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※
それから数ヶ月経っても、私への求婚は止む気配がなかった。
毎日のように屋敷にやってくる男達に疲れ切った私は、仮病を使って家に引きこもった。
「お嬢様、今日もお見舞いの品がこんなにたくさんありますよ!」
侍女が私の部屋にまた花を持ってきた。
「このままじゃ私の部屋が植物園になりそうだわ」
「あら? それはそれで素敵じゃありませんか」
他人事だと思っているのだろう。侍女は呑気に笑うと、新しい花を飾り付けて、古いのを処分した。
「お手紙もありますが」
「今は見たい気分じゃないから、例の場所に保管しておいて」
「かしこまりました。……あ。でも、これは流石に目を通された方が良いかもしれません。不快になるかと思いますが」
彼女は少し困ったような顔をして私に手紙を差し出した。
「これは?」
「ラウル殿下の使いを名乗る方が、お嬢様に渡すようにと仰っていまして」
「ふぅん」
封筒には王室の蝋印がなかった。という事は、非正規な形で送ってきたことになる。
私は封を開けて手紙を取り出した。書かれている文字はラウルの物で間違いない。
それを読み進めていくうちに、自然と眉間に皺が寄っていく。
手紙の内容はこうだった。
ラウルによると、彼はルーナとの婚約に悩んでいるらしい。なんでも、ルーナの父親であるコロンナ伯爵が頑ななまでに、二人の交際に反対しているのだそうだ。
だから、ラウルが直々にコロンナ伯爵の下へ説得に行った。けれど、伯爵は「婚約者を公の場で辱めるような優しさも配慮もない非道な男に娘はやれない!!」と一喝して、ラウルを追い返したそうだ。
コロンナ伯爵家夫妻は、政略結婚にも関わらず、大変仲の良い事で知られていた。伯爵夫人はお茶会で、「夫は誠実で堅実な所が素敵なんです」と惚気ていたことを記憶している。
そんな彼らが、愛娘を愛人に貶めた上、婚約者に酷い裏切りをした男を許すはずがなかった。
だから、そうなるのは当然なのだけれど。
━━それを私に伝えてどうするのよ!?
これ以上、私を巻き込まれないで欲しい。元婚約者の婚約事情など、知った事ではないわ! これから私は私の人生を送るのだから。そこにラウルが入り込む隙を作る気は一切ないのだ。
そう思いながら、手紙をビリビリに破った。そして、それを処分するようにと侍女に渡した。
※
そ婚約破棄の宣言から半年の月日が経ってからも、依然として求婚に訪れる者は少なくなかった。
そして、今日はとんでもない人がやって来た━━
「ビアンカ嬢を迎えに来た」
屋敷の扉を開けるなり堂々と宣言したのは、冷酷無比と名高い隣国の公爵、ジェラルド・フォン・アイゼンハルト様だった。
これには、いい加減、私への求婚の対応にも慣れていた使用人達も、慌てふためいた。
しかも、こんな日に限って両親はいない。もしかしたら、ジェラルド公爵は、それを狙って来訪したのかもしれない。
だから、私直々に彼の応対をしたのだけれど━━
「私を、迎えに来たですか?」
念の為に、その意志を確認すると、彼は頷いた。
「前々から君の聡明さと美しさに惹かれていたんだ。婚約解消の話を聞いて、慌てて国を飛び出して来たよ」
「はあ……」
「ぜひ我が妻になって欲しい」
「ジェラルド公爵、冷静になって下さい。私達、面識はほとんどないでしょう? 数年前に、ほんの少しだけ話をしただけではありませんか。それなのに、私の『聡明さ』や『美しさ』なんて分かるものでしょうか」
「少し話しただけで分かったよ。君の所作とその唇から紡がれる言葉が、それを知らしめていたから」
そう言って彼は私の手を掴み、手の甲にキスを落とした。そして、上目遣いで私を見てくる。
━━なにこれ、かっこよすぎるんですけど!
美男子からの情熱的なスキンシップに、私の頬は自然と熱くなった。
侍女達も同じ気持ちだったらしく、仕事中ということを忘れて「きゃーっ」と歓声をあげた。
「い、いえ。仮にそうだとしても、私は自由に生きたいので……」
「ならば、君の自由も一緒に守ると保証しよう。無論、不自由にさせる気は、端からないがな」
自信満々に言うジェラルド公爵を見た侍女達は、「もうこの人にしちゃえ!」と言いたげに私を見ていた。
━━侍女達もおかしくさせて。なんなのこの人!? かっこよすぎなのよ!!
困惑する私を見た彼は、くすりと笑った。
「俺は狙ったものは逃さないが、焦るつもりもない。ビアンカ嬢が俺に惚れるまで、気長に待つとしよう」
彼はそう言うと、もう一度手の甲にキスをして、屋敷から去っていった。
それから、たった2日も経たず、ジェラルド公爵からの求婚の噂が広まったらしい。
焦った様子の求婚者達が、ボルジア家の屋敷に押しかけて来た。
「公爵閣下と争う事になろうとも、私は諦めない!」
「まだ正式に決まったわけではないからな」
「そうだ! ジェラルド公爵に出し抜かれる前に、我らが婚約すればよいのだろう」
「ならば、試練を設けようではないか。その試練の勝者がビアンカ様を娶るのはどうか!?」
「それは名案だな!!」
━━やめてーーーっ!!!
頷き合う彼らを見て、私は心の中で叫んだ。
私を巡って決闘大会が開かれるなんて、冗談じゃない。それこそ、稀代の悪女みたいじゃないのっ!
━━ああ、私の自由で快適な日々はいつやって来るの?
