HEAVENーヘヴンー

フジキフジコ

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【第一章】シャングリラ

1.生きる場所

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寝室のドアを開けると、かおるがベッドでスタンドの明かりを頼りに本を読んでいた。
真理に気づいて「おいで」と微笑わらいながら言って毛布の端をめくる。
馨の隣に滑るように潜りこんで、真理はまだ本を読むのをやめようとしない馨をじっと見上げた。

柔らかくウエーブした黒髪の下の、線の細いノーブルな横顔はどこか西洋人を思わせる。
馨の祖母はイギルス人なので無理もない。
その品の良い整った容貌からアイドル時代はファンに「王子」と愛称で呼ばれていた。
文字を追っている眼差しは、馨の人柄そのもののように、柔らかくて温かい。

真理の視線が気になるのか、馨はページをめくろうとしていた手を止めて首を傾げて真理を見る。
「眠れない?明かりが気になる?ごめん、もう少しきりのいいところまで読みたいんだけど、いいかな」
構わない、という意味で真理は頷いた。
けれどじっと見つめられていると気になって集中出来ない。
馨は苦笑して本を閉じた。

「真理、髪ちゃんと乾かした?まだ、湿ってるよ」
片手を伸ばして真理の髪に触れながら穏やかな声で言う。
ベッドに横になっても目を閉じようとしないのは眠くないからか寝たくないからか。
答えは真理の瞳の中にあった。

「…風邪を引く」
馨の声は聞くだけで安心する。
もっと何か話して欲しいと思いながら、真理は自分からはなにも言おうとしない。

「君が無口なときはどんなときだっけ」
真理は抱いて欲しいときには無口になるね、以前そんなことを言ったことがある。
そのことを含んで言って馨はくすっと笑い、読みかけの本を諦めパジャマの上を脱いだ。

ぎゅっとシーツの端を握り締めていた真理の指をあやすようにほどき、真理の身体を覆っていた毛布をはがす。
バスルームからベッドに直行した真理は緩くバスローブを羽織っているだけで、紐をほどくだけで馨の目の前にしなやかな裸体を晒した。

スタンドの淡い明かりに照らされる肢体の艶めかしさに馨は目を細めて見入る。
余分な脂肪のない華奢な身体はまるで芸術品のように美しく、冒しがたい神々しさを感じる。
「いやだ、馨。そんなに見ないで」
「どうして。なにもつけていないのは、オレに抱かれたかったからでしょう」
言いながら、馨のてのひらは真理の素肌を掠めた。
「いじわる」
羽根で産毛をくすぐられているような触れ方に、真理はもう焦れている。
今夜の馨は愛し合うのを急ぐつもりがないらしい。

「何度見ても、綺麗な身体だ。ねえ、この身体の隅から隅まで、キスしたいよ。オレのものだって、印をつけたい」
そんな戯言を言いながら、指で、真理の乳首をつまんだ。
「や、痛い…馨っ」
「ごめん。ここに、キスしていい?」
そう言われただけで、下半身がジンとする。
性器に血が集まり、身体の内側から、濡れる。
熱い腕に抱いて欲しくて、硬質な身体は艶を増す。

「して。キスして…馨」
「あとで、たっぷりしてあげる」
真理の顔に触れながら、互いに濡れた視線を合わせた。
見つめ合うだけで、快楽を予感して甘やかな吐息が漏れる。

「真理…可愛い、愛してる」
囁きながら、ゆっくりと馨の顔が近づいてくる。
口づけを受け取るために、真理は瞳を閉じた。

唇に触れ息を絡め合い、そして隙間に舌を忍び込ませて口腔を弄る慣れたくちづけに安堵感が胸を満たす。
何も、心配なんてすることはない。
この腕の中だけが自分の生きる場所だと、真理は思う。

「馨…か…おるっ…あ、いいっ」
約束通り胸の飾りを舌で愛されて、艶かしい声をあげながら、頭の一部はひどく醒めていた。
それが昼間見たワイドショーのせいだということを、真理は自分でわかっていた。

昨日、不破尊ふわたけるが米国での映画の仕事を終えて帰国したと、そのワイドショーは伝えていた。

ラフな格好で濃い色のサングラスをかけて空港を歩く不破をテレビで見た瞬間、心臓に杭を打たれたような衝撃が走った。
唇を堅く結んだ少し不機嫌そうな表情も、知り合いのスタッフに向けたときの笑った顔も真理のよく知っている不破だった。
そのことが真理にはかえって不思議な気がする。
自分の状況はこんなに変わってしまったのに、不破はあのときのまま少しも変わっていない。
1年前の秋に交わした約束は、真理の中ではもう遠い過去のものになっているのに。

