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24 断罪を望むのなら
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"世界は自分を中心に回っていない"
当たり前のことをエリナは言っている。
━━少しドジなところもあるとは思っていたけれど、まさかこれほどまでとは思わなかったわ。
呆気に取られていると、エリナは苦笑いをした。
「18になって、やっと当たり前のことを知りました。自分でも痛い人間だと分かってます」
何と言っていいのか分からず黙っていると、エリナは話を続けた。
「私はこの当たり前の事実を知って、怖くなりました。自分のやったことがどんな形で返ってくるのか」
「てっきり、何もかもを犠牲にしてでもフィリップ様と一緒になりたいという覚悟を持って、あの場に臨んでいたのだと思っていたわ」
「違います。私は世間知らずで考えなしの自己中心的な人間だったんです」
エリナは自分を卑下すると、話を元に戻した。
「私がこのまま王都にいたらフィリップや両親に迷惑がかかります。・・・・・・いえ、もうすでにたくさんかけています。だから、私はみんなが私のことを知らない場所で生きていこうと思いました」
「そうね。確かに迷惑をかけてはいるけれど、王都を出て暮らしていけるの?」
「分かりません。でも、それが私にふさわしい罰なんだと思います」
「誰も頼れる人のいない場所で苦労して生きることで、あなたのしたことの贖罪になると考えているの?」
私の問いかけに、エリナは頷いた。
「はあ・・・・・・」
思わずため息が漏れた。
「エリナ、私にはそれがあなたにはふさわしい罰だとは思わないわ」
途端にエリナの顔が青くなった。
「もっと・・・・・・、もっと重い罰をお望みですか」
私は首を振った。
「そうじゃないわ。あなたは罰を受ける必要がないと言っているの」
「どうして、ですか」
「別にあなたは法を犯したわけではないでしょう? フィリップ様の愛人になることは教会の教えに背くことかもしれないけれど、みんなやっていることだもの」
家の利益に従って結婚をした貴族達にとって、愛人はいて当然のものだ。うちの両親のように、愛人を作らず、互いを愛し合う夫婦の方が珍しい。
「それに、私に婚約破棄を宣言したのはフィリップ様よ? もし罰を受けるのなら、それはあなたではなくてフィリップ様の方だわ」
「でも、私が唆したんです」
「フィリップ様の喉に剣でも突き出したの? それとも、何か弱みでも握って脅した?」
「いえ。そんなことは」
「それなら、やっぱり責任はフィリップ様にあるわ。エリナが何を言ってきても無視していればよかっただけですもの」
「では、フィリップに罰を与えようと?」
━━なぜそうなるのかしら?
もうフィリップ様と私は縁の切れた赤の他人だ。彼がどうなろうと私の知ったことではないのに。
そう言おうとした時、エリナは、椅子から降りて手足を床についた。
「エリナ?」
「フィリップは本当に悪くないんです! 私が全部悪いんです! 私がフィリップの罰を受けますから。だから、フィリップには何もしないで下さい」
床に頭を伏して彼女は私に懇願した。その並々ならぬ行動に、私は慌ててエリナに駆け寄り、顔をあげるように言った。
「あなたにもフィリップにも何もしないわ」
二人には恨みがなかったから、本当に何もする気がなかった。でも、エリナは信じていないのだろう。表情が固く、顔は青いままだ。
「もしかして、私に罰を与えられることが怖くて王都から去ろうとしたの?」
図星だったのだろう。エリナの表情がぴくりと動いた。
━━きっと、エリナにとって、私は"氷の令嬢"のままなのよね。
その印象が拭えないのなら、いくら私が何もしないと言ったところで、エリナは信じないし、安心できないだろう。
━━それなら、いっそのこと、私が彼女を断罪した方がいいのではないかしら。
そんな考えが、頭の中を過った。
「エリナ、あなたに罰を与えましょう」
そう言った途端、エリナは目をぎゅっと閉じた。
「あなたは一生フィリップ様とともにいなさい。そして、あなたの望んだ"エンディング"に少しでも近づきなさい」
そう言うと、エリナは目を開けて、私を見た。
「どうして? そんなの罰じゃないです!」
「そんなことないわ。フィリップ様と結婚をして幸せになるということは、簡単ではないのよ? 身分差の大きいし、醜聞もあるから中々認められないでしょうね」
私がそう言うとエリナは唇を噛んだ。
「今のあなたでは達成できないし、並の努力では結婚を認められないわ。それに、努力するあなたを馬鹿にしたり邪魔したりする人だってきっと出てくる。フィリップ様だって、あんな醜聞を起こしたのだから、爵位を継承できないかもしれない。フィリップ様と一緒になるということは、あなたはこれから途方もない苦労をするの。だから、これから、頑張ってね」
