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26-1 幸せ
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ベラが俺の事を好きだと言ってくれた。それはもう2週間以上も前の事なのに、今でも嬉しくて心が落ち着かない。
俺はそんな気持ちを隠して、俺の私室で彼女と一緒にいた。
「エド、約束の物ができましたよ。受け取ってくれますよね?」
「勿論だ」
俺が笑うとベラも笑った。
━━相変わらず、美しいな。
最近、ベラはよく微笑む。相変わらず、自分の感情には疎いようだけれど、自然に笑えているよと言ったら嬉しそうにしていた。
使用人はお茶とベラが作ったであろうクッキー、それからスコーンを持ってやって来た。
「スコーンも一緒に焼いてみました」
「ありがとう」
ベラから俺の好きなお茶菓子を聞かれたと、少し前に使用人から報告を受けていた。俺に関心を持ってくれている事が、本当に嬉しい事この上ない。
「どっちから食べたらいい?」
「どちらでも。お好きな方からどうぞ」
俺は少し迷った後、クッキーから食べる事にした。プレーンのクッキーは、ややしっとりとした歯ごたえにほんのりとした甘い味がした。
「とっても上品な味わいだね。甘すぎなくて食べやすいよ」
「ありがとうございます」
ベラは嬉しそうに笑うと紅茶を飲んだ。俺もそれに倣ってお茶を飲む。口の中をリセットすると、今度はスコーンを食べた。
━━いつもと変わらない味だ。
見た目、食感、甘さ、全てにおいて同じだった。
「エド? どうしました? もしかして、口にあいませんでした?」
ベラは心配しているのだろう。俺にお茶を勧めてきた。
「大丈夫。美味しいよ。ただ、いつもと同じ味だったからびっくりしただけ」
そう言ったら、ベラは胸を撫で下ろした。
「エドには分かるんですね。実は、お茶菓子の担当の料理人の方から直々に教えてもらったんです」
「そうだったのか。というより、プロの料理人の味を再現できるなんてすごいよ」
「とんでもないです。そうなったのは、いくつかの工程を手伝って頂いたからです」
ベラは謙遜すると、お茶を飲んだ。
━━幸せだ。
今、こうしてベラと一緒にお茶をできていることが最高に幸せだ。一年前の、まだ学生だった頃には、こうなるなんて想像もできなかった。
入学式の式場でベラを見た時、その美しさに思わず目を奪われた。モラン家の一人娘はとても美しいと噂では聞いていたけれど、まさかこれほどまでとは思わなかった。
白い肌に青銀の髪、凛とした印象を与える灰色の瞳をした彼女は、おとぎ話に出てくる精霊の王の一人、冬の女王を思わせた。
ベラに是非とも近づきたいと思う反面、安易に近寄れないとも思った。彼女は美しいだけでなく、高貴な気品を纏っていたからだ。立っているだけで存在感のある、近寄りがたい雰囲気を彼女は持ってだった。
俺は美しく気品に溢れるベラに対して、一目で恋に落ちた。彼女の事をもっと知りたい。傍にいる事を許されたい。俺に向かって微笑んで欲しい。そんな欲望が、あの一瞬で一気に押し寄せてきた。
しかし、そうは思っても、ベラに対して積極的なアプローチをするわけにもいかなかった。ベラとフィリップの両家は、俺を支持していたからだ。しかも、両家とも派閥内で力を持っていた。そんな両家に対して未来の王となる俺が、背信的な行為をする事などできるはずがなかった。
だから、俺は初恋を一瞬で諦めた。ベラとは積極的に関わらない。そう決意したから、彼女に特段のアプローチをする事はなかった。
でも、それでも俺は事あるごとにベラを見ていた。誰かに勘付かれる前にやめるべきだと頭では理解していた。だが、俺はどうしても美しくも愛らしいベラから目を離す事ができなかった。
普段、無表情の事が多かったベラは、その美しさも相まって人形のように思えた。けれど、よくよく観察してみれば、時折、わずかながら微笑みを浮かべる事もあった。
