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番外編1-1 ベラの家族観
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結婚してから半年で、ベラは俺の子を身籠った。ベラの妊娠が分かるや否や、国内外から様々な祝福の言葉と物品が贈られた。そのお返しをするのが大変だったけれど、それ以上に皆に祝福をされることの喜びの方が格段に大きかった。
「男の子でしたらいいですね」
臣下達との何気ない会話でそう言われることも多かったけれど、俺はそうは思わなかった。
「折角ならベラに似たかわいい女の子がいい」
寝室でベッドに横たわるベラを抱きしめて言うとベラはきょとんとした顔をした。
「私は男の子でも女の子でも構いませんが、女の子ならお母様に似たかわいらしい雪の妖精さんみたいな子がいいです」
お世辞でも「エドに似た男の子がいいわ」と言わないのが、何ともベラらしい。思わず笑ってしまったら、ベラは何がおかしいんだとふくれっ面になっていた。
それから時は流れ、ベラは元気な男の子を産んだ。青銀の髪に碧い目をしたその子に、俺達はヘンリーの名を与えた。国王陛下、つまり俺の父にあやかった名だ。
ヘンリーが生まれてから1年後、ベラは再び子どもを身籠り、そして、また子を生んだ。
生まれてきたのは待望の女の子で、金の髪に碧い目をしていた。名前に希望はあるかとベラに問いかけると、「ルーシー」と即答した。
「この子は雪の妖精さんじゃなかったけれど、お母様みたいなかわいらしい子になって欲しいんです」
ベラはルーシーを抱きしめて優しく微笑んだ。それを聞いて内心、「お母様に似たらとんだじゃじゃ馬になるよ」と思っていた。でも、幸せそうに笑うベラを前にしたら、そんなことは言えなかった。
それからさらに時は流れて、ヘンリーは7歳に、ルーシーは5歳になった。
ヘンリーの容姿は、歳を重ねる毎にベラに似てくる。ベラの母親であるモラン侯爵夫人は、「小さい頃のベラそっくりね。目の色が違うだけだわ」と言っていた。そして、将来は絶世の美男子になるのだと褒めちぎっていた。
ヘンリーはそれを聞いて、嬉しそうに笑っていた。感情表現の乏しい彼が、容姿を褒められてあからさまに喜ぶのを見て、俺は素直に喜べなかった。
「ヘンリー、男は中身だぞ」
息子が顔だけのナルシストになるのだけは避けたくてそう言ったら、ヘンリーは困った顔をした。
「お母様とおそろいはだめなんですか?」
肩を落として言うヘンリーに「全然ダメじゃない」と言って彼の頬にキスをした。ヘンリーは"ベラに似ている"と言われたことを喜んでいただけだったのだ。
そして、俺の心配をよそに、ヘンリーは中身のある男に育っている。
彼の家庭教師を勤めた人々は、"理知的で穏やかな優しい子"だと評価してくれた。きっと、性格はモラン侯爵に似たのだろう。
一方、ルーシーは、かわいらしく育っていった。
彼女の見た目はびっくりするくらいモラン侯爵夫人に似ていた。髪と目、そして肌の色こそ俺の遺伝子を受け継いでいるけれど、目鼻立ちは侯爵夫人にそっくりだ。
「雪の妖精さんじゃなくて天使だわ」
ベラはルーシーを膝に乗せるといつもそう言って彼女をかわいがる。褒められたルーシーはというと、母親であるベラに対する憧れが強いらしい。「大きくなったら、おかあさまのようなきれいな人になるの」と常日頃から言っている。
「二人の顔を交換すれば、互いの理想の状態になるのでしょうか」
そんなことを言うヘンリーに、俺は笑わずにはいられなかった。
ルーシーは顔はモラン侯爵夫人によく似ているけれど、性格の方は違った。天真爛漫で明るい性格で、特段癇癪を起こすこともない良い子だ。
ベラいわく、ルーシーの性格は俺に似ているのだそうだ。
「優しくて明るい子。太陽のように温かくて眩い笑顔がエドそっくり」
ベラはいつだったか、ルーシーに向かってそんなことを言っていた。それから、俺に似て優しくて聡明で努力家だとも。
