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四話
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その後、あんなに悩んでいた部分が、書けたことに驚いた。
調子づいた私は、夕方まで書き続けた。
気付けば、部屋の中も、真っ暗で、電気を点けなければ、時間さえ、確認出来ない程だった。
急いで、部屋から出ると、良い匂いがしていた。
その匂いに、誘われるようにして、リビングのドアを開けると、キッチンに山崎さんの姿に見惚れた。
そんな私に、気付いた山崎さんは、優しく微笑んだ。
「終わりました?」
「もう少しです。何してるんですか?」
「夕飯を作ってるんですよ」
カウンター越しに、山崎さんの手元を覗くと、冷蔵庫の中にあった物で、煮物や味噌汁を作り、それらを盛っていた。
「金山さん」
「あ。マコトでいいですよ」
料理を差し出しながら、山崎さんは、一瞬、驚いたように、目を見開いてから、優しく微笑んだ。
受け取った料理を並べて、前に座ると、山崎さんも隣に座った。
「いただきます」
「どうぞ」
味噌汁を飲んでから、ご飯と煮物を口に入れる。
「山崎さんって、料理上手なんですね」
「ずっと自炊してましたから。どうですか?」
「美味しいです」
「よかった。それでは私も。いただきます」
こんな風に、誰かと一緒に食事をするのは、何年ぶりだろうか。
どんな食事でも、誰かと一緒なら、美味しく感じる。
そんな事を考えながら、並んで食事をして、食後のコーヒーを飲んでいる時、風が窓を揺らした。
「あ!!洗濯!!」
そう言って、急いで立ち上がると、山崎さんが、クスクスと笑った。
「取り入れておきましたよ」
「すみません」
座り直して、コーヒーを飲むと、山崎さんが、艶やかな微笑みを浮かべた。
その微笑みに、ドキッと、心臓が小さく跳ねた。
だが、起きたばかりの人に、家事をやらせてしまい、申し訳ないと思った。
私ってダメだな。
自分を否定する気持ちが、この人には、ちゃんと話した方がいいと思わせた。
コーヒーを飲みながら、私は、小さく呟くように言った。
「仕事を始めると、何も見えなくなるんです。食事も。お風呂も。洗濯も。寝る事さえ忘れて、書く事を優先してしまう。だから、一人の人だけを相手に出来ない。そうしたら、その人に、かなりの負担を掛けてしまう。誰かに迷惑を掛けるのは、イヤなんです。そんな風に、思ってはいるんですけど…ダメですね。結局、山崎さんに迷惑掛けちゃって。ホント、ダメな人間ですよね。私」
わざと笑った顔を向けると、山崎さんは、優しく微笑んでいた。
肯定も否定もしない。
それが心地好く感じた。
「すみません。変な話して」
頬を撫でるように、触れた山崎さんの手は、冷たいが、優しくて暖かい。
その手から安らぎが生まれ、私の尖った心を溶かす。
その内、その手は、髪に触れて肩を引き寄せた。
山崎さんに寄り掛かるように、肩を抱かれ、その暖かさに、全部、話してしまおうかとも思ったが、全てを話せば、山崎さんの負担になる。
言ってはいけない。
唇を噛んで、今の気持ちを飲み込む事しか出来なかった。
「さて。私は、続きを書きたいので、また籠りますね」
マグカップを持って、立ち上がったると、山崎さんの手が重なった。
山崎さんの方に、顔を向けると、チュと音を発てながら、唇に軽いキスをされた。
「頑張って下さいね」
耳まで赤くなった顔を隠すように、リビングから出て、仕事部屋に篭った。
深呼吸してから、続きを書き始め、暫くは、順調に書き進めたが、また、手が止まり、悩みが生まれた。
「どう書こう」
画面とにらめっこをしながら、何度も文字を書いては、消してを繰り返した。
いっそ、手だけにしてしまおうか。
それじゃ、あまりにもおかしい。
官能的な部分を削るか。
それじゃ、官能小説じゃなくなる。
なら、もう少しねちっこいのにするか。
それはそれで、私には厳しい。
また、ゴチャゴチャと悩んで、大声を上げそうになり、慌てて口を塞いだ。
静かに、椅子を動かし、振り返って、ドアを見ると、開く気配がないことに胸を撫で下ろした。
椅子から立ち上がり、背伸びをして、気分転換に、お風呂にでも入ろうと、浴室に向かった。
頭の中では、小説の文章を考えながら、廊下を歩き、洗面所のドアを開けると、目の前に裸の山崎さんが、現れて、頭の中が真っ白になった。
「ごめっ!!」
ドアを締めようとしたが、手首を掴まれ、洗面所に引き込まれた。
洗面台に、背中を着けるように、立たされ、頭にタオルを被った山崎さんを見上げると、艶やかに微笑んだまま、顔を近付けてきた。
「覗きですか?」
「ちが!!」
息が掛かる程、顔を近付けた山崎さんの言葉に、言い返そうとした。
だが、山崎さんは、私の言葉も聞かず、遮るように言った。
「昼間のじゃ足りませんか?」
その言葉に、私の脳内には、昼間、山崎さんの手で、イッてしまった自分が浮かんできた。
「ち違う!!気分転換にお風呂に入ろうと思っただけで!!」
顔を赤くしながら、早口で言うと、山崎さんの口角が上がり、ニヤリと笑って、頬に優しく触れてきた。
「また行き詰まりましたか。お手伝いしますよ」
「いい!!いらない!!」
その笑顔から逃げようと、背中を反らせると、山崎さんは、頬に触れていた手を洗面台に着いた。
「そんな力いっぱいに拒絶されたら、仕方ないですね」
そう言って、洗面台から手を離して背中を向けた。
無駄肉がなく、必要な筋肉はしっかり付いていて、ゴツゴツに角張ってるわけでも、ガリガリに痩せているわけでもない。
色白で華奢だが、男らしい綺麗な背中に、視線が釘付けになっていると、山崎さんは、頭を拭きながら言った。
「今度は、どこで行き詰まってるんですか?…マコトさん?」
見惚れていて、話を聞いてなかった。
「へ?なに?」
「今度は、何に悩んでるんですか?」
「あ~。よく分かりますね」
頭からタオルを取って、振り返った山崎さんは、優しく微笑んでいた。
「昼間と同じ顔になってますからね」
「それって、死にそうってことですかね?」
そう聞くと、山崎さんは、微笑んだまま頷いた。
「それで?どこですか?」
「あ~んと…本番がちょっと」
私を見ていた山崎さんの顔が、少し考えるように、顎に指を添えてから、真剣な顔になった。
「マコトさんは、自分で自分を癒した事ってありますか?」
首を傾げると、山崎さんは、悪戯っ子のような笑みになって、人差し指を立てて、顔を近付けた。
「要はオナニーです」
「…は!?」
「した事ないんじゃないですか?」
確かに、今まで、一度もしたことはないが、それだけで、どうして書けない理由になるのか、全く分からない。
相手がいるか、いないかの違いだけで、そんなにも、感覚に違いがあるとは思えない。
色々と考えていると、突然、引っ張られて、鏡に向かされた。
「あの人たちが、マコトさんにとってのオナニーだったんですよ」
鏡越しの山崎さんからは、嫉妬心が滲み、その瞳に射抜かれたように、動けなくなった。
「自分の手でしてみましょうか」
そう言って、山崎さんは、洗面台に着いていた私の手を掴んだ。
「ちょ!!」
「大丈夫。私が教えますから」
そんなことを知りたいんじゃない。
そう叫ぼうとしたが、トレーナーの上から胸に、触れさせられて声が詰まった。
「やめ…」
揉ませるように、手を動かされ、乳首が勃起する。
「や…ぁ…」
ブラが乳首に擦れて、ブルっと、寒気を感じたように体が震え、止まることなく、動かされると、呼吸が荒くなっていく。
「ん…」
声を漏らさないように、口を閉じると、もう片方の手を掴まれ、トレーナーの中に侵入してきた。
素肌に触れた手が、脇腹を撫でるように上ってくるのに、背中を伸ばした。
「んん…」
素肌を撫でていた手が、ブラの上から胸を掴んで揉まされる。
体を捩ると、山崎さんがいるのに、自分で自分の体を弄ぶようで、変な気分になる。
トレーナーの上から揉んでいた手も、ブラの上に移動して揉まされる。
乳首がブラで擦れ、ゾクゾクと、淡い痺れで体が震える。
カップが下ろされ、強く掴まされ、勃起した乳首が裏地に擦れた。
「ふ…ぅ…ん…」
わざと、トレーナーに擦り付けるように動かし、膝から力が抜けそうになる。
背中を丸め、逃れようとすると、乳首をシゴかれるように動かされる。
立ってるのが辛い。
膝が震える。
手を離したい。
そう思っても、山崎さんが、掴んだ手を振り払う力がない。
「んん…や…ぁ…め…」
言葉にならない声で、抗議しても、山崎さんの手は止まらない。
乳首に山崎さんの指が、微かに触れて、痺れるような感覚が頭に響く。
「ふっ」
挟んだ乳首を引っ張りながら、先っぽを撫で、片手が、体を這うように移動して下腹部に向かう。
「やぁあ…」
口を開くと、喘ぎ声が漏れた。
ヘソの辺りに手が到達すると、膝が耐えられず、崩れるように座り込んだ。
一緒になって、山崎さんも座ると、寄り掛からせるように、引き寄せられ、バランスを取る為に、足を投げ出した。
ヘソの辺りにあった手が、ジーパンの中に侵入し、自分の手で、陰部を握らせられ、背中を反らした。
「あ…ぁふ…ん…んん…」
小さな喘ぎが漏れ出て、目を開くと、自分の腕に重なる山崎さんの腕が見えた。
山崎さんに視線を向けると、楽しそうに笑って、見下ろしていた。
「や…ぁ…やま…ざ…きふ…ぅ…」
山崎さんの顔を見つめていると、濡れた下着越しに、勃起した蕾に指が触れて膝が震えた。
「やめぇ…やぁ…め…て…」
喘ぎを抑えて言うと、蕾を擦る指の動きが速まった。
「あぁ…やぁあ…ぁ…」
肩に頭を乗せ、天井に向かい、喘ぐ声を響かせた。
蕾を擦る手が速くなり、気付けば、自分の手に、陰部を擦り付けるように、腰を浮かしていた。
「あ…や…や…やああぁーーーー!!っふ…」
息を止めて、自分の手と山崎さんの手を内腿で挟み、背中を丸めた。
絶頂の波が頭から突き抜け、息が出来ない。
「ゆっくり息を吐いて」
頬を寄せた山崎さんの声が、耳元で優しく囁かれ、止めていた息をゆっくり吐き出した。
新しい空気を吸い込んで吐き出すと、ボーッとしながら、寄り掛かった山崎さんを見上げた。
艶やかに微笑みの山崎さんは、静かに言った。
