか」
アーキンは険しい表情で、ユークの示した方向を見つめた。複数の天窓から降り注ぐ、うららかな日差しに満たされた聖堂。集まった人々はみな、穏やかな表情をしている。
「すまないな、ユーク。私の用事に付き合わせて」
アーキンは短く息を吐くと、ユークに向き直った。
「ううん。父さんと出かけるの初めてだから、嬉しいよ」
屈託のない笑顔で応えるユーク。アーキンは少し寂しそうに目を細めた。黒いシャツに、黒いスラックス姿のアーキン。
胸元には黒い五芒星のペンダント。よく見ると下側の二つの突起の間にも、鎖を通す金具が取り付けられている。上下両用のようだ。ユークの視線にアーキンが気付く。
「これか? これは聖なる呪いだよ。さだめに抗う為の」
悲しげに微笑むアーキンの言葉の意味が、ユークにはわからなかった。アーキンは呆けているユークの背後に目を移し、会釈をする。
ユークが振り返ると、聖堂の内部に繋がる扉から、白髪の男性が出てきたところだった。長い髪が繊細な輝きを放っている。男性はアーキンに気付くと僅かに微笑み、頷いた。吸い込まれそうなほどに澄んだ、青い瞳。
「クローディア司令官、だよね? 銀河連合の。ロカリオの伯父さんにあたる……」
ユークが尊敬の眼差しでクローディアを見つめる。隊服のフードを深くかぶった男女を数人、連れている。
「ああ。今日はその司令官に用があってね。終わるまで、中庭で待っていてくれないか。少し時間がかかるかもしれない」
アーキンは淡々とそう言った。聖堂の両脇には中庭があり、市民の憩いの場として親しまれている。
「……先に帰ってようか?」
ユークは気を利かせたつもりだったが、アーキンは力強く首を振った。
「駄目だ、危険だ。……実は昨日、屋敷に空き巣が入ったんだ。また狙われるかもしれない。今日連れてきたのもその為だ」
「そう、なんだ……わかった。中庭で待ってるね」
ユークは精一杯の笑顔でそう返すと、脇目も振らず中庭へと駆け出した。アーキンがハッとしてユークに声をかけようとするが、言葉にならない。しばらくユークの後ろ姿を見守っていたが、踵を返し、クローディアの元へと向かう。
「おいっユーク!」
中庭に入ってすぐ、ロカリオに呼び止められるユーク。
「? 何かあったのか? アーキンさんはどうした」
気落ちしているユークを見て、ロカリオが心配する。
「と、父さんはちょっと用があって……ロカリオこそ、どうしてここにいるの?」
努めて明るく振る舞おうとするユーク。アーキンが連れ出してくれた理由が、防犯目的だったのがショックだったようだ。
「どうしてって、ここ俺の家だからな! まぁ普段は上にいるけど。クロ兄がユークが来てるって教えてくれたから」
「あっそっか、大聖堂は光の血族が運営してるんだもんね。で、何か用?」
「っお前、そういうとこあるよな。今日は用があって来たからいいけどさ」
思わずムッとするロカリオ。ユークは意図がわからず、言葉に詰まった。
「半年後にさ、イリアの誕生日あるだろ? 千二百才の。プレゼント、いつもそこらへんで見繕ってたけど、今回は手作りしてみようかと思って」
そう言って、何かをユークに差し出すロカリオ。――生成りの毛糸玉と、金属製の棒だ。
「母親がこういうの得意でさ。レースの髪飾りを作ってやろうかと……で、イリアは二つ結びだから二つ、必要だろ?」
ロカリオは少し照れ臭そうに、ユークを見やった。ユークは目を輝かせる。
「へ~! 大変そうだけど、すごいね。絶対喜ぶよ。頑張ってね!」
「いやいやいやいや! お前も作るって話だろ、流れ的に! ……その方がイリアも喜ぶだろうし」
拗ねたように視線をそらすロカリオ。小鳥のさえずりが耳をくすぐる。
「えっ~やったことないけど、うまくできるかな」
「簡単なやつだし、慣れるまで教えてやるから。あっちのベンチでやろうぜ」
「う、うん! ありがとう。やってみたい」
ロカリオに連れられ、中庭を横断するユーク。ふと、花壇の前に座り込んでいる女性が目に入る。
ゆるい巻き毛の銀髪、毛先が地面に付くほど長い。透明感のある肌、薄い生地が幾重にも重なった純白のワンピース。後ろ姿だけでも、眩い存在感を放っている。
「レステローテさん!?」