私は頭を抱えながら、それだけはやめてと必死に彼らを説得した。
それから数ヶ月経っても、私への求婚は止む気配がなかった。
毎日のように屋敷にやってくる男達に疲れ切った私は、仮病を使って家に引きこもった。
「お嬢様、今日もお見舞いの品がこんなにたくさんありますよ!」
侍女が私の部屋にまた花を持ってきた。
「このままじゃ私の部屋が植物園になりそうだわ」
「あら? それはそれで素敵じゃありませんか」
他人事だと思っているのだろう。侍女は呑気に笑うと、新しい花を飾り付けて、古いのを処分した。
「お手紙もありますが」
「今は見たい気分じゃないから、例の場所に保管しておいて」
「かしこまりました。……あ。でも、これは流石に目を通された方が良いかもしれません。不快になるかと思いますが」
彼女は少し困ったような顔をして私に手紙を差し出した。
「これは?」
「ラウル殿下の使いを名乗る方が、お嬢様に渡すようにと仰っていまして」
「ふぅん」
封筒には王室の蝋印がなかった。という事は、非正規な形で送ってきたことになる。
私は封を開けて手紙を取り出した。書かれている文字はラウルの物で間違いない。
それを読み進めていくうちに、自然と眉間に皺が寄っていく。
手紙の内容はこうだった。
ラウルによると、彼はルーナとの婚約に悩んでいるらしい。なんでも、ルーナの父親であるコロンナ伯爵が頑ななまでに、二人の交際に反対しているのだそうだ。
だから、ラウルが直々にコロンナ伯爵の下へ説得に行った。けれど、伯爵は「婚約者を公の場で辱めるような優しさも配慮もない非道な男に娘はやれない!!」と一喝して、ラウルを追い返したそうだ。
コロンナ伯爵家夫妻は、政略結婚にも関わらず、大変仲の良い事で知られていた。伯爵夫人はお茶会で、「夫は誠実で堅実な所が素敵なんです」と惚気ていたことを記憶している。
そんな彼らが、愛娘を愛人に貶めた上、婚約者に酷い裏切りをした男を許すはずがなかった。
だから、そうなるのは当然なのだけれど。
━━それを私に伝えてどうするのよ!?
これ以上、私を巻き込まれないで欲しい。元婚約者の婚約事情など、知った事ではないわ! これから私は私の人生を送るのだから。そこにラウルが入り込む隙を作る気は一切ないのだ。
そう思いながら、手紙をビリビリに破った。そして、それを処分するようにと侍女に渡した。
※
そ婚約破棄の宣言から半年の月日が経ってからも、依然として求婚に訪れる者は少なくなかった。
そして、今日はとんでもない人がやって来た━━
「ビアンカ嬢を迎えに来た」
屋敷の扉を開けるなり堂々と宣言したのは、冷酷無比と名高い隣国の公爵、ジェラルド・フォン・アイゼンハルト様だった。
これには、いい加減、私への求婚の対応にも慣れていた使用人達も、慌てふためいた。
しかも、こんな日に限って両親はいない。もしかしたら、ジェラルド公爵は、それを狙って来訪したのかもしれない。
だから、私直々に彼の応対をしたのだけれど━━
「私を、迎えに来たですか?」
念の為に、その意志を確認すると、彼は頷いた。
「前々から君の聡明さと美しさに惹かれていたんだ。婚約解消の話を聞いて、慌てて国を飛び出して来たよ」
「はあ……」
「ぜひ我が妻になって欲しい」
「ジェラルド公爵、冷静になって下さい。私達、面識はほとんどないでしょう? 数年前に、ほんの少しだけ話をしただけではありませんか。それなのに、私の『聡明さ』や『美しさ』なんて分かるものでしょうか」
「少し話しただけで分かったよ。君の所作とその唇から紡がれる言葉が、それを知らしめていたから」
そう言って彼は私の手を掴み、手の甲にキスを落とした。そして、上目遣いで私を見てくる。
━━なにこれ、かっこよすぎるんですけど!
美男子からの情熱的なスキンシップに、私の頬は自然と熱くなった。
侍女達も同じ気持ちだったらしく、仕事中ということを忘れて「きゃーっ」と歓声をあげた。
「い、いえ。仮にそうだとしても、私は自由に生きたいので……」
「ならば、君の自由も一緒に守ると保証しよう。無論、不自由にさせる気は、端からないがな」
自信満々に言うジェラルド公爵を見た侍女達は、「もうこの人にしちゃえ!」と言いたげに私を見ていた。
━━侍女達もおかしくさせて。なんなのこの人!? かっこよすぎなのよ!!
困惑する私を見た彼は、くすりと笑った。
「俺は狙ったものは逃さないが、焦るつもりもない。ビアンカ嬢が俺に惚れるまで、気長に待つとしよう」
彼はそう言うと、もう一度手の甲にキスをして、屋敷から去っていった。
それから、たった2日も経たず、ジェラルド公爵からの求婚の噂が広まったらしい。
焦った様子の求婚者達が、ボルジア家の屋敷に押しかけて来た。
「公爵閣下と争う事になろうとも、私は諦めない!」
「まだ正式に決まったわけではないからな」
「そうだ! ジェラルド公爵に出し抜かれる前に、我らが婚約すればよいのだろう」
「ならば、試練を設けようではないか。その試練の勝者がビアンカ様を娶るのはどうか!?」
「それは名案だな!!」
━━やめてーーーっ!!!
頷き合う彼らを見て、私は心の中で叫んだ。
私を巡って決闘大会が開かれるなんて、冗談じゃない。それこそ、稀代の悪女みたいじゃないのっ!
━━ああ、私の自由で快適な日々はいつやって来るの?
私は頭を抱えながら、それだけはやめてと必死に彼らを説得した。
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