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番外編2-9 氷の王子と呼ばれたお兄様の静かな恋
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次の日、お兄様は購入したバングルをヴィオお姉様に渡したようだ。お姉様は早速、バングルを身に着けていて、お姉様の細い腕を彩っていた。
ヴィオお姉様はバングルを人に見せびらかす事はしなかった。お兄様からもらった事も言わず、そっと身に着けているだけだ。
でも、お姉様が時折、バングルを指でなぞっていた事を私は知っている。その時のお姉様は柔和な笑みを浮かべているのだ。
それから僅か1日で、お兄様達のお揃いのバングルは噂として学園中に広がった。
「ルーシー様」
カフェテラスで一人本を読みながらお茶をしていると、アニー嬢に声をかけられた。
本当はヴィオお姉様の悪口を言っていたアニー嬢とは口もききたくなかったのだけれど。自分の好悪を露骨に表現するのはよくない事だから、大人の対応をする。
「ごきげんよう。アニー嬢」
読んでいた本を閉じて彼女に向き合うと、アニー嬢はいきなり用件を言ってきた。
「ルーシー様はヘンリー様とバングルを買いに行ったというのは本当ですか」
「ええ。そうよ」
私は昨日の買い物を友達には話していなかった。お兄様との買い物をわざわざ話題に出す理由もなかったからだ。お兄様も誰にも話していないことだろう。
でも、お兄様とお姉様のお揃いのバングルはすっかり噂の的になっていた。お兄様がヴィオお姉様のためにわざわざ私を連れて揃いのバングルを買ったのだと。
あれだけ多くの店に入ったのだから、誰かに見られていても不思議ではない。
━━もしかして、私はお兄様に利用されたのかしら?
ふとそんな考えが頭を過った。
ヴィオお姉様を悪く言う人の声が日に日に大きくなっていたから、お兄様がやんわりと牽制したのではないかしら。
昨日、二人で街中の店を練り歩いたのは、買い物をしている所を見られるため。そして、私を同伴させたのは、選んだアクセサリーにケチをつけさせないためだとしたら合点がいく。
「アクセサリーのセンスにケチをつけたら、私にも喧嘩を売ることになるものねぇ・・・・・・」
「ルーシー様?」
アニー嬢に呼ばれてはっとする。考えていた事をいつの間にか口に出してしまっていたようだ。
「何でもありませんわ・・・・・・。あはは・・・・・・」
笑って誤魔化すのも難しい。私はコホンと咳払いをした。
「ところであのバングル、お二人にとても似合っていると思いませんこと?」
誤魔化しを兼ねて二人の事に言及すると、アニー嬢は露骨に顔を歪めた。
「ええ、そうですわね」
「私も選ぶのを手伝って良かったわ。お兄様のヴィオお姉様への気持ちも確認できたし」
アニー嬢は唇を噛み締めたのを私は見逃さなかった。
もう一言くらい何か言ってやりたい気持ちもあったけれどやめておく。私は意地悪な人間になりたくないし、何よりそういう事はヴィオお姉様がとても嫌っていたからだ。
「他に何かご用があるのかしら?」
「・・・・・・いいえ。ありがとうございます」
アニー嬢は顔を曇らせて早々に去っていった。私はそんな彼女の背中を見送る事なく、再び本を開いた。
※
今日はヘンリー殿下のお母様であるイザベラ王太子妃殿下とお茶をする日だった。王子宮の応接室で王太子妃殿下と二人きりでお茶をするのも久しぶりだった。
非公式な場ということもあるのだろうけれど、今日の会話はありふれた日常の話が多かった。ヘンリー殿下とは、魔法学の応用と発展、そして社会への貢献ばかり話しているせいだろうか。たまにはこういう緩い会話も悪くはないと思った。
「いいわねえ。私もそういうプレゼントをされてみたかった」
雑談の中で、王太子妃殿下はぽつりと呟いた。
うちの学園の生徒に言われたなら嫌味と捉えてしまったかもしれない。でも、王太子妃殿下は正直な人で、嫌味な言い回しをしない人だ。現に、彼女は心底羨ましそうに私のバングルを見つめていた。
「王太子殿下なら王太子妃殿下に相応しい、もっと高価で素敵なアクセサリーをご用意できるのではありませんか」
そう言うと王太子妃殿下は「ヴィオ嬢は何も分かっていないわ」と言って口を尖らせた。
「学生の内にもらえるのだからいいのよ」
「はあ・・・・・・?」
一瞬、何を言っているのかよく分からなかったけれど、王太子妃殿下の過去を思い出した。
王太子妃殿下は、そもそも王太子殿下とは別の方と婚約していたのだ。そして、その婚約者とはあまり良い関係ではなかったのだと話に聞いている。
だから、王太子妃殿下は学生の時に婚約者からこういったプレゼントをされた経験がないのだろう。
「これ、魔除けのおまじないらしいですよ」
「魔除け?」
王太子妃殿下はバングルをもう一度見つめた。
「魔法がかかっているようには見えないのだけれど」
