頬を撫でる唇

咲 カヲル

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十話

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上半身を起こし、何もない隣を見下ろして、昨日とは、違う淋しさ生まれた。
一晩だけでも、山崎さんの腕の中で、寝たことで、私は、その暖かさに溺れていた。
前までは、感じる事のなかった淋しさが、私を支配していく。
そんな自分が、イヤで、バカらしいと思うのに、それでも、体は、正直で、山崎さんを求める。
素直になれない自分を鼻で笑い、静かに、リビングに向かった。
ドアを少しだけ開け、隙間から中を覗くと、まだ山崎さんは、起きていないみたいで、誰もいなかった。
静かにドアを締め、キッチンに入り、ヤカンに水を入れて、お湯を沸かす。
その間、換気扇を回して、タバコを取り出した。
最後の一本だった。
そう言えば、いつからか、タバコの量が減っている。
私って、分かりやすいな。
お湯が沸き、粉を入れたマグカップに注ぎ、短くなったタバコを消して、コーヒーを一口飲んでから、息を吐き出した。
リビングのドアが開き、入ってきた山崎さんが、私の姿を見て、ビクッと、肩を揺らして、半歩後ろに下がった。

「起きてたんですか?」

「寝れなかった」

「大丈夫ですか?」

頭を掻きながら言った。

「大丈夫」

山崎さんが、鼻で溜め息をついて、マグカップに、インスタントコーヒーの粉を入れ、ヤカンのお湯を注いだ。

「無理しないで下さいよ?自分、一人の体じゃないんですから」

「私だけの体でしょ」

「今はそうですけど、いつかは、そうじゃなくなりますよ」

「これからもだし」

「また。ダメですよ?」

「事実だもん」

「決めつけは良くないですよ?」

「だって。今まで、何度やっても出来なかったし」

「これからは、違うかもしれないじゃないですか」

「そんな奇跡ある訳ないでしょ?」

「子作りなんて奇跡ですよ」

「ありえない。てか、なんで、山崎さんと子作りしなきゃないのよ」

「私が欲しいからです」

「なら、私じゃなくても…」

「イヤです」

横目で、マグカップを持って、流しに腰を着けて、腕組みしてる山崎さんを見た。

「山崎さんって、ワガママだよね」

「お互い様です」

山崎さんと視線がぶつかり、クスクスと笑い合い、私は、マグカップを持って、山崎さんに向き直った。

「仕事してきます」

「かしこまりました」

山崎さんが、そっと、キスするのを受け止め、私は、仕事部屋に入り、昨日の続きを書き始めた。
山崎さんと同居を始めて、まだ、そんなに経ってないのに、時間が過ぎるのが早く感じる。
家事全般は、やってもらえる。
時間は、邪魔されない。
唯一の難点は、隙あらば発情してくる。
少ししか、寝てないはずなのに、仕事を進める手が早くて、私自身が驚くくらいだった。

「出来ましたよ」

ドアが小さく開き、隙間から呼ばれ、パソコンをそのままにして、山崎さんと並んで、リビングに向った。
カウンターには、朝食が、二人分並んで置いてあった。
懐かしい。
祖母がいた時は、こんな風に、二人分の食事が並べて置いてあった。
そう思って、食事が並んだカウンターを見つめていると、そっと、背中に、暖かくて優しい手が触れた。
隣に立つ山崎さんが、優しく微笑んでいるのを見上げ、私も、自然と微笑みを返した。

「早く食べましょう」

背中に手を添えられ、並んで座り、お味噌汁をすする。

「おいしい」

暖かくて、優しい味。

「よかったです」

「おばぁちゃんの味に似てる」

わざと、そう言うと、山崎さんは、苦笑いして、自分のお味噌汁をすすった。
白米を口に入れ、だし巻き玉子に噛み付く。

「そう言えば、寝室の隣のお部屋は、どなたのですか?」

「祖母の」

焼き鮭を一口大にして、口に入れる。
何か聞きたそうな目の山崎さんが、視界に入り、私は、白米を口に入れながら言った。

「亡くなったのは十年前。私が十八の時」

山崎さんの瞳に、哀しみが滲んだ。

「あの部屋は、祖母が使ってた。当時のままにしてるの」

「そうでしたか」

その後は、無言のまま食事をした。
食べ終わり、仕事部屋に行き、ジャケットを着て、財布と鍵を持って、リビングに顔を出した。

「タバコ買ってくる」

「分かりました。気を付けて」

食器を洗いながら、ニッコリ笑う山崎さんを置いて、近くのコンビニに、歩いて向かった。
タバコとケーキを買って、来た道を戻り、門を開けようとした。

「せんせ」

その声に振り返ると、向かいの電柱に片手を着いて、山崎さんの元職場で、私の隣にいた男が、カッコつけているのだが、カッコよくない格好で立っていた。

「久し振り。元気?また会いに来てよ。オレ、淋しいじゃん」

手を広げて、近付いてくる男を無視して、門の取っ手を回した。

「あんな浮気男より、大切にするよ?」

男の言葉に、私は、動きを止めてしまった。

「よかったら、連絡してね」

いつの間にか、私の後ろに立っていた男が、ジャケットのポケットに、紙切れを突っ込んだ。

「いつでも待ってるから」

肩を叩いて、去って行く背中を睨みながら、家に入り、玄関先で、苛立った気持ちを落ち着けようと深呼吸した。
リビングのドアを開け、山崎さんが居ないのに、首を傾げて、キッチンに入り、冷蔵庫にケーキを仕舞って、タバコの封を切った。
タバコを吸いきり、マグカップを持って、仕事部屋に向うと、和室の障子が、開け放たれているのが見え、中を覗いた。
そこには、山崎さんが、鼻唄を歌いながら、洗濯物を干していた。
ちょっと驚かせてみようかな。
そう思い、足音を忍ばせ、和室の窓辺に近付き、窓の所にマグカップを置いた。
静かに山崎さんの背後に近付き、山崎さんが、洗濯を離したのを見計らい、膝カックンをした。