ベラの笑顔が見たくて色々と観察をしていたら、彼女を喜ばせるものがエリナだと、俺は気づいてしまった。
ベラが俺の事を好きだと言ってくれた。それはもう2週間以上も前の事なのに、今でも嬉しくて心が落ち着かない。
俺はそんな気持ちを隠して、俺の私室で彼女と一緒にいた。
「エド、約束の物ができましたよ。受け取ってくれますよね?」
「勿論だ」
俺が笑うとベラも笑った。
━━相変わらず、美しいな。
最近、ベラはよく微笑む。相変わらず、自分の感情には疎いようだけれど、自然に笑えているよと言ったら嬉しそうにしていた。
使用人はお茶とベラが作ったであろうクッキー、それからスコーンを持ってやって来た。
「スコーンも一緒に焼いてみました」
「ありがとう」
ベラから俺の好きなお茶菓子を聞かれたと、少し前に使用人から報告を受けていた。俺に関心を持ってくれている事が、本当に嬉しい事この上ない。
「どっちから食べたらいい?」
「どちらでも。お好きな方からどうぞ」
俺は少し迷った後、クッキーから食べる事にした。プレーンのクッキーは、ややしっとりとした歯ごたえにほんのりとした甘い味がした。
「とっても上品な味わいだね。甘すぎなくて食べやすいよ」
「ありがとうございます」
ベラは嬉しそうに笑うと紅茶を飲んだ。俺もそれに倣ってお茶を飲む。口の中をリセットすると、今度はスコーンを食べた。
━━いつもと変わらない味だ。
見た目、食感、甘さ、全てにおいて同じだった。
「エド? どうしました? もしかして、口にあいませんでした?」
ベラは心配しているのだろう。俺にお茶を勧めてきた。
「大丈夫。美味しいよ。ただ、いつもと同じ味だったからびっくりしただけ」
そう言ったら、ベラは胸を撫で下ろした。
「エドには分かるんですね。実は、お茶菓子の担当の料理人の方から直々に教えてもらったんです」
「そうだったのか。というより、プロの料理人の味を再現できるなんてすごいよ」
「とんでもないです。そうなったのは、いくつかの工程を手伝って頂いたからです」
ベラは謙遜すると、お茶を飲んだ。
━━幸せだ。
今、こうしてベラと一緒にお茶をできていることが最高に幸せだ。一年前の、まだ学生だった頃には、こうなるなんて想像もできなかった。
入学式の式場でベラを見た時、その美しさに思わず目を奪われた。モラン家の一人娘はとても美しいと噂では聞いていたけれど、まさかこれほどまでとは思わなかった。
白い肌に青銀の髪、凛とした印象を与える灰色の瞳をした彼女は、おとぎ話に出てくる精霊の王の一人、冬の女王を思わせた。
ベラに是非とも近づきたいと思う反面、安易に近寄れないとも思った。彼女は美しいだけでなく、高貴な気品を纏っていたからだ。立っているだけで存在感のある、近寄りがたい雰囲気を彼女は持ってだった。
俺は美しく気品に溢れるベラに対して、一目で恋に落ちた。彼女の事をもっと知りたい。傍にいる事を許されたい。俺に向かって微笑んで欲しい。そんな欲望が、あの一瞬で一気に押し寄せてきた。
しかし、そうは思っても、ベラに対して積極的なアプローチをするわけにもいかなかった。ベラとフィリップの両家は、俺を支持していたからだ。しかも、両家とも派閥内で力を持っていた。そんな両家に対して未来の王となる俺が、背信的な行為をする事などできるはずがなかった。
だから、俺は初恋を一瞬で諦めた。ベラとは積極的に関わらない。そう決意したから、彼女に特段のアプローチをする事はなかった。
でも、それでも俺は事あるごとにベラを見ていた。誰かに勘付かれる前にやめるべきだと頭では理解していた。だが、俺はどうしても美しくも愛らしいベラから目を離す事ができなかった。
普段、無表情の事が多かったベラは、その美しさも相まって人形のように思えた。けれど、よくよく観察してみれば、時折、わずかながら微笑みを浮かべる事もあった。
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