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【第二章】エデンの果実
4.運命の歯車
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「有沢さん」
女性の声に呼ばれて振り返ると、一瞬、真理と見間違うほど顔立ちのよく似た、真理の妹の杏理が、微笑を浮かべながら近づいてきた。
ストレートの長い髪をゴージャスな巻き髪にして、肩を出したブルーのドレスを纏っている。
その表情は輝いていて、杏里の美しさをさらに引き立てていた。
「お久し振りです。お元気でしたか。この間の舞台、拝見させていただきました。相変わらず素敵ですね、有沢さんは」
「杏理。君には驚かされたよ。いったいいつの間に、不破とそういう関係になってたの」
杏理は、はにかんだように笑う。
「ごめんなさい、黙っていて。結婚は急に決まったの」
「知らなかったよ。てっきり、杏理は大輔と付き合っているのかと思っていた」
「ええ、それは、みんなに誤解されていたみたい。大輔は親友だけど、恋人ではなかったの。私にとっては、何でも相談出来る弟みたいな存在かな」
大輔の名前を出すと、杏里の表情がわずかに曇った。
「どうかした?」
「いえ、大輔には、結婚のこと、反対されちゃって。ちょっと喧嘩中なんです」
「大輔が、反対してる?」
なぜ大輔が反対しているのか、馨にはわからない。
いや、本当はわかっていて、わからないふりをしているだけなのかもしれない。
「杏里はいつから、不破のことを好きだったの?」
馨の問いに、一瞬躊躇う素振りを見せ、それから微笑んだ。
「ずっと前から。そうね、尊が真理と付き合っていた頃から、好きだった。有沢さんも、そうでしょう?ずっと、真理のこと好きだった」
杏里の言葉に驚いて、馨は目を瞠った。
それは、真理も知らない馨だけの秘密だった。
馨と不破はデビュー前、養成所にいた頃からライバルであり、親友でもあった。
ROZYとしてデビューすることになって、二人は水波真理に出会った。
真理と不破は水と油のように性格が正反対で、グループを結成した当初は喧嘩ばかりしていた。
そんなとき、二人を仲裁するのが馨の役目だった。
けれどやがて、二人はどちらからともなく魅かれあい、恋に落ちた。
馨はその過程を、一番近くで見ていた。
アメリカに立つときに不破は馨に「真理のこと、頼む」と言った。
馨は親友の気持ちに応えるため、真理のことを気にかけた。
だからあのとき、真理が衝動的に手首を切ったとき、いち早く発見することが出来たのだ。
けれど、真理のことを気にかけたのは、不破に頼まれたからだけではなかった。
密かにずっと、真理を愛し続けていたからだ。
その気持ちを誰かに打ち明けたことはなく、杏里に知られているとは思いもよらなかった。
「有沢さん」
深く自分の思考に入りこんでいた馨を、杏里が呼んだ。
そして、「わたしたちは似た者同士ね」と言った。
共犯者を見るような目で馨を見る杏里は、勝利に酔っているように見える。
兄の恋人を想い続け、自分のものに出来た、勝利に。
その勝気な眼差しに危ういものを、馨は敏感に感じ取った。
***
「あっ、ん、やだ…尊」
「し。声だすと、外に聞こえちゃうよ」
甘い声も魅力的だけど、秘密を隠すために唇をぎゅっと結んで堪える表情もたまらなく色っぽい。
時間も場所も忘れたように求めあっても、頭のどこかは冷静に状況を把握している二人は、礼服を乱さないように下ろしたファスナーの隙間から、そこだけを露出させてお互いのものを握りあっていた。
蕩けそうな口づけを交わしながら指を使って快楽を与え合う。
「ねえ、すごい似合うよ、その格好。真理、可愛い、綺麗…」
