【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

文字の大きさ
37 / 58

28 素敵な結婚式

しおりを挟む
 婚約発表から約2年後の今日、私達の結婚式は盛大に行われた。国中の貴族達と、近隣諸国の人々に見守られながら、私とエドは互いへの愛を誓った。
 沢山の人に囲まれても緊張しなかったのは、隣にいるエドが穏やかな微笑みを浮かべていたからだろう。

 結婚式が終わり、披露宴になっても私はウエディングドレスから着替えなかった。着替えたくなかったのだ。
 ドレスを仮縫いしていた時から、私のウエディングドレス姿をエドがしきりに美しいと褒めてくれていたから。今日も、詩人ですら驚くくらい、私を色々なものに例えて賛美してくれた。
 ウエディングドレスを着られるのは一生に一度きりだ。そこまで言ってくれるのなら今日は一日、これを着て過ごそうと思った。

 披露宴での歓談を楽しんでいると、ローズピンクの髪をした美しい女性がこちらにやって来た。彼女はたしか、隣国ロズウェル王国の王女、ローズ・ルトワール様だ。
「エドワード様、イザベラ様、この度はお招きいただきありがとうございます。そして、結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます」
 本当は私達の結婚式に来てくれたお礼やパーティを楽しんで欲しいといった社交辞令を言わないといけなかった。
 でも、ローズ王女があまりにも美しく愛らしかったから、そういった言葉が頭の中から吹き飛んでしまった。

「ベラ、結婚そうそう、よそ見はいけないな」
 エドはそう言うと私の腰を引き寄せた。エドを見たらむすっとした顔で私を見ている。
「まあ! 見つめ合って、大変仲がよろしいのですね」
 私達は失礼な態度を取ってしまったというのにローズ王女は笑って許してくれた。
「私、世界で一番仲のいい夫婦はうちの叔父夫妻だと思っていました。でも、あなた方も同じくらい仲睦まじいですわ」
 ローズ王女の叔父となると、今日は残念ながら欠席をされているエイメル公国のアーサー大公の事だ。アーサー大公と夫人のエレノア大公妃は仲睦まじい夫婦だと聞いている。
「大公ご夫妻と並ぶほどの仲のいい夫婦だなんてとんでもない」
 エドはそう言いながらも満更ではなさそうだった。

「そうだわ。私ったらいけない!」
 突然、ローズ王女はそう言うとプレゼントがあるからここに持ってきてもいいかと尋ねてきた。
「ええ。勿論大丈夫ですが」
 私達への祝い品はすでに受け取っていた。まだ何かあるのかとエドを見たら、彼もそれを知らないらしい。

 ローズ王女の使用人は二人係で布を被った板のような物を持ってきた。大きさと薄さからいって絵画のように思う。
「さあ、ご覧下さい」
 にこにこ笑いながらローズ王女は布を取った。

「まあ!」
 絵を見て私は感嘆の声を漏らさずにはいられなかった。そして、私達の周囲にいた人々も絵を見て驚きの声をあげた。

 ━━私達だわ。

 その絵には私とエドが描かれていた。婚約発表の時のあのドレスを着た私が、とても穏やかに笑っていた。私の隣に寄り添って立つタキシード姿のエドもとても幸せそうだ。
 絵画の右下に小さく美しい字でイアン・ホワンソンと書いてあった。

「これって・・・・・・」
「そうです。イアン・ホワンソン卿が描いたものです」
 ローズ王女は喜々として教えてくれた。
「ホワンソン卿に出した依頼は断られたはずなのですが」
 エドが言う通り、私達は1年と少し前に、イアン・ホワンソンに肖像画の依頼を出した。私達の結婚の記念品になればいいと思ったのだけれど、イアン・ホワンソンは人気の画家だ。他の仕事で忙しいらしく、新規の依頼は受け付けていないと断られてしまった。

「この絵は、今日出席できなかったアーサー・ルトワール大公とエレノア・ルトワール大公妃からの贈り物です。彼らはホワンソン卿の友人ですから依頼を引き受けてくれたのでしょう」
「そうでしたか。エイメル大公夫妻の心遣いに痛み入ります」
 エドの言う通りだ。贈り物に優劣をつけるのは失礼なことかもしれないけれど、結婚祝いにもらったもので一番嬉しかった。