「んがぁ!!」

膝がガクンとなり、驚いて、鼻唄と驚きの声が、混じり合い、変な声を出した山崎さんに笑った。

「何するんですか!!」

「だって、帰ってきたのに、気付かないんだもん」

涙目になりながら、そう言うと、山崎さんは、鼻で溜め息をついて、苦笑いした。

「危ないじゃないですか。やめて下さいよ」

「ごめんなさい」

わざと明るく言うと、腕を掴まれ、引き寄せられた。
洗濯物の影に隠れ、見つめ合い、どっちらともなく、キスをした。
唇が触れ合うだけの優しいキス。
優しく微笑み合い、山崎さんは、干すのを再開し、私は、仕事部屋に行き、マグカップをデスクに置いた。

『金山さんの作品、読みたいです』

不意に、山崎さんとの約束を思い出し、作品の背表紙に触れながら、眺めて悩んだ。
今になって、山崎さんの好みを知らない。
何でもいいとは言ってた。
だが、好きじゃないジャンルを渡されても、困るだろうな。

『猫って言われるのが、イヤなだけです』

昨日の言葉が、頭に浮かんだ。
所狭しと並ぶ本棚から、一つの本を取り出し、仕事部屋から出た。
和室を覗いたが、見付からず、リビングに向かい、ソファに座って、コーヒーを飲みながら、新聞を広げている山崎さんに静かに近付いた。

「終わったの?」

耳元で囁くと、ビクッと肩が揺れ、山崎さんは、驚いた顔で振り向いた。
可愛いな。
クスクスと笑うと、山崎さんの顔が、呆れ顔になった。

「子供みたいですよ」

「別にいいじゃん」

わざと、大きな溜め息をついて、持っていた新聞紙を広げたまま、膝に置いた。

「どうかしましたか?」

「うん。はい」

「小さな家族ですか。どうしたんですか?これ」

「約束してたでしょ?私の作品」

一瞬、目を見開いてから、本を見下ろし、嬉しそうに笑うと、表紙を撫でた。

「それ、あげるよ」

「いいんですか?」

ニッコリ笑うと、山崎さんの頬が、緩み、優しい微笑みを作った。

「ありがとうございます。大切にします」

山崎さんが、何度も本を撫でる。
本当に嬉しいんだと思えた。

「じゃ、ゆっくり読んでねぇ」

背中を向けて、手を振り、リビングから出て、仕事部屋に行き、ずっと、着たままのジャケットを脱いで、椅子に座り、パソコンに向かった。
暫くして、書き終わり、メールを打った。

Dear.文子さん
書き終わりました。
事務所にお伺いします。
確認と修正、よろしくお願いします。

メールを送信し、USBに文章とあらすじをコピーを開始して、仕事部屋を出た。
ハイネックとジーパンに着替え、リビングに向かい、ドアを開けた。
フライパンを回す山崎さんに近付き、向かいの椅子に座った。

「早いですね。もう少し、待ってて下さい」

「うん。終わったから、編集さんに出しに行くんだけど…一緒行く?」

「いいんですか?」

チャーハンをカウンターに置き、スプーンを受け取りながら言った。

「そのまま、買い物して来ようと思ってたから。どうする?」

山崎さんは、水を入れたコップを置いてから、隣の椅子に座り、指で顎に触れた。

「何食べたいですか?」

「そうだなぁ。あっさりしたのが、いいかな。いただきます」

「なら、行ってから決めましょうか」

「了解」

チャーハンを食べながら、不意に思ったことを聞いた。

「そういえば、あの部屋、タンスとかないけど、洋服とか、どうしてんの?」

「ダンボールに入れっぱなしです」

「もしかして、洋服少ない?」

「普通ですよ」

ダンボール一つで、足りるのは少ないと思う。
山崎さんを横目で見ると、使ってる食器が来客用だった。
私は、この後の予定を自分の中で、組み立てて、チャーハンを次々口に運んで、最後の一口になった時、ポケットの携帯が鳴った。

「ごちそうさま」

最後の一口を入れ、噛みながら、水で流し込み、椅子から立ち上がった。
リビングのドアに向かいながら、携帯を取り出し、画面を確認した。

「はいはい」

廊下に出て、受話ボタンを押して、リビングのドアを静かに締めた。

『久し振りぃ。出来たって本当?』

「そんな嘘ついて、どうすんですか。出来ましたよ。USBにコピーしたから、時間ある時にでも、確認と修正して下さい」

『事務所に来るなら、そのまま、確認と修正すればいいじゃない?』

「予定があるんです」

『なになに?デートぉ~?』

「買い物です」

『もぉ~。マコトちゃ~ん』

「それじゃ、よろしくお願いします」

強制的に、終話ボタンを押して、電話を切った。
鼻で溜め息をついて、リビングのドアを開け、山崎さんに声を掛けた。

「私、準備するから、山崎さんも準備してね?」

「分かりました」

優しく微笑み合ってから、私は、洗面所で、軽く化粧をして、仕事部屋に戻り、USBとジャケットを持って、玄関に向かった。
玄関に行き、靴を履いて、山崎さんが、来るのを待った。
暫くすると、山崎さんが、急いで、カーディガンを着ながら走ってきた。

