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1 婚約破棄と婚約の申し込み
「イザベラ・モラン、お前との婚約を破棄させてもらう!」
婚約者のフィリップ・マシュー公爵子息は高らかにそう宣言した。それとともに、周囲がざわつき、楽団の奏でる音楽は乱れて、やがて止まった。
「何もこのような祝の場で言わなくともよいではありませんか」
私の言葉で人々は一瞬、黙り込んだ。しかし、またひそひそと話を始めた。
━━今日は、折角の卒業パーティなのに。
今日は私達が16歳から3年間通った学園を卒業する晴れの日だった。だから今、卒業生達はこうして学生としての最後のパーティに臨んでいる。
━━婚約を解消してもかまわないけれど。今、この場でわざわざ言わなくてもいいじゃない。
私は黙ってフィリップ様の言葉を待った。
「冷たい人」
誰かが呟いたのが聞こえた。
「氷の令嬢は、婚約者にふられる時でも冷静なのね」
「怒りもしなければ泣きもしないなんて不気味だよな」
━━ああ。また、"間違えた"みたい。
こういう時はどう反応すればいいのかしら? おそらく、正解を分かっているであろう人を見た。
「イザベラ様、ごめんなさいっ」
フィリップ様に肩を抱かれたエリナ・ランベール子爵令嬢は目に涙をためて彼にしがみついた。
「おい、流石に怒ったんだよな。睨んでるよ」
誰かがそういったのが聞こえた。睨んだつもりはなかったのだけれど、私の灰色の瞳は自分が思う以上に冷たく鋭利なものに見えるらしい。
「おい、いくら不服だからってエリナに当たるな!」
フィリップ様が言った。彼の胸元でエリナはシクシクと泣いている。
「不服ではないですし、エリナにも当たっていません」
「ならなぜ睨む!」
「睨んでいません」
「嘘を吐くな!!」
フィリップ様が怒声をあげた時、会場の扉が開いた。
「エドワード・ガルニエ王太子殿下のお出ましです!」
その声で、皆は一斉に振り返って扉を見た。
「おや? 何かあったのかい?」
エドワード殿下はいつも通りの穏やかな笑顔でそう言った。
━━場違いだわ。
一瞬、恐れ多くもそう思ったのだけれど、本当に場違いなのは自分だと思い直した。
━━最後の日まで、みんなの楽しい雰囲気をぶち壊しちゃった。
そう思ったから、私はフィリップ様に再び向き合った。
「婚約破棄の件は承りました。私は帰りますので、詳細は後日話しましょう」
そう言って、私は返事も聞かずに踵を返した。
人々は帰ろうとする私を止めることなく道を譲ってくれる。エドワード殿下が私を見ていたから、私は帰る前に挨拶をした。
「ごきげんよう、エドワード殿下。お騒がせしてすみません。私はもう、帰りますので、殿下は」
「婚約破棄されたって本当?」
誰かから話を聞いたのだろう。殿下は食い気味に言ってきた。
「本当です」
「そうか」
エドワード殿下は微笑むと私の目の前で跪いた。
「イザベラ・モラン侯爵令嬢。俺と結婚して下さい」
彼はそう言うと、私の手の甲にキスをした。
エドワード殿下の行動に、周囲は当然、ざわめき始めた。
私だって、驚いている。握られたままの手をどうしていいのか分からずに固まっていると、エドワード殿下ははにかんだ。
「返事は今すぐにとは言わない。でも、俺の気持ちは分かって欲しい」
「気持ち、ですか?」
こくりとエドワード殿下は頷いた。
「俺は君が好きだ」
そう言うと、彼はまた私の手の甲にキスをした。
私は手を引っ込めた。
「とりあえず、立っていただけますか?」
「ああ」
エドワード殿下が立ち上がったの見て、私は改めて別れの言葉を言って帰ることにした。
でも、エドワード殿下は私の手を取って引き止めた。
「踊らないの?」
「そういう気分ではないので。・・・・・・帰ります」
「そう。送っていくよ」
「いえ。大丈夫です。エドワード殿下はパーティを楽しんで下さい」
「そう言わずに。せめて馬車の前まで見送らせて?」
それくらいなら、エドワード殿下のこれからの楽しい時間を奪わずに済むだろう。
「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
