乙女ゲームのヒロインに転生したので百合エンドを目指します

鴨頭草

文字の大きさ
5 / 15

第5話 その案はボツで

しおりを挟む
「ありがとう、もう落ち着いたから」

 涙でびしょ濡れの顔で笑う前世の妹、今は親友(予定)。少し目元が腫れているけど、すっきりした表情だ。
 俺が死んだ後、どんな思いで生きていたのか分からない。その時に感じたであろう悲しみや苦しみは、いなくなった俺には どうしてやることも出来なかった。だからこそ、再び会えた今は出来る限り傍にいたい。


「いやー、それにしても、前世では双子、現世では親友かあ。つくづく私達って縁があるんだね」
「俺もそう思った」

 こんなおかしな場所でまた会えるなんて、これ以上の幸運は無いと思う。俺より遥かに この世界に詳しいから、頼もしいこと この上ない。

「あ、その発言、つまりは俺と親友になってくれるってコト?」
「当ったり前でしょ、何を今更。天花ちゃんとの出会いを楽しみにしてたし、それが誠なら絶対に離れないからね。大体、メインヒーロー対策には、私の知識が必要だよ」

 中心的な攻略対象を そう呼ぶのは知ってるんだけど、意地でも呼びたくない。

「……アレをヒーローと呼ぶのはちょっと。そもそも、〈俺の〉ヒーローじゃないし」
「そうだよね、ゴメン」
「いや、単に俺のワガママなんだけど」

 アレよりも、一つ上の先輩をメインに据えた方が良いんじゃないかと思う。口は悪いけど嘘は吐かないし、困った時には何処からともなく現れて助けてくれる。あまりのタイミングの良さに、現実だったらマッチポンプを疑われるレベルだ。

「まあ、あの人、メインの攻略対象にしては好き嫌いがハッキリ別れるから。結局、アニメでは最後まで天花ちゃんと付き合ってないし」

 そう言えば、もう一人のヒロインも誰とも結ばれなかった。

「メディア展開では誰とも付き合わないってパターンも割とあるよ。アニメは全部のキャラを一通り紹介するから、誰かとくっ付けるには尺が足りなかったり、ね」
「なるほど、まあ分かる」

 ゲームを知らない俺から見て、あの展開で誰かと付き合うのは無理がある。
 でも、これから会う野郎と、今の自分と同じ顔のキャラのラブシーンなんてモンの記憶があったら、かなり辛かった筈。アニメで付き合う展開が無くて本当に良かった。

「とにかく、あの先輩さえ気を付けていれば大丈夫。他の攻略対象は、多分気にしなくても良いと思う」
「腹黒同級生は?」

 けっこう絡まれてた気がするんだけど。

「あれは天花ちゃん以外には徹底的に猫被ってるから、一人で行動しなければ問題無し」
「そっか」
「高等部に入学してからの一年間がゲーム期間だし、天花ちゃんと朋深ちゃんは同じクラスになる筈だから、ずっと一緒にいれば何とかなるよ」

 一つ下の後輩はゲーム期間中は中等部校舎にいるし、天花が話しかけないと全く関わらない。確かに安心だ。
 でも、一つだけ心配なことがある。

「強制的に恋愛フラグ立てられたりしないのか?」
「あー、強制力ってやつが働くの、確かにあるかもね」

 普通にありそう。
 死ぬ筈だった人物がうっかり生き残ったせいで、辻褄を合わせる為に何度も死にそうになる、とか。どんなに回避しようが、容赦なく周りを巻き込んで遅い来る死の運命。そんな映画、あったよな。
 ここで俺達は普通に生きてるけど、元はゲームの世界。「漫画やアニメじゃあるまいし」と言って笑い飛ばせないのが辛い所だ。せめてもの救いは、恋愛がメインで、誰かが死ぬような物騒な話じゃなかったこと。
 いや、待てよ。

「聖、ゲームのルートによっては、その、誰かが死ぬ展開って、あるか?」
「無いよ。一つ上の先輩に身体の弱い妹さんがいるけど、容態が悪化することも無かったし」
「サンキュ」

 ゲーム通りの展開なら危険は無い。それが分かって一安心だ。


「だから恋愛方面の対策だけ考えていれば良いけど、問題は、強制力があるかどうかだよね」
「何でもそうだけど、最悪の場合にも対処可能なように準備するのが基本だろ。俺は、あると見做す」
「最悪って。でも、そうだね。今からどうするか考えよう」

 とは言っても、どうしたら良いか分からない。

「いっそ、彼氏(偽)を用意して諦めてもらうとか」
「偽物でも彼氏を作るってのは勘弁してくれ。そもそも、誰に頼むんだよ?」

 真似事でも嫌だけど、そんなのを引き受けてくれる都合の良い人物なんて、俺の周りには いない。

「そうだね、現世での私の従兄とか。二年先は分からないけど、今は彼女いないし。あ、でも本気で天花ちゃんに惚れてアタックしそう」
「絶対に嫌だ」

 考えたら、事情があって恋人の振りとか、本当の恋に発展する可能性が高いヤツじゃん! 俺は男相手に絶対そうならない自信があるけど、相手は どうなるか分からない。しかも今は見た目だけなら美少女だし、完全にアウトなヤツ!!