「すみません」

急いで、靴を履こうとする山崎さんを見下ろし、クスクスと笑いながら言った。

「急がなくていいよ」

靴を履いて、私の隣に立った山崎さんは、苦笑いしながら、ポリポリと、頬を掻いた。

「仕事に遅れるんじゃないかと、思いまして」

「大丈夫」

私に顔を近付け、そっと、頬に触れ、チュっと音を発て離れた。

「行こっか」

戸締りをしてから、車に乗り込み、文子さんの事務所に向かって走らせた。
コインパーキングに、車を停めて、山崎さんと並んで、雑居ビルに入り、エレベーターに乗り込んで、事務所のある階のボタンを押した。

「渡して来るだけだから、ドアの前で待っててね?」

「分かりました」

到着音が鳴り響き、エレベーターから降りて、廊下を少し歩き、ドアノブに手を掛け、山崎さんに振り返った。
ニッコリ笑い合い、小さく手を振り合ってから、ドアを開けた。
ガヤガヤと、話し声がいくつも重なり、どれが誰の声か分からない。
そんな中、ドア近くのデスクに、座ってた女が、私に気付き、立ち上がった。

「先生!!」

その女は、文子さんの部下で、あの日の夜、二人いた部下の内の一人だった。

「こんにちは。文子さん居ますか?」

「はい!!どうぞ」

中に入るよう促されたが、小さく手を振り、苦笑いして言った。

「呼んできてもらえますか?」

「はい!!」

元気に返事をして、その女が、事務所の奥に行くと、すぐに、文子さんと出てきた。

「マコトちゃ~ん。どうも~」

「お疲れさまです。これ。お願いします」

USBを渡すと、文子さんは、私の顔をじっと見つめ、口角を引き上げた。

「マコトちゃ~ん。嘘はダメよぉ?」

顔を近付けた文子さんから、体を反らし、頬が引きつった。

「何がでしょ」

「買い物なんて嘘ついてぇ。デートなんでしょう?」

「いや。ほん…」

「いつもは、メイクなんかしないくせに~。どんな人?」

「あ!!ちょっ!!」

後ろのドアに近付く文子さんの前に出て阻止すると、あの日の夜、クラブにいた部下が、二人揃って、文子さんの後ろから顔を出した。

「デートなんですか!?」

「今、居るんですか!?」

「この反応は、居るみたいよぉ~?」

「ホントですか!?」

「見たいです!!」

「私も見たいわ。マコトちゃんのハートを射止めた男」

顔が熱くなり、赤くなっていくのが分かる。

「居ない。居ないから」

そう言いながらも、顔が真っ赤になっていた。
そんな私の様子を見て、三人は、顔を見合わせ、頷き合った。

「先生?」

「な、なに」

「何か落ちましたよ?」

「へぇ?」

足元を確認する為に、下に顔を向けると、文子さんがドアを開けた。

「あ」

開け放たれたドアから、数人の女性に、囲まれながらも、無表情で、立っている山崎さんの姿が見えた。
私は、文子さんの腕に、掴まって固まった。
山崎さんがちょっと怖い。

「うそぉ!?」

「ウェイターさん!?」

文子さんの部下の娘たちの声に、無表情のまま、こっちを見た山崎さんと目が合った。
その瞬間、柔らかな優しい微笑みを作り、こっちに向かって、歩み寄って来た。

「終わりましたか?」

「終わったは、終わったんだけど」

私が、文子さんに視線を向けると、山崎さんも、視線を向け、後ろの二人にも気付いて、ニッコリ笑って言った。

「ご無沙汰してます」

ボーッとする文子さんを初めて見た。
それを見て、部下の一人が、大きな声で言った。

「文子さん!!」

名前を呼ばれ、我に返った文子さんは、腕を掴む私を見下ろし、山崎さんを指差して、驚いた顔のまま言った。

「彼…」

こりゃ、完全にこんがらがってる。
文子さんの様子に、溜め息が出た。
文子さんの腕を離し、隣に並んで、手のひらで、山崎さんを指して言った。

「山崎燕さん。一応、知り合いです」

「一応じゃないですよ?」

「いいの。一応で」

「酷いですね」

「酷くないもん」

「酷いです。ちゃんと、紹介してくださいよ」

「なんて、紹介すればいいのよ」

横目で見ると、山崎さんは、悪戯っ子の顔になった。

「そこは、こいびふっ!!」

脇腹に肘鉄を食らわせると、山崎さんは、涙目になりながら、私の肘に触れ、首を振った。

「バカ」

呟くように、山崎さんに吐き捨て、文子さんたちに向き直り、ニッコリ笑って言った。

「それじゃ、よろしくお願いします」

悶える山崎さんをほっといて、文子さんたちに、背中を向け、エレベーターに向かった。

「待ってくださいよ!!マコトさん!!」

山崎さんが、小走りで追って来たが、完全無視した。

「マコトさん。ちょっとしたイタズラのつもりだったんですよ。ね?マコトさんってば」

山崎さんから、顔を反らして歩き、エレベーターのボタンを押す。
すぐに扉が開き、乗り込む私の後から、山崎さんも乗り込んだ。
扉が、完全に閉まると、山崎さんが、後ろから抱きついてきた。

「無視しないで下さい」

「こんな時ばっか、甘えないでよ」

「マコトさんに、無視されるの辛いです」

「無視されることしたからでしょ」

「だって、同棲してるのに、恋人じゃないって変ですよ」

「同棲じゃない。居候」

「あんなことしてるのにですか?」

私は、山崎さんとの行為を思い出し、顔が徐々に赤くなる。

「好きです」

「あほ。もう着くから離して」

そう言っても、山崎さんは、私を離さなかった。

「だぁーーーっ!!」

全く離そうとしない山崎さんの足をかかとで、おもいっきり踏みつけ、強制的に離させた。
扉が開き、さっさとエレベーターから降りると、山崎さんは、また小走りで追って来た。

