HEAVENーヘヴンー

フジキフジコ

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【第二章】エデンの果実

6.愛の囚人

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「…真理」
腕の中で身じろぎしない真理の名前を呼ぶ。
顔だけ振り向いた真理の透明な瞳が、いつもよりきつい。
そこに、嫉妬の破片が見え隠れしている。
不破は、息を飲んだ。
真理の瞳は頼りなく儚げに見えて本当はとても強い。
だから、惹かれる。
この瞳はいつだって強い引力を持って、不破を引き寄せる。
「真理、今は、何も考えないで…」
後ろから抱き締めた腕に力を込めた。

男にしては細い身体を抱きしめながら、それでも、杏理よりしっかりしている、と思う。
真理と杏理は、顔立ちだけでなく、体型も良く似ていた。
けれど腕に抱けばその違いがありありとわかる。
真理の身体は杏理のように柔らかくない。
余分な脂肪のない、しなやかな身体。
そんなふうに無意識に比べてしまうのは、杏理の身体を、知ったからだ。

不破は、わかっていなかった。
お互いに気持のない偽装結婚なのだから、たとえ一緒に暮らしても、杏理を抱くつもりはなかった。

けれど、同じ部屋に寝起きして、食事を共にしていれば自然に情がわく。
愛する人と同じ顔をした人間なら、尚更に、ふとした瞬間に愛しいと思う。
あまりに自然に、二人は関係を持った。
真理には、言えない。言うつもりもない。
けれど、真理は自分が杏理を抱いていることに気づいているのだと、真理の目を見て不破は確信した。

真理の身体を振り向かせて、正面からきつく抱き締める。
真理も、不破の背中に腕を回した。
シャツの上から、不破の背中を確かめるように真理の手が這う。
服を着ていなければ、爪跡がつくような強い力だった。

「…尊、抱いて。ねえ、オレを、抱いて。いま、すぐに」
腕の中で、自分を見上げて誘ってくる瞳の中の嫉妬の炎が、真理をいつもより何倍も美しく、妖しくしている。
「真理…」
魅了され、不破はため息のようにその名を呟いた。

まだかすかに塗料の匂いが残る新しいバスルームでシャワーを浴びながら抱き合う。
一分一秒が惜しい。
濡れた身体を密着させ、舌先と舌先を触れ合わせる軽いキスを何度となく繰り返す。
「尊…、…あぁ…はあ…」
不破のそれが太腿にあたって、その堅さを感じただけで真理の内部は熱くなる。
それを受け入れるために熱くなる身体の素直さ。
欲望は表面ではなく、内から沸き起こるものだ。

真理は不破とキスを交わしながら、手を伸ばして自分から不破自身に触れた。
やがて自分を貫く愛の凶器に、優しく、愛しく、指を絡める。
「ねえ、真理、オレの、舐めて」
促されて、バスルームの床に膝をついた。
最初は口づけのようにそっと先端に唇を押し付け、それから舌で濡らすように全体を舐める。
根元から先端に。
先端から根元に、同じ動作を繰り返す。

髪を優しく撫でていた不破の手が軽く頭を押さえたのを合図に、口を開いて、咥えた。
奥まで飲み込んで、唇を窄めてゆっくり頭を前後させ、出し入れする。
「…はぁ…真理…すげえ、いい」
口の中いっぱいに熱い肉を感じると、そこからでも快感は得られる。
しゃぶるのに夢中になると、触れられてもいないのに真理のペニスも勃起していた。
それに気づいて、不破は足の裏で真理の性器を嬲る。
「オレのをしゃぶってるだけで、ここ、こんなにして。真理はイヤらしいね」
言葉で虐められて、足で踏みつけられているのに、身体は悦んでいる。

不破を咥えながら上目使いに見上げる瞳が、淫らに不破を誘う。
その瞳の色が、杏理と同じだと知ったとき、不破は真理の口の中で果てた。
真理の唇の端から飲み込み切れない白い液が零れた。

「ああ、もう我慢できない。真理…ベッド、いこ」
ろくに拭きもしないで濡れた身体のまま真理を抱き上げて、ベッドに倒れ込んだ。
そこはもう禁断の果実を思う存分味わっても誰にも咎められない、二人だけのヘヴンだ。
そこにはタブーはない。

時間を忘れてくたくたになるまで睦み合ったあと、真理は不破に背中を向けて黙っている。
快楽を分け合ったあとはそれぞれの生活に戻らなければならない。
その時間が辛かった。

「真理」
不破が不安気に呼ぶと、背中を向けたまま「尊」と呼び返す。
「なに」
「お願いが、あるんだ」
消え入るような小さな声で言う。
「なんだよ、言えよ。真理の頼みならなんでもきくよ」
「今夜は…今夜だけは、杏理を抱かないで…」
「真理…!」
不破は背中からそっと真理を抱きしめた。

「抱かないよ。絶対、抱かない」
「オレ、わがままだよね」
寝返りを打って、不破の胸に顔を埋めるようにして、真理は言った。
「こんなこと言う権利ないってこと知ってるよ。杏理にも、悪いって思う。でも…今夜は、オレのことだけ、考えて」
縋ってくる瞳に捕らわれる。
綺麗で、淋しくて、それでいて強い―。
この美しい瞳に、捕えられている。
「ああ、夢でもおまえを抱く」
愛の囚人は、そう約束した。
「尊…」

意味のない約束だということはわかっている。
このまま朝まで抱き合っていられる関係なら、そんな約束は必要ない。
形のない愛はどんなに強く想いを寄せても心を不安にさせる。

不破の背中に回した手で、真理はそっとその広い背中を撫でた。
抱き合ったときにつけた、この背中にきっとある爪跡はジェラシーで咲かせた赤い花。
この花は、実を結ぶことはない。

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