「考えてみたら、それっぽく振る舞うためにイチャイチャする必要もあるかも」
「彼氏以外で!」

 冗談じゃない。絶対にやりたくないし、どんなに頑張っても、嫌そうな顔でバレるに決まってる。

「彼氏が無理なら彼女、とか。それもナシかなあ」
「……それだ」
「えっ?」

 目の前の霧が晴れて行くかのようだ。
 そうだよ、そもそも百合エンドが存在するゲームの世界なんだから、それが一番良い方法だろう。何で今まで思い付かなかったんだ? 〈恋愛〉を避けることしか考えてなかったせいかな。でも、それが無理そうなら〈男〉を避ければ良いんだ。
 そうと決まったら、やるしか無い。もう一人のヒロインにはまだ会えないけど、新学期が始まったら仲良くなろう。

「本気なの? 今の誠は天花ちゃんなんだよ。女の子と恋愛、出来る?」
「普通に出来るぞ、相手さえ良ければ」

 中身は俺なんだから。

「それも そっか。じゃあ、私と付き合ってみる?」
「いや、それこそ あり得ねーだろ。中身は俺と聖なんだぞ」

 今は違うって言っても、元は双子の兄妹だ。中身が妹だって分かって、その気になる訳が無い。

「そうだけど、真似だけなら一番 無難だよ。お互いに気心も知れてるし、絶対に裏切らない保証付き」
「親友キャラ、プラス前世の片割れ、だからなあ」

 めっちゃ安心できるけど。

「女の子同士なら、きっと『本当って証明するためにキスしてみろ』とは言われないでしょ。一昔前ならともかく、この時流だから」

 確かに、そこは前世と同じだ。なら、間違ってもコイツと どうこうなる心配は無い。
 えっ、どうしよう。めっちゃ揺れてる。でもなあ、うーん。

「気持ちはありがたいけど、やっぱナシで。真似とかじゃなくて、ちゃんと相手を見付けて恋愛しよう。お互いに」
「…………うん。分かった」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

最高魔導師の重すぎる愛の結末

甘寧
恋愛
私、ステフィ・フェルスターの仕事は街の中央にある魔術協会の事務員。 いつもの様に出勤すると、私の席がなかった。 呆然とする私に上司であるジンドルフに尋ねると私は昇進し自分の直属の部下になったと言う。 このジンドルフと言う男は、結婚したい男不動のNO.1。 銀色の長髪を後ろに縛り、黒のローブを纏ったその男は微笑むだけで女性を虜にするほど色気がある。 ジンドルフに会いたいが為に、用もないのに魔術協会に来る女性多数。 でも、皆は気づいて無いみたいだけど、あの男、なんか闇を秘めている気がする…… その感は残念ならが当たることになる。 何十年にも渡りストーカーしていた最高魔導師と捕まってしまった可哀想な部下のお話。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

転生したら悪役令嬢になりかけてました!〜まだ5歳だからやり直せる!〜

具なっしー
恋愛
5歳のベアトリーチェは、苦いピーマンを食べて気絶した拍子に、 前世の記憶を取り戻す。 前世は日本の女子学生。 家でも学校でも「空気を読む」ことばかりで、誰にも本音を言えず、 息苦しい毎日を過ごしていた。 ただ、本を読んでいるときだけは心が自由になれた――。 転生したこの世界は、女性が希少で、男性しか魔法を使えない世界。 女性は「守られるだけの存在」とされ、社会の中で特別に甘やかされている。 だがそのせいで、女性たちはみな我儘で傲慢になり、 横暴さを誇るのが「普通」だった。 けれどベアトリーチェは違う。 前世で身につけた「空気を読む力」と、 本を愛する静かな心を持っていた。 そんな彼女には二人の婚約者がいる。 ――父違いの、血を分けた兄たち。 彼らは溺愛どころではなく、 「彼女のためなら国を滅ぼしても構わない」とまで思っている危険な兄たちだった。 ベアトリーチェは戸惑いながらも、 この異世界で「ただ愛されるだけの人生」を歩んでいくことになる。 ※表紙はAI画像です

処理中です...