「待って!!マコトさんってば!!お願いだから…」

ビルから出て振り返ると、山崎さんの瞳が、涙を含んで揺れていた。
やっぱり、この顔には弱い。

「仕方ないな~。ほら」

手のひらを突き出すと、山崎さんは、嬉しそうに笑い、頬を赤くした。
コロコロ変わる表情が、子供のようで可愛い。
私の態度や言動で、拗ねたり、笑ったり、泣いたりする。
そんな山崎さんが、とても愛おしく思う。

「もう余計なこと言わないでね?」

「はい」

手を繋いで笑いながら、コインパーキングに向かって、並んで歩いた。

「先生、乙女の顔になってますね」

「お二人、お似合いですね」

「あんな、可愛い顔したマコトちゃん、初めて見たわ~」

「どうあれ。先生も普通の人だったんですね」

事務所の窓から、文子さんと部下の二人が、そんな会話をしながら、見下ろしていた。
次は、ホームセンターに向かって、車を走らせた。

「何買うんですか?」

「色々」

駐車場に車を停め、そう答えると、山崎さんは、首を傾げながら、車を降りた。
並んで店内に向かい、山崎さんに大きいカートを押させ、衣装ケースの売り場に向かった。

「衣装ケースですか。片付け物でもするんですか?」

「違う」

中くらいの衣装ケースを入れ、カートを引っ張り、売り場を移動した。

「あの部屋。収納ないから必要でしょう?」

食器売り場で、茶碗を手に取ってみる。

「これくらいかな?」

少し大きな茶碗を見せながら、視線を向けると、山崎さんは、驚い顔のまま、ボーッと見下ろしていた。
こりゃ、理解しきれてないな。
溜め息をついて、茶碗を元に戻し、立ち上がり、山崎さんの袖口を軽く、引っ張って言った。

「自分のくらい、自分で選ぼうよ」

山崎さんは、一瞬、目を見開き、優しく微笑むと、食器が並ぶ、棚の前に屈んだ。
私も、隣に屈み、一緒に茶碗を見た。

「こっちがいいですね」

そう言って、持ち上げた茶碗は、私が使ってる茶碗に似ているが、少し大きかった。

「大きくない?」

「それなりに食べますからね」

「そりゃそうか。男の子だもんね」

「男性って言ってもらえませんかね」

二人で笑って、他にも、箸やマグカップをカートに入れ、レジに向かった。
会計で財布を出すと、お尻のポケットから、山崎さんも、財布を取り出した。
初めて見た。

「あれ?免許持ってるんだ?」

二つ折りの黒い財布には、カードを入れるポケットに、免許証が入っていた。

「一応ですよ」

苦笑いする山崎さんに、口角を引き上げて、免許証を指差した。

「悪人顔」

「免許証の写真なんて、誰でもこうなる物ですよ」

「私普通だよ?」

「ご冗談を」

「ホントだし。ほら」

自分の免許証を取り出し、突き出して見せると、山崎さんは、驚いた顔になり、免許証を財布に仕舞った。

「お会計、四千七百九十八円です」

五千円札を出そうとして、山崎さんが、千円札を二枚、トレーの上に出した。
山崎さんを見ると、財布を振って、小銭を確認している。
自然と微笑んで、千円札を二枚出して、互いの小銭を確認しながら、ぴったりに支払った。
山崎さんが衣装ケースを持ち、私が、その他の物を持って戻り、トランクに衣装ケースを仕舞わせ、後部座席の足元に、持っていたレジ袋を置いた。
車に乗り込み、スーパーに向かい、店内を見て回り、今日の夕食を決める。

「何にしましょうね」

「そうだね。お魚がいいな」

魚売り場を並んで歩く。

「秋刀魚、安いね」

「塩焼きにでもしますか」

秋刀魚のパックをカゴに入れる。

「あとは?」

「そうですね。酢の物とひじきの煮物か、切り干し大根にでもしましょうか」

「ついでに、明日の分も買おうか?」

「そうですね」

その後、キュウリや乾燥ワカメなど、二日分の夕食の材料をカゴに入れ、レジに向かった。
代金を支払い、レジ袋に食品を詰め、それぞれ持って、スーパーの出入口に向かった。

「…あれって、圭子さんじゃない?」

小さく前を指差すと、山崎さんも、視線を向けた。
髪が少し伸び、うつ向いたままの圭子が、一人で歩いて来る。
山崎さんの表情が強張った。
立ち止まると、向こうも、私達に気付いたようで、小さく頭が下げられた。

「お久し振りです」

先に声を掛けてきたのは、圭子の方だった。
圭子は、疲れてるようで、少し窶れている。

「ご無沙汰してます。お一人ですか?」

私は、どんな顔をしていたんだろうか。
私を見て、圭子は、クスクスと笑いながら、山崎さんを見て言った。

「二人共、そんな怖い顔しないで下さい。もう、ススムとは、完全に別れましたから」

山崎さんに視線を向けると、確かに、ちょっと怖い顔をしていて、苦笑いした。

「お一人なんですか?」

同じことを聞くと、圭子は、うつ向いて、小さな声で、呟くように言った。

「フラれたんです」

私が横目で睨むと、山崎さんは、首を振って違うと否定した。

「ススムのことじゃないですよ。ススムには感謝してます」

私が、視線を向けると、圭子は、優しく微笑んでいた。

「彼、結婚したんです。私じゃない人と」

何も言えなかった。
こんな時、なんて言えばいいのか、私は知らない。

「でも、それで気付いたんです。私は、彼を本気で好きじゃなくて、ただ夢を見てたんだって。一時の幸せに、私は、片想いして、その幸せを追っていただけ。そう思ったら、自分が惨めで虚しい。ススムは、それに気付かせてくれたんです」

