東京シンデレラ

フジキフジコ

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7.失業の危機

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その日、最初の客が部屋に入ってきて、オレはマニュアル通りに客に話かけた。
「はじめてですか。緊張しなくても大丈夫ですよ。服、脱いでそこに置いてください」

会社帰りのサラリーマン、といった感じの客で、あんまり金持ちそうには見えない。
だいぶ思いきって大枚はたいて覚悟して来たってタイプ、だな。
こういう客は面倒だ。
期待ばかり大きくて、その実、緊張してるからなかなかイッてくれない。

オレはシースルーの黒のアミアミTシャツに、下はわざわざビキニのパンツが透けて見えるようになっているテカテカの濡れた短パンという格好で、そんなオレを見て、客が生ツバを飲み込むゴックンという音が聞えた。

客はあたふたとネクタイを緩め、ベルトをがちゃがちゃさせて服を脱いだ。
こういう時は見ない振りで風呂の仕度をするのがマナーだ。
「どうぞ」
客が裸になった頃合を見計らって声をかける。
「あ、どうも」
客は股間をタオルで隠して、風呂に浸かった。

どうやらもうおっ勃っているらしい。
これなら案外簡単にイッてくれるかも。しめしめ。
「お湯、熱くないですか?」
満開の笑顔で言ってやる。
さっさとイッてくれるなら笑顔のひとつやふたつ、安いもんだ。

「じゃあ、今度はここに座ってください。お身体、洗わせてもらいます」
オレは客の目の前にわざと腰や尻や股間を見せつけるようにして客の身体を洗い、視覚的に射精を促す。
見ただけでイッちゃうヤツというのは案外いる。

「すいません、タオルとってください。洗いますぅ」
「えっ…」
躊躇う素振で、客が股間のタオルを取り、目の前に起立したグロテスクなオトコのそれを見たそのとき。
突然猛烈な吐き気に襲われた。
オレは部屋を飛び出してトイレにかけこんで手洗いで吐いた。
隣の部屋で客待ちだったトオルが後を追いかけるようについてきて、びっくりしている。

「椎名君、大丈夫?」
「……平気」
「どうしたの。吐くなんて、今までなかったよね」
オレの背中をさすりながら、言う。
結構優しいところもあるんだな。

「あ~、椎名くん、もしかして、デキちゃったんじゃないのお。ちゃんとしてた?避妊…」
最後まで言い終わらないうちに腹にパンチをお見舞いしてやった。
オレが水で口を濯いで、トオルが床で腹を押さえて蹲っていると、いつのまにかトイレの入り口に睦月が立っていた。

「大丈夫?」
「う…ん、なんとか。オーナー、酷いんだよ、椎名クンがぁ」
トオルが睦月の足に縋りつくように訴える。

「トオルじゃなくて、椎名君」
オレはため息を吐いて、首を振った。
全然、大丈夫なんかじゃなかった。

「そう。わかった、トオル」
と言って、トオルの方に言う。
「すぐに椎名君の部屋に行って、お客さまの相手してあげて」
「ええ、オレがあ?」
文句を言いながらもトオルは行った。

「…悪い。なんだろ、なんかヘンなモン、食ったのかな」
取りあえず、言い訳みたいなことを言ってみる。
だけど睦月は全然表情を変えない。
いつもと違う、険しい表情を。

「椎名君。君、もうこの仕事は出来ないかもしれないよ」
「なに冗談言ってんの。今日はたまたまだって」
違うよ、と言って睦月は首を振った。

「君、好きな人が出来たんでしょう。だから身体が拒むんだよ、他の相手をね。たまにいるんだよ、恋人が出来るとこの仕事できなくなる人。でも椎名君に限って大丈夫だと思ったんだけど」
「なんでオレに限って、なんだよ」
よくわかんねーけど、なんかムカつくなあ。

「もっとドライな人だと思ってたからさ。ナンバーワンを失うのは僕も痛手だなあ」
眉間に皺を寄せ、あからさまにガッカリした声で言う。
すっかりオレをクビにするつもりらしい。
なんてことだ。失業の危機だった。




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