耳に舌を差し入れて、そんなことを言われ真理の身体は悦びに震える。
「…尊」
「昔とちっとも変わってない」
男っぽい低音のバリトンで囁かれ、その声にも欲情する。
「…あ、も…やっ、出てきた…尊っ…服…汚れちゃう…」
擦られただけで、先端から我慢しきれない汁がこぼれ、不破の指を濡らした。
「本当だ、すげえヌルヌルしてきたね。真理、これなに、ん?ネバネバしてる」
イヤらしいことを耳に吹き込まれながら先端を指で強くこすられ、膝が崩れそうになる。
「あっ…いやだぁ、んっ…」
「真理、ちゃんと立って」
真理の脇を支えるようにして壁に凭れさせ、不破は自身が少し膝を曲げて、真理と腰の位置を合わせて股間を真理のそれに押し付けた。
露出させた、熱く昂ぶっている身体の一部分が触れ合う。
一番敏感で、欲深い、雄の象徴が。
「ん、気持ちいい…マジ、これだけでイケそう」
言いながら腰を前後させて、ペニス同士を擦りつけた。
「おまえのネバネバしたのが、オレのに、くっついてるよ。オレたちもうグチョグチョじゃん」
「あっ!…あんっ!…うっ」
抑えても抑えても漏れる声を、真理は自分の指を噛んでたえる。
狭い個室の中に、青臭い精臭がたちこめる。
時も場所も忘れそうになる。
獣のように、欲望だけに支配される。
「真理…おまえの中に入りたい…こいつを入れたい」
そう言われて、真理は我に返った。
「ダメだ…それは、ダメ」
早く戻らなくてはならなかった。
帰りの遅い真理を心配して、馨が探しにくるかもしれない。
不破だって、いつまでもこんなところにいていいはずがない。
けれどこの昂ぶった熱を解放するまで、どうにもならなかった。
真理の眼尻に浮かんだ涙に、気持ちを察して、不破は優しく髪を撫でながら謝った。
「そうだよな…ごめん、オレ。わかってるのに」
真理の涙を唇で吸い取り、「オレにまかせて」と言うと不破はその場にしゃがみこんで、真理の張り詰めて今にも破裂しそうなペニスを口に含んだ。
「尊!」
ホテルのトイレの床に膝をついて自分を咥える不破を信じられないものを見るような目で真理は見下ろす。
正装して、長い髪を後ろに撫でつけた不破は、多分あの大広間にいる誰よりも輝いている。
日本中の人間が憧れる男が、トイレの床に跪いて自分の恥部に唇を寄せる。
これは夢なのか。
……夢なら、よかった。
けれど身体に感じる熱い舌は現実以上のなにものでもなく、巧みな舌の動きに翻弄され、真理はあっけなく不破の口内に射精した。
そのままずるずると床に崩れそうになる身体を壁にもたれかけさせなんとか立っている。
目の端を情欲のかげりで赤く染めながら、真理は、まるで恐ろしいものを見るような目で不破を見つめた。
「…尊…おまえ、なんで…こんなこと、出来るの」
「なんでって」
真理の白い液を受けとめた唇を手で拭いながら、不破は問い返した。
馨に聞いたことと同じことを不破にも聞いている。
不意に我に返って、真理は笑い出したくなった。
愛しているからー。
聞いてもいない答えが不破の声で聞えた気がした。
そうしてまた甘い呪縛で縛られるのか。
便器に蓋をして腰掛けた不破の膝の間に顔を埋めて、今度は真理が不破のものを口に含んだ。
言葉なんて、要らない。
縛られるだけの言葉なら。
ただ流される、運命に弄ばれながら。
こんなことを続けていれば、いつかきっと今よりもっと深く傷くとわかってる。
それでも構わない。
今はただ、愛したかった。
***
『気分が悪いので先に帰ります』
ホテルマンからメッセージを受け取った馨は踵を返してホールを出た。
まだタクシー乗り場に真理がいるかもしれない。
下りのエスカレーターに乗ってすぐ、平行して流れる上りのエスカレーターに不破の姿を確認した。
