【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

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番外編1-3 ベラの家族観

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「お父様は他所の国から技術をもらったりこの国で新しい技術を作ったりするのよ」
「それを僕も手伝えばいいんですか」
 ベラは首を振った。
「それはヘンリーがもう少しお兄さんになってからね」
 ヘンリーはまた困った顔で俺達の顔を見た。
「じゃあ、今はどうすれば?」
「お母様とこの国の価値観を変えていきましょう」
「カチカン?」
 子供には早すぎる言葉をベラは当然のように言った。
「この国でみんなが"かっこいい"と思っていることや、"やったらダメ"って思われていることを変えるの。お母様は馬に乗って『女の人でも馬に乗っていいんだ』ってことを広めるわ」
「もう広まってますよ? 来年から学園の授業では女の人も勉強するんだって先生が言ってました」
「そうね。少しは広まったかもしれないわね。それなら、お母様はお友達を作って他国の文化の勉強と吸収をしようかしら」
 ベラは文芸サロンを開いて他国の文化を貴族の子女に広めるつもりらしい。
「社交活動?」
「あら、賢い子。もうそんな言葉を知っているのね」
 ベラが褒めるとヘンリーは薄っすらと微笑んで喜んだ。
「お母さま!」
 黙って話を聞いていたルーシーがベラの服を掴んで話を聞いて欲しいとせがむ。
「なあに?」
「わたし、しょくぶつがくしゃになります!」
「植物学者?」
「ローズさまみたいなかしこいレディになるの」
 ルーシーは半年前に会ったローズ王女のことを覚えていたようだ。彼女は自国の博物館の名誉館長の職に就いており、植物博士でもある。彼女は国中の植物を集めて自身の温室で日々研究しているのだという。

「素敵な夢ね」
 ベラはルーシーの夢を肯定した。
「くにじゅうのお花をあつめて本にするの」
「うんうん。それなら今のうちにいっぱい勉強しないといけないわね」
 遊んでばかりの天真爛漫なルーシーに地道な作業が必要な学者は勤まるのだろうか。そんな疑問が湧いてきたが、それを口にしてしまうのは無粋だ。子供の夢なんていずれ変わる。ルーシーが彼女に適した夢を見つけるまで見守っておこう。

「うーん、それなら僕はルーシーが学者の地位に就けるように女性の地位を向上させようと思います」
 あまりにも大人びたヘンリーの言葉に俺は目を丸くした。
「ヘンリー、その言葉の数々は誰から学んだんだい?」
 俺が口を挟むとヘンリーはきょとんとした顔で俺を見た。そんな俺達を見て、ベラがくすくすと笑う。
「ヘンリーったら、日頃からお父様をよく見ているのね」
 言われてみれば、最近ベラに対してそんな話をしていた。「この国では女性の社会的な地位が低いから向上させる必要がある」って。横にヘンリーがいた気もするけれど、まさか話をちゃんと聞いていたなんて思ってもみなかった。
「いけないことですか」
 困ったように俺達の顔を見るヘンリーに対してベラは「良いことよ」と言ってキスをした。

「でも、具体性に欠けるな。何から始めるんだい?」
 そう言ったら、ヘンリーは顎に手をおいて考え込んだ。
「難しいことよね。お母様もすぐには思いつかないわ」
 じっくりと悩むヘンリーにベラは慰めの言葉をかけた。
「お父様はどう思います?」
 聞かれて俺も困った。子供のヘンリーができそうなこととなると何も思いつかない。

「僕、魔法の勉強をします」
 沈黙が続く中、ヘンリーがぽつりと言った。
「残念だけど、その技術はこの国ではもう頭打ちだ。もう伸びしろがないよ」
 かつて大魔導士によって建国された我が国は、魔法によって発展を遂げた。そのため魔法の研究が盛んに行われていたが、今では新しい魔法が生み出されることは久しくなくなった。
 それは隣国でも同じようで、魔法は今ではすっかり廃れている。その代わりに発達したのが、魔法と科学を応用した魔導技術だった。

「でも、魔法は男も女も関係ないから・・・・・・」
 ヘンリーの反論も一理ある。魔法の素質に性別が関係ないのは既に証明されていることだった。
 魔法を発展させるという観点ではなく、別の切り口で取り組めば、何かをできるのかもしれない。でも、それがすぐに思い浮かべられるほど、俺の頭は冴えてはいなかった。
「とりあえず、ヘンリーの思うように取り組んでみましょう。何かを思いついたらまたみんなでこうして話し合いをすればいいから、ね?」
 ベラはそう言って話を終わらせた。

 ルーシーはすっかりやる気になっていて、明日図書館で植物図鑑を借りてくると意気込んでいた。
 ヘンリーの方だは落ち着き払って見える。でも、彼はベラによく似た子だから、きっと頭の中で色々と思い悩んでいるのだろう。俺はあまり気負い過ぎないようと注意して、ヘンリーの頭を撫でた。
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