私の言葉に、エリナはこくりと頷いた。
当たり前のことをエリナは言っている。
━━少しドジなところもあるとは思っていたけれど、まさかこれほどまでとは思わなかったわ。
呆気に取られていると、エリナは苦笑いをした。
「18になって、やっと当たり前のことを知りました。自分でも痛い人間だと分かってます」
何と言っていいのか分からず黙っていると、エリナは話を続けた。
「私はこの当たり前の事実を知って、怖くなりました。自分のやったことがどんな形で返ってくるのか」
「てっきり、何もかもを犠牲にしてでもフィリップ様と一緒になりたいという覚悟を持って、あの場に臨んでいたのだと思っていたわ」
「違います。私は世間知らずで考えなしの自己中心的な人間だったんです」
エリナは自分を卑下すると、話を元に戻した。
「私がこのまま王都にいたらフィリップや両親に迷惑がかかります。・・・・・・いえ、もうすでにたくさんかけています。だから、私はみんなが私のことを知らない場所で生きていこうと思いました」
「そうね。確かに迷惑をかけてはいるけれど、王都を出て暮らしていけるの?」
「分かりません。でも、それが私にふさわしい罰なんだと思います」
「誰も頼れる人のいない場所で苦労して生きることで、あなたのしたことの贖罪になると考えているの?」
私の問いかけに、エリナは頷いた。
「はあ・・・・・・」
思わずため息が漏れた。
「エリナ、私にはそれがあなたにはふさわしい罰だとは思わないわ」
途端にエリナの顔が青くなった。
「もっと・・・・・・、もっと重い罰をお望みですか」
私は首を振った。
「そうじゃないわ。あなたは罰を受ける必要がないと言っているの」
「どうして、ですか」
「別にあなたは法を犯したわけではないでしょう? フィリップ様の愛人になることは教会の教えに背くことかもしれないけれど、みんなやっていることだもの」
家の利益に従って結婚をした貴族達にとって、愛人はいて当然のものだ。うちの両親のように、愛人を作らず、互いを愛し合う夫婦の方が珍しい。
「それに、私に婚約破棄を宣言したのはフィリップ様よ? もし罰を受けるのなら、それはあなたではなくてフィリップ様の方だわ」
「でも、私が唆したんです」
「フィリップ様の喉に剣でも突き出したの? それとも、何か弱みでも握って脅した?」
「いえ。そんなことは」
「それなら、やっぱり責任はフィリップ様にあるわ。エリナが何を言ってきても無視していればよかっただけですもの」
「では、フィリップに罰を与えようと?」
━━なぜそうなるのかしら?
もうフィリップ様と私は縁の切れた赤の他人だ。彼がどうなろうと私の知ったことではないのに。
そう言おうとした時、エリナは、椅子から降りて手足を床についた。
「エリナ?」
「フィリップは本当に悪くないんです! 私が全部悪いんです! 私がフィリップの罰を受けますから。だから、フィリップには何もしないで下さい」
床に頭を伏して彼女は私に懇願した。その並々ならぬ行動に、私は慌ててエリナに駆け寄り、顔をあげるように言った。
「あなたにもフィリップにも何もしないわ」
二人には恨みがなかったから、本当に何もする気がなかった。でも、エリナは信じていないのだろう。表情が固く、顔は青いままだ。
「もしかして、私に罰を与えられることが怖くて王都から去ろうとしたの?」
図星だったのだろう。エリナの表情がぴくりと動いた。
━━きっと、エリナにとって、私は"氷の令嬢"のままなのよね。
その印象が拭えないのなら、いくら私が何もしないと言ったところで、エリナは信じないし、安心できないだろう。
━━それなら、いっそのこと、私が彼女を断罪した方がいいのではないかしら。
そんな考えが、頭の中を過った。
「エリナ、あなたに罰を与えましょう」
そう言った途端、エリナは目をぎゅっと閉じた。
「あなたは一生フィリップ様とともにいなさい。そして、あなたの望んだ"エンディング"に少しでも近づきなさい」
そう言うと、エリナは目を開けて、私を見た。
「どうして? そんなの罰じゃないです!」
「そんなことないわ。フィリップ様と結婚をして幸せになるということは、簡単ではないのよ? 身分差の大きいし、醜聞もあるから中々認められないでしょうね」
私がそう言うとエリナは唇を噛んだ。
「今のあなたでは達成できないし、並の努力では結婚を認められないわ。それに、努力するあなたを馬鹿にしたり邪魔したりする人だってきっと出てくる。フィリップ様だって、あんな醜聞を起こしたのだから、爵位を継承できないかもしれない。フィリップ様と一緒になるということは、あなたはこれから途方もない苦労をするの。だから、これから、頑張ってね」
私の言葉に、エリナはこくりと頷いた。
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