ユークの視線に気付いたロカリオが足を止め、女性に呼びかける。
振り向いた女性を見て、ユークは声を漏らした。長く白い睫毛。貴石のような輝きを持った、白はなだ色の瞳。赤く色づいた薄い唇。憂いを帯びた眼差し、緩慢な所作。
強い光に照らされたその姿は、この世のものとは思えないほど、美しく見えた。
「親父の妹なんだ。クロ兄の妹でもある。詳しくは知らないが……九百年前に事故に遭って、記憶を失ってる」
ロカリオはそう話すと、レステローテの元へと向かった。ユークも慌てて後を追う。
「レステローテさん、大丈夫? 付き添いの人はどうしたの?」
ロカリオが遠慮がちに話しかける。レステローテは視線を下げ、ゆっくりと首を振った。よく見ると、両手で青い花束を握り締めている。
「あっこっちこっち!!」
周囲を見回しながら中庭に入ってきた数人に向かって、ロカリオが手を振る。レステローテを連れ戻しに来たようだ。
「外にいちゃ、だめなの?」
ユークが思わずそう問いかけると、レステローテは驚いた様子で立ち上がった。そしてユークに歩み寄る。
「えっ……?」
戸惑うユークの頬に、レステローテは片手を添えた。弱々しく震える指の感触が、ユークの胸を締め付ける。
「綺麗な、目ね……」
そう言って、レステローテは一筋の涙を流した。それまで虚ろだった瞳から、はっきりとした感情が伝わってくる。なんて美しくて悲しい目なんだろうと、ユークはそう思った。
レステローテは優しく介抱されながら、聖堂の奥へと消えていった。ロカリオは困惑した表情でユークを見つめていたが、ユークが見返すと、気まずそうに目をそらした。
「よっし続き! やるかっ」
ロカリオが気を取り直す。それからアーキンが迎えに来るまでの数時間、二人はレース編みに熱中したのだった。
「わ~すっごい! これ、二人が編んだの?」
ロカリオとユークに、いつもの空き地に呼び出されたイリア。愛らしくラッピングされた髪飾りを手に、顔をほころばせる。
「ああ。意外と難しくて、ところどころ歪んでるんだが……こ、こっちのマシな方が、俺が作ったやつな!」
ロカリオが苦し紛れでそう言うと、少し離れた場所にいたゼロがイリアの手元を覗き込む。
「え、どっちも下手くそじゃん」
ゼロの歯に衣着せぬ物言いに、ロカリオが硬直する。
「こらっゼロ! 謝りなさい!!」
「なんで? 正直なのは良いことでしょ?」
全く悪びれる様子のないゼロ。青い右目、赤い左目、オッドアイの少年。淡藤色のミディアムヘアー、真っすぐでサラサラだ。
「っだいたいなんで、ここにゼロがいるんだ?」
ロカリオが怒りを抑えながら、恨めしげにイリアを見やる。
「俺だって好きで来てるわけじゃない。プレゼントは何がいいかイリアに聞いたら、ここでお前らと遊ぶことだって言われたってだけ」
「おっお前ら?! 四百才も年下のくせにっ生意気だぞ!!」 ロカリオが憤慨する。
「そっちこそ、俺より魔力弱いくせに生意気じゃない?」
淡々とそう言い放つゼロ。挑戦的な視線がロカリオを射抜く。長い睫毛が、大きな瞳を際立たせている。
「っっくっくぅぅ~~~腹立つ!!!」
思わず地団駄を踏むロカリオ。イリアは困り果てている。
「まぁまぁ。でもゼロくんがいるなんて珍しいと思ったら、そういうことだったんだ」
見かねてユークが仲裁に入った。空は高く、雲一つない。快晴だ。
「うん、だってゼロ、こんな感じでしょ? 友達少ないんじゃないかって、心配で」
「余計なお世話。友達なんて、意識して増やすもんじゃない。そもそも俺にだって、選ぶ権利はある」
ゼロの毒舌が止まらない。説得力あるなぁと、ユークはのんきに思った。
「おまっそれ、どういう意味だ~?!!」 いちいち反応してしまうロカリオ。
「ロカリオにはわかりにくかったかな? ごめんね」
「っっ!!!!!」
ロカリオが声にならない叫びを上げる。ゼロは悪戯っぽく、小さく舌を出して見せた。
「ねっ見て見て、付けてみた! どうかな、似合う?」
イリアがプレゼントの髪飾りを付け、頭を左右に揺らす。ツインテールと共に、長いリボンが優雅になびく。
「! お、おう。悪くないな。いや、その、良いな」
「……まぁ、まぁまぁじゃない。うん」
歯切れの悪いロカリオとゼロ。妙にそわそわしている。