「どうでしたか?」
「ひ…どひぃい!!」
内腿で、挟んだ私の手を握らせられた山崎さんの手に、変な声が出てしまった。
「物足りないですか?」
強く握られた手と、陰部が痛む中、必死に首を振って否定したが、山崎さんの力は、揺るまなかった。
「私の手が欲しいですか?」
激しく首を振ると、山崎さんの力が強くなった。
膝を擦り合わせて、体を捩って、痛みを耐えてみたが、山崎さんは、艶やかな微笑みのまま、乳首を掴ませている手の指を動かした。
「ひぁや…」
動かされる山崎さんの指が、微かに、素肌を撫で、感電したように、ビクビクと体を震わせた。
「欲しいですか?」
首を振って見せたが、唇を寄せて、息を吹き掛けるように、山崎さんは、昼間と同じ事を言った。
「しぶといですね。もういいじゃないですか」
目を閉じて、何度も首を振った。
「強情」
そう呟き、頬を唇で撫でながら、指の隙間から、乳首の先っぽを撫でた。
「ふ…ぅん…」
また呼吸が荒くなる。
山崎さんの肩に頭を乗せて、体を捩ると、頬を撫でる唇が、耳に滑り、舌の先が触れた。
「や…やま…ざ…き…さ…んん…やめ…」
「嫌です。欲して下さい」
耳に掛かる山崎さんの息に、腰が浮く。
「マコト」
背中が震えた時、チャイムの音が家中に響き、山崎さんの手が止まった。
その隙に、山崎さんの腕から抜け出し、急いで、洗面所から逃げ出した。
廊下を歩きながら、身なりを直し、玄関に向かう。
危ない。
あのままだったら、絶対に流されていた。
そう思いながら、廊下を歩いている間も、チャイムが鳴り続ける。
鬱陶しい。
うるさい。
「はい!!今行きます!!」
熱い頬を手で扇ぎながら、乱暴にドアを開けた。
そこには、背が高く、モデルのような女が、茶色の長い髪を揺らしながら、立っていた。
「…どちら様ですか?」
「アナタね?旦那をたぶらかしたのわ」
その一言で、この人が、陽一の妻だと理解した。
「アナタのせいよ!!アナタのせいで!!旦那が!!離婚するなんて言い出したのよ!!どうしてくれるのよ!!」
八つ当たりに近い、怒りをぶつけられても、どうする事も出来ない。
「人の家庭をめちゃめちゃにして!!返しなさいよ!!」
「そう、言わても…」
「どうせ、アナタが、あの人に近付いて、言わせたんでしょ。返して!!」
「違います。あれは、陽一さんが勝手に…」
「嘘おっしゃい!!アナタが言わせたに決まってるのよ!!いいから返して!!旦那を返してちょうだい!!」
怒り狂った相手に、どうしたらいいのか悩んでいると、彼女の後ろに、車のヘッドライトの光が見えた。
見たことないワンボックスカーが、家の前の路上に停まった。
「日奈子!!」
その車から陽一が降りてきて、日奈子と呼ばれた女に近付いた。
「何してんだ」
「見れば分かるでしょ!!」
「彼女は関係ない」
「ふざけないでよ!!この女が悪いんだから関係ないなんて言えないでしょ!!」
そう言った日奈子に、陽一の瞳には、怒りの色が生まれた。
「関係ない!!俺はお前が嫌になったから言ったんだ!!」
「今までそんな事言わなかったじゃない!!この女のせいでしょ!!」
「違う!!自分で決めたんだ!!俺がマコトと一緒にいたいと思たんだ!!」
「結局はこの女が原因じゃない!!関係なくない!!」
「関係ない!!俺が勝手に!!」
玄関前で、言い合いを始めてしまった陽一夫妻に、困っていると、後ろから腕が伸びてきた。
「わあ!!」
その腕に、後ろから抱き寄せられ、驚いて、大きな声を出すと、陽一夫妻と、山崎さんの顔が視界に入った。
「やま…」
「まだですか?早くしたいんですけど」
頬を鼻の頭で撫でられ、その唇が、微かに触れる。
その行動に、言葉が出なくなり、落ち着いた熱で、顔が真っ赤になった。
パクパクと、口を動かすしか出来ずにいると、山崎さんは、日奈子に優しい微笑みを浮かべて言った。
「すみません。彼女がバカな事をしてしまったみたいで」
「そそうよ!!なんてこと…」
「実は、私も、アナタにお話したいことがあるんですよ」
「な…なによ」
顔を赤くした日奈子が聞くと、山崎さんは、無表情になった。
「マコトは、何度も関係を断ち切ろうとしてました。それでも、彼女の優しさに漬け込んで。その人、しつこかったんです。どうにかして下さい」
「な!!」
山崎さんが言ったことに、日奈子は、驚いたようで、声も出さずに口を動かしていた。
「嫌がる彼女に、無理強いをしたのはそちらです。今日も、家まで来て、嫌がる彼女に乱暴しようとしました」
日奈子の瞳が、徐々に大きくなって、苦しそうに目を細めた。
「本当なの?」
とにかく、山崎さんに合わせよう。
それが状況を打破する近道だ。
動物的直感で、力いっぱいに、何度も頷くと、日奈子は、陽一を睨んで言った。
「アナタ。本当なの?」
「ち違う!!俺は、そんな事…」
「断ち切ろうと連絡すると、何度も家に来たじゃないですか」
山崎さんが横から嘘を言うと、パチーンと、肌を打つ音が響いた。
陽一の頬に、平手打ちをしていた日奈子は、振り返って、頭を下げてから言った。
「申し訳ありませんでした。もうここには来させません」
「えぇ。ありがとうございます」
こんな状況でも、ニコニコと、笑っていられる山崎さんが謎だ。
申し訳なさそうな顔をして、日奈子は、陽一の腕を掴んで、車まで引っ張って行くと、こちらに向き直り、頭を下げた。
「お騒がせしました。失礼します」
そう言って、陽一を車に押し込むようにして乗せると、日奈子も、車に乗り込んで走り去った。
嵐が去った後のように、辺りが静かになり、唖然と、立ち尽くしていると、山崎さんが、優しく微笑んで言った。
「入りましょうか」
「あ。はい」
背中を優しく押されるように、家に入ると、山崎さんは、ドアを静かに締めた。
よろけた肩を山崎さんに支えられ、ふらつく自分に驚いた。
「大丈夫ですか?」
「なんとか」
「今日一日で色々ありましたからね。疲れが出たんですよ」
そう言われて、一日の出来事を思い出した。
朝から山崎さんに襲われそうになり、祐介と龍之介に助けられ、陽一が家に来て、山崎さんに助けられ、日奈子が来て、夫婦喧嘩に巻き込まれ、山崎さんに助けられた。
それに、二回も、山崎さんにイカされた。
その瞬間が、鮮明に浮かびそうになり、頭を振って押し込めた。
「それにしても、やっぱり力強いんですね」
「へ?」
山崎さんが見せるように、持ち上げた腕には、ハッキリと、爪の痕が残っていた。
鬼の形相の日奈子を前に、無意識に、山崎さんの腕にしがみついてたのを知った。
「って、なんで裸なの!?」
今更、気付いた。
山崎さんは、腰にタオルを巻いただけで、服を着ていなかった。
「急いでましたから」
「寒くないんですか?」
「そうですね。流石に冷えてきました」
山崎さんの優しい微笑みが、徐々に、悪戯っ子のような笑みに変わるのを見て、イヤな予感がした。
「もっかい、暖まった方が…」
「そうですね」
山崎さんの言いたいことが分かり、それ以上は、言わせないように遮った。
「イヤです」
「まだ、何も言ってませんよ?」
「言わなくてもイヤです」
「仕方ないですね」
お姫様抱っこをされ、急なことで、山崎さんの首に腕を回してしまった。
「…何す…」
「お風呂です」
私を抱えたまま、山崎さんは、廊下を歩き出した。
「あの…降ろし…」
「イヤです。一緒入りますよ」
「無理!!いや!!降ろして!!」
「あんな広いお風呂に一人は寂しいです。だから…」
「イヤです!!一人で入って下さい!!」
暴れても、山崎さんは、降ろしてくれなかった。
開け放たれた洗面所に入ると、やっと降ろされ、床に足を着いて、すぐにドアに向かって走った。
だが、肩を掴まれ、引っ張られると、バランスが崩れた。
後ろに片足を出して、倒れないように踏ん張ると、山崎さんの顔が出て来て、目の前でドアが閉められた。
「諦めて下さい」
「イヤ…」
後退りすると、洗面台に背中が着き、山崎さんの顔が、息が掛かる程に近付いた。
「そんな顔するからですよ?」
「顔って…」
「今にも泣き出しそうな顔で、煽らないで下さい」
「ちが…」
「三回も、お預けを喰らって、そんな顔されたら、加減出来ないかもしれないです」
山崎さんの唇が、頬を撫でられ、引いていた熱が呼び戻された。
「ちょっと…待って…話を…」
「イヤです」
耳に噛み付かれると、小さな痛みが走り、背中に鳥肌が立った。
「い…」
咄嗟に目を閉じると、耳を舐められ、グチュと湿った音に体が震えた。
「や…ま…ふ…ぅ…ん…」
荒い山崎さんの息が、舐められた耳に掛かると、更に体が震える。
チュっと音が聞こえ、顔が熱くなる中、耳から首筋に舌が滑り降りた。
そのまま、鎖骨近くに移動すると、噛み付かれ、チクッと痛みが走った。
ヌルっとした舌の感覚に、体を震わせ、呼吸が荒くなる。
「ぃや…や…ふ…ぅ…」
山崎さんを押し返そうとするが、全く動かない。
逆に、股間を押し付けられた。
喉を一噛みすると、唇で撫でられ、頬を伝うと、噛み付くようなキスをされた。
口内に侵入した舌が絡み付き、互いの鼻息が頬を撫で合う。
恐怖で消えていた熱が、完全に戻ってくると、全身の力が抜けていく。
ヤバいと思っていても、もう抵抗する力がない。
トレーナーの裾から、侵入した手が、素肌に触れ、冷たさに体が震えた。
股に太股が滑り込んで来て、陰部に押し付けられる。
口の中で声が反響し、山崎さんの膝から逃れようと、つま先立ちになるが、逃さないとばかりに追いかけてくる。
肩を掴んでいた手を離し、洗面台に着き、背中を反らすと、やっと唇が離れた。
至近距離で見つめ、山崎さんは、膝を動かした。
「は…ぁ…ん…やめ…」
膝が伸ばされ、山崎さんの太ももに股がり、自分の全体重が掛かって体が痺れた。
「は…ぁ…んん…ぅ…」
洗面台に、お尻を乗せ、その太ももから逃れて、肩を掴むと、強く押し返したが、逆に体を寄せられた。
「もっと?」
「ぃ…やめ…」
頬に唇を寄せられ、優しく撫でるように、触れられると、力が抜けていく。
腰を抱かれ、洗面台から下ろされると、堅い物が太ももの付け根に当たる。
「もっとしたい」
「だ…め…」
「どうして?」
「だめ…だから…」
山崎さんから、視線だけを反らすと、洗面台に向かされた。
「いたっ!!」
