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【第二章】エデンの果実
12【完】二人の未来
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約束の時間になっても不破は来なかった。
TVの仕事は時間を区切って出来る仕事じゃない。
だから今までもこんなことはあったし、詮索しないのがルールだった。
けれど今日はフランスに行く前に会うことの出来る、最後のチャンスだった。
それとも、こんな別れが二人の結末だったのだろうか。
真理は部屋のテーブルに、フランスに行くことになった経緯と飛行機の日時を書き残した。
ただ事実だけを書くことしかできなかった。
これを読んで不破がどうするか、不破の行動を待つしか真理には出来ない。
ドアを閉め鍵をかけると、新聞受けにその鍵を入れた。
この部屋に来ることはもうないだろう。
持っていれば、不破を想って辛くなる。
「尊…」
部屋の前を立ち去る前に声に出して呼んでみた。
ドアに凭れ掛かって、想いを残してゆく。
「尊、愛してる」
心にその顔を思い描いて、真理は二人の想い出の部屋を後にした。
***
「杏理!時間ないんだから、早く用意しろって」
それは間もなくやってくる春を感じさせる、暖かい陽気の日だった。
久し振りに出来た連休を、不破は杏理と過ごそうとしていた。
本当は真理と会うつもりだった。
会って、この前約束の日に行けなかった埋め合わせをしようと思っていた。
けれど大輔の言った通り、よく見れば杏理の様子は確かにおかしかった。
不破と話しているときは普通にしているが、一人で家事をしてるところを盗み見るとため息ばかりついている。
ぼんやりしながら新聞を細かく破いたり、観葉植物の葉を何気にむしったりしているのを見たときはさすがにぞっとした。
つい、元気づけたくて今度の連休に旅行に行こうと誘ってしまったのだ。
杏理は大袈裟すぎるほど喜んで、久し振りに見る全開の笑顔にやはり杏理を旅行に連れていこうと不破は決めた。
真理には、帰ってきてから会おう。
そして、もうこんなことはやめて、これからの二人のことをちゃんと話そう。
どうしたいのか、真理の気持ちを確かめて、そして。
二人の未来を、見つけよう。
***
ざわめく空港のロビーで真理は不破の姿を探していた。
来るとは思っていない。
けれど、もしかしたら…と心のどこかで待っている。
このままさよならも言えないで別れてしまうのかと思うと、心の一部をどこかに置き去りにしていくような心許なさに涙が出そうになる。
会えないなら、せめて声だけでも聞きたいと思って、隠れて電話が出来る場所を目で探す。
「真理、行くよ」
「あ、うん…」
けれど自分を呼ぶ馨にタイミングを外されて、電話をかけることも出来ない。
とうとう真理はそのままチャンスを失った。
不破はどう思ったのだろう。
真理の身勝手を怒ってしまったのかもしれない。
それとも、傷ついたのかもしれない。
だから、何も言ってくれないのだろうか。
パスポートに判を押され、搭乗ゲートをくぐる瞬間まで真理は何度も振り返った。
その度に、自分が求めているのが誰なのかを知り、そして望みが叶わないことを知った。
***
念入りに化粧をしている杏理は、なかなか寝室の鏡の前から離れない。
「杏理、もういいだろ。早くしろって」
「今、行くわ」
不破は部屋の窓を閉めて、最後につけっ放しになっていたテレビの電源を切ろうとした。
ふと、その指が止まる。
ニュース速報を知らせる音がして、画面の上部にテロップが流れたからだ。
それは、日本から出発したフランス行きのジャンボジェット機が墜落したというニュースだった。
不破は、なぜか胸騒ぎがして、そのニュースを目で追った。
「お待たせ、尊。行きましょう」
寝室から出てきた杏理が、不破の手からリモコンを取って、テレビの電源を消した。
「どうかした?」
ぼうっとしている不破の顔を覗き込んで、杏理が言う。
一瞬、その顔が、真理に見えた。
「なんでも、ない。行こう」
杏理の肩を抱いて、部屋を出た。
旅先で、雲ひとつない冬の高い空を見上げて、不破は無性に真理に会いたくなった。
杏理には悪いけど、やっぱり明日は早く帰って、あの部屋に真理を呼びだそう。
最近は待たせてばかりだったから今度は自分が先に行って、真理を待っていよう。
真理の好きなものを作って、テーブルいっぱいに料理を並べて、驚く顔を見たい。
いつも独占欲に負けて身体に無理をさせるように抱いてしまうから、たまにはただ腕に抱きしめて眠りを見守ってあげよう。
そう決めると、それだけで不破は心が満たされ、やはり自分はどうしようもなく真理を愛しているのだと思った。
魂が焦がれるようなこれほどの強い気持ちを、押さえることなんて出来ない。
どんなに大きな障害があっても、お互いに失うものが大きくても、人を傷つけても、この愛だけは手放せない。
「気持ちいいわね」
青空の下で杏理が指を絡めてくる。
「そうだな」