「すごくかわいいよ。イリアは何でも似合うね」
イリアを真っすぐに見据え、そう言い放つユーク。度肝を抜かれるロカリオとゼロ。
「えっえへへ、そんなっかわいいだなんて、ありがとう……ふふ」
イリアは顔を赤らめ、嬉しそうに破顔した。ユークは満足げに目を細める。
「なんなんだあいつ……」「これ他に女いるでしょ」
ユークを横目に囁き合う、ロカリオとゼロ。ユークは不思議そうに二人を見やった。
「っは~幸せだなぁ!」
そう言って、イリアはその場に寝っ転がった。そして静かに目を閉じる。深く息を吸い込み、澄んだ声を響かせる。
♪ 光は星――光は花――光は鳥――光はあなた――あなたはわたし――
ぶわっと風が吹いて、木々がざわめいた。薄い雲が、淡く虹色に染まる。
♪ 解けぬ世界――煌めき合う――とわに――
ゆっくりと目を開けるイリア。身じろぎひとつせず、思わず聴き入っていた三人。
「これ、お母さんがよく歌ってくれた、子守歌なんだ。ゼロは最近まで歌ってもらってたから、覚えてるよね」
「最近じゃない。三百年も前だ」
不服そうに口を尖らせるゼロ。するとこれ好機とばかりに、ロカリオが目を輝かせた。
「最近じゃん! そっかそっか~ゼロくんまだ九百才だもんね~三百年が長く感じちゃうんだ~」
「……へえ。オッサンになったら三百年が短く感じるほど、実のない毎日を過ごすんだ」
ロカリオの挑発を物ともせず、ゼロはそう言い放った。全く歯が立たない。
「っっオッサンではない!!! どいつもこいつも……っ」
怒り心頭のロカリオを、せせら笑うゼロ。ユークは微笑ましげにその様子を見守っている。
「ユークのお母さんって、どんな人だったの?」
しばらく思案顔だったイリアが、ユークに切り出す。ユークの表情が僅かに陰る。
「それが……僕を生んですぐ死んじゃったから、思い出がないんだ。父さんが飾ってる写真でしか見たことないけど、すごく優しそうだった。……どことなくイリアに似てるかも」
「えっ私に? へへ、そうなんだ。なんか嬉しい」
「うん……」
ユークは強張った笑みを浮かべると、静かに座り直した。イリアが心配そうにユークを見つめる。
「……ね、ユーク。何かあった? 実は最近ずっと元気ないなと思ってて」
「あ……えっと、そんな大したことじゃないんだけど、父さんが帰ってこなくて、ちょっと心配で……一緒に大聖堂に行った後からだから、半年くらい経つんだけど」
途切れ途切れに言葉を紡ぐユーク。赤い瞳が、不安げに揺らいだ。
「大したことだよっ! 何か聞いてないの?」
血相を変えるイリア。ロカリオとゼロも、真剣な表情で耳を傾けている。
「ううん、何も。しばらく留守にするって言って出てったきり。でも父さんのことだから、何かあったわけではないと思う。忙しいんだよ、きっと」
「そんな……じゃあ今、屋敷で一人なの?」
「うん。でも慣れてるし、大丈夫。心配しないで」
話はこれで終わりとばかりに、語気を強めるユーク。半年もの間、誰にも相談しなかったのは、心配をかけたくなかったからのようだ。イリアは言葉を失い、悲しげにユークを見やった。
「俺、クロ兄に話してみるわ。何か知ってるかもしれないし。っつっても任務が忙しいみたいで、最近見かけないんだけどな。まぁすぐ帰ってくるだろ」
ロカリオはそう言い、ユークとイリアの顔を交互に見やる。ユークは「ありがとう」と言って微笑んだ。
「……大人って勝手だね」 呟くゼロ。
「急にどうした。色々あるんだ、仕方ないだろ。大人の事情ってやつだ」
ため息混じりにそう言い、肩をすくめて見せるロカリオ。ゼロは眉を顰め、苛立ちを露わにする。
「事情があるのは大人も子供も変わらない。不義を働く為の、醜い言い訳にしか聞こえない」
「なっ……お前、ほんとに九百才か?」 面食らうロカリオ。
「そっちこそ、オッサンなのは見た目だけ?」
「……っきぃぃいいぃぃぃ~!!!!」
お決まりの展開に、吹き出すユーク。イリアも笑い出し、和やかな空気に包まれる。
父さんがいなくても大丈夫だと思えるのは、みんながいてくれるからだと、ユークは痛感した。
