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29 あなたの温もり

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 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。披露宴の終わりをつげて、私は王子宮に戻った。
 エドは来客の人々に別れの挨拶をしている。私はその間に、初夜の準備をする。

 バスルームでメイドに身体を洗われている間、私のドキドキは止まらなかった。一応、何をするのかは理解しているつもりだけれど。初めての行為だ。緊張しないわけがなかった。
 メイドはいつも以上に丹念に私の身体を洗うと香油を塗ってから夜着を着せた。

 そして私はこれから毎日二人で寝ることになるベッドの上でエドを待った。
 エドは思ったよりも早く、部屋にやって来た。
「おまたせ」
 エドははにかむと私の隣に座った。

「お客様はみんな、帰られましたか」
「うん」
「今日は楽しい一日でした」
「そうだね」
「お父様とお母様も喜んでくれてよかったです」
 エドはふふっと笑い声を出した。
「エド?」
「ベラ、緊張してるの? いつになくとってもおしゃべりだよ」
 そう言って彼は私を抱き寄せた。

 ━━温かい。

 エドの身体は温かかった。彼の身体の温もりが心地よくて私はぎゅっと彼を抱きしめた。
「何だか、自然公園に行った時を思い出します」
「どうして」
「あの時握っていたエドの手が温かかったから」
 あの時は知らなかった。エドは彼の手と同じくらい温かく優しい素敵な男性だったということを。あの頃から私の冷めた心は彼の熱で少しずつ温められて溶かされていた。
 今、私を"氷の令嬢"と呼ぶ人はいない。それは私がエドの妻となったからではなく、エドのおかげで感情が豊かになったからだと思う。

「またいつか、遊びに行きましょう」
「いいよ。その時は、俺達の子供も連れて行きたいな」
「もう、エドったら。気が早いんだから」
 そうは言ったけれど、いい案だと思った。子供が生まれたら絶対に行こう。あの日のように冬でもいいし、過ごしやすい春や秋の季節でもいい。

 私はエドの身体を離して、彼と向き合った。
「エド」
「何?」
 エドにじっと見つめられて気恥ずかしくなる。
「好きです」
 私は今となっては当たり前の言葉を言った。
「俺も好きだよ」
 エドの顔が徐々に近づいてくる。私は目を閉じて彼の唇を受け入れた。
 初めて口づけに、私は身も心も熱くなった。



『氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる』 了
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