鏡に顔が映り、自然と視界に入った。
「やめられないよ」
蕩けたような目で、高揚した頬が赤くなり、熱に浮かされた顔が鏡に映る。
そんな自分自身に、恥ずかしさが込み上げ、更に顔が赤くなる。
「壊したい」
「そんな…」
耳元で囁かれ、視線を外そうとしたが、山崎さんの手が、顎に添えられ、耳を甘噛みされた。
「はぅ!!」
変な声が出て、目を閉じると、耳を舐める山崎さんに、耳を押し付けようとしたが、顎を持つ手が、そうさせなかった。
耳から伝わる全てが、頭に響き、理性を削った。
「ん…」
舌を滑らせるように、うなじを撫で下ろし、チクッと、小さな痛みが走る度に体が震える。
「んん…」
山崎さんの手が、ジーパンに掛けられた感覚に、咄嗟に、目を開けてしまった。
「反らさないで」
肩に顎を乗せた山崎さんに、鏡越しに見つめられ、その瞳が、私の視線を捕らえて、離さなかった。
「ふ…ぅ…」
ジーパンに、掛けられていた手が、トレーナーから中に侵入する。
「ひぁ!!」
互いに熱を帯びてるはずなのに、その手だけは、とても冷たい。
その冷たさに、体が震えると、山崎さんの髪が耳を掠めた。
咄嗟に、首を縮めた時、耳に息を吹き付けられた。
「ん…」
首を振ろうとしても、顎を持つ山崎さんの手が、そうさせてくれない。
冷たい手が体を撫で上げるの感覚に、背中を伸ばすと、手がブラの上から、胸を強く掴んだ。
「ふぅん!!」
カップの中に指が侵入し、乳首の先っぽを指先で、撫でるように触れられると、膝が震える。
「んん…ん…」
唇を堅く閉じても、鼻から声が漏れ出て室内を満たす。
「ん…んん…ふ…ぅ…」
顎を持つ指が唇に触れ、口内に入り、歯茎をなぞる。
「ふ…んん…ん…ぅ…」
歯を食い縛り、その指が、それ以上、口の中に入らないようにした。
「口開けて」
優しく囁かれながら、山崎さんの荒い鼻息が耳に当たる。
それでも、口を開けないでいると、乳首をトレーナーで擦るように動かされた。
「ふ…ぅ…ん…ぅ…」
耐えられず、背中を丸めると、隙間が出来て、指が口の中へと入ってきた。
「ふ…ぅ…ん…ふ…あ…」
口に入れた指に、舌が絡められ、その苦しさに、鏡越しの山崎さんを見つめた。
「ふ…ぁ…ん…」
「ちゃんと見て」
耳に息を掛けながら、囁いた山崎さんは、首筋を舌先で、掠めるように触れ、うなじへと移動させた。
「ふんん!!はあ!!」
そのヌルっとした舌の感覚が、背中を伝い、膝が震えた。
「ふぁ…ふ…ぅ…ん…」
乳首を弄んでいた手が、脇腹を滑り落ち、ジーパンのボタンを外した。
「んん!!」
「暴れないで」
チャックを下ろすと、口から手が離れ、下腹部へと移動した。
両手で、下腹部を抱えるようすると、山崎さんは、自分の腰をお尻に擦り寄せた。
「いい?」
首を振り、山崎さんから逃げようとしたが、ジーパンの隙間に、指を入れて、自分の腰を擦り付けるように動かされ、背中を反らした。
「なんで?」
山崎さんの優しい囁きと共に、熱い吐息が耳に掛かる。
「ふ…ぅ…ん…」
体を捩ると、山崎さんの手が、ジーパンの中に入ってきた。
「マコト」
名前を耳の中に向けて囁き、山崎さんの体が、のし掛かって、ジーパンが下ろされた。
「あ…」
肩越しに見ると、山崎さんは、私の内腿を擦った。
体が震え、背中を丸めると、山崎さんの体が離れた。
「も…や…ぁ…ぃ…」
「やめない」
下着の中に指を入れ、陰部の割れ目を捲ると、勃起する蕾を強く押された。
「あぁ…」
「下着汚れちゃうよ?」
そう言いながらも、蕾を撫で回した。
膣(ナカ)から、大量の体液が、流れ出て下着を濡らす。
「ぃや…あ…あぁ…あ…んん…ふぁ…」
喘ぎながら、体を捩ると、山崎さんは、自分の腰を押し付けた。
「欲しい?」
激しく首を振り、蕾を擦る指が速くなった。
「あ…あぁ…ん…ぅく…ん…ふぁ…も…もぉ…やぁあ!!」
喘ぎながら叫ぶと、蕾を擦る指が止まった。
肩で息をしながら、洗面台に着いた手を突っ張って、震える膝で、必死に立っていた。
自分が重い。
その重みに加えて、山崎さんの重みがのし掛かり、耳元で囁かれた。
「いい?」
「い…や…」
蕾に触れていた指が、二本になり、一気に膣に侵入した。
「はぁ!!」
騒ぐように喘ぎ、背中を反らし、いつの間にか、体が期待していた。
だが、山崎さんは、二本の指を動かさずに、そのままでいた。
「ぬ…い…」
「イヤだ」
そう言って、自分の腰を左右に動かして、股間の堅い物が、お尻に触れてきた。
「いつ…」
「ちゃんと言って」
そうして、腰を動かしていると、山崎さんの腰に、巻いていたタオルが床に落ちた。
タオルがなくなり、山崎さんの肉棒の感触が、より鮮明になって、私は、耳まで赤くなった。
「やま…ざ…き…」
「なに?」
赤くなった耳を隠す為に、床を見るようにして、顔を下げた。
「やめ…」
「イヤだ」
肉棒が、下着越しに、お尻の割れ目に、挟められ、泣き出しそうになった。
「もぉ…や…」
声を震わせて漏れた言葉に、山崎さんは、膣の指を抜いて、下腹部に腕を回した。
「すみません。行き過ぎましたね」
ゆっくり首を振ると、山崎さんは、肩のところに顔を押し入れて、顎を乗せ、耳に頬を寄せ、私の熱を感じていた。
「お願いです。少し、足を貸して下さい」
そう言った山崎さんは、下腹部に回していた手で、私の両膝を掴んで、内側へと押す。
「な…に…する…の?」
不安から震える声で、聞くと、山崎さんは、優しく耳元で囁いた。
「大丈夫。そのまま」
山崎さんの優しい声で、されるがまま、両膝を内側へと移動させ、内腿をくっ付けた。
「我慢しないでね」
内腿の間に、山崎さんの肉棒が、割り込んできた。
「ひぃ!!」
肩を抱えられ、腕を伸ばして、体を起こした。
ゆっくり、腰を前後に動かし、内腿の間に、挟んだ肉棒を擦り始めると、下着越しでも、勃起した蕾が擦れ、全身に、電気が流れたように、体が震えた。
「ぁ…なぁ…に…ぃ…」
「素股」
肉棒が蕾を擦る度に、全身が痺れる。
「あ…ぁ…あ…や…」
「そんな…動かないで」
呟くように、山崎さんが言ったが、喘ぎ声で、私には、聞こえなかった。
「ん!!」
山崎さんが、下腹部を抱くように、腕を回すと、腰の動きが速くなり、蕾を擦る熱が増し、私の体が熱くなった。
「あ…や…や…んん…や…め…ふ…ぁ…」
体を離して、腰を掴むと、山崎さんの肉棒が、私の蕾を強く擦り、何も考えられなくなった。
「あ…ぁ…あぁ…は…ぁ…ん…ん…」
気付けば、私は、自ら腰を振って、刺激を求めていた。
「やぁ…ま…」
「ススム」
蕾を擦る肉棒の動きが、少し遅くなって、鏡越しに見つめた。
山崎さんも、鏡越しに見つめ、下腹部を抱くように、腕を回して、私の頬に唇を寄せた。
「ススムって呼んで」
荒い息遣いと優しい声色に、私の中の理性が崩壊した。
「す…すむ…」
「マコト」
名前を呼ぶと、名前を呼び返してくる。
ちょっと嬉しく感じると、山崎さんの腰の動きが、一気に速まった。
下着は、グチュグチュと音を発てる程に濡れ、山崎さんの肉棒の先っぽからは、少しずつ体液が溢れて太股を汚す。
私の喘ぎ、山崎さんの息遣、濡れた下着、全ての音が、混ざり合って溶け合う。
「あ…ま…ぁ…い…ッ…ちゃ…」
「ごめん」
そう言うと、前後に動く山崎さんの腰が、更に、激しくなった。
「あ!だぁ…め…イ…クぅ…」
「少し我慢」
そう言われても、膣にと太股に、力が入ってしまう。
「ぁあ…むり!!も!!あ…あ…あぁーーーー!!っふ…」
「っく!!」
背中を丸め、絶頂を迎えるのと同時に、腰を強く押し当て、肉棒から、白乳色の液体を吐き出した。
何度も、上下に動きながら、飛ばされる白乳色の液体は、洗面台と床を汚した。
立っているのが、辛くて、洗面台を滑るように、崩れると、山崎さんに引き寄せられ、胡座の上に、横向きに乗せられた。
肩を包むように、抱き締められ、互いの呼吸が戻るまで、一緒に迎えた絶頂の余韻に浸った。
「すみません」
天井を見つめたまま、ボーッとしていると、山崎さんが謝った。
頭が働かず、首を傾げると、山崎さんは、白乳色の体液で、汚した洗面台を指差した。
それを見て、さっきの光景が蘇って、頬を赤くして、洗面台から視線を反らして言った。
「自分で、片付けて下さいね」
山崎さんは、顔を近付けて、静かに言った。
「お互い様なのに。一人でですか?」
「お互い様って…」
「気持ち良かったでしょ?」
「それは…」
本当の事を言われ、何も言い返せない。
自分の体を見つめるように、少しうつ向くと、山崎さんは、艶やかな微笑みを浮かべた。
前髪を持ち上げられ、オデコに唇を着けると、チュっと音がした。
軽くキスされたオデコに触れて、向こうに見える山崎さんは、クスッと、笑って、肩を包むように腕を回し、私の頬を撫でた。
「起きれますか?」
ゆっくり頷くと、山崎さんは、頬を撫でていた手を離して、浴室に促すようにして、静かに言った。
「お先にどうぞ」
起き上がって、膝の上から、立ち上がろうと、前のめりになったが、床に手を着いて、そのまま、山崎さんの前に座り込んでしまった。
腰から下に力が入らない。
立ち膝になるように、私の顔を横から、覗き込んだ山崎さんは、見つめて言った。
「大丈夫ですか?」
「なんで、平気なんですか」
私とは違い、山崎さんは、すぐに動けることが、理解出来なかった。
「人それぞれですからね。私は、だいぶ戻ってきましたよ」
山崎さんは、目と唇で、弧を描いて、笑うのを見つめて、私は、溜め息をつくしか出来なかった。
「なに!?」
トレーナーを掴まれ、驚いて、山崎さんに向き直り、洗面台に背中を付けると、山崎さんは、目を点にして、私を見下ろして言った。
「動けなさそうだったので、お手伝いしようかと…背中汚れますよ?」
山崎さんに言われて、肩越しに視線を向けると、トレーナーに、洗面台に付いていた白乳色の体液が、付いているのが見えた。
それを見て、熱を帯びていくのが分かり、顔を両手で覆い、背中を洗面台に押し付けて、声を籠らせて言った。
「もうイヤ」
山崎さんは、そんな私を見下ろして笑った。
「笑わないでよ!!」
顔を覆っていた手を離して、叫ぶようにして言うと、山崎さんは、優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「昼間言ってたことが、嘘のようです」