三人と別れ、屋敷に戻ったユーク。するとリビングのテーブルに、何かが置かれてることに気付く。地図だ。街の外れの湖に、赤いインクで目印が付けられている。右上には走り書き――アーキンの字だ。
話がある。
とだけ書かれている。ユークは地図を手に取ると、すぐさま屋敷を飛び出した。夜は深く、空は星々で満ちている。
「父さん!!」
湖の淵に立つ人影に向かって、走り寄るユーク。様子が、おかしい。
「ああ、ユーク。心配かけてすまない。思ったよりも、時間がかかってしまった」
そう答えるアーキンの左手は、血だらけだ。指先から絶え間なく落ちる血液が、足元の緑に染みを作っている。鼻をつく、血の匂い。
「それっどうしたの!? 治癒魔術は!?」
「いいんだ。それより、これを」
震える腕で、ユークに何かを差し出すアーキン。黒い五芒星――アーキンがいつも着けていたネックレスだ。しかし少しばかり様子が違っていて、表面に何本もの赤い亀裂が走っている。何か異様な魔力が込められていることを、ユークは察した。
「これ……、」
恐る恐る手を伸ばすユーク。ユークが触れた瞬間、ネックレスは浮かび上がり、ユークの首に収まった。驚き、狼狽えるユーク。強固な感触。鎖に継ぎ目がなく、外したくても外せない。
「当主の証だ。そして、ライトニングクオーツ……通常は、雷によって衝撃を受けた水晶のことをいう」
石に目を落とすユーク。赤い亀裂は、溶けたような質感の傷にも見える。不気味に光を反射している。
「……それは私の全てだ。このまま、隠し通す強さが私にはなかった。憎まれれば、責め蔑まれればどんなに救われるだろう、そう思っていた。ずっと。そして結局、このような形でユークに託そうなど、どこまでも卑怯者だよ……」
ぼうっと空を見つめながら話すアーキン。血の気のない、青白い顔。風が吹けば倒れてしまいそうな、痩せ細った体。
「サングイス※レスポンスム※ドミヌス※レウェルティ」 アーキンが呟く。
「え……?」
「立ち入らぬよう言い付けていた、書斎に入る為の呪文だ。本家の者でないと反応しない」
アーキンはそう言って、湖を見下ろした。水面には満天の星空が映っている。
「本家? ねぇ、さっきから何言ってるの、父さん。とにかく早く、手当てしないと」
ユークは戸惑いながらも、アーキンの腕をつかんで引き寄せようとする。しかし強い力で振り払われ、ユークは吹っ飛ばされた。満身創痍とは思えない。ユークの顔に、アーキンの血しぶきがかかった。
「お前はどうして私に似なかったんだろうな。素直で優しくて、より一層かわいそうだ。いつも、お前を見る度に、罪悪感が込み上げて……っお前は何も悪くない。すまない、本当にすまない」
ユークを見下ろし、苦痛に顔を歪ませるアーキン。その時――眩い彗星が頭上を流れた。辺りが青く照らされる。かなり大きい。それを目の当たりにしたアーキンが、「失敗か」とぽつり呟いた。
「……自分の為に生きてくれ、ユーク。お前はもう、犠牲にならなくていい」
アーキンが一歩、湖へと歩み出した。水面まで五十メートルはあるだろうか、落ちたらひとたまりもない。
慌てて立ち上がろうとするユークだったが、体が縛られたように動かない。振り向いたアーキンの目が、赤く光っている。
「父さん!! やめて!!!」
「我ながら支離滅裂だな……だが、本心なんだ。全部、忘れてくれたら、それが一番良い」
アーキンの瞳が一際明るく光った。足元の血だまりも共鳴するかのように赤く発光する。そして同時に、ユークの体の呪縛が解けた。
「テネブラエ※ダーレ※プロ※オムニス※サングイス※リシリーレ※アラーネア」
呪文を口にし、背中から、倒れるように落ちるアーキン。全力で駆け寄るユーク。
――間に合わない。
伸ばした手は、無情にも空を切った。星の海に落ちていく、唯一の肉親。
走馬灯のように、ユークの脳裏に記憶の数々がよぎる。口数は少なかったが、アーキンはいつもユークを気にかけていた。身の回りの世話をしてくれたり、読み書きを教えてくれたり、お菓子を作ってくれたり。
外に出られないこと以外に、不満はなかった。寂しいと思ったことは一度もなかった。アーキンの愛情を、確かに感じ取っていたからだ。
「ありがとう。お前は私の光だ」
アーキンはそう言って、笑った。ユークが見た、初めての笑顔だった。
――!!
