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4.告白
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次の日、那智は仕事を休んだ。
軽い風邪だと連絡はあったが、それくらいで那智が番組の収録を休むはずがなかった。
嫌な胸騒ぎがして、那智抜きの収録が終わるのを待ちかねて、樫野は那智の部屋に向かった。
ところが、しつこいくらいインターフォンを押しても反応がない。
寝ているのか、それとも病院にでも行っているのか。
そうは思っても胸に広がる不安は膨らむばかりで、樫野はインターフォンを諦めて素手でドアを叩いた。
「那智!オレだよ、開けろよ!那智!」
しばらくすると、青白い顔をした那智がドアを開けた。
「……なんだよ」
「那智…。大丈夫か。どうした?」
「風邪だって、連絡入れただろ」
「風邪くらいでおまえが仕事休む?」
樫野の顔を見上げる那智の瞳が、なにかを迷っているように揺れる。
言おうか、やめようか。
那智のそんな迷いを樫野は見抜いた。
「那智、おまえ、何か隠してるだろ。言えよ」
那智の中に踏み込むように、腕を掴んで樫野は言った。
はっとして那智は掴まれた腕を振り解く。
「何でもない、ほっといてくれ」
言って、拒絶するように背中を向けた。
「…悪いけど、樫野、帰ってくれないか。疲れてるんだよ…休みたいんだ」
「帰れるわけねーだろ!来いよっ!」
樫野は那智の腕を引っ張り、部屋に上がりこんだ。
那智を座らせて、その前に座り、肩に手を置き目を覗き込みながら言う。
「心配なんだよ、おまえのこと。このままじゃ、なにも手につかない。昨日も、様子が変だったろ。どうしたんだ?オレに言っても何にもならないかもしれないけど、オレが、気になるんだ。だから、頼むから、言ってくれよ。那智!」
自分でもどうしてこんなに不安なのかわからないまま、必死で樫野は言った。
本当に何でもないなら笑って欲しい。
「心配しすぎなんだよ」、そう笑い飛ばして欲しい。
けれど那智は縋るような瞳を向けて、思いもよらないことを言った。
「記憶が…なくなるんだ、突然。いくら思い出そうとしても、思い出せない」
想像もしていなかった言葉に、樫野は目を見開く。
「冗談だろ?」
「…はじめはちょっとしたことだった。家の中にあるはずのものをどこに置いたのかわからなかったり、買ったばかりの服を、いつどこで買ったのか思い出せなかったり」
「なに、言ってるんだよ、那智?」
「最近は振りが、わからないんだ。知っていて当たり前の、ダンスのフリが。歌詞も思い出せない、ことが…ある。ツアー中は、毎朝、必死で覚えていた…んだ」
唇が震えているせいで、那智の言葉が聞きとりにくい。
樫野も動揺していた。
言葉が出なかった。
「だんだん…ひどく、なるんだ。朝、起きる度に忘れていることが多くなってる気がする。高校の時の担任の名前、同じクラスで仲の良かったヤツの名前…、帰りによく行ったはずの定食屋…、わからない、わからないんだよ」
「まさか、昨日のインタビューも?」
那智は震えながら頷いた。
「おまえらが言ってること、覚えがなかった。何言ってるんだろう…誰のこと、話してるんだって…そんな記憶…オレには、なくて…」
樫野はあまりの衝撃に、那智を慰めることも出来ずにただ、息を飲んで黙り込んだ。
「樫野…、このままだとオレ、なにもかも、忘れるような気がする」
那智の身体の震えが掴んだ肩から伝わる。
「…怖いんだ」
どうしたら那智の身体の震えを止められるのかわからなくて樫野は、那智の身体を自分の胸に引き寄せた。
「…怖いよ、樫野、怖い」
「病院行ったのか」
やっと、樫野はそれだけ聞くことが出来た。
樫野のシャツの襟元を掴みながら、那智は小さく頷いた。
「医者、なんて?」
今度は弱く首を横に振る。
樫野はそれでも震えのおさまらない那智の体をきつく抱きしめた。