お互いにその存在を意識しながら、二人の視線は合うことのないまま通り過ぎた。
二人の男の間で真理の運命の歯車は音を立てて軋んでいた。
女性の声に呼ばれて振り返ると、一瞬、真理と見間違うほど顔立ちのよく似た、真理の妹の杏理が、微笑を浮かべながら近づいてきた。
ストレートの長い髪をゴージャスな巻き髪にして、肩を出したブルーのドレスを纏っている。
その表情は輝いていて、杏里の美しさをさらに引き立てていた。
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「杏理。君には驚かされたよ。いったいいつの間に、不破とそういう関係になってたの」
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「知らなかったよ。てっきり、杏理は大輔と付き合っているのかと思っていた」
「ええ、それは、みんなに誤解されていたみたい。大輔は親友だけど、恋人ではなかったの。私にとっては、何でも相談出来る弟みたいな存在かな」
大輔の名前を出すと、杏里の表情がわずかに曇った。
「どうかした?」
「いえ、大輔には、結婚のこと、反対されちゃって。ちょっと喧嘩中なんです」
「大輔が、反対してる?」
なぜ大輔が反対しているのか、馨にはわからない。
いや、本当はわかっていて、わからないふりをしているだけなのかもしれない。
「杏里はいつから、不破のことを好きだったの?」
馨の問いに、一瞬躊躇う素振りを見せ、それから微笑んだ。
「ずっと前から。そうね、尊が真理と付き合っていた頃から、好きだった。有沢さんも、そうでしょう?ずっと、真理のこと好きだった」
杏里の言葉に驚いて、馨は目を瞠った。
それは、真理も知らない馨だけの秘密だった。
馨と不破はデビュー前、養成所にいた頃からライバルであり、親友でもあった。
ROZYとしてデビューすることになって、二人は水波真理に出会った。
真理と不破は水と油のように性格が正反対で、グループを結成した当初は喧嘩ばかりしていた。
そんなとき、二人を仲裁するのが馨の役目だった。
けれどやがて、二人はどちらからともなく魅かれあい、恋に落ちた。
馨はその過程を、一番近くで見ていた。
アメリカに立つときに不破は馨に「真理のこと、頼む」と言った。
馨は親友の気持ちに応えるため、真理のことを気にかけた。
だからあのとき、真理が衝動的に手首を切ったとき、いち早く発見することが出来たのだ。
けれど、真理のことを気にかけたのは、不破に頼まれたからだけではなかった。
密かにずっと、真理を愛し続けていたからだ。
その気持ちを誰かに打ち明けたことはなく、杏里に知られているとは思いもよらなかった。
「有沢さん」
深く自分の思考に入りこんでいた馨を、杏里が呼んだ。
そして、「わたしたちは似た者同士ね」と言った。
共犯者を見るような目で馨を見る杏里は、勝利に酔っているように見える。
兄の恋人を想い続け、自分のものに出来た、勝利に。
その勝気な眼差しに危ういものを、馨は敏感に感じ取った。
***
「あっ、ん、やだ…尊」
「し。声だすと、外に聞こえちゃうよ」
甘い声も魅力的だけど、秘密を隠すために唇をぎゅっと結んで堪える表情もたまらなく色っぽい。
時間も場所も忘れたように求めあっても、頭のどこかは冷静に状況を把握している二人は、礼服を乱さないように下ろしたファスナーの隙間から、そこだけを露出させてお互いのものを握りあっていた。
蕩けそうな口づけを交わしながら指を使って快楽を与え合う。
「ねえ、すごい似合うよ、その格好。真理、可愛い、綺麗…」
耳に舌を差し入れて、そんなことを言われ真理の身体は悦びに震える。
「…尊」
「昔とちっとも変わってない」