淋しそうな微笑みに、私は、心臓を握り潰されそうな、感覚になり、泣きたくなった。

「圭子さん」

暫く、周りの騒がしさの中、黙っていたが、圭子に近付きながら、財布から、名刺を取り出し、優しく微笑んで言った。

「これ。私の連絡先。よかったら、連絡して?」

差し出した名刺を受け取り、それを見つめた圭子は、ボーッとしながら、私に視線を向けた。

「今度、ご飯でも食べに行きましょ?」

優しく微笑むと、圭子の表情が、少し和らいで頷いた。

「時間が出来たら、連絡してね」

「はい。それじゃ」

「またね」

互い笑って、小さく手を振り合い、圭子は、スーパーに入り、私と山崎さんは、車に戻った。
車の後部座席に、お互いの荷物を置いて、車に乗り込んだ。

「優しいんですね」

「そら、どうも」

自宅に向かい、駐車場に車を停めて、先に食品の入った荷物を持って、玄関に向かい、リビングに入った。

「そういえば、明日って、何で行くの?」   

冷蔵庫に、買ってきた食品を仕舞う山崎さんに、買ってきた食器や箸を洗いながら聞いた。
食品を仕舞い終えたようで、山崎さんに抱きつかれた。

「あのさ。いちいち、引っ付かないでよ」

「はい」

素直に返事をした山崎さんを不思議に思い、顔だけ後ろに向けた。
山崎さんの顔が、私の肩の所にあり、一瞬で近付き、唇にチュっと音を発てて、すぐに離れた。
私は、無表情のまま、ヤカンに水を入れながら、同じことを聞いた。

「明日何で行くの?」

ヤカンを火にかけ、山崎さんの前から換気扇の下に移り、タバコに火を点けた。
山崎さんは、洗ったばかりのマグカップを並べて、コーヒーの粉を入れながら答えた。

「歩いて行きます」

「仕事場まで?」

「いえ。駅までです」

頭の中に、最寄り駅までの道のりを思い出し、時間を割り出して、首を傾げた。

「仕事場近いの?」

「ここからだと、一時間弱くらいですかね」

「仕事場どの辺?」

「前のアパートから、三十分くらいです」

「電車じゃ、遠回りになるじゃん」

「仕方ないですよ。それ以外、手段がないですから」

「車使いなよ」

マグカップに、お湯を注ぎながら、私を見つめる山崎さんの顔は、予期せぬ事が、起きた時にするような、顔をしていた。
そんな、山崎さんの手元を指差して言った。

「溢れるよ」

慌てて、ヤカンを戻し、マグカップを見下ろして、やってしまったと、困った顔をしてるのを見て、私は、クスクスと笑った。

「そんな驚かないでよ」

「驚きますよ」

「なんで?」

「だって車ですよ?しかも、どんな運転するか知らないのに、使いなって、そんな簡単に言わないですよ。普通」

「確かに。知らないね」

「なら…」

「でも、山崎さんなら大丈夫でしょ」

アホ面の山崎さんに、指を立てて言った。

「山崎さんの性格上、多少、無理な運転するかもしれないけど、危険運転は絶対しない。守るべき事はちゃんと守る。それに、夜は、車自身動かさないから、使っても問題なし。だから使いなよ」

優しく微笑んで、タバコを消し、近付いて、山崎さんの鼻先に、指を突き出して言った。

「但し。ガソリンは、気付いた時にちゃんと入れること。キズ、へこみを付けたら速攻で言うこと。分かった?」

手を下ろし、何度も頷く山崎さんに、微笑んで言った。

「鍵は、下駄箱の上に置いとくから」

次の瞬間、山崎さんの腕の中にいた。
結構な力で抱き寄せられ、肩が痛い程に圧迫されて、ちょっと苦しい。

「ちょ…」

「大好きだーーー!!」

「あほ!!耳元で叫ばないでよ!!」

ギャーギャー言い合うことが、こんなに楽しいと思わなかった。
山崎さんといると、楽しくて、心が落ち着く。
彼と本当の家族になれたら、そんな淡い期待まで、頭を過り、胸を踊らせる。
だが、心のどこかでは、圭子と同じかもしれないと、思っている自分がいる。
山崎さん自身を好きなのか。
今の状況に片想いしているのか。
分からない。
でも、それを知る術が思い付かない。
どうしようもない。
なら、今は、山崎さんとの生活を味わおうと思った。
コーヒーを飲んでから、洗濯物を取りに、和室に向かった。
和室の障子を開けると、布団がたたまれたまま、置いてあるのが、視界に入り、首を傾げた。

「仕舞わないの?」

「勝手に、押し入れを開けるのは、悪いかなと思いまして」

「別にいいのに」

その前を通り過ぎようとした時、肩を押され、バランスを崩して、その布団に倒れた。

「何す!!」

顔を上げると、山崎さんが、あの笑みを浮かべて、覆い被さっていた。

「な…」

「分かってるくせに」

慌てて逃げようとしたが、肩を抱えられ、チュっとキスをして、唇が頬を撫でた。

「やめ!!」

その腕の中から、抜け出ようとしたが、耳を舐められ、体が震えて出来なかった。
グチュグチュと、湿った音が頭に響き、体が熱くなり、力が抜けていく。

「や…だぁ…」

耳を甘噛みされ、手で阻止しようとしたが、首筋に吸い付かれて出来なかった。
チクリと痛みが走り、ジタバタと暴れてみたが、全く動かなかった。
舌が喉を舐めるように移動しながら、肩を押されると、力の入らない体は、簡単に転がった。
噛み付くようなキスをされ、肩に触れた手が引き上げられて、頭の上で、布団に押し付けられた。
ハイネックの裾から、素肌に冷たい手が侵入し、無意識に、閉じていた目を開けると、山崎さんの顔が見えた。