「本当に素敵な贈り物です。後で何かお礼の品を送らないと」
「そうだね」
「お二人がとてもお喜びになられたと伝えておきますね」
 ローズ王女は屈託のない笑みでそう言った。

「それにしても、どうして絵の中の私達は婚約発表の時の衣装を着ているのでしょう」
 あの日の私達をイアン・ホワンソンが知っているはずがない。
「俺がエイメル大公に渡した写真を参考に描いたんじゃないかな?」
「そうだと伺っていますわ」
 ローズ王女が答えた。
 なぜあの写真を渡したのだろうと首を傾げていると、「写真機を売り込む時に参考として何枚かの写真を渡した」とエドは教えてくれた。

 写真を見たとしても、私とエドをこれほどまでそっくりに描けたイアン・ホワンソンは素晴らしい。
「私達の髪色や肌の隅々まで、細かい色合いがそっくりですわ」
 改めて絵を褒めると、ローズ王女は「そうですよね」と同感してくれた。
「色についてはエレノア妃が強く意見したんですの。『イザベラ様の肌はもっと白い』とか、『エドワード殿下の瞳は深い碧だ』とか。これにはホワンソン卿もびっくりしていたそうです」
 エレノア様とは面識がないはずだけれど。とても想像力が豊かで色彩感覚の優れた人なのだろう。

「ローズ王女、この絵を持ってきていただきありがとうございます」
 エドは改めてお礼を言った。
「いえいえ。私は持ってきただけですから」
「俺達の結婚式に間に合うように持ってきてくれたのでしょう? ローズ王女のおかけで、この絵は俺達の結婚記念の思い出の品になりました」
 エドが言うとローズ王女は少し驚いたような顔をしてから、にこりと笑った。
「そこまで言ってもらえると持ってきた身としても嬉しいですわ」
 穏やかな雰囲気で話を続ける二人をよそに、私は使用人を呼んで絵を宮殿に運ぶように指示をした。

 ━━この絵をどこに飾ろうかしら? 絵に見合うくらいの素晴らしい額縁も探さなきゃ。

 そんな事を考えていたら、私はいつの間にか笑っていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】元悪役令嬢は、最推しの旦那様と離縁したい

うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
「アルフレッド様、離縁してください!!」  この言葉を婚約者の時から、優に100回は超えて伝えてきた。  けれど、今日も受け入れてもらえることはない。  私の夫であるアルフレッド様は、前世から大好きな私の最推しだ。 推しの幸せが私の幸せ。  本当なら私が幸せにしたかった。  けれど、残念ながら悪役令嬢だった私では、アルフレッド様を幸せにできない。  既に乙女ゲームのエンディングを迎えてしまったけれど、現実はその先も続いていて、ヒロインちゃんがまだ結婚をしていない今なら、十二分に割り込むチャンスがあるはずだ。  アルフレッド様がその気にさえなれば、逆転以外あり得ない。  その時のためにも、私と離縁する必要がある。  アルフレッド様の幸せのために、絶対に離縁してみせるんだから!!  推しである夫が大好きすぎる元悪役令嬢のカタリナと、妻を愛しているのにまったく伝わっていないアルフレッドのラブコメです。 全4話+番外編が1話となっております。 ※苦手な方は、ブラウザバックを推奨しております。

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ

しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”―― 今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。 そして隣国の国王まで参戦!? 史上最大の婿取り争奪戦が始まる。 リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。 理由はただひとつ。 > 「幼すぎて才能がない」 ――だが、それは歴史に残る大失策となる。 成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。 灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶…… 彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。 その名声を聞きつけ、王家はざわついた。 「セリカに婿を取らせる」 父であるディオール公爵がそう発表した瞬間―― なんと、三人の王子が同時に立候補。 ・冷静沈着な第一王子アコード ・誠実温和な第二王子セドリック ・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック 王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、 王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。 しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。 セリカの名声は国境を越え、 ついには隣国の―― 国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。 「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?  そんな逸材、逃す手はない!」 国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。 当の本人であるセリカはというと―― 「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」 王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。 しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。 これは―― 婚約破棄された天才令嬢が、 王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら 自由奔放に世界を変えてしまう物語。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...