そうしないと、那智がどこかに行ってしまいそうだと思った。
軽い風邪だと連絡はあったが、それくらいで那智が番組の収録を休むはずがなかった。
嫌な胸騒ぎがして、那智抜きの収録が終わるのを待ちかねて、樫野は那智の部屋に向かった。
ところが、しつこいくらいインターフォンを押しても反応がない。
寝ているのか、それとも病院にでも行っているのか。
そうは思っても胸に広がる不安は膨らむばかりで、樫野はインターフォンを諦めて素手でドアを叩いた。
「那智!オレだよ、開けろよ!那智!」
しばらくすると、青白い顔をした那智がドアを開けた。
「……なんだよ」
「那智…。大丈夫か。どうした?」
「風邪だって、連絡入れただろ」
「風邪くらいでおまえが仕事休む?」
樫野の顔を見上げる那智の瞳が、なにかを迷っているように揺れる。
言おうか、やめようか。
那智のそんな迷いを樫野は見抜いた。
「那智、おまえ、何か隠してるだろ。言えよ」
那智の中に踏み込むように、腕を掴んで樫野は言った。
はっとして那智は掴まれた腕を振り解く。
「何でもない、ほっといてくれ」
言って、拒絶するように背中を向けた。
「…悪いけど、樫野、帰ってくれないか。疲れてるんだよ…休みたいんだ」
「帰れるわけねーだろ!来いよっ!」
樫野は那智の腕を引っ張り、部屋に上がりこんだ。
那智を座らせて、その前に座り、肩に手を置き目を覗き込みながら言う。
「心配なんだよ、おまえのこと。このままじゃ、なにも手につかない。昨日も、様子が変だったろ。どうしたんだ?オレに言っても何にもならないかもしれないけど、オレが、気になるんだ。だから、頼むから、言ってくれよ。那智!」
自分でもどうしてこんなに不安なのかわからないまま、必死で樫野は言った。
本当に何でもないなら笑って欲しい。
「心配しすぎなんだよ」、そう笑い飛ばして欲しい。
けれど那智は縋るような瞳を向けて、思いもよらないことを言った。
「記憶が…なくなるんだ、突然。いくら思い出そうとしても、思い出せない」
想像もしていなかった言葉に、樫野は目を見開く。
「冗談だろ?」
「…はじめはちょっとしたことだった。家の中にあるはずのものをどこに置いたのかわからなかったり、買ったばかりの服を、いつどこで買ったのか思い出せなかったり」
「なに、言ってるんだよ、那智?」
「最近は振りが、わからないんだ。知っていて当たり前の、ダンスのフリが。歌詞も思い出せない、ことが…ある。ツアー中は、毎朝、必死で覚えていた…んだ」
唇が震えているせいで、那智の言葉が聞きとりにくい。
樫野も動揺していた。
言葉が出なかった。
「だんだん…ひどく、なるんだ。朝、起きる度に忘れていることが多くなってる気がする。高校の時の担任の名前、同じクラスで仲の良かったヤツの名前…、帰りによく行ったはずの定食屋…、わからない、わからないんだよ」
「まさか、昨日のインタビューも?」
那智は震えながら頷いた。
「おまえらが言ってること、覚えがなかった。何言ってるんだろう…誰のこと、話してるんだって…そんな記憶…オレには、なくて…」
樫野はあまりの衝撃に、那智を慰めることも出来ずにただ、息を飲んで黙り込んだ。
「樫野…、このままだとオレ、なにもかも、忘れるような気がする」
那智の身体の震えが掴んだ肩から伝わる。
「…怖いんだ」
どうしたら那智の身体の震えを止められるのかわからなくて樫野は、那智の身体を自分の胸に引き寄せた。
「…怖いよ、樫野、怖い」
「病院行ったのか」
やっと、樫野はそれだけ聞くことが出来た。
樫野のシャツの襟元を掴みながら、那智は小さく頷いた。
「医者、なんて?」
今度は弱く首を横に振る。
樫野はそれでも震えのおさまらない那智の体をきつく抱きしめた。
そうしないと、那智がどこかに行ってしまいそうだと思った。
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