王太子妃殿下の美しい指が私のバングルに触れた。
━━やっぱり、お顔は似ているけれど、ヘンリー殿下とはまるで違うわ。
裏表のない王太子妃殿下を見ると改めてそう思った。
ヴィオお姉様はバングルを人に見せびらかす事はしなかった。お兄様からもらった事も言わず、そっと身に着けているだけだ。
でも、お姉様が時折、バングルを指でなぞっていた事を私は知っている。その時のお姉様は柔和な笑みを浮かべているのだ。
それから僅か1日で、お兄様達のお揃いのバングルは噂として学園中に広がった。
「ルーシー様」
カフェテラスで一人本を読みながらお茶をしていると、アニー嬢に声をかけられた。
本当はヴィオお姉様の悪口を言っていたアニー嬢とは口もききたくなかったのだけれど。自分の好悪を露骨に表現するのはよくない事だから、大人の対応をする。
「ごきげんよう。アニー嬢」
読んでいた本を閉じて彼女に向き合うと、アニー嬢はいきなり用件を言ってきた。
「ルーシー様はヘンリー様とバングルを買いに行ったというのは本当ですか」
「ええ。そうよ」
私は昨日の買い物を友達には話していなかった。お兄様との買い物をわざわざ話題に出す理由もなかったからだ。お兄様も誰にも話していないことだろう。
でも、お兄様とお姉様のお揃いのバングルはすっかり噂の的になっていた。お兄様がヴィオお姉様のためにわざわざ私を連れて揃いのバングルを買ったのだと。
あれだけ多くの店に入ったのだから、誰かに見られていても不思議ではない。
━━もしかして、私はお兄様に利用されたのかしら?
ふとそんな考えが頭を過った。
ヴィオお姉様を悪く言う人の声が日に日に大きくなっていたから、お兄様がやんわりと牽制したのではないかしら。
昨日、二人で街中の店を練り歩いたのは、買い物をしている所を見られるため。そして、私を同伴させたのは、選んだアクセサリーにケチをつけさせないためだとしたら合点がいく。
「アクセサリーのセンスにケチをつけたら、私にも喧嘩を売ることになるものねぇ・・・・・・」
「ルーシー様?」
アニー嬢に呼ばれてはっとする。考えていた事をいつの間にか口に出してしまっていたようだ。
「何でもありませんわ・・・・・・。あはは・・・・・・」
笑って誤魔化すのも難しい。私はコホンと咳払いをした。
「ところであのバングル、お二人にとても似合っていると思いませんこと?」
誤魔化しを兼ねて二人の事に言及すると、アニー嬢は露骨に顔を歪めた。
「ええ、そうですわね」
「私も選ぶのを手伝って良かったわ。お兄様のヴィオお姉様への気持ちも確認できたし」
アニー嬢は唇を噛み締めたのを私は見逃さなかった。
もう一言くらい何か言ってやりたい気持ちもあったけれどやめておく。私は意地悪な人間になりたくないし、何よりそういう事はヴィオお姉様がとても嫌っていたからだ。
「他に何かご用があるのかしら?」
「・・・・・・いいえ。ありがとうございます」
アニー嬢は顔を曇らせて早々に去っていった。私はそんな彼女の背中を見送る事なく、再び本を開いた。
※
今日はヘンリー殿下のお母様であるイザベラ王太子妃殿下とお茶をする日だった。王子宮の応接室で王太子妃殿下と二人きりでお茶をするのも久しぶりだった。
非公式な場ということもあるのだろうけれど、今日の会話はありふれた日常の話が多かった。ヘンリー殿下とは、魔法学の応用と発展、そして社会への貢献ばかり話しているせいだろうか。たまにはこういう緩い会話も悪くはないと思った。
「いいわねえ。私もそういうプレゼントをされてみたかった」
雑談の中で、王太子妃殿下はぽつりと呟いた。
うちの学園の生徒に言われたなら嫌味と捉えてしまったかもしれない。でも、王太子妃殿下は正直な人で、嫌味な言い回しをしない人だ。現に、彼女は心底羨ましそうに私のバングルを見つめていた。
「王太子殿下なら王太子妃殿下に相応しい、もっと高価で素敵なアクセサリーをご用意できるのではありませんか」
そう言うと王太子妃殿下は「ヴィオ嬢は何も分かっていないわ」と言って口を尖らせた。
「学生の内にもらえるのだからいいのよ」
「はあ・・・・・・?」
一瞬、何を言っているのかよく分からなかったけれど、王太子妃殿下の過去を思い出した。
王太子妃殿下は、そもそも王太子殿下とは別の方と婚約していたのだ。そして、その婚約者とはあまり良い関係ではなかったのだと話に聞いている。
だから、王太子妃殿下は学生の時に婚約者からこういったプレゼントをされた経験がないのだろう。
「これ、魔除けのおまじないらしいですよ」
「魔除け?」
王太子妃殿下はバングルをもう一度見つめた。
「魔法がかかっているようには見えないのだけれど」
王太子妃殿下の美しい指が私のバングルに触れた。
━━やっぱり、お顔は似ているけれど、ヘンリー殿下とはまるで違うわ。
裏表のない王太子妃殿下を見ると改めてそう思った。
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