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【番外編】恋の運命(大学生編)
1.チョコレートパフェとブラックコーヒー
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久しぶりのデートだというのに雅治の表情が冴えない。
在学中に司法試験合格を目指す雅治は大学の講義、ゼミ、レポート提出に加え、弁護士事務所でアルバイトもしていて、遊び気分で三流大学に通っている自分とは違うのだろうと晶もそのへんは(一応)理解している。
けれど「忙しい」と言いながら雅治が最近、サークル仲間と軽井沢に遊びにいったことを晶は知っていた。
二人の仲が壊れればいいと願っている人間は男女を問わず少なからずいて、幸か不幸か会っていない間の行動を耳に入れてくれるお節介な人間はたくさんいた。
もちろん面白いはずはなかったが、適当に遊んでいるのは自分も同じだったし、聞いてしまったことは胸に収めて、たまに会える時間は存分に楽しもうと晶は思う。
それなのに雅治ときたら眠そうな顔で横を向いて雑誌をめくっている。
あまり人のいない昼下がりの喫茶店で、晶は退屈で死にそうだった。
「雅治!」
呼ばれて顔を下げた雅治は晶をではなく、晶の前に置かれた空のガラス容器を見て「おかわりか?」と聞いた。
「違うっ!こんなモン、2個も食えるかっ!」
晶が食べたのは普通のサイズならゆうに3個分はありそうな特大のチョコレートパフェだった。
大声で「こんなモン」と言われ、カウンターの中で苦笑いのマスターと目があって、雅治は詫びるように頭を下げた。
それから晶を目だけで叱り「じゃあ、なに」と聞く。
「なにじゃねーよ、つまんねーよ。なんか喋れ」
「なんかって、なに」
「なんでもいいよ。いま雅治が一番興味のあることで」
「オレの興味のあること?六法全章のハナシ、聞きたいか」
「聞きてーわけねーだろ!」
ムッとして晶は雅治の前に置かれていたアイスコーヒーを奪って一気に飲んだ。
「にがーっ!なんだよ、これ。シロップ入ってねえじゃん!」
「ああ、最近、急に甘いものが苦手になって、ブラックに変えたんだ」
この前会ったときは、普通のアイスコーヒーを飲んでいた。
最近、会うたびに雅治は少しだけ前と違うような気がする。
それは甘みのないコーヒーのような些細な変化だったが、晶には、雅治が自分に断りもなく、勝手に変わっていくようで、おもしろくなかった。
「もういい。行こう」
ホテルに、というつもりで晶は雅治を促した。
大学生になってからアルバイトをして金銭的に余裕のある二人は、身体を合わせるのにもっぱらシティホテルか時々面白半分にラブホテルを利用していた。
「悪いんだけど、今日はこれから予定があるんだ」
「は?!マジで?2週間ぶりに会ったのに、しねえの?!」
夏休みに入る前のテスト期間中から長い禁欲生活を強いられたせいで欲求不満の晶には信じられないことを言う。
「この埋め合わせは必ずするから。ごめん」
両手を合わせて拝まれて、晶は不貞腐れながらも雅治を許した。
「今度いつ会えるの」と聞けば「連絡する」と、都合のいい女相手のセリフのような安いことを言われた。
「マスター、パフェおかわり!」
怒りを納めるために必要な糖分の補給をすべく、晶は叫んだ。
在学中に司法試験合格を目指す雅治は大学の講義、ゼミ、レポート提出に加え、弁護士事務所でアルバイトもしていて、遊び気分で三流大学に通っている自分とは違うのだろうと晶もそのへんは(一応)理解している。
けれど「忙しい」と言いながら雅治が最近、サークル仲間と軽井沢に遊びにいったことを晶は知っていた。
二人の仲が壊れればいいと願っている人間は男女を問わず少なからずいて、幸か不幸か会っていない間の行動を耳に入れてくれるお節介な人間はたくさんいた。
もちろん面白いはずはなかったが、適当に遊んでいるのは自分も同じだったし、聞いてしまったことは胸に収めて、たまに会える時間は存分に楽しもうと晶は思う。
それなのに雅治ときたら眠そうな顔で横を向いて雑誌をめくっている。
あまり人のいない昼下がりの喫茶店で、晶は退屈で死にそうだった。
「雅治!」
呼ばれて顔を下げた雅治は晶をではなく、晶の前に置かれた空のガラス容器を見て「おかわりか?」と聞いた。
「違うっ!こんなモン、2個も食えるかっ!」
晶が食べたのは普通のサイズならゆうに3個分はありそうな特大のチョコレートパフェだった。
大声で「こんなモン」と言われ、カウンターの中で苦笑いのマスターと目があって、雅治は詫びるように頭を下げた。
それから晶を目だけで叱り「じゃあ、なに」と聞く。
「なにじゃねーよ、つまんねーよ。なんか喋れ」
「なんかって、なに」
「なんでもいいよ。いま雅治が一番興味のあることで」
「オレの興味のあること?六法全章のハナシ、聞きたいか」
「聞きてーわけねーだろ!」
ムッとして晶は雅治の前に置かれていたアイスコーヒーを奪って一気に飲んだ。
「にがーっ!なんだよ、これ。シロップ入ってねえじゃん!」
「ああ、最近、急に甘いものが苦手になって、ブラックに変えたんだ」
この前会ったときは、普通のアイスコーヒーを飲んでいた。
最近、会うたびに雅治は少しだけ前と違うような気がする。
それは甘みのないコーヒーのような些細な変化だったが、晶には、雅治が自分に断りもなく、勝手に変わっていくようで、おもしろくなかった。
「もういい。行こう」
ホテルに、というつもりで晶は雅治を促した。
大学生になってからアルバイトをして金銭的に余裕のある二人は、身体を合わせるのにもっぱらシティホテルか時々面白半分にラブホテルを利用していた。
「悪いんだけど、今日はこれから予定があるんだ」
「は?!マジで?2週間ぶりに会ったのに、しねえの?!」
夏休みに入る前のテスト期間中から長い禁欲生活を強いられたせいで欲求不満の晶には信じられないことを言う。
「この埋め合わせは必ずするから。ごめん」
両手を合わせて拝まれて、晶は不貞腐れながらも雅治を許した。
「今度いつ会えるの」と聞けば「連絡する」と、都合のいい女相手のセリフのような安いことを言われた。
「マスター、パフェおかわり!」
怒りを納めるために必要な糖分の補給をすべく、晶は叫んだ。
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