アーキンが水面に達すると同時に、湖全体が赤く燃え上がるように光った。そしてそのまま空へと高く昇っていく。地面では、赤く光る曲線が交錯している。どうやら巨大な魔術陣が浮かび上がったようだ。全貌は捉えられない。
街の各所から、同じように赤い柱が発現するのが見えた。光はある一定の高さまで昇ると、それぞれが枝分かれし、網目のようなものを形成した。
そして全てが繋がり、一瞬光が強まったかと思うと、夜空に溶けるように消失した。
呆然と、膝を折り、空を仰ぐユーク。
何事もなかったかのように、星々は優しく瞬いている。
背後で足音がして、ユークは我に返った。いつの間にか、朝になっている。足の感覚がない。小鳥のさえずりが聞こえる。湖の水面は、揺らぐことなく青空を映している。
「ユーク、大丈夫ですか」
透き通った、穏やかな声。思わず涙が出そうになるのを、ユークはこらえた。
振り向くと――クローディアが立っていた。隊員を二人、連れている。よく見ると三人共、隊服が汚れており、怪我もしているようだ。
「と、父さんが……父さんが……っ落ちて…………、」
もたつきながらも必死で足を動かし、クローディアに向き直るユーク。クローディアは静かに頷き、ユークの前に正座した。
「やはりアーキンの魔術だったのですね。彼は……宇宙を救いました」
「え……」
涙目でクローディアを見上げるユーク。クローディアが目配せをし、隊員が席を外す。
「数日前、この宇宙に侵略者が侵入しました。混乱を避ける為、一般市民には知らせておりません。銀河連合の精鋭部隊にて出撃し、排除を試みましたが失敗。私と二名の隊員だけが生き残り、脱出ポットにてエウオイクルアへ一時退避を図るも、侵略者の執拗な追跡を振り払うことはできず……、」
クローディアが言葉に詰まる。珍しく険しい表情、隊員らの死に胸を痛めているようだ。ユークはひたすらに次の言葉を待つ。
「……度重なる攻撃により、脱出ポットは操縦不能に陥っていました。私たちは半ば墜落するように、エウオイクルア上空に至りました。故郷に悪魔を引き入れてしまった、拠点であるエウオイクルアが落ちればこの宇宙に未来はない、そう絶望していた時……、強力な結界魔術が発動され、侵略者を阻んだのです」
クローディアは一呼吸置き、空を見上げた。限りなく青い空。空気は澄んでおり、平穏そのものだ。
「その後、なんとか無事に着陸することができました。そして魔術の痕跡を辿り、こちらに行き着いた次第です。侵入者の件は通信機器を介し、アーキンに知らせてありました。しかし、まさかこのような魔術を発動させるとは……。目には見えませんが、結界は今もこの星と人々を守っています。もちろん、ユーク、あなたのことも」
そう言ってクローディアは微笑んだが、瞳には深い悲しみが宿っている。顔には痣、体中に無数の切り傷があり、司令官といえど隊員と共に最前線で戦っていたことがわかる。
「で、でも……父さんは、半年前から行方不明で……多分ずっとこの為に、っでもどうしてこうなるって、わかったのか…………それにっ様子がおかしくて……、本家がっ当主がどうとか、自分のせいだとか、でも最後には全部忘れろって……僕、なにがなんだが……っ」
ぐちゃぐちゃの頭で、必死に言葉を絞り出すユーク。クローディアは目を細めながら、何度も頷いた。
「そうですか。……アーキンがそう言ったのなら、気にするほどのことではないのかもしれません」
「そう、かな……」
ユークは俯き、視線を泳がせた。アーキンの足元にあった血だまりは、消えている。改めて見ると、何の痕跡もない。ユークには、昨夜のことが全て夢のように思えた。そう思いたかった。
「……代償は大きい。彼は頼もしい仲間であり、私の友人でもありました。どうか、彼の魂が安息の地に辿り着けますよう、そして再び、かけがえのない天資を持って芽吹きますよう、祈ります」
アーキンを弔う言葉のひとつひとつが、ユークの心に突き刺さり、感情がせきを切って溢れ出してくる。
