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第286話 ブラウニー、成長す

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皆が落ち着いた所で。
これからどうするか、話し合う。
フサエンとシェリィは、戦火を避ける為〔ドグメロ〕へと向かう。
今王宮へ戻るのは、反って危険だと判断し。
シーレと王女達も、ドグメロで世話になる事に。
アイリスの3人は、本拠地が在る森へと戻る。
ノーレンは事態の収拾を報告しに、王宮へと向かう。
報酬に関する交渉の為、リゼはノーレンに部下を連れて行く様迫る。
約束をした以上、守るのが騎士道。
リゼに堂々と宣言し、ノーレンは部下の同行を許す。
『そうと決まれば』と。
商談を手早くまとめる為、リゼ達はとっとと去って行った。
フサエン達も、ドグメロへと歩き出す。
その中で1人、身の振り方を悩む者が。
ブラウニー。
不本意にも政争に巻き込まれ、いつの間にか決着が付いていた。
馬も荷車も無事で、自分の身も何とも無い。
それでも何か、やりきれない気持ちになる。
俺は一体、何をやっていたのだろう……?
どうしてもそう考えてしまう。
何せ不思議な力など持たない、ただの一般人なのだから。
去り際に、シーレがブラウニーへ声を掛ける。

「娘達の身を守って頂き、ありがとうございました。」

そう言って、丁寧に頭を下げるシーレ。
『いやいやいや!』と恐縮するブラウニー。
仮にも元王妃。
王族の一員には違いない。
ルビィの時とは違い、無礼な態度を今更取れる訳も無く。
『頭をお上げ下さい!』と懇願するので精一杯。
頭を上げ、ブラウニーへ尋ねるシーレ。

「これからどうなさるので?」

少し考えた後、ブラウニーは答える。

「取り敢えず国境を越えて、故郷へ帰りますよ。親父が待っていますから。」

「その後は?」

「その後ですか?うーん……。」

そこまでは考えていなかった。
商人としての経験を積む為、荷運びをする事にした。
それはただ届けるだけで、空になった荷車を引いて屋敷へ戻る。
元々、それだけのつもりだった。
本格的な行商をするには、まず店頭売りで慣れないと。
《あの連中》程の交渉術を身に着ける為には、地道に成果を積み上げて行くしか無い。
親父から、少し聞かされていた。
町のごたごたを何とかしちまう程の、話術の持ち主だったとは。
ブラウニーは未だに、前に尋ねて来た者達の正体を知らない。
父親の〔フチルベ〕と接触が有ったらしいので、尋ねてみたが。
曖昧な答えしか返って来なかった。
フチルベは、敢えて伏せていた。
『その方が幸せだろう』と。
そこでブラウニーは思い付く。
一念発起して、商人デビューを。
手始めに引き受けたのが、今回の仕事。
こんな結末になるとは、思いもしなかったが。
しかし、シーレの次の言葉でそれも報われる事となる。
それは……。



「もし宜しければ、運んで下さいませんか?《私達》を。」



「え?馬車はお使いにならないので?」

驚くブラウニー。
てっきりそうするものだと……。
首を横に振り、シーレは答える。

「それだと身分がバレてしまいます。それに……。」

「それに?」

「あの子達がそう望んでいるんです。『あなたが良い』と。余程大切に扱って頂いた様ですね。」

振り返るシーレ。
目線の先には。
少し離れた所で、フサエン達とシーレを待っている王女達。
心配そうに見守っている。
なるほど、そう来るか。
商売の神様も粋だねえ。
こんな素敵な荷物を運ばせてくれるとは。
ブラウニーはそう考え、シーレに対して答える。

「国境を再通過しないといけないので、少々お時間を頂けるなら。」

「……はい。お待ちしております。」

しっかりとした答えのシーレ。
表情からは、ホッとした気持ちが読み取れる。
断られたらどうしよう、そう考えていた様だ。
馬を繋いでいた縄を看板から解き、颯爽と荷車の運転席へ駆け上がると。
急いで〔ブロリア〕を目指し、発進するブラウニー。
『すぐに!すぐに戻って来ますから!』と言い残し。
大きく手を振りながら、十字路を後にする。
荷車の姿が見えなくなるまで、じっと立ち尽くし。
ブラウニーを確実に見送り終えると。
シーレはフサエン達と合流し、ドグメロへと向かった。



その後のブラウニーは。
シーレとの約束を果たすべく、一度実家へ顔を出し。
登場人物の身分を、多少ぼかしながら。
一連の出来事を、父親へと熱く語る。
その後すぐに。
『じゃあ!俺、行くから!』と、少量の手土産を荷車に乗せて。
再びドグメロへ向け旅立つ。
息子の成長に、感激しながらも。
話の中で出て来た『金のまゆ』に、興味を抱くフチルベ。
まさか《あの方》が、お力をお貸し下さったとか?
前に騎士達と、リンゴの販売権に関して揉めていた時。
鮮やかな術でそれを華麗に打ち破った、『金を操る錬金術師』。
有り難い事だ。
どれ程、助けられるのだろう。
どうやれば、恩返しが出来るのだろう。
そう思いを馳せながら。
屋敷の窓から見える空を見つめる、フチルベだった。



王女に関する騒乱は、これで幕引きとなった。
ワルスの思い通りにはならず、ユーメントの願い通りに事は進む。
そして、やや時が過ぎ。
いよいよ、最終局面に突入しようとしていた。
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