私がそう言うとエドワード殿下はにこりと笑った。
婚約者のフィリップ・マシュー公爵子息は高らかにそう宣言した。それとともに、周囲がざわつき、楽団の奏でる音楽は乱れて、やがて止まった。
「何もこのような祝の場で言わなくともよいではありませんか」
私の言葉で人々は一瞬、黙り込んだ。しかし、またひそひそと話を始めた。
━━今日は、折角の卒業パーティなのに。
今日は私達が16歳から3年間通った学園を卒業する晴れの日だった。だから今、卒業生達はこうして学生としての最後のパーティに臨んでいる。
━━婚約を解消してもかまわないけれど。今、この場でわざわざ言わなくてもいいじゃない。
私は黙ってフィリップ様の言葉を待った。
「冷たい人」
誰かが呟いたのが聞こえた。
「氷の令嬢は、婚約者にふられる時でも冷静なのね」
「怒りもしなければ泣きもしないなんて不気味だよな」
━━ああ。また、"間違えた"みたい。
こういう時はどう反応すればいいのかしら? おそらく、正解を分かっているであろう人を見た。
「イザベラ様、ごめんなさいっ」
フィリップ様に肩を抱かれたエリナ・ランベール子爵令嬢は目に涙をためて彼にしがみついた。
「おい、流石に怒ったんだよな。睨んでるよ」
誰かがそういったのが聞こえた。睨んだつもりはなかったのだけれど、私の灰色の瞳は自分が思う以上に冷たく鋭利なものに見えるらしい。
「おい、いくら不服だからってエリナに当たるな!」
フィリップ様が言った。彼の胸元でエリナはシクシクと泣いている。
「不服ではないですし、エリナにも当たっていません」
「ならなぜ睨む!」
「睨んでいません」
「嘘を吐くな!!」
フィリップ様が怒声をあげた時、会場の扉が開いた。
「エドワード・ガルニエ王太子殿下のお出ましです!」
その声で、皆は一斉に振り返って扉を見た。
「おや? 何かあったのかい?」
エドワード殿下はいつも通りの穏やかな笑顔でそう言った。
━━場違いだわ。
一瞬、恐れ多くもそう思ったのだけれど、本当に場違いなのは自分だと思い直した。
━━最後の日まで、みんなの楽しい雰囲気をぶち壊しちゃった。
そう思ったから、私はフィリップ様に再び向き合った。
「婚約破棄の件は承りました。私は帰りますので、詳細は後日話しましょう」
そう言って、私は返事も聞かずに踵を返した。
人々は帰ろうとする私を止めることなく道を譲ってくれる。エドワード殿下が私を見ていたから、私は帰る前に挨拶をした。
「ごきげんよう、エドワード殿下。お騒がせしてすみません。私はもう、帰りますので、殿下は」
「婚約破棄されたって本当?」
誰かから話を聞いたのだろう。殿下は食い気味に言ってきた。
「本当です」
「そうか」
エドワード殿下は微笑むと私の目の前で跪いた。
「イザベラ・モラン侯爵令嬢。俺と結婚して下さい」
彼はそう言うと、私の手の甲にキスをした。
エドワード殿下の行動に、周囲は当然、ざわめき始めた。
私だって、驚いている。握られたままの手をどうしていいのか分からずに固まっていると、エドワード殿下ははにかんだ。
「返事は今すぐにとは言わない。でも、俺の気持ちは分かって欲しい」
「気持ち、ですか?」
こくりとエドワード殿下は頷いた。
「俺は君が好きだ」
そう言うと、彼はまた私の手の甲にキスをした。
私は手を引っ込めた。
「とりあえず、立っていただけますか?」
「ああ」
エドワード殿下が立ち上がったの見て、私は改めて別れの言葉を言って帰ることにした。
でも、エドワード殿下は私の手を取って引き止めた。
「踊らないの?」
「そういう気分ではないので。・・・・・・帰ります」
「そう。送っていくよ」
「いえ。大丈夫です。エドワード殿下はパーティを楽しんで下さい」
「そう言わずに。せめて馬車の前まで見送らせて?」
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「分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」
私がそう言うとエドワード殿下はにこりと笑った。
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