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第136話 ハリーの為に、決断

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「幽閉?お父様は閉じ込められてるの?」

動揺した様に声が震えるハリー。
ウィドーが答える。

「ここ数日、城から出て来ねえんだ。そうに決まってるだろ。」

「え?でも何で……。」

ウィドーの言葉に戸惑うハリー。
その肩をガシッと掴むリンツ。
力強い口調で言った。

「落ち着きなさいませ。まだ決まった訳ではございません。」

「何だ、俺の言う事が信用出来ないってのか?」

リンツにウィドーが反論。
でもすぐに返される。

「お前は先程から推測でしか物を言っていない。信用以前の事だ。」

「ぐうっ……!」

「それにお前は何処まで付き添いだ?言いたまえ。」

「……城の前まで。肩に留まってたら流石に怪しまれるだろ?だから窓から入ろうと……。」

「それで入り損ねた。それで逃げ帰って来たのか?」

「違う!それだけは断じて違う!」

リンツの問い詰めに、必死に反対するウィドー。

「何度も入ろうとしたさ!でも変な結界が張ってあって。仕方無く裏口から侵入しようとしたら、《あいつ等》が……。」

「あいつ等?」

「さっきのカラス共だよ!『裏切り者!』とか叫びながら俺を襲って来たんだ!だから命からがら逃げて来たんだ!」



「裏切者、ねえ。」



リンツとウィドーの言い合いに、ヌッと割り込むクライス。

「わっ!」

びっくりするウィドー。
さっきまで結構離れていた筈。
話を聞かれない様、少しずつ遠ざかっていた。
油断も慢心もしていない。
なのに一瞬で間合いを詰められた。
こいつ、怪しい……。
クライスを勘繰り始めるウィドー。
そこへメイも姿を見せる。
ウィドーにこう言った。

「こいつは結構な地獄耳なの。隠そうとしても無駄。逆に好奇心を駆り立てるだけよ。」

「それは褒め言葉か?」

「うっとおしい奴だって言ってんのよ。全くあんたって奴は。」

「済まんな。性分でね。何でも知りたがりなんだ。」

クライスとメイの会話から、話をらす事も出来ないと悟るリンツ。
打ち明ける決心をした様だ。

「魔物と共にするあなたには、話しておいた方が良いのかもしれませんね。聞いて頂けますか?」

「俺で良ければ。」

「あなたのみでお願いします。あ、そこの猫さんは同席して宜しいですよ。」

「ありがと。」

軽く会釈するメイ。
『ちょっとみんな離れててくれ』と、クライスが馬車の周りに居る仲間へ声を掛ける。
聞きたくてうずうずしていたラヴィを、引き摺る様にセレナが連れて行く。
まごまごしているハリー。
リンツが前屈みになり、頭を撫でながら優しく言う。

「お嬢様には、まだ申し上げられません。御容赦を。」

がっくりして、ハリーはトクシーの元へと戻る。
エミルは、ハリーをなだめながら共に馬車へ。
残ったのはリンツ、ウィドー、クライス、そしてメイ。
密かな会談が始まった。



まず話を切り出したのは、リンツ。

「旦那様は、或る使命を帯びて動いておりました。」

「その護衛が俺って訳だ。」

胸を張るウィドー。
それを無視して話を続ける。

「その為には、お嬢様を或る事に利用せざるを得ませんでした。」

「ふうん。」

敢えて聞かないメイ。
見当は付いているが。

「それでお嬢様を送り届ける途中だったのですが。気付いた時には姿が見えず、探し回っておりました。」

「嫁ぎ先に行く途中だった、と?」

クライスの相槌。
リンツの話は続く。

「はい。困った私共は方々を探し回りました。そしてようやく見つけた訳でございます。」

「ふむふむ。」

今度はメイの相槌。

「何故か網を持っておりましたが、土産に珍しい生き物を持って行こうとしたのでしょう。」

「それで振り回していたのね。」

メイの疑問は晴れた。
確かに妖精は珍しい。
しかし、婚約相手は見えるのだろうか?
それも考えず振っていたのか?
そもそも網は何処から?
新たな疑問が次々と、メイを襲う。
構わず話は続く。

「旦那様は、婚約の報告に城へ出向いたのでございます。」

「俺が付き添ってな。」

また偉そうにするウィドー。

「でも城の中で何か有った、若しくはハリーの脱走が伝わって事態が変わった。」

「と考えるのが、筋が通ります。」

クライスの言葉にそう返すリンツ。

「じゃあ『裏切者』ってのは、誰が誰に言ったのさ?」

分かっているくせに。
わざわざ俺に答えさせる為、敢えて話を振るか。
メイの質問に、クライスは答える。



「恐らく『ムヒス家』に。そして『黒幕』が、だな。」



「そ、それはどう言う……。」

とぼけなくても宜しいですよ。粗方あらかた、裏事情は掴んでますから。」

尚も話を濁そうとするリンツに、クライスからのキツい一撃。
メイも重ねる。

「王族反対派、それを越えた何か。それに携わってるって事。」

「!」

言葉に詰まるリンツ。
旦那様と呼ぶ当主から、話は聞いていた。
評議会で暗殺未遂が発覚した事を。
それでも動かざるを得なかった。
でなければ、こちらが消されるから。
そう、黒幕に。
声を絞り出すリンツ。

「そう、ですか……。」

「俺達はそれに関わる旅をしています。実は、俺達は皇帝陛下への使者なのです。」

「ちょっと!相談無しで言っちゃって良いの!」

軽はずみな言動と捉えたメイ。
でも、クライスの発言は意図的だった。

「あなたは、出来ればハリーを巻き込みたく無い。でもどうしようも無い。そうですね?」

リンツの覚悟を確認するクライス。
黙って頷くリンツ。

「なら、同盟を組みましょう。」

「ど、同盟!」

クライスの提案に驚くウィドー。

「魔物のお前なら分かるだろう?この先の展開が。」

「ま、まあな。」

そう答えるウィドー。
黒幕が、このまま放って置く筈が無い。
綱紀粛正の名の下に、見せしめの抹殺を行う可能性がある。
その対象には、勿論自分も含まれる。
嫌なこった。
何で人間の都合で、俺がとばっちりを食わなきゃ行けないんだ。
そう考えていた。
クライスが言う。

「だから、危機を脱するまで一時的に手を組むんです。幸いにも、目的地は同じ。悪く無い案でしょう?」

「は、はあ……。」

提案を呑まざるを得ない状況。
致し方あるまい。
こちらの事情が、全て白日の下に晒されてしまうかも知れないが。

「決まったとなれば、一刻も早く行動あるのみ。」

『さっさと行くわよ』とメイは、決定を報告しに馬車へ向かった。
向こうでは、不安そうな顔のハリー。
『あんたの父親を助けるわよ』とか何とか適当に言いつくろって、ハリーを安心させようとするメイ。
すると、ハリーの顔に笑顔が戻った。
少しホッとするリンツ。



それをよそに、クライスはウィドーへ耳打ちする。

『ちょっと聞きたい事が有る。』

『な、何だ?』

『重要な、な。』

そう言ってニタリと笑うクライス。
背筋がゾッとするウィドー。
魔界広しと言えども、そこまで震撼させる者はまず居ない。
本当に何者だ?
得体の知れない心の奥底を探ろうとして、踏み止まるウィドー。
ゴクリと唾を呑み込んで、クライスの質問を待つ。
クライスから発せられた内容を聞いて、またもゾッとする。
怖い!
逃げたい!
そう思わせるに十分な、クライスの質問とは?
それはまた後程のちほどに。
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