褒められているのはルーシーのはずなのに、彼女はきょとんとしていて、俺の方が喜んでいた。
そんな俺達家族には、端から見れば、ほんの少しばかり奇妙な習慣があった。
「男の子でしたらいいですね」
臣下達との何気ない会話でそう言われることも多かったけれど、俺はそうは思わなかった。
「折角ならベラに似たかわいい女の子がいい」
寝室でベッドに横たわるベラを抱きしめて言うとベラはきょとんとした顔をした。
「私は男の子でも女の子でも構いませんが、女の子ならお母様に似たかわいらしい雪の妖精さんみたいな子がいいです」
お世辞でも「エドに似た男の子がいいわ」と言わないのが、何ともベラらしい。思わず笑ってしまったら、ベラは何がおかしいんだとふくれっ面になっていた。
それから時は流れ、ベラは元気な男の子を産んだ。青銀の髪に碧い目をしたその子に、俺達はヘンリーの名を与えた。国王陛下、つまり俺の父にあやかった名だ。
ヘンリーが生まれてから1年後、ベラは再び子どもを身籠り、そして、また子を生んだ。
生まれてきたのは待望の女の子で、金の髪に碧い目をしていた。名前に希望はあるかとベラに問いかけると、「ルーシー」と即答した。
「この子は雪の妖精さんじゃなかったけれど、お母様みたいなかわいらしい子になって欲しいんです」
ベラはルーシーを抱きしめて優しく微笑んだ。それを聞いて内心、「お母様に似たらとんだじゃじゃ馬になるよ」と思っていた。でも、幸せそうに笑うベラを前にしたら、そんなことは言えなかった。
それからさらに時は流れて、ヘンリーは7歳に、ルーシーは5歳になった。
ヘンリーの容姿は、歳を重ねる毎にベラに似てくる。ベラの母親であるモラン侯爵夫人は、「小さい頃のベラそっくりね。目の色が違うだけだわ」と言っていた。そして、将来は絶世の美男子になるのだと褒めちぎっていた。
ヘンリーはそれを聞いて、嬉しそうに笑っていた。感情表現の乏しい彼が、容姿を褒められてあからさまに喜ぶのを見て、俺は素直に喜べなかった。
「ヘンリー、男は中身だぞ」
息子が顔だけのナルシストになるのだけは避けたくてそう言ったら、ヘンリーは困った顔をした。
「お母様とおそろいはだめなんですか?」
肩を落として言うヘンリーに「全然ダメじゃない」と言って彼の頬にキスをした。ヘンリーは"ベラに似ている"と言われたことを喜んでいただけだったのだ。
そして、俺の心配をよそに、ヘンリーは中身のある男に育っている。
彼の家庭教師を勤めた人々は、"理知的で穏やかな優しい子"だと評価してくれた。きっと、性格はモラン侯爵に似たのだろう。
一方、ルーシーは、かわいらしく育っていった。
彼女の見た目はびっくりするくらいモラン侯爵夫人に似ていた。髪と目、そして肌の色こそ俺の遺伝子を受け継いでいるけれど、目鼻立ちは侯爵夫人にそっくりだ。
「雪の妖精さんじゃなくて天使だわ」
ベラはルーシーを膝に乗せるといつもそう言って彼女をかわいがる。褒められたルーシーはというと、母親であるベラに対する憧れが強いらしい。「大きくなったら、おかあさまのようなきれいな人になるの」と常日頃から言っている。
「二人の顔を交換すれば、互いの理想の状態になるのでしょうか」
そんなことを言うヘンリーに、俺は笑わずにはいられなかった。
ルーシーは顔はモラン侯爵夫人によく似ているけれど、性格の方は違った。天真爛漫で明るい性格で、特段癇癪を起こすこともない良い子だ。
ベラいわく、ルーシーの性格は俺に似ているのだそうだ。
「優しくて明るい子。太陽のように温かくて眩い笑顔がエドそっくり」
ベラはいつだったか、ルーシーに向かってそんなことを言っていた。それから、俺に似て優しくて聡明で努力家だとも。
褒められているのはルーシーのはずなのに、彼女はきょとんとしていて、俺の方が喜んでいた。
そんな俺達家族には、端から見れば、ほんの少しばかり奇妙な習慣があった。
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