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第180話 繋がる先は

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ポウッと、メイの身体が光る。
それを明かりに、薄暗い通路を通って行く。
幅は1.5メートル程、高さ2メートル程。
背の高い人間は、天井を気にする事だろう。
通路は初めが下り階段、しかも建物3階分に近い落差。
そこから真っ直ぐ水平に伸びている。
何処へ向かっているのだろう?
しばらく歩くと。
今度は登り階段。
建物1階分を上がると。
少し前に進む。
目の前には、右側に取っ手が付いた木の壁。
テノがガシッと取っ手を掴み。
左へスライドさせる。
グググウッと通路一杯に動かすと。
目の前には薄暗い部屋が。
やや埃っぽいのが気になる。
蜘蛛の巣もあちこちに見える。
目が慣れて来ると、もっとはっきり見えて来る。
ラヴィが目を凝らすと。

「倉庫?それにしては、やけに物が置いてあるわね。」

きちんと整理されている訳では無い。
無造作に物が置かれている。
くわかま、鍋、フライパンの様な物。
農耕器具や料理関係の物が、区別されずごちゃまぜに。
まるで何かを隠す様。
ラヴィ達がここが何処かを考えている間に、テノは動かした木の壁を元の状態に戻す。

「あっ!」

「気付いたかい?これは壁じゃなくて棚だよ、単なる。」

ラヴィの歓声に、テノが答える。
空の棚を壁代わりに置いてあるだけ。
開け閉め出来ればそれで良い。
逆に物が置かれては、重量が増えて動かせなくなる。
誰もここに立ち入らせない為のギミック。
それがこの無秩序状態。
足の踏み場も無い程、色々な物が転がっている。
これなら、棚に近付いて何かを探ろうなんて考えない。
面倒臭く感じさせる事こそ重要。
だから、この部屋の用途などどうでも良いのだ。
問題は。
そこそこの広さの、この空間。
ざっと縦横3メートル、高さ2.5メートルと言った所か。
平均的な広さのその奥、壁の中央に。
鉄骨製に見える、螺旋状の登り階段が。
少し錆びている様にも思えるが……。

「大丈夫ですか?途中で崩れたりしませんか?」

恐る恐るテノに尋ねるセレナ。
こんな所で怪我をしたら、元も子も無い。
笑って返すテノ。

「これまでしょっちゅう使っていたから、まだ持つ筈だよ。」

そう言って階段に近付き、外側の手すりに手を掛けるテノ。
時計回りにスタスタと登って行く。
後に続くラヴィ達。
螺旋階段なんて、滅多に登らない。
こんな形状にしなければならない程の狭い家屋で、この世界の人は暮らしていない。
必要無いので経験が乏しい。
となると当然、使うのにも慣れていない。
目が回りそうなラヴィ。
別の点で不安が的中するセレナ。
彼女もまた酔いそうだった。
馬車等は何て事無いのに。
あっと言う間に駆け上がるロッシェは、そんな事お構い無し。
錬金術師はあらゆる局面に遭遇する事を想定して常に動いているので、苦も無くアンは上っていく。
上り切ったその先は。
トイレの個室と間違う程に狭い空間。
しかも天井が低い。
1メートルも無い。
勢い良く上がったロッシェは、当然の様に天井に頭をぶつける。
頭を抱えてうずくまる様子を見て、慎重に上がった他3人は無事に到達。
それにしても、このすし詰め状態。
早く脱したい。
『まだ?』とテノを急かすラヴィ。
テノは慎重に手を添えて、目の前の壁をまたしても左にスライド。
すると。



「あれ?キッチン?」



開けた空間。
スライドさせた壁の横には、オーブンの様な物が設置されている。
い出す様に匍匐ほふく前進して、各自空間の中へ。
出口の方を振り返ると、上には食器棚が。
壁と思った物は、ただの扉。
なるほど、道具を仕舞う場所に見せかけているのか。
二重のトラップ。
盗人ぬすっとが入り込んでも、何も取らずに退散するレベル。
窓のガラスも微妙に割られている。
隙間風がラヴィ達の横をすり抜ける。
これでは、住むのに適しているとは言えない。
放置された空き家。
わざとそう言う風に偽装しているのだろう。
廊下を覗いてみるラヴィ。
部屋が2つ在り、どちらも窓ガラスが欠けている様だ。
何と言う凝り様。
感心しているラヴィ達を他所に。
勝手口の様なドアへ近付くテノ。
そして皆を呼ぶ。

「ここから外へ出るんだ。玄関からだと怪しまれるからな。」

ギイッと慎重にドアを開けるテノ。
顔を出して辺りを確認。
人が居ないと確信すると。
外へ出て手招き。
慌てて付いて行くラヴィ達。
皆が外へ出ると、テノはそっとドアを閉めた。



「ここは……?」



細い路地の間から垣間見える、見覚えの有る街並み。
……そうか!
聡明なセレナは逸早いちはやく気付く。
スラッジから墓地を抜けて、外周の中へと入って来た所。
その目の前に広がっていた、あの町並みと同じなのだ。
荒くれ物を相手に暴れ回った自分が、初めに気付くのは道理。
他の人達は、自分に意識がいっていたろうから。
建物に強烈な印象はあるまい。
セレナの態度に、テノも察した様だ。
『ここは北東の住宅街だよ』と小声で教える。
それを聞いて、ラヴィ達は納得。
ここからなら、お忍びで外へ出るには都合が良い。
なるべく音を立てない様に、路地を進むテノ。
歩む姿は、慣れたものだ。
真似をして静かに続くラヴィ達。
家屋を2、3軒通り過ぎて。
外周に沿って続く、あの道へ出た。

「ここは住宅街の中でも、一番北に近い場所なのだよ。」

少し反時計回りに歩いて安全を確保した後、テノが言う。
内周の北側に検問所が無い訳。
すんなりと王宮に入れない為もあるが。
こう言った隠し通路を用意し、脱出経路を確保する為でもあった。
たまに使わないと、ドアなどが動かなくなる恐れもあるが。
テノは退屈を感じては外に出かけていたので、その心配は無かった。
だが面倒臭い事に。
検問所は内周には無いが、外周には有る。
帝国領土は北にも広がっているので、当然そこからの旅人が通過する場所を設置しなければいけない。
でも旅人の訪れは、まれな事。
ましてや内側からなんて、とてもとても……。
衛兵が両脇に1人ずつ立っているが、ここをどう通過する?
そればかりはテノも考えていない。
町中まちなかに出向く事はあるが、外周の外までは滅多に出ない。
しかもその時は大抵、南から出る。
人々に自分の存在を目撃させて、不意に襲撃されない様にする為。
堂々と出て行く。
今回はそれが出来ない。
仕方無い、《彼》を待つか。
検問所が見えるギリギリの所まで後退し、皆その場に座り込む。
通路を通って来た時に付いたのか、服は埃や蜘蛛の巣がちらほら。
ラヴィが払おうとするも、アンに止められる。
『この方が、旅人に見える』と諭されて。
ああっ、気持ち悪い!
払いたいのに!
こらっ!
早く来なさいよ!
そう心の中で唱えながら、合流を急かすラヴィ。
その思いを見透かす様に。
すぐに彼はやって来た。
さて、お手並み拝見と行こうじゃないか。
テノは内心、ワクワクしていた。
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