「昼間?」
「ここに来た男性の言ってたことです」
それは、陽一が怒り任せに、ぶちまけた事だと分かり、私は、忘れていた顔の熱が蘇ってきた。
「あの人は、この姿を見たかったんでしょうね。自分の腕の中で、必死に、もがきながら、よがって、自分を忘れる程に…」
「言うな!!」
顔を赤くしながら叫ぶと、山崎さんは、また声を出して笑った。
そんな山崎さんを睨み、拗ねたように、背中を向けた。
「もういい!!」
そう言って、トレーナーを脱いだ。
「あ!!」
そんな私の後ろで、山崎さんが、声を上げたのを肩越しに睨んだ。
「なんですか」
「あ~。付いちゃいました」
後頭部の髪に、白乳色の体液が付いていた。
トレーナーを脱いだ時に、髪に付いたのを知って、私は、頬を赤くしながら、立ち上がった。
「洗うからいいんです」
全てを脱ぎ捨てて、浴室に入った。
頭からシャワーを浴び、髪を洗ってから、ドボンと浴槽に入ると、強張っていた体が解れ、息を長く吐き出した。
親父のような自分に、少し鼻で笑って、浴槽の中で、足を伸ばした。
少し上に顔を向けて、目を閉じると、自分が、どれだけ気張っていたのか、分かる気がする。
洗面所から、水を流す音が聞こえ、山崎さんが、汚れたトレーナーを洗ってる光景が、目の前に浮かんだ。
暫くして、水の流れる音が止み、浴室のドアが開いた音がした。
山崎さんが、入って来るのが、視界に入り、私は、急いで、足を縮めて背中を向けた。
「何してんですか」
「寒かったから、お風呂に入ろうと思っただけですよ?」
「今じゃなくてもいいじゃないですか。出てって下さいよ」
浴槽のお湯に顎を付けて、目を閉じた私の耳のすぐ側で、山崎さんの声が聞こえた。
「風邪引いちゃう」
山崎さんの声が、聞こえてから、耳に息を吹き掛けられた。
ビクッと肩を揺らすと、頭に何かを被せられ、視界が真っ白になった。
「巻いて下さい。私も巻いてるので」
頭の物がバスタオルだと分かり、浴槽に引き込んだ。
体にバスタオルを巻き付けている間、山崎さんは、頭からシャワーを浴びた。
山崎さんの背中は、背筋が割れ、シミやシワもない。
さっき見惚れた綺麗な背中に、嫉妬心が沸き上がってきた。
浴槽の中で、膝を抱えて体育座りで、山崎さんに背中を向けた。
「背中のアザは、小さい時のですか?」
シャワーを止め、体を洗う山崎さんに聞かれ、私は、口までお湯に浸かって、何も答えなかった。
それを見て、山崎さんは、泡を流して、浴槽に入ってきた。
「すみません」
視線を向けると、山崎さんは、浴槽の縁に寄り掛かりながら、浴槽の外に、腕を出して、片手で目元を覆っていた。
「昔の話なんかしたくないですよね」
山崎さんから顔を反らして、浴槽の湯を見つめて、静かに言った。
「小学生の時、クラスメイトに、突き飛ばされて、窓ガラスに背中から突っ込んだの」
驚いた山崎さんが、目元を覆ってた手を外しながら、背中を浴槽の縁から離すと、お湯が揺れた。
「偏差値の高い学校に、逆推薦で入ったの。周りは、親からの重圧を受けて、必死に入った子ばかりだった。そこで、私は、先生達の間で、手の掛からない優等生って扱われてたみたい。それだけでも、鬱陶しいのに、成績は優秀、スポーツもそこそこ、飾らない、媚びない、謙虚。英才教育を強いられてきた子達は、テストがある度に、親からの重圧も増す一方。爆発しても仕方ないでしょう?色んなプレッシャーに負けた子が、私の肩を押して、そのまま、窓ガラスを突き破って、コンクリートに頭を打って、病院に運ばれた。脳に異常はなかったけど、背中の傷は、アザとして残って。でもね?私は、気にしてないんだよ?気にするのは周りだけ。周りの人だけが気にする。それが鬱陶しい」
黙って聞いていた山崎さんに、微笑みを向けた。
上手く笑えてるか、分からなかった。
そんな私を見た山崎さんは、浴槽に腕を入れてお湯を見つめた。
そんな山崎さんを見てから、浴槽の縁に寄り掛かり、後頭部を乗せ、天井を見上げた。
「山崎さんって、いくつなんですか?」
「ふぇ?」
暫く、無言のままでいたが、不意に浮かんだ疑問を口に出すと、山崎さんは、間の抜けた声を出した。
それに対して、声を殺すように笑うと、お湯が揺れた。
浴槽の縁に頭を着けたまま、私は、山崎さんに顔を向けて、同じ質問をした。
「山崎さんって、いくつなんですか」
そんな私を見て、山崎さんは、優しく微笑んで、同じように、浴槽の縁に、頭を着けて、天井を見上げた。
「いくつに見えますか?」
「私が、質問してるんですけど」
「まぁいいから。いくつに見えるか、答えてみて下さい」
山崎さんの横顔を見ながら、色々と計算をし、私と同じくらいかと思った。
「二十七、八?」
「あ~やっぱりですか」
「いくつですか?」
「ハタチです」
その答えに驚いて、体を起こし、山崎さんを正面から見るように、体を近付けた。
「…うそでしょ?」
「そんなことに、嘘ついてどうすんですか」
「サバ読んでない?」
「正真正銘のハタチです」
山崎さんは、視線だけを向け、私と同じように、質問してきた。
「いくつですか?」
「今年で二十八」
「おぉ。八才しか違いませんね」
「八才も!!八才も、私の方が上なのに…なんで…私の方が下に見えるのよ」
お湯を叩くと、跳ね上がった滴が、山崎さんの顔に、大量に掛かった。
「ぶっ。そんな事言われても知りませんよ」
「大人っぽすぎなのよ!!もっと年齢相応に見えるようにしてよ!!」
「ちょっ!!そんな叩かないで。顔に掛かる」
何回もお湯を叩いて、山崎さんの顔に、わざと掛けると、浴槽の縁から頭を上げ、顔に掛かったお湯を切るようにして、手で拭いた。
山崎さんから顔を反らして、浴槽の縁に、寄り掛かりながら、腕を外に出した。
「怒ってます?」
同じ格好になった山崎さんに、横顔を見られながら、そう聞かれ、私は、不機嫌な顔をして、横目で視線を向けた。
「ショック」
「ですよね。年下に、あんな風に組し…」
「そこじゃない!!」
「じゃ、何がショックなんですか?」
山崎さんに背中を向けて、お湯に顎を付けて言った。
「年下に、泣きそうになったのが」
お湯が揺れて、山崎さんに、後ろから抱き付かれた。
「いいじゃないですか」
「良くない!!」
山崎さんの体から離れようと、肘で鎖骨辺りを押すと、肩を掴まれ、後ろに引っ張られた。
「わぁ!!」
お尻が滑って、そのまま、後ろに倒れると、山崎さんは、肩を抱いて、耳に頬を擦り寄せた。
「泣いて下さい」
「イヤだ。絶対泣かない」
「そう言われると、余計、泣かせたくなります」
「殴られたい?」
湯の中から、拳を握った手を出して見せると、山崎さんは、その拳を包むように、片手で掴んだ。
「痛いのはイヤです。でも、痛くて、気持ちいいのは大歓迎です」
「ふぅ~ん。そうなんだ」
「はい。最中の爪が、食い込む痛みとかぁーいたたたた!!」
逆の手で、山崎さんの膝を掴んで、骨に、爪を食い込ませるように、指を立てて握った。
「知ってました?手は、二つあるんですよ?」
「っあ゛ーーーー!!すみません!!ごめんなさい!!」
膝を握ったまま、腕の中で、体を起こし、反転させて、顔を歪めて、謝る山崎さんに、向き直った。
「もう言わないでね」
声も出さずに、何度も頷く山崎さんを見て、膝から手を離した。
痛む膝を擦る山崎さんが、ちょっとだけ、可愛らしくて、濡れた頭を撫でた。
大人しく、頭を撫でさせる山崎さんが、頬を赤くするのに、ちょっと愛しさを感じた。
「何か変な気分です」
「なんで?」
「急に、姉が出来たようで、照れくさいような、嬉しいような、そんな気分です」
「年齢的には姉だから」
「姉に、あん…すみません」
お湯から手を出して、ヒラヒラさせると、下を向いて、謝った山崎さんが、おかしくて、声を出して笑った。
少しだけ、顔を上げた山崎さんは、私の手を掴んで、引っ張った。
「ちょっ!!引っ張らないでよ」
「人で遊ぶからですよ」
お湯を跳ね上げながら、手を振り払ったり、掴まれたりを繰り返していると、体が暖まってきて、顔に汗が滲んだ。
「もうあがる」
「では私も」
一緒に立とうとする山崎さんの肩に、手を置いて、浴槽に押し返すように、立ち上がろうとした時、腰に腕を回され、その腕に力が込められた。
「何すんの」
「あがろうと思いまして」
「私が、着替えてからにして」
「逆上せちゃいます」
「もう。じゃ先にあがりなよ」
また、浴槽に入ろうとしたが、山崎さんは、私の体を引き寄せて、くっ付いてきた。
その時、巻いていたバスタオルが、緩むのが分かり、焦りながら、山崎さんの肩に、置いている手で、体を離そうとした。
「離して!!離して!!」
「ん?どうしてですか?」
「タオルが…」
「じゃ、外しちゃいましょうか」
そう言って、胸元に、顔を近付けて、バスタオルの縁を噛んだ。
「だ!!バカ!!やめ!!」
噛んだバスタオルを少しずつ、引っ張るようにして、顔を離すと、体を締め付ける感覚が緩んでいく。
山崎さんの頭を殴り、バスタオルを離させ、痛みに悶える山崎さんを置きっぱなしで、急いで浴室から出た。
違うバスタオルで、体を拭いて、下着を着けると、山崎さんが、頭を擦りながら、浴室から出てきた。
「本当に殴る事ないじゃないですか」
洗面所のチェストから、スウェットを取り出して、山崎さんに投げ付けた。
山崎さんも、驚きながら、受け止めた。
「家で唯一の男物。さっさと着て、さっさと寝な」
山崎さんを見ずに、そう言い、自分のチェストから、ハイネックとジーパンを取り出して、着替えてから、洗面所を出た。
「ま!!」
肩越しに、横目で睨むと、山崎さんは、ブルッと、肩を震わせた。
黙って、ドアを締めた私は、一旦、部屋に行き、マグカップを持って、リビングに向かい、コーヒーを淹れた。
仕事部屋に向かう廊下で、スウェットを着た山崎さんが、目の前に立ったが、横を通り抜けて、部屋に入った。
ドアの前に立って、廊下の音を聞いていると、隣の障子が締まる音が聞こえた。
デスクに向かい、マグカップを置いてから、点けっぱなしのパソコンに向かい、コーヒーを飲みながら、書きかけの文章を少し消して書き直した。
書き進めていると、いつの間にか、コーヒーがなくなり、また、マグカップを持って部屋を出た。