「い…ぃ…あ…」

「聞こえちゃうよ?」

脇腹を撫で上げられると、熱い吐息と共に声が出そうになったが、その囁きに唇を噛んだ。
胸が揉まれると、突起した乳首がブラに擦れ、必死に抑え込む声が頭に響く。

「可愛い」

艶やかな微笑みを見ていられず、目を閉じると、ハイネックを捲り上げられ、胸に吸い付かれた。
小さな淡い痛みが、背中を走り、体が震え、短い声が部屋に響いた。
ブラが引き下ろされ、唇が乳首に移動し、先っぽを撫でられると、淡い期待の中に、ちっぽけな理性が混ざり合った。
それが複雑な感情を作り、体に溶け出て、呼吸を荒くさせる。

「ん…んん!!」

撫でていた唇が、乳首に吸い付き、口の中で、転がすように、舐め回されると、溶け出た複雑な感情から、理性だけが剥ぎ取られる。
淡い期待だけを求めそうになる。
舌先で乳首の先っぽを弾き、谷間に舌が移動すると、何度も、チュっと音を発てながら、ジーパンに向かって下りていく。
手首を掴んでいた手が離れ、頬を撫でると、乳首を撫で回された。
熱に浮かされた体は、頭上の布団を掴んで、痺れと熱を求めた。
山崎さんにされるがまま、与えられる乱暴な熱に浸食されていく。
下腹部を舐めたり、吸い付いたりしながら、脇腹を撫で下ろした手が、ジーパンに掛けられた。
ボタンが外され、チャックが下がって、腰に指が触れた時、欠けていく理性を引き戻した。
浮いていた腰を下ろしたが、ジーパンは、一気に引き下ろされてしまった。
焦りで目を開けると、山崎さんと視線がぶつかった。

「やめ…ふ…ぅ…」

山崎さんは、口角を上げて、内腿に頬擦りをした。
微かに、髪の毛が触れると、熱が広がって、後頭部を布団に押し付け、背中を反らし、掴んでいる布団を引き寄せた。
布団で耳を覆い、音を遮断しても、チュっと吸い付く音が頭に響く。
背中を丸めて体を捩ると、下着の上から、陰部に噛み付かれた。

「んんーーー!!」

必死に殺していた声が、鼻から抜け出て、腰が勝手に浮いていく。
太ももに触れていた手に、お尻を掴まれると、更に、腰が浮いていく。
陰部を舐められると、下着が、張り付き、勃起した蕾が浮き上がる。

「んぁ…」

下着越しに、何度も、蕾を舐め回され、殺していた声が、一気に部屋に響き渡った。

「ぁ…あぁ…い…ぃ…やぁ…」

腰から手が離れても、腰は浮いたままだった。
もう私の理性は、どこにもない。
ベルトが外れる音も、布が擦れる音も、掻き消すように喘ぎ、淡い痺れを追い求めた。
舐め回していた舌が、蕾から離れ、体が物足りないと訴える。
口で息をしながら、熱を逃していると、脇の下に何かが触れ、布団が動いた。
薄目を開けると、勃起する肉棒が視界に入り、顔を横に向け、視線を反らした。
肉棒が頬に押し付けられ、粘り気のある液体の感覚に、沸騰しそうな程、顔が熱くなった。
目を閉じて、太ももを押し、それを消そうとしたが、その感覚は、唇に滑り落ちてきた。

「口でして?」

微笑む山崎さんを横目で見上げ、すぐに視線を反らしてから、小さく首を振った。

「なんで?いや?」

「し…た…こと…な…い…」

そう言うと、山崎さんの瞳が、徐々に大きくなり、キラキラと輝き始めた。

「ホント?」

小さく頷くと、山崎の手に頬を包まれ、ゆっくり前に向かせられた。

「舌出して」

私が見上げる山崎さんは、嬉しそうに微笑んでいた。

「お願い」

その瞳が、小さく揺れるのを見つめ、根負けした私は、恐る恐る口を開けて、舌を出した。
肉棒が舌の上を滑り、口の中に突っ込まれると、初めての感覚に、嗚咽しそうになった。

「吸って」

口いっぱいの肉棒に吸い付くと、山崎さんの腰が、ゆっくりと前後に動き始めた。
次第に、腰の動きが速まり、口内を擦る肉棒の熱が頭に伝わる。
その熱を求め、無意識に、内腿を擦り合わせた。

「上手」

腰の動きが、更に速まると、口内を擦る熱が増し、喉の奥にぶつかる。
その振動と熱で、太ももに指を立てて、爪を食い込ませた。

「…くっ」

肉棒が深く突き刺さり、生暖かな液体が、飛び出してきた。
小さく上下に揺れる肉棒が、全てを吐き出すと、口から引き抜かれ、唇から糸が引いた。
苦い。
とにかく口から出したい。
涙目になり、ジタバタと暴れながら起き上がろうとすると、山崎さんの手が頬を包んだ。

「飲んで」

視線を合わせ、腕を掴んで、涙目のまま、首を振っても、山崎さんの手は離れない。

「お願い」

首も振れないように、しっかりと頬を包まれてしまい、優しく微笑んでいる山崎さんを見つめるしか出来なかった。
揺れる瞳に、無理矢理、口の中の液体を飲み込むと、やっと頬から手が離れた。