杏理に完璧な微笑みを見せながら、不破は、真理のことだけを愛していた。
第二章 エデンの果実 完
NEXT➡【第三章】HEAVEN'S DOOR
TVの仕事は時間を区切って出来る仕事じゃない。
だから今までもこんなことはあったし、詮索しないのがルールだった。
けれど今日はフランスに行く前に会うことの出来る、最後のチャンスだった。
それとも、こんな別れが二人の結末だったのだろうか。
真理は部屋のテーブルに、フランスに行くことになった経緯と飛行機の日時を書き残した。
ただ事実だけを書くことしかできなかった。
これを読んで不破がどうするか、不破の行動を待つしか真理には出来ない。
ドアを閉め鍵をかけると、新聞受けにその鍵を入れた。
この部屋に来ることはもうないだろう。
持っていれば、不破を想って辛くなる。
「尊…」
部屋の前を立ち去る前に声に出して呼んでみた。
ドアに凭れ掛かって、想いを残してゆく。
「尊、愛してる」
心にその顔を思い描いて、真理は二人の想い出の部屋を後にした。
***
「杏理!時間ないんだから、早く用意しろって」
それは間もなくやってくる春を感じさせる、暖かい陽気の日だった。
久し振りに出来た連休を、不破は杏理と過ごそうとしていた。
本当は真理と会うつもりだった。
会って、この前約束の日に行けなかった埋め合わせをしようと思っていた。
けれど大輔の言った通り、よく見れば杏理の様子は確かにおかしかった。
不破と話しているときは普通にしているが、一人で家事をしてるところを盗み見るとため息ばかりついている。
ぼんやりしながら新聞を細かく破いたり、観葉植物の葉を何気にむしったりしているのを見たときはさすがにぞっとした。
つい、元気づけたくて今度の連休に旅行に行こうと誘ってしまったのだ。
杏理は大袈裟すぎるほど喜んで、久し振りに見る全開の笑顔にやはり杏理を旅行に連れていこうと不破は決めた。
真理には、帰ってきてから会おう。
そして、もうこんなことはやめて、これからの二人のことをちゃんと話そう。
どうしたいのか、真理の気持ちを確かめて、そして。
二人の未来を、見つけよう。
***
ざわめく空港のロビーで真理は不破の姿を探していた。
来るとは思っていない。
けれど、もしかしたら…と心のどこかで待っている。
このままさよならも言えないで別れてしまうのかと思うと、心の一部をどこかに置き去りにしていくような心許なさに涙が出そうになる。
会えないなら、せめて声だけでも聞きたいと思って、隠れて電話が出来る場所を目で探す。
「真理、行くよ」
「あ、うん…」
けれど自分を呼ぶ馨にタイミングを外されて、電話をかけることも出来ない。
とうとう真理はそのままチャンスを失った。
不破はどう思ったのだろう。
真理の身勝手を怒ってしまったのかもしれない。
それとも、傷ついたのかもしれない。
だから、何も言ってくれないのだろうか。
パスポートに判を押され、搭乗ゲートをくぐる瞬間まで真理は何度も振り返った。
その度に、自分が求めているのが誰なのかを知り、そして望みが叶わないことを知った。
***
念入りに化粧をしている杏理は、なかなか寝室の鏡の前から離れない。
「杏理、もういいだろ。早くしろって」
「今、行くわ」
不破は部屋の窓を閉めて、最後につけっ放しになっていたテレビの電源を切ろうとした。
ふと、その指が止まる。
ニュース速報を知らせる音がして、画面の上部にテロップが流れたからだ。
それは、日本から出発したフランス行きのジャンボジェット機が墜落したというニュースだった。
不破は、なぜか胸騒ぎがして、そのニュースを目で追った。
「お待たせ、尊。行きましょう」
寝室から出てきた杏理が、不破の手からリモコンを取って、テレビの電源を消した。
「どうかした?」
ぼうっとしている不破の顔を覗き込んで、杏理が言う。
一瞬、その顔が、真理に見えた。
「なんでも、ない。行こう」
杏理の肩を抱いて、部屋を出た。
旅先で、雲ひとつない冬の高い空を見上げて、不破は無性に真理に会いたくなった。
杏理には悪いけど、やっぱり明日は早く帰って、あの部屋に真理を呼びだそう。
最近は待たせてばかりだったから今度は自分が先に行って、真理を待っていよう。
真理の好きなものを作って、テーブルいっぱいに料理を並べて、驚く顔を見たい。
いつも独占欲に負けて身体に無理をさせるように抱いてしまうから、たまにはただ腕に抱きしめて眠りを見守ってあげよう。
そう決めると、それだけで不破は心が満たされ、やはり自分はどうしようもなく真理を愛しているのだと思った。
魂が焦がれるようなこれほどの強い気持ちを、押さえることなんて出来ない。
どんなに大きな障害があっても、お互いに失うものが大きくても、人を傷つけても、この愛だけは手放せない。
「気持ちいいわね」
青空の下で杏理が指を絡めてくる。
「そうだな」
杏理に完璧な微笑みを見せながら、不破は、真理のことだけを愛していた。
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