和室の前で、立ち止まり、障子に手を伸ばしたが、やめて、リビングに向かい、コーヒーを淹れて、部屋に戻った。
明け方になって、睡魔に襲われ、私は、寝室に向かい、布団に入ると、すぐに寝息を発てた。
調子づいた私は、夕方まで書き続けた。
気付けば、部屋の中も、真っ暗で、電気を点けなければ、時間さえ、確認出来ない程だった。
急いで、部屋から出ると、良い匂いがしていた。
その匂いに、誘われるようにして、リビングのドアを開けると、キッチンに山崎さんの姿に見惚れた。
そんな私に、気付いた山崎さんは、優しく微笑んだ。
「終わりました?」
「もう少しです。何してるんですか?」
「夕飯を作ってるんですよ」
カウンター越しに、山崎さんの手元を覗くと、冷蔵庫の中にあった物で、煮物や味噌汁を作り、それらを盛っていた。
「金山さん」
「あ。マコトでいいですよ」
料理を差し出しながら、山崎さんは、一瞬、驚いたように、目を見開いてから、優しく微笑んだ。
受け取った料理を並べて、前に座ると、山崎さんも隣に座った。
「いただきます」
「どうぞ」
味噌汁を飲んでから、ご飯と煮物を口に入れる。
「山崎さんって、料理上手なんですね」
「ずっと自炊してましたから。どうですか?」
「美味しいです」
「よかった。それでは私も。いただきます」
こんな風に、誰かと一緒に食事をするのは、何年ぶりだろうか。
どんな食事でも、誰かと一緒なら、美味しく感じる。
そんな事を考えながら、並んで食事をして、食後のコーヒーを飲んでいる時、風が窓を揺らした。
「あ!!洗濯!!」
そう言って、急いで立ち上がると、山崎さんが、クスクスと笑った。
「取り入れておきましたよ」
「すみません」
座り直して、コーヒーを飲むと、山崎さんが、艶やかな微笑みを浮かべた。
その微笑みに、ドキッと、心臓が小さく跳ねた。
だが、起きたばかりの人に、家事をやらせてしまい、申し訳ないと思った。
私ってダメだな。
自分を否定する気持ちが、この人には、ちゃんと話した方がいいと思わせた。
コーヒーを飲みながら、私は、小さく呟くように言った。
「仕事を始めると、何も見えなくなるんです。食事も。お風呂も。洗濯も。寝る事さえ忘れて、書く事を優先してしまう。だから、一人の人だけを相手に出来ない。そうしたら、その人に、かなりの負担を掛けてしまう。誰かに迷惑を掛けるのは、イヤなんです。そんな風に、思ってはいるんですけど…ダメですね。結局、山崎さんに迷惑掛けちゃって。ホント、ダメな人間ですよね。私」
わざと笑った顔を向けると、山崎さんは、優しく微笑んでいた。
肯定も否定もしない。
それが心地好く感じた。
「すみません。変な話して」
頬を撫でるように、触れた山崎さんの手は、冷たいが、優しくて暖かい。
その手から安らぎが生まれ、私の尖った心を溶かす。
その内、その手は、髪に触れて肩を引き寄せた。
山崎さんに寄り掛かるように、肩を抱かれ、その暖かさに、全部、話してしまおうかとも思ったが、全てを話せば、山崎さんの負担になる。
言ってはいけない。
唇を噛んで、今の気持ちを飲み込む事しか出来なかった。
「さて。私は、続きを書きたいので、また籠りますね」
マグカップを持って、立ち上がったると、山崎さんの手が重なった。
山崎さんの方に、顔を向けると、チュと音を発てながら、唇に軽いキスをされた。
「頑張って下さいね」
耳まで赤くなった顔を隠すように、リビングから出て、仕事部屋に篭った。
深呼吸してから、続きを書き始め、暫くは、順調に書き進めたが、また、手が止まり、悩みが生まれた。
「どう書こう」
画面とにらめっこをしながら、何度も文字を書いては、消してを繰り返した。
いっそ、手だけにしてしまおうか。
それじゃ、あまりにもおかしい。
官能的な部分を削るか。
それじゃ、官能小説じゃなくなる。
なら、もう少しねちっこいのにするか。
それはそれで、私には厳しい。
また、ゴチャゴチャと悩んで、大声を上げそうになり、慌てて口を塞いだ。
静かに、椅子を動かし、振り返って、ドアを見ると、開く気配がないことに胸を撫で下ろした。
椅子から立ち上がり、背伸びをして、気分転換に、お風呂にでも入ろうと、浴室に向かった。
頭の中では、小説の文章を考えながら、廊下を歩き、洗面所のドアを開けると、目の前に裸の山崎さんが、現れて、頭の中が真っ白になった。
「ごめっ!!」
ドアを締めようとしたが、手首を掴まれ、洗面所に引き込まれた。
洗面台に、背中を着けるように、立たされ、頭にタオルを被った山崎さんを見上げると、艶やかに微笑んだまま、顔を近付けてきた。
「覗きですか?」
「ちが!!」
息が掛かる程、顔を近付けた山崎さんの言葉に、言い返そうとした。
だが、山崎さんは、私の言葉も聞かず、遮るように言った。
「昼間のじゃ足りませんか?」
その言葉に、私の脳内には、昼間、山崎さんの手で、イッてしまった自分が浮かんできた。
「ち違う!!気分転換にお風呂に入ろうと思っただけで!!」
顔を赤くしながら、早口で言うと、山崎さんの口角が上がり、ニヤリと笑って、頬に優しく触れてきた。
「また行き詰まりましたか。お手伝いしますよ」
「いい!!いらない!!」
その笑顔から逃げようと、背中を反らせると、山崎さんは、頬に触れていた手を洗面台に着いた。
「そんな力いっぱいに拒絶されたら、仕方ないですね」
そう言って、洗面台から手を離して背中を向けた。
無駄肉がなく、必要な筋肉はしっかり付いていて、ゴツゴツに角張ってるわけでも、ガリガリに痩せているわけでもない。
色白で華奢だが、男らしい綺麗な背中に、視線が釘付けになっていると、山崎さんは、頭を拭きながら言った。
「今度は、どこで行き詰まってるんですか?…マコトさん?」
見惚れていて、話を聞いてなかった。
「へ?なに?」
「今度は、何に悩んでるんですか?」
「あ~。よく分かりますね」
頭からタオルを取って、振り返った山崎さんは、優しく微笑んでいた。
「昼間と同じ顔になってますからね」
「それって、死にそうってことですかね?」
そう聞くと、山崎さんは、微笑んだまま頷いた。
「それで?どこですか?」
「あ~んと…本番がちょっと」
私を見ていた山崎さんの顔が、少し考えるように、顎に指を添えてから、真剣な顔になった。
「マコトさんは、自分で自分を癒した事ってありますか?」
首を傾げると、山崎さんは、悪戯っ子のような笑みになって、人差し指を立てて、顔を近付けた。
「要はオナニーです」
「…は!?」
「した事ないんじゃないですか?」
確かに、今まで、一度もしたことはないが、それだけで、どうして書けない理由になるのか、全く分からない。
相手がいるか、いないかの違いだけで、そんなにも、感覚に違いがあるとは思えない。
色々と考えていると、突然、引っ張られて、鏡に向かされた。
「あの人たちが、マコトさんにとってのオナニーだったんですよ」
鏡越しの山崎さんからは、嫉妬心が滲み、その瞳に射抜かれたように、動けなくなった。
「自分の手でしてみましょうか」
そう言って、山崎さんは、洗面台に着いていた私の手を掴んだ。
「ちょ!!」
「大丈夫。私が教えますから」
そんなことを知りたいんじゃない。
そう叫ぼうとしたが、トレーナーの上から胸に、触れさせられて声が詰まった。
「やめ…」
揉ませるように、手を動かされ、乳首が勃起する。
「や…ぁ…」
ブラが乳首に擦れて、ブルっと、寒気を感じたように体が震え、止まることなく、動かされると、呼吸が荒くなっていく。
「ん…」
声を漏らさないように、口を閉じると、もう片方の手を掴まれ、トレーナーの中に侵入してきた。
素肌に触れた手が、脇腹を撫でるように上ってくるのに、背中を伸ばした。
「んん…」
素肌を撫でていた手が、ブラの上から胸を掴んで揉まされる。
体を捩ると、山崎さんがいるのに、自分で自分の体を弄ぶようで、変な気分になる。
トレーナーの上から揉んでいた手も、ブラの上に移動して揉まされる。
乳首がブラで擦れ、ゾクゾクと、淡い痺れで体が震える。
カップが下ろされ、強く掴まされ、勃起した乳首が裏地に擦れた。
「ふ…ぅ…ん…」
わざと、トレーナーに擦り付けるように動かし、膝から力が抜けそうになる。
背中を丸め、逃れようとすると、乳首をシゴかれるように動かされる。
立ってるのが辛い。
膝が震える。
手を離したい。
そう思っても、山崎さんが、掴んだ手を振り払う力がない。
「んん…や…ぁ…め…」
言葉にならない声で、抗議しても、山崎さんの手は止まらない。
乳首に山崎さんの指が、微かに触れて、痺れるような感覚が頭に響く。
「ふっ」
挟んだ乳首を引っ張りながら、先っぽを撫で、片手が、体を這うように移動して下腹部に向かう。
「やぁあ…」
口を開くと、喘ぎ声が漏れた。
ヘソの辺りに手が到達すると、膝が耐えられず、崩れるように座り込んだ。
一緒になって、山崎さんも座ると、寄り掛からせるように、引き寄せられ、バランスを取る為に、足を投げ出した。
ヘソの辺りにあった手が、ジーパンの中に侵入し、自分の手で、陰部を握らせられ、背中を反らした。
「あ…ぁふ…ん…んん…」
小さな喘ぎが漏れ出て、目を開くと、自分の腕に重なる山崎さんの腕が見えた。
山崎さんに視線を向けると、楽しそうに笑って、見下ろしていた。
「や…ぁ…やま…ざ…きふ…ぅ…」
山崎さんの顔を見つめていると、濡れた下着越しに、勃起した蕾に指が触れて膝が震えた。
「やめぇ…やぁ…め…て…」
喘ぎを抑えて言うと、蕾を擦る指の動きが速まった。
「あぁ…やぁあ…ぁ…」
肩に頭を乗せ、天井に向かい、喘ぐ声を響かせた。
蕾を擦る手が速くなり、気付けば、自分の手に、陰部を擦り付けるように、腰を浮かしていた。
「あ…や…や…やああぁーーーー!!っふ…」
息を止めて、自分の手と山崎さんの手を内腿で挟み、背中を丸めた。
絶頂の波が頭から突き抜け、息が出来ない。
「ゆっくり息を吐いて」
頬を寄せた山崎さんの声が、耳元で優しく囁かれ、止めていた息をゆっくり吐き出した。
新しい空気を吸い込んで吐き出すと、ボーッとしながら、寄り掛かった山崎さんを見上げた。
艶やかに微笑みの山崎さんは、静かに言った。
「どうでしたか?」
「ひ…どひぃい!!」
内腿で、挟んだ私の手を握らせられた山崎さんの手に、変な声が出てしまった。