「見せて」

浅く口を開くと、唇に触れた指が口内を撫で回した。
その感覚で、腰が浮きそうになる。

「上手」

落ち着き始めた体が、また熱くなり始めて震えそうになる。
内頬を撫でる指を抜いて欲しくて、首を左右に動かした。

「どうした?」

わざと聞く山崎さんを見上げて、涙目で訴えたが、聞き入れてもらえなかった。
ニコッと笑って、滑り降りていくと、力が抜けた太もものところに、膝が割り込んできて、足を広げられた。
手を掴んで首を振っても、山崎さんは、微笑んだまま、下着越しに肉棒を陰部に擦り付けた。

「足りない?」

首を振り回し、違うと訴えても、擦れる感覚は消えない。
それどころか、押し付けられた。
声にならない声が抜け出ると、口から指が引き抜かれたが、鼻の頭を唇で撫でられた。
そのまま頬を撫で下ろされ、布団に頭を着け、首筋に舌先で触れながら、陰部を擦り始めた。

「やぁ…あ…」

「嘘はよくないよ?」

体が離れると、下着越しに蕾を撫でられた。

「ああ…はぁ…」

腰が疼きで、背中が震えた。
指が太ももの付け根に触れ、下着の縁をなぞると、腰が浮いた。

「あ…っつ…あぁ~…」

下着が押し退けられ、肉棒が、膣を押し進む圧迫感で震えた。

「あ!!ぁや!!ふん!!ぅあ!!」

激しく腰が動かされ、何度も、奥に突き刺さり、押し退けられた下着が、蕾に擦れる。

「気持ちいい?」

その言葉に答えられない程、与えられるものが乱暴で、ただ喘ぐしか出来なかった。
奥深くに突き立てられ、腰が左右に揺らされると、腰が浮いていく。

「やぁ…あぁ!!」

激しい腰の動きに、無意識の内に、山崎さんの足に、自分の足を絡ませ、腰を押し付けていた。
何も考えられない。
意識が飛びそう。
苦しい。
そんな思いさえも、今の私には、刺激となった。

「マコト」

時折、優しい声色で、耳元で囁かれる名前で、意識を引き寄せられる。
手に力を入れるが、動きが速まり、膣の熱が増して意識が離れる。
その繰り返しで、体と意識が、バラバラになりそうで、必死に、体と意識を引き合わせた。
その内、色んな物が混ざり合って、何がなんだか分からなくなり、視界が歪んだ。

「あぁーーー!!っふ…」

あの感覚が、一気に頭を突き抜け、背中を丸めようとしたが、山崎さんの手が、肩を布団に押さえ付け、丸められなかった。
目を閉じ、ギュッと口を結び、ただ首を曲げながら、ビクビクと、痙攣するように震えるしか出来ない。
必死に、自分を落ち着けようと、口で息をする私は、きっと変な顔になってる。
そう思って、自分を取り戻そうとするが、山崎さんは、それを許してくれなかった。

「ふぁ!!あ!!あぁ!!あ!!」

山崎さんの腰が動き、肉棒が奥を突き上げ、喘ぎ声と共に呼吸が荒くなる。

「や!!らぁ!!あぁ!!」

肩の手が離されると、背中に腕が回されて、引き上げられた。
布団の傾斜が、背もたれのようになり、太ももの上に股がった状態になり、山崎さんの顎が肩に乗せられた。

「うご…か…な…いで…よ…」

「イヤだ」

抱えるように、腰で腕が交差され、完全に動けなくなると、肉棒が、膣の奥を突き上げた。

「なぁ!!ぁあ!!ひぃ!!ぁーーー!!」

肩に手を置き、足を伸ばして、自分の体を上に持ち上げようしたが、全く動かない。
逆に、腰を引き寄せられて、奥を強く突き上げられた。

「やぁ!!あ!!はな!!ひぃ!!」

「離さない」

腰の動きが速まると、膣が痙攣するような感覚がし始めた。

「なぁ!!ん!!あぁ!!」

「まだ…出してない」

鼻息は荒いが、優しい声色で囁かれ、体が、それを期待しているように震えた。
奥を突き刺される度に、膣に力が入り、膝が震える。

「あ!!いぁ!!」

唇に噛み付かれ、互いの荒い鼻息が、頬を掠めながら、深いキスをされた。
喘ぎ声が頭に響く。
限界だった。
指に力が入り、肩に爪を立てると、腰の動きが速かなった。
喘ぎと共に逃していた熱が、行き場を失い、体の中で暴れ回った。
口の中で叫ぶように、声を上げると、腰を押し付けられ、肉棒から生暖かな液体が溢れ出たのを感じた。
微かに上下に動く肉棒に、体が震えた。
山崎さんの唇が離れると、唇から糸が引いた。
山崎さんを見上げ、見つめ合うように、視線を合わせた。
回らない頭では、何も考えられない。
呼吸が落ち着き始めると、倦怠感よりも、疲労感がすごい。
山崎さんの肩を掴む手を離し、布団の上に投げ出し、視線から逃れるように、横を向きながら目を閉じた。

「よけ…」

「イヤだ」

「もういいでしょ」

頬を唇で撫でられ、首筋に顔を埋められて、喉に吸い付かれた。

「ん…」

チクリと淡い痛みが走り、鳥肌が立ち、背中が震えた。
上半身を起こし、私の体を撫でるように、視線が移動すると、脇腹に触れられた。
全身が性感帯になったように、それだけでも、体が震えてしまう。
山崎さんの手が膝を掴むと、腰を後ろに引き、膣の圧迫感が緩んだ。
やっと終わった。
そう思い、薄目を開けて天井を見上げていたが、一転して、目の前に布団が現れた。
山崎さんは、片膝を掴むと、器用に、膣から肉棒を引き抜くことなく、私の体を反転させたのだ。