零れ落ちた大粒の涙を拭い、ユークは深く息を吐いた。そして力強い眼差しで、クローディアを見据える。
「司令官。無茶なお願いだとはわかっています。だけど、このままじっとしていることはできません」
少し驚いたようにユークを見つめ、姿勢を正すクローディア。ユークが続ける。
「僕を、今すぐ銀河連合に入れてください」
はっきりとした声で、ユークはそう言った。アーキンの死に対する葛藤は、もう感じられない。そこには、無垢な願いがあるのみ。
「今すぐに……は難しいですが、千七百才……あと五百年もすれば、入隊可能です」
なだめるように、クローディアは優しく答えた。しかし、ユークは激しく首を振る。
「五百年も耐えられません。この結界もいつまで持つかわからない、父の死を無駄にしたくないんです。絶対。入れてくれないなら、単独で動きます。それでもいいですか」
「それは……脅しですか?」
諭しているような、呆れているような、なんともいえぬ表情になるクローディア。はっと我に返るユーク。
「っ……ごめんなさい。でも、本気です」
「うん、困りましたね。どうしたものか……」
クローディアは立ち上がり、コートから金色のネックレスを取り出す。金属製の球体を指先で弄ぶクローディア。ユークは思い詰めた表情で、唇を噛んだ。
「クロ兄。俺からもお願いします」
いつからそこにいたのか、数メートル後方にロカリオが立っていた。横にはイリアもいる。
「ロカリオ……イリア……」
ユークは嬉しそうに、同時にまた涙をこらえながら、二人の名を呼んだ。それを受けて、力強く頷いて見せるロカリオ、遠慮がちに微笑むイリア。
「あと俺も……俺とイリアも、入隊させてください。ユークを一人にはできません。危なっかしくて」
「私からもお願いしますっ。三人一組で動くので! 合、合わせたら三千七百才ですっ!!」
いつになく緊張している様子のロカリオとイリア。銀河連合の司令官がどういう存在なのか、ユークはひしひしと感じ取り、自分が恥ずかしくなった。
クローディアはふっと笑い、慣れた手つきでネックレスをコートにしまった。朝日そのものかのような、清廉な碧眼。
「その考えはありませんでした、ふふ。……そうですね、いいでしょう。特例措置です」
「「「ありがとうございます!!!」」」
顔を見合わせて喜び合う、ユーク、ロカリオ、イリア。どこからともなく、真っ白な蝶が現れ、ユークの頭にとまる。
「ただし、すぐに前線にとはいきませんよ。しっかり訓練、それからです」
「「「はいっ」」」
クローディアに釘を刺され、慌てて背筋を伸ばす三人。愛おしそうに、その様子を見つめるクローディア。
「……アーキンの覚悟に報いたい、思いは私も同じです。侵略者はこの瞬間にも、他星にて破壊行為を繰り返しています。気高く意思を貫いた全ての者の為、必ずや平和を取り戻しましょう」
その言葉には、クローディア自身の強い決意が込められているように思えた。噛み締めるように、頷いて見せる三人。どんな未来が待っていようとも乗り越えられる、乗り越えてみせる、心が一つになるのをユークは感じた。
ユークの頭から、蝶が飛び立った。名残惜しそうに、しばらく四人の周りを旋回したのち、風に乗って天まで高く舞い上がる。
やがて蝶が見えなくなっても、ユークはいつまでも空を見上げていた。
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ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
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そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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