「物足りないですか?」
強く握られた手と、陰部が痛む中、必死に首を振って否定したが、山崎さんの力は、揺るまなかった。
「私の手が欲しいですか?」
激しく首を振ると、山崎さんの力が強くなった。
膝を擦り合わせて、体を捩って、痛みを耐えてみたが、山崎さんは、艶やかな微笑みのまま、乳首を掴ませている手の指を動かした。
「ひぁや…」
動かされる山崎さんの指が、微かに、素肌を撫で、感電したように、ビクビクと体を震わせた。
「欲しいですか?」
首を振って見せたが、唇を寄せて、息を吹き掛けるように、山崎さんは、昼間と同じ事を言った。
「しぶといですね。もういいじゃないですか」
目を閉じて、何度も首を振った。
「強情」
そう呟き、頬を唇で撫でながら、指の隙間から、乳首の先っぽを撫でた。
「ふ…ぅん…」
また呼吸が荒くなる。
山崎さんの肩に頭を乗せて、体を捩ると、頬を撫でる唇が、耳に滑り、舌の先が触れた。
「や…やま…ざ…き…さ…んん…やめ…」
「嫌です。欲して下さい」
耳に掛かる山崎さんの息に、腰が浮く。
「マコト」
背中が震えた時、チャイムの音が家中に響き、山崎さんの手が止まった。
その隙に、山崎さんの腕から抜け出し、急いで、洗面所から逃げ出した。
廊下を歩きながら、身なりを直し、玄関に向かう。
危ない。
あのままだったら、絶対に流されていた。
そう思いながら、廊下を歩いている間も、チャイムが鳴り続ける。
鬱陶しい。
うるさい。
「はい!!今行きます!!」
熱い頬を手で扇ぎながら、乱暴にドアを開けた。
そこには、背が高く、モデルのような女が、茶色の長い髪を揺らしながら、立っていた。
「…どちら様ですか?」
「アナタね?旦那をたぶらかしたのわ」
その一言で、この人が、陽一の妻だと理解した。
「アナタのせいよ!!アナタのせいで!!旦那が!!離婚するなんて言い出したのよ!!どうしてくれるのよ!!」
八つ当たりに近い、怒りをぶつけられても、どうする事も出来ない。
「人の家庭をめちゃめちゃにして!!返しなさいよ!!」
「そう、言わても…」
「どうせ、アナタが、あの人に近付いて、言わせたんでしょ。返して!!」
「違います。あれは、陽一さんが勝手に…」
「嘘おっしゃい!!アナタが言わせたに決まってるのよ!!いいから返して!!旦那を返してちょうだい!!」
怒り狂った相手に、どうしたらいいのか悩んでいると、彼女の後ろに、車のヘッドライトの光が見えた。
見たことないワンボックスカーが、家の前の路上に停まった。
「日奈子!!」
その車から陽一が降りてきて、日奈子と呼ばれた女に近付いた。
「何してんだ」
「見れば分かるでしょ!!」
「彼女は関係ない」
「ふざけないでよ!!この女が悪いんだから関係ないなんて言えないでしょ!!」
そう言った日奈子に、陽一の瞳には、怒りの色が生まれた。
「関係ない!!俺はお前が嫌になったから言ったんだ!!」
「今までそんな事言わなかったじゃない!!この女のせいでしょ!!」
「違う!!自分で決めたんだ!!俺がマコトと一緒にいたいと思たんだ!!」
「結局はこの女が原因じゃない!!関係なくない!!」
「関係ない!!俺が勝手に!!」
玄関前で、言い合いを始めてしまった陽一夫妻に、困っていると、後ろから腕が伸びてきた。
「わあ!!」
その腕に、後ろから抱き寄せられ、驚いて、大きな声を出すと、陽一夫妻と、山崎さんの顔が視界に入った。
「やま…」
「まだですか?早くしたいんですけど」
頬を鼻の頭で撫でられ、その唇が、微かに触れる。
その行動に、言葉が出なくなり、落ち着いた熱で、顔が真っ赤になった。
パクパクと、口を動かすしか出来ずにいると、山崎さんは、日奈子に優しい微笑みを浮かべて言った。
「すみません。彼女がバカな事をしてしまったみたいで」
「そそうよ!!なんてこと…」
「実は、私も、アナタにお話したいことがあるんですよ」
「な…なによ」
顔を赤くした日奈子が聞くと、山崎さんは、無表情になった。
「マコトは、何度も関係を断ち切ろうとしてました。それでも、彼女の優しさに漬け込んで。その人、しつこかったんです。どうにかして下さい」
「な!!」
山崎さんが言ったことに、日奈子は、驚いたようで、声も出さずに口を動かしていた。
「嫌がる彼女に、無理強いをしたのはそちらです。今日も、家まで来て、嫌がる彼女に乱暴しようとしました」
日奈子の瞳が、徐々に大きくなって、苦しそうに目を細めた。
「本当なの?」
とにかく、山崎さんに合わせよう。
それが状況を打破する近道だ。
動物的直感で、力いっぱいに、何度も頷くと、日奈子は、陽一を睨んで言った。
「アナタ。本当なの?」
「ち違う!!俺は、そんな事…」
「断ち切ろうと連絡すると、何度も家に来たじゃないですか」
山崎さんが横から嘘を言うと、パチーンと、肌を打つ音が響いた。
陽一の頬に、平手打ちをしていた日奈子は、振り返って、頭を下げてから言った。
「申し訳ありませんでした。もうここには来させません」
「えぇ。ありがとうございます」
こんな状況でも、ニコニコと、笑っていられる山崎さんが謎だ。
申し訳なさそうな顔をして、日奈子は、陽一の腕を掴んで、車まで引っ張って行くと、こちらに向き直り、頭を下げた。
「お騒がせしました。失礼します」
そう言って、陽一を車に押し込むようにして乗せると、日奈子も、車に乗り込んで走り去った。
嵐が去った後のように、辺りが静かになり、唖然と、立ち尽くしていると、山崎さんが、優しく微笑んで言った。
「入りましょうか」
「あ。はい」
背中を優しく押されるように、家に入ると、山崎さんは、ドアを静かに締めた。
よろけた肩を山崎さんに支えられ、ふらつく自分に驚いた。
「大丈夫ですか?」
「なんとか」
「今日一日で色々ありましたからね。疲れが出たんですよ」
そう言われて、一日の出来事を思い出した。
朝から山崎さんに襲われそうになり、祐介と龍之介に助けられ、陽一が家に来て、山崎さんに助けられ、日奈子が来て、夫婦喧嘩に巻き込まれ、山崎さんに助けられた。
それに、二回も、山崎さんにイカされた。
その瞬間が、鮮明に浮かびそうになり、頭を振って押し込めた。
「それにしても、やっぱり力強いんですね」
「へ?」
山崎さんが見せるように、持ち上げた腕には、ハッキリと、爪の痕が残っていた。
鬼の形相の日奈子を前に、無意識に、山崎さんの腕にしがみついてたのを知った。
「って、なんで裸なの!?」
今更、気付いた。
山崎さんは、腰にタオルを巻いただけで、服を着ていなかった。
「急いでましたから」
「寒くないんですか?」
「そうですね。流石に冷えてきました」
山崎さんの優しい微笑みが、徐々に、悪戯っ子のような笑みに変わるのを見て、イヤな予感がした。
「もっかい、暖まった方が…」
「そうですね」
山崎さんの言いたいことが分かり、それ以上は、言わせないように遮った。
「イヤです」
「まだ、何も言ってませんよ?」
「言わなくてもイヤです」
「仕方ないですね」
お姫様抱っこをされ、急なことで、山崎さんの首に腕を回してしまった。
「…何す…」
「お風呂です」
私を抱えたまま、山崎さんは、廊下を歩き出した。
「あの…降ろし…」
「イヤです。一緒入りますよ」
「無理!!いや!!降ろして!!」
「あんな広いお風呂に一人は寂しいです。だから…」
「イヤです!!一人で入って下さい!!」
暴れても、山崎さんは、降ろしてくれなかった。
開け放たれた洗面所に入ると、やっと降ろされ、床に足を着いて、すぐにドアに向かって走った。
だが、肩を掴まれ、引っ張られると、バランスが崩れた。
後ろに片足を出して、倒れないように踏ん張ると、山崎さんの顔が出て来て、目の前でドアが閉められた。
「諦めて下さい」
「イヤ…」
後退りすると、洗面台に背中が着き、山崎さんの顔が、息が掛かる程に近付いた。
「そんな顔するからですよ?」
「顔って…」
「今にも泣き出しそうな顔で、煽らないで下さい」
「ちが…」
「三回も、お預けを喰らって、そんな顔されたら、加減出来ないかもしれないです」
山崎さんの唇が、頬を撫でられ、引いていた熱が呼び戻された。
「ちょっと…待って…話を…」
「イヤです」
耳に噛み付かれると、小さな痛みが走り、背中に鳥肌が立った。
「い…」
咄嗟に目を閉じると、耳を舐められ、グチュと湿った音に体が震えた。
「や…ま…ふ…ぅ…ん…」
荒い山崎さんの息が、舐められた耳に掛かると、更に体が震える。
チュっと音が聞こえ、顔が熱くなる中、耳から首筋に舌が滑り降りた。
そのまま、鎖骨近くに移動すると、噛み付かれ、チクッと痛みが走った。
ヌルっとした舌の感覚に、体を震わせ、呼吸が荒くなる。
「ぃや…や…ふ…ぅ…」
山崎さんを押し返そうとするが、全く動かない。
逆に、股間を押し付けられた。
喉を一噛みすると、唇で撫でられ、頬を伝うと、噛み付くようなキスをされた。
口内に侵入した舌が絡み付き、互いの鼻息が頬を撫で合う。
恐怖で消えていた熱が、完全に戻ってくると、全身の力が抜けていく。
ヤバいと思っていても、もう抵抗する力がない。
トレーナーの裾から、侵入した手が、素肌に触れ、冷たさに体が震えた。
股に太股が滑り込んで来て、陰部に押し付けられる。
口の中で声が反響し、山崎さんの膝から逃れようと、つま先立ちになるが、逃さないとばかりに追いかけてくる。
肩を掴んでいた手を離し、洗面台に着き、背中を反らすと、やっと唇が離れた。
至近距離で見つめ、山崎さんは、膝を動かした。
「は…ぁ…ん…やめ…」
膝が伸ばされ、山崎さんの太ももに股がり、自分の全体重が掛かって体が痺れた。
「は…ぁ…んん…ぅ…」
洗面台に、お尻を乗せ、その太ももから逃れて、肩を掴むと、強く押し返したが、逆に体を寄せられた。
「もっと?」
「ぃ…やめ…」
頬に唇を寄せられ、優しく撫でるように、触れられると、力が抜けていく。
腰を抱かれ、洗面台から下ろされると、堅い物が太ももの付け根に当たる。
「もっとしたい」
「だ…め…」
「どうして?」
「だめ…だから…」
山崎さんから、視線だけを反らすと、洗面台に向かされた。
「いたっ!!」
鏡に顔が映り、自然と視界に入った。
「やめられないよ」
蕩けたような目で、高揚した頬が赤くなり、熱に浮かされた顔が鏡に映る。