「あっ…ああん!はぁ…い、いやっ!」
別の男のことを考えていることを見抜いているように、馨の攻めが激しくなる。
色づいてツンと尖った二つの乳首を、一つは指で捏ねられ、もう一つを唇で噛まれて、切ない悲鳴を上げさせられる。
真理は自分の両脚の間にある馨の身体を足で締め付けるようにして、自らの股間の昂ぶりを馨に伝えた。
もう、ここが、こんなにも感じているのだと、態度で示す。

「真理、どうして欲しい?」
「…ん、触って…」
「どこを?」
馨は意地悪く言って、真理の顔を覗きこむ。
「ばか…」
「君は可愛いね」
クスクス笑いながら、馨は真理の望み通りにそこに触れ、楽器を弾くような器用な指で、的確に真理に快楽を与えていく。

「…あっ…馨っ…いい…気持ちいい…んっ」
「もっと、気持ちよくなっていいよ」
馨の舌は、胸元から臍下に、そしてさらに降下していく。
やんわりと、足を開かされ、内腿を強く吸われた。
「ああっ!」
馨の唇が触れた部分には、卑猥な痕がついているに違いない。
それは、馨の言うように所有の印なのだろうか。
それとも、男に抱かれるのを好む、淫乱な性であることの証だろうか。
そんなことを考えていられたのも一瞬だった。
一番感じる部分を、舌で湿らされて、なにも考えられなくなる。

「ん、はぅ!あん!…あ、やあっ!」
裏側を舐められて、先端から切なげに滴を垂らす。
腰が痺れたように疼いて、めちゃくちゃに振りたくなる。

「真理…」
甘い声で名前を呼んで、馨は真理の脚を胸の方に折ると、愛撫を後ろに移す。
固く閉じた蕾を舌で濡らしながら、指を入れて淫らな身体を開いていく。
「あっ…あん、…そこ、やあっ…だ…」
自分の恥ずかしい部分が馨に挿れてもらうのを待って、くちゅくちゅといういやらしい音を出しているのが聞えて、羞恥に身体中が赤く染まる。

「いやなの?じゃあ、やめようか?」
意地悪な馨の、指を抜く素振りに真理は首を振る。
「や!だ、め…!やめないでっ…馨…もっといじって…そこっ」
馨と肌を合わせるようになって、真理は恥ずかしいことを言わされることに慣れていた。
「そこって、どこ?真理…」
悪事を唆すような密やかな声は、それでいて充分に優しい。
「お…お尻の穴…」
真理は目尻に涙を浮かべて、欲望を口にする。
「いい子だね」
満足そうに笑って、馨は奥まで指を挿れて真理の快楽のポイントを探る。
「あっ!……」
後ろをいじられただけでイッてしまいそうな気を散らすために、真理はシーツをぎゅっと握り締めた。
そんなウブな仕草が、馨を煽る。

「…んっ、もぉ、ダメ…馨、来て…挿れ、て」
目尻から涙を流しながら懇願した。
真理がいつもより行為に大胆になっているのが馨にはわかる。
「じゃあ今日はバックからしてもいい?」

頬を真っ赤にしながらもおずおずと頷いて、真理は自分からうつ伏せになり四つん這いの格好をとる。
「もっと腰をあげて。ちゃんと見せて、真理」
恥ずかしい要求をされても拒む気になれない。
まるで、どんなに恥ずかしい行為でも馨になら許せるはずだと、自分自身に言い聞かせるように。
「か…おるっ、はや、く…はやく」

「まだ、あげないよ。真理、オレを上手に誘惑してみせて」
真理は獣のスタイルのまま、馨を泣きそうな顔で見つめる。
切ない溜息をひとつ吐いて、おずおずと両手を自分の尻に運び、二つの肉を開いて、熱い杭を欲しがっている熟れた孔を、馨に見せつける。
「…見て、馨…。入れて…ここに、馨のが…欲しい」

「ああ、真理、素敵だよ」
馨は真理の細い腰をつかみ、待ちわびているところに滾った自身を挿入した。
「うっ、あぁっ!…は、あんっ」
肉壁を擦りながら挿ってくる感覚はもうすっかり馴染んだそれで、満たされる感覚に真理の口からは艶かしい吐息が零れるように漏れる。

「か…おるっ」
自分を抱いているのが恋人であることを確認するように名前を呼ぶ。
そう、馨だけがこうしてもいい。
馨にならどんなことをされてもかまわない。
「ああ…もっと…」
もっと奥まで。もっと激しく。
オレの身体をおまえで満たして。
おまえのことしか考えられなくなるように。

「もっと…あ、馨!もっと!動いて!強くして!突いて!もっと…」
浅ましく求めて快楽の淵に身を投じ、忘れなければならない人のことを忘れてしまおうと思う。
もう自分は馨のものなのだから。

他の男を心で想うことさえ罪になる。


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