「ちょ!!」

「足りない」

顔を横に向けて、横目で、山崎さんを睨もうとしたが、耳元で囁かれた言葉に寒気がした。

「やめ!!い…やあ…ぁ…」

布団を押し退け、胸を掴んだ手が、布団に乳首を擦るように動き、声が震えた。
その間に、もう片方の手が、陰部に触れ、下着のゴムを押し付けるように、蕾を撫で回した。

「も…む…りぃ…や…ぁ…」

「もっと」

耳を甘噛みされ、耳の裏を舐めて、撫でるように、首筋を舐め下ろした。
乳首と蕾に触れていた手を抜き取ると、ハイネックを持ち上げ、手首でまとめられた。
ハイネックを脱がされる時に、擦れた顔が痛い。

「いた…い…ん!!」

胸の締め付けが緩むと、背中の傷痕を舐めながら、腰を押し付け、肉棒が、深くに突き刺された。
咄嗟に、首を持ち上げると、ブラが顔の下を通り、ハイネックと一緒にまとめられた。

「や…めぇ!!」

背中から唇が離れると、肩に顎が乗り、下腹部を抱えられ、内腿に触れた手が滑り、蕾を撫で回し始めた。
ゆっくり腰が動かされ、目を閉じて、布団に顎を押し付け、大きくなりそうな声を遮断した。

「だめ」

蕾の手が離れ、顎を持ち上げると、腰の動きを速め、腰が引き寄せられた。

「あぁ!!ぁ!!あ!!あ!!ぁあ!!」

唇を伝うヨダレが、顎を掴む手を濡らす。

「ぐちゃぐちゃ」

下腹部の手が内腿に移動していて、蕾に触れた。
肉棒で広がった入り口を指先でなぞり、粘り気のある液体が、滴り落ちるのを確かめた。

「分かる?」

泣き叫ぶように喘ぎながら、首を振り回すと、顎から手が離れた。
目を閉じたまま、布団を噛んで声を殺した。
顎を掴んでいた手が内腿を撫で、蕾を強く押されて、自分の声が頭に響いた。
体も、頭もおかしくなる。
今までとは比べ物にならない程、強い刺激に、熱が増して、気付けば、涙が頬を伝った。

「声…聞きたい」

入り口に触れていた手が、頬に触れると、ヌルッと、気持ち悪いのか気持ちいいのか、分からない感覚がした。
全身が震え、噛んでいた布団が、外れてしまい、指が口内に入ると、内頬を撫でた。
それだけでも、体が震えて、顎が浮き、手が下に滑り込んだ。

「あぁ!!ぁ!!ふぁ!!は!!」

下の奥歯を押さえるように、指が乗せられ、口が閉じれなくなると、部屋に喘ぎ声が響き渡った。
全身性感帯になったように、素肌に触れる全てに反応してしまう。
肩に触れる髪も、背中に触れる服も、荒い鼻息も、素肌も、その全てが、今の私にとっては、大きな刺激となった。

「あ!!あぁ!!ぁ!!あぁーーー!
!」

乱暴に扱われれば、感じるのか。
違う。
基本は、全てが優しい。
力任せに腰を振るのではなく、的確にツボを刺激されるから、体が敏感に反応する。
それが続くと、理性が失われ、獣のように求め、多少、手荒に扱われても、受け入れてしまう。
現に、理性を失った私は、欲望のまま、山崎さんから、与えられる刺激を求め、お尻を突き出して、自ら腰を揺らしていた。
蕾を擦っていた手は止まり、指を立てられてるだけで、自ら擦り付けている状態でも、羞恥を感じない。

「イク?」

膣が痙攣するような感覚に、体が震え、何度も頷くと、呼吸が荒くなるのと、比例するように、腰の動きも速くなっていく。

「ひふ!!ひふ!!」

「も…射精(デ)る…くっ」

「あぁーーー!!っふ…」

絶頂と合わせて、膣いっぱいの体液が、肉棒から放たれると、内腿を伝い落ちた。
頭が重い。
脱力して、首が耐えられない。
クテンと横に向くと、唇で頬を撫でられ、チュっとキスをされた。
背中に重みが掛かり、抱き締められるような形で、肩にオデコを擦り付けられた。

「おも…い…」

途切れながらも、声を絞り出すと、優しく微笑んだまま、肩に頬を着けて、山崎さんは、息を整えながら言った。

「すみません。でも、動けません」

横目で見ながら、互い肩で息をして、余韻に浸り、山崎さんの重みに目を閉じた。

「いつもは…すぐ…動く…くせに…」

「抜いたらヤバイです」

「自分の…せい…じゃん…てか…もう…遅いよ…」

あれだけして、畳に染みが出来てるのは、当たり前だ。

「いつまで…このままなの…」

呼吸が落ち着き、まだ声自身は震えているが、普通に喋れるようになってきた。

「分かりません」

「何が問題なのよ」

「ティッシュがなくて」

「トイレ行け」

「無理です」

「なんでよ」

「こうしてたいので」

「さっさと行け!!」

怒鳴るように言うと、笑いながら、起き上がった山崎さんは、膣から肉棒を引き抜き、ジーパンと下着を持って、和室から出ていった。
私も起き上がろうとしたが、下腹部に痛みが走り、障子に背中を向け、腹を抱えるようにして丸まった。
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