そんな自分自身に、恥ずかしさが込み上げ、更に顔が赤くなる。
「壊したい」
「そんな…」
耳元で囁かれ、視線を外そうとしたが、山崎さんの手が、顎に添えられ、耳を甘噛みされた。
「はぅ!!」
変な声が出て、目を閉じると、耳を舐める山崎さんに、耳を押し付けようとしたが、顎を持つ手が、そうさせなかった。
耳から伝わる全てが、頭に響き、理性を削った。
「ん…」
舌を滑らせるように、うなじを撫で下ろし、チクッと、小さな痛みが走る度に体が震える。
「んん…」
山崎さんの手が、ジーパンに掛けられた感覚に、咄嗟に、目を開けてしまった。
「反らさないで」
肩に顎を乗せた山崎さんに、鏡越しに見つめられ、その瞳が、私の視線を捕らえて、離さなかった。
「ふ…ぅ…」
ジーパンに、掛けられていた手が、トレーナーから中に侵入する。
「ひぁ!!」
互いに熱を帯びてるはずなのに、その手だけは、とても冷たい。
その冷たさに、体が震えると、山崎さんの髪が耳を掠めた。
咄嗟に、首を縮めた時、耳に息を吹き付けられた。
「ん…」
首を振ろうとしても、顎を持つ山崎さんの手が、そうさせてくれない。
冷たい手が体を撫で上げるの感覚に、背中を伸ばすと、手がブラの上から、胸を強く掴んだ。
「ふぅん!!」
カップの中に指が侵入し、乳首の先っぽを指先で、撫でるように触れられると、膝が震える。
「んん…ん…」
唇を堅く閉じても、鼻から声が漏れ出て室内を満たす。
「ん…んん…ふ…ぅ…」
顎を持つ指が唇に触れ、口内に入り、歯茎をなぞる。
「ふ…んん…ん…ぅ…」
歯を食い縛り、その指が、それ以上、口の中に入らないようにした。
「口開けて」
優しく囁かれながら、山崎さんの荒い鼻息が耳に当たる。
それでも、口を開けないでいると、乳首をトレーナーで擦るように動かされた。
「ふ…ぅ…ん…ぅ…」
耐えられず、背中を丸めると、隙間が出来て、指が口の中へと入ってきた。
「ふ…ぅ…ん…ふ…あ…」
口に入れた指に、舌が絡められ、その苦しさに、鏡越しの山崎さんを見つめた。
「ふ…ぁ…ん…」
「ちゃんと見て」
耳に息を掛けながら、囁いた山崎さんは、首筋を舌先で、掠めるように触れ、うなじへと移動させた。
「ふんん!!はあ!!」
そのヌルっとした舌の感覚が、背中を伝い、膝が震えた。
「ふぁ…ふ…ぅ…ん…」
乳首を弄んでいた手が、脇腹を滑り落ち、ジーパンのボタンを外した。
「んん!!」
「暴れないで」
チャックを下ろすと、口から手が離れ、下腹部へと移動した。
両手で、下腹部を抱えるようすると、山崎さんは、自分の腰をお尻に擦り寄せた。
「いい?」
首を振り、山崎さんから逃げようとしたが、ジーパンの隙間に、指を入れて、自分の腰を擦り付けるように動かされ、背中を反らした。
「なんで?」
山崎さんの優しい囁きと共に、熱い吐息が耳に掛かる。
「ふ…ぅ…ん…」
体を捩ると、山崎さんの手が、ジーパンの中に入ってきた。
「マコト」
名前を耳の中に向けて囁き、山崎さんの体が、のし掛かって、ジーパンが下ろされた。
「あ…」
肩越しに見ると、山崎さんは、私の内腿を擦った。
体が震え、背中を丸めると、山崎さんの体が離れた。
「も…や…ぁ…ぃ…」
「やめない」
下着の中に指を入れ、陰部の割れ目を捲ると、勃起する蕾を強く押された。
「あぁ…」
「下着汚れちゃうよ?」
そう言いながらも、蕾を撫で回した。
膣(ナカ)から、大量の体液が、流れ出て下着を濡らす。
「ぃや…あ…あぁ…あ…んん…ふぁ…」
喘ぎながら、体を捩ると、山崎さんは、自分の腰を押し付けた。
「欲しい?」
激しく首を振り、蕾を擦る指が速くなった。
「あ…あぁ…ん…ぅく…ん…ふぁ…も…もぉ…やぁあ!!」
喘ぎながら叫ぶと、蕾を擦る指が止まった。
肩で息をしながら、洗面台に着いた手を突っ張って、震える膝で、必死に立っていた。
自分が重い。
その重みに加えて、山崎さんの重みがのし掛かり、耳元で囁かれた。
「いい?」
「い…や…」
蕾に触れていた指が、二本になり、一気に膣に侵入した。
「はぁ!!」
騒ぐように喘ぎ、背中を反らし、いつの間にか、体が期待していた。
だが、山崎さんは、二本の指を動かさずに、そのままでいた。
「ぬ…い…」
「イヤだ」
そう言って、自分の腰を左右に動かして、股間の堅い物が、お尻に触れてきた。
「いつ…」
「ちゃんと言って」
そうして、腰を動かしていると、山崎さんの腰に、巻いていたタオルが床に落ちた。
タオルがなくなり、山崎さんの肉棒の感触が、より鮮明になって、私は、耳まで赤くなった。
「やま…ざ…き…」
「なに?」
赤くなった耳を隠す為に、床を見るようにして、顔を下げた。
「やめ…」
「イヤだ」
肉棒が、下着越しに、お尻の割れ目に、挟められ、泣き出しそうになった。
「もぉ…や…」
声を震わせて漏れた言葉に、山崎さんは、膣の指を抜いて、下腹部に腕を回した。
「すみません。行き過ぎましたね」
ゆっくり首を振ると、山崎さんは、肩のところに顔を押し入れて、顎を乗せ、耳に頬を寄せ、私の熱を感じていた。
「お願いです。少し、足を貸して下さい」
そう言った山崎さんは、下腹部に回していた手で、私の両膝を掴んで、内側へと押す。
「な…に…する…の?」
不安から震える声で、聞くと、山崎さんは、優しく耳元で囁いた。
「大丈夫。そのまま」
山崎さんの優しい声で、されるがまま、両膝を内側へと移動させ、内腿をくっ付けた。
「我慢しないでね」
内腿の間に、山崎さんの肉棒が、割り込んできた。
「ひぃ!!」
肩を抱えられ、腕を伸ばして、体を起こした。
ゆっくり、腰を前後に動かし、内腿の間に、挟んだ肉棒を擦り始めると、下着越しでも、勃起した蕾が擦れ、全身に、電気が流れたように、体が震えた。
「ぁ…なぁ…に…ぃ…」
「素股」
肉棒が蕾を擦る度に、全身が痺れる。
「あ…ぁ…あ…や…」
「そんな…動かないで」
呟くように、山崎さんが言ったが、喘ぎ声で、私には、聞こえなかった。
「ん!!」
山崎さんが、下腹部を抱くように、腕を回すと、腰の動きが速くなり、蕾を擦る熱が増し、私の体が熱くなった。
「あ…や…や…んん…や…め…ふ…ぁ…」
体を離して、腰を掴むと、山崎さんの肉棒が、私の蕾を強く擦り、何も考えられなくなった。
「あ…ぁ…あぁ…は…ぁ…ん…ん…」
気付けば、私は、自ら腰を振って、刺激を求めていた。
「やぁ…ま…」
「ススム」
蕾を擦る肉棒の動きが、少し遅くなって、鏡越しに見つめた。
山崎さんも、鏡越しに見つめ、下腹部を抱くように、腕を回して、私の頬に唇を寄せた。
「ススムって呼んで」
荒い息遣いと優しい声色に、私の中の理性が崩壊した。
「す…すむ…」
「マコト」
名前を呼ぶと、名前を呼び返してくる。
ちょっと嬉しく感じると、山崎さんの腰の動きが、一気に速まった。
下着は、グチュグチュと音を発てる程に濡れ、山崎さんの肉棒の先っぽからは、少しずつ体液が溢れて太股を汚す。
私の喘ぎ、山崎さんの息遣、濡れた下着、全ての音が、混ざり合って溶け合う。
「あ…ま…ぁ…い…ッ…ちゃ…」
「ごめん」
そう言うと、前後に動く山崎さんの腰が、更に、激しくなった。
「あ!だぁ…め…イ…クぅ…」
「少し我慢」
そう言われても、膣にと太股に、力が入ってしまう。
「ぁあ…むり!!も!!あ…あ…あぁーーーー!!っふ…」
「っく!!」
背中を丸め、絶頂を迎えるのと同時に、腰を強く押し当て、肉棒から、白乳色の液体を吐き出した。
何度も、上下に動きながら、飛ばされる白乳色の液体は、洗面台と床を汚した。
立っているのが、辛くて、洗面台を滑るように、崩れると、山崎さんに引き寄せられ、胡座の上に、横向きに乗せられた。
肩を包むように、抱き締められ、互いの呼吸が戻るまで、一緒に迎えた絶頂の余韻に浸った。
「すみません」
天井を見つめたまま、ボーッとしていると、山崎さんが謝った。
頭が働かず、首を傾げると、山崎さんは、白乳色の体液で、汚した洗面台を指差した。
それを見て、さっきの光景が蘇って、頬を赤くして、洗面台から視線を反らして言った。
「自分で、片付けて下さいね」
山崎さんは、顔を近付けて、静かに言った。
「お互い様なのに。一人でですか?」
「お互い様って…」
「気持ち良かったでしょ?」
「それは…」
本当の事を言われ、何も言い返せない。
自分の体を見つめるように、少しうつ向くと、山崎さんは、艶やかな微笑みを浮かべた。
前髪を持ち上げられ、オデコに唇を着けると、チュっと音がした。
軽くキスされたオデコに触れて、向こうに見える山崎さんは、クスッと、笑って、肩を包むように腕を回し、私の頬を撫でた。
「起きれますか?」
ゆっくり頷くと、山崎さんは、頬を撫でていた手を離して、浴室に促すようにして、静かに言った。
「お先にどうぞ」
起き上がって、膝の上から、立ち上がろうと、前のめりになったが、床に手を着いて、そのまま、山崎さんの前に座り込んでしまった。
腰から下に力が入らない。
立ち膝になるように、私の顔を横から、覗き込んだ山崎さんは、見つめて言った。
「大丈夫ですか?」
「なんで、平気なんですか」
私とは違い、山崎さんは、すぐに動けることが、理解出来なかった。
「人それぞれですからね。私は、だいぶ戻ってきましたよ」
山崎さんは、目と唇で、弧を描いて、笑うのを見つめて、私は、溜め息をつくしか出来なかった。
「なに!?」
トレーナーを掴まれ、驚いて、山崎さんに向き直り、洗面台に背中を付けると、山崎さんは、目を点にして、私を見下ろして言った。
「動けなさそうだったので、お手伝いしようかと…背中汚れますよ?」
山崎さんに言われて、肩越しに視線を向けると、トレーナーに、洗面台に付いていた白乳色の体液が、付いているのが見えた。
それを見て、熱を帯びていくのが分かり、顔を両手で覆い、背中を洗面台に押し付けて、声を籠らせて言った。
「もうイヤ」
山崎さんは、そんな私を見下ろして笑った。
「笑わないでよ!!」
顔を覆っていた手を離して、叫ぶようにして言うと、山崎さんは、優しく微笑んで、私の頭を撫でた。
「昼間言ってたことが、嘘のようです」
「昼間?」
「ここに来た男性の言ってたことです」
それは、陽一が怒り任せに、ぶちまけた事だと分かり、私は、忘れていた顔の熱が蘇ってきた。