男っぽい低音のバリトンで囁かれ、その声にも欲情する。
「…あ、も…やっ、出てきた…尊っ…服…汚れちゃう…」
擦られただけで、先端から我慢しきれない汁がこぼれ、不破の指を濡らした。
「本当だ、すげえヌルヌルしてきたね。真理、これなに、ん?ネバネバしてる」
イヤらしいことを耳に吹き込まれながら先端を指で強くこすられ、膝が崩れそうになる。
「あっ…いやだぁ、んっ…」
「真理、ちゃんと立って」
真理の脇を支えるようにして壁に凭れさせ、不破は自身が少し膝を曲げて、真理と腰の位置を合わせて股間を真理のそれに押し付けた。
露出させた、熱く昂ぶっている身体の一部分が触れ合う。
一番敏感で、欲深い、雄の象徴が。
「ん、気持ちいい…マジ、これだけでイケそう」
言いながら腰を前後させて、ペニス同士を擦りつけた。
「おまえのネバネバしたのが、オレのに、くっついてるよ。オレたちもうグチョグチョじゃん」
「あっ!…あんっ!…うっ」
抑えても抑えても漏れる声を、真理は自分の指を噛んでたえる。
狭い個室の中に、青臭い精臭がたちこめる。
時も場所も忘れそうになる。
獣のように、欲望だけに支配される。
「真理…おまえの中に入りたい…こいつを入れたい」
そう言われて、真理は我に返った。
「ダメだ…それは、ダメ」
早く戻らなくてはならなかった。
帰りの遅い真理を心配して、馨が探しにくるかもしれない。
不破だって、いつまでもこんなところにいていいはずがない。
けれどこの昂ぶった熱を解放するまで、どうにもならなかった。
真理の眼尻に浮かんだ涙に、気持ちを察して、不破は優しく髪を撫でながら謝った。
「そうだよな…ごめん、オレ。わかってるのに」
真理の涙を唇で吸い取り、「オレにまかせて」と言うと不破はその場にしゃがみこんで、真理の張り詰めて今にも破裂しそうなペニスを口に含んだ。
「尊!」
ホテルのトイレの床に膝をついて自分を咥える不破を信じられないものを見るような目で真理は見下ろす。
正装して、長い髪を後ろに撫でつけた不破は、多分あの大広間にいる誰よりも輝いている。
日本中の人間が憧れる男が、トイレの床に跪いて自分の恥部に唇を寄せる。
これは夢なのか。
……夢なら、よかった。
けれど身体に感じる熱い舌は現実以上のなにものでもなく、巧みな舌の動きに翻弄され、真理はあっけなく不破の口内に射精した。
そのままずるずると床に崩れそうになる身体を壁にもたれかけさせなんとか立っている。
目の端を情欲のかげりで赤く染めながら、真理は、まるで恐ろしいものを見るような目で不破を見つめた。
「…尊…おまえ、なんで…こんなこと、出来るの」
「なんでって」
真理の白い液を受けとめた唇を手で拭いながら、不破は問い返した。
馨に聞いたことと同じことを不破にも聞いている。
不意に我に返って、真理は笑い出したくなった。
愛しているからー。
聞いてもいない答えが不破の声で聞えた気がした。
そうしてまた甘い呪縛で縛られるのか。
便器に蓋をして腰掛けた不破の膝の間に顔を埋めて、今度は真理が不破のものを口に含んだ。
言葉なんて、要らない。
縛られるだけの言葉なら。
ただ流される、運命に弄ばれながら。
こんなことを続けていれば、いつかきっと今よりもっと深く傷くとわかってる。
それでも構わない。
今はただ、愛したかった。
***
『気分が悪いので先に帰ります』
ホテルマンからメッセージを受け取った馨は踵を返してホールを出た。
まだタクシー乗り場に真理がいるかもしれない。
下りのエスカレーターに乗ってすぐ、平行して流れる上りのエスカレーターに不破の姿を確認した。
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