「あの人は、この姿を見たかったんでしょうね。自分の腕の中で、必死に、もがきながら、よがって、自分を忘れる程に…」
「言うな!!」
顔を赤くしながら叫ぶと、山崎さんは、また声を出して笑った。
そんな山崎さんを睨み、拗ねたように、背中を向けた。
「もういい!!」
そう言って、トレーナーを脱いだ。
「あ!!」
そんな私の後ろで、山崎さんが、声を上げたのを肩越しに睨んだ。
「なんですか」
「あ~。付いちゃいました」
後頭部の髪に、白乳色の体液が付いていた。
トレーナーを脱いだ時に、髪に付いたのを知って、私は、頬を赤くしながら、立ち上がった。
「洗うからいいんです」
全てを脱ぎ捨てて、浴室に入った。
頭からシャワーを浴び、髪を洗ってから、ドボンと浴槽に入ると、強張っていた体が解れ、息を長く吐き出した。
親父のような自分に、少し鼻で笑って、浴槽の中で、足を伸ばした。
少し上に顔を向けて、目を閉じると、自分が、どれだけ気張っていたのか、分かる気がする。
洗面所から、水を流す音が聞こえ、山崎さんが、汚れたトレーナーを洗ってる光景が、目の前に浮かんだ。
暫くして、水の流れる音が止み、浴室のドアが開いた音がした。
山崎さんが、入って来るのが、視界に入り、私は、急いで、足を縮めて背中を向けた。
「何してんですか」
「寒かったから、お風呂に入ろうと思っただけですよ?」
「今じゃなくてもいいじゃないですか。出てって下さいよ」
浴槽のお湯に顎を付けて、目を閉じた私の耳のすぐ側で、山崎さんの声が聞こえた。
「風邪引いちゃう」
山崎さんの声が、聞こえてから、耳に息を吹き掛けられた。
ビクッと肩を揺らすと、頭に何かを被せられ、視界が真っ白になった。
「巻いて下さい。私も巻いてるので」
頭の物がバスタオルだと分かり、浴槽に引き込んだ。
体にバスタオルを巻き付けている間、山崎さんは、頭からシャワーを浴びた。
山崎さんの背中は、背筋が割れ、シミやシワもない。
さっき見惚れた綺麗な背中に、嫉妬心が沸き上がってきた。
浴槽の中で、膝を抱えて体育座りで、山崎さんに背中を向けた。
「背中のアザは、小さい時のですか?」
シャワーを止め、体を洗う山崎さんに聞かれ、私は、口までお湯に浸かって、何も答えなかった。
それを見て、山崎さんは、泡を流して、浴槽に入ってきた。
「すみません」
視線を向けると、山崎さんは、浴槽の縁に寄り掛かりながら、浴槽の外に、腕を出して、片手で目元を覆っていた。
「昔の話なんかしたくないですよね」
山崎さんから顔を反らして、浴槽の湯を見つめて、静かに言った。
「小学生の時、クラスメイトに、突き飛ばされて、窓ガラスに背中から突っ込んだの」
驚いた山崎さんが、目元を覆ってた手を外しながら、背中を浴槽の縁から離すと、お湯が揺れた。
「偏差値の高い学校に、逆推薦で入ったの。周りは、親からの重圧を受けて、必死に入った子ばかりだった。そこで、私は、先生達の間で、手の掛からない優等生って扱われてたみたい。それだけでも、鬱陶しいのに、成績は優秀、スポーツもそこそこ、飾らない、媚びない、謙虚。英才教育を強いられてきた子達は、テストがある度に、親からの重圧も増す一方。爆発しても仕方ないでしょう?色んなプレッシャーに負けた子が、私の肩を押して、そのまま、窓ガラスを突き破って、コンクリートに頭を打って、病院に運ばれた。脳に異常はなかったけど、背中の傷は、アザとして残って。でもね?私は、気にしてないんだよ?気にするのは周りだけ。周りの人だけが気にする。それが鬱陶しい」
黙って聞いていた山崎さんに、微笑みを向けた。
上手く笑えてるか、分からなかった。
そんな私を見た山崎さんは、浴槽に腕を入れてお湯を見つめた。
そんな山崎さんを見てから、浴槽の縁に寄り掛かり、後頭部を乗せ、天井を見上げた。
「山崎さんって、いくつなんですか?」
「ふぇ?」
暫く、無言のままでいたが、不意に浮かんだ疑問を口に出すと、山崎さんは、間の抜けた声を出した。
それに対して、声を殺すように笑うと、お湯が揺れた。
浴槽の縁に頭を着けたまま、私は、山崎さんに顔を向けて、同じ質問をした。
「山崎さんって、いくつなんですか」
そんな私を見て、山崎さんは、優しく微笑んで、同じように、浴槽の縁に、頭を着けて、天井を見上げた。
「いくつに見えますか?」
「私が、質問してるんですけど」
「まぁいいから。いくつに見えるか、答えてみて下さい」
山崎さんの横顔を見ながら、色々と計算をし、私と同じくらいかと思った。
「二十七、八?」
「あ~やっぱりですか」
「いくつですか?」
「ハタチです」
その答えに驚いて、体を起こし、山崎さんを正面から見るように、体を近付けた。
「…うそでしょ?」
「そんなことに、嘘ついてどうすんですか」
「サバ読んでない?」
「正真正銘のハタチです」
山崎さんは、視線だけを向け、私と同じように、質問してきた。
「いくつですか?」
「今年で二十八」
「おぉ。八才しか違いませんね」
「八才も!!八才も、私の方が上なのに…なんで…私の方が下に見えるのよ」
お湯を叩くと、跳ね上がった滴が、山崎さんの顔に、大量に掛かった。
「ぶっ。そんな事言われても知りませんよ」
「大人っぽすぎなのよ!!もっと年齢相応に見えるようにしてよ!!」
「ちょっ!!そんな叩かないで。顔に掛かる」
何回もお湯を叩いて、山崎さんの顔に、わざと掛けると、浴槽の縁から頭を上げ、顔に掛かったお湯を切るようにして、手で拭いた。
山崎さんから顔を反らして、浴槽の縁に、寄り掛かりながら、腕を外に出した。
「怒ってます?」
同じ格好になった山崎さんに、横顔を見られながら、そう聞かれ、私は、不機嫌な顔をして、横目で視線を向けた。
「ショック」
「ですよね。年下に、あんな風に組し…」
「そこじゃない!!」
「じゃ、何がショックなんですか?」
山崎さんに背中を向けて、お湯に顎を付けて言った。
「年下に、泣きそうになったのが」
お湯が揺れて、山崎さんに、後ろから抱き付かれた。
「いいじゃないですか」
「良くない!!」
山崎さんの体から離れようと、肘で鎖骨辺りを押すと、肩を掴まれ、後ろに引っ張られた。
「わぁ!!」
お尻が滑って、そのまま、後ろに倒れると、山崎さんは、肩を抱いて、耳に頬を擦り寄せた。
「泣いて下さい」
「イヤだ。絶対泣かない」
「そう言われると、余計、泣かせたくなります」
「殴られたい?」
湯の中から、拳を握った手を出して見せると、山崎さんは、その拳を包むように、片手で掴んだ。
「痛いのはイヤです。でも、痛くて、気持ちいいのは大歓迎です」
「ふぅ~ん。そうなんだ」
「はい。最中の爪が、食い込む痛みとかぁーいたたたた!!」
逆の手で、山崎さんの膝を掴んで、骨に、爪を食い込ませるように、指を立てて握った。
「知ってました?手は、二つあるんですよ?」
「っあ゛ーーーー!!すみません!!ごめんなさい!!」
膝を握ったまま、腕の中で、体を起こし、反転させて、顔を歪めて、謝る山崎さんに、向き直った。
「もう言わないでね」
声も出さずに、何度も頷く山崎さんを見て、膝から手を離した。
痛む膝を擦る山崎さんが、ちょっとだけ、可愛らしくて、濡れた頭を撫でた。
大人しく、頭を撫でさせる山崎さんが、頬を赤くするのに、ちょっと愛しさを感じた。
「何か変な気分です」
「なんで?」
「急に、姉が出来たようで、照れくさいような、嬉しいような、そんな気分です」
「年齢的には姉だから」
「姉に、あん…すみません」
お湯から手を出して、ヒラヒラさせると、下を向いて、謝った山崎さんが、おかしくて、声を出して笑った。
少しだけ、顔を上げた山崎さんは、私の手を掴んで、引っ張った。
「ちょっ!!引っ張らないでよ」
「人で遊ぶからですよ」
お湯を跳ね上げながら、手を振り払ったり、掴まれたりを繰り返していると、体が暖まってきて、顔に汗が滲んだ。
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「では私も」
一緒に立とうとする山崎さんの肩に、手を置いて、浴槽に押し返すように、立ち上がろうとした時、腰に腕を回され、その腕に力が込められた。
「何すんの」
「あがろうと思いまして」
「私が、着替えてからにして」
「逆上せちゃいます」
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「離して!!離して!!」
「ん?どうしてですか?」
「タオルが…」
「じゃ、外しちゃいましょうか」
そう言って、胸元に、顔を近付けて、バスタオルの縁を噛んだ。
「だ!!バカ!!やめ!!」
噛んだバスタオルを少しずつ、引っ張るようにして、顔を離すと、体を締め付ける感覚が緩んでいく。
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「本当に殴る事ないじゃないですか」
洗面所のチェストから、スウェットを取り出して、山崎さんに投げ付けた。
山崎さんも、驚きながら、受け止めた。
「家で唯一の男物。さっさと着て、さっさと寝な」
山崎さんを見ずに、そう言い、自分のチェストから、ハイネックとジーパンを取り出して、着替えてから、洗面所を出た。
「ま!!」
肩越しに、横目で睨むと、山崎さんは、ブルッと、肩を震わせた。
黙って、ドアを締めた私は、一旦、部屋に行き、マグカップを持って、リビングに向かい、コーヒーを淹れた。
仕事部屋に向かう廊下で、スウェットを着た山崎さんが、目の前に立ったが、横を通り抜けて、部屋に入った。
ドアの前に立って、廊下の音を聞いていると、隣の障子が締まる音が聞こえた。
デスクに向かい、マグカップを置いてから、点けっぱなしのパソコンに向かい、コーヒーを飲みながら、書きかけの文章を少し消して書き直した。
書き進めていると、いつの間にか、コーヒーがなくなり、また、マグカップを持って部屋を出た。
和室の前で、立ち止まり、障子に手を伸ばしたが、やめて、リビングに向かい、コーヒーを淹れて、部屋に戻った。
明け方になって、睡魔に襲われ、私は、寝室に向かい、布団に入ると、すぐに寝息を発てた。
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