【完結】氷の令嬢は王子様の熱で溶かされる

花草青依

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番外編2-10 氷の王子と呼ばれたお兄様の静かな恋

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 ヴィオが宮にいる。

 それを教えてくれたのは妹のルーシーだった。ヴィオは母上とお茶をしているらしい。

「たまには、約束の日以外にも会って下さい!」

 ルーシーが何故かそんな事を言って聞かないから、俺は急遽ヴィオに会うことにした。
 侍女に取り次いでもらってからおよそ2時間後、母上とのお茶を終えたヴィオは庭園にいる俺の下にやって来た。

「お待たせしました」
 彼女はそう言って微笑んだ。俺は彼女の前に手を差し出す。散歩に行こうと合図を送ったのだ。
 彼女が俺の手を取ると、俺達はゆっくりと庭園の中を歩いた。
「"魔除け"のバングルの効き目は絶大ですわ」
 花を見ながらヴィオが言った。
「そう。良かったよ」
「これで殿下の邪魔にならなくて済みますね」
 "邪魔"という言葉に引っかかった。
「そういうつもりであげたんじゃないんだけど」
 花を見ていたヴィオが俺に顔を向けた。
「では、どういうつもりで? まさか、本当に魔物対策の施されたアクセサリーなのでしょうか」
 彼女の発言に俺は思わず苦笑をしてしまった。

 ━━これは俺の伝え方が悪いんじゃなくて、ヴィオが鈍いんだよね?

 心の中で呟いてみても返事をしてくれる人はいない。後でルーシーに聞いてみよう。
 大きくなってからは、自分からはヴィオの事を話さないようにしていた。妹に婚約者への恋慕を語るのが恥ずかしくなったからだ。
 でも、久しぶりに相談と情報収集を兼ねてヴィオの事を話そうと思う。そうしないと、彼女との心の距離が埋められないのかもしれない。

「殿下、何かおっしゃって下さいな」
 俺の気も知らないでヴィオは返事の催促をしてくる。
「"魔除け"っていうのは、『君に悪意を向けてくる人を排除する』っていう意味だよ。アニー嬢みたいな子をね」

 ━━それから、君に近付きたがっている男達を牽制するって意味合いもあるんだ。

 何て事は、恥ずかしくて言えない。
「納得してくれたかな?」
 俺の問にヴィオは吹き出した。
「何がおかしいの?」
「ごめんなさい。殿下がとても真面目におっしゃるものだから・・・・・・」
 そう言ってヴィオはクスクスと笑った。
 その態度からして、どうやらヴィオは"魔除け"の意味を知っていたらしい。
「まさか、俺をからかったの?」
「はい。申し訳ございません」
 口調は丁寧な癖にちっとも悪びれた様子がない。
「わざわざ言わせないでくれ・・・・・・」
「あら? 怒りましたか」
「いや。そんな事はないけど」

 ━━ただ、悔しいだけ。

 俺は遠回しな形であれど、彼女にいつも好意を伝えているつもりだ。ルーシーには俺のヴィオに対する愛情表現を分かってもらえないが。それでも、ヴィオ本人には伝わる形で表現しているはずだ。
 それなのに、ヴィオの方は俺に対して愛情表現をしてくれない。

「もう。拗ねないで下さい」
 彼女はそう言いながら小さな鞄の中から箱を出した。
「バングルのお礼を差し上げますから、これで機嫌を治して下さい」
 プレゼントで機嫌を取ろうなんて、まるで小さな子供扱いだ。癪に触るけれど俺はそれを受け取った。そんな俺を見てヴィオはにこりと笑う。
 貰った箱の包装を解いて中身を確認すると、クッキーが入っていた。
「これは?」
「私が焼いたんです」
「へえ。上手だね」
「それは食べてから言って下さいな」
 それもそうだ。俺は早速、口に入れた。
「美味しいですか?」
 ヴィオの問に俺は頷いた。
 しっとりした食感にふんだんに使われたバターの香り。これは・・・・・・。
「気づきました? 王太子妃殿下直伝のクッキーです」
 ヴィオはいたずらっぽく笑った。

 ━━彼女は俺の好物を作って持って来てくれた。

「これって、期待してもいいのかな?」
 呟くとヴィオは「何にでしょう?」と言った。
「君が俺を好きって表現してくれてると思っていいのかなって」
 そう言うと、ヴィオは「えっと・・・・・・」と呟いた。
「殿下よりも、私の方が日頃から表現していると思いますの」
 物怖じしないヴィオにしては歯切れの悪い返答だと思った。

 ━━こんなヴィオの一面を知っているのはきっと俺だけだ。

 ヴィオの親友であるルーシーだって知らないだろう。そう思うと心の内側から優越感が込み上げてきた。

「ねえ、ヴィオ」
「はい」
「好きだよ」
 俺は今まで恥ずかしくて言えなかった事を思い切って言ってみた。

 ━━ヴィオも、好きだと言ってくれるよね?

「・・・・・・」
 期待を込めてヴィオを見れば彼女は目を丸くした。そして、ぱちぱちと瞬きをした後にはっきりと俺に向けて言ったのだ。
「私も、好きですよ」

 ━━思った通り、負けん気の強いヴィオは、俺の想いに応えてくれた。

 ヴィオが愛おしくて顔が綻ぶと、彼女はむすっとした顔で言う。
「これのどこが氷の王子?」
 彼女は俺の頬を愛おしそうに撫でた。
「どういう意味?」
「みんなヘンリー殿下の事を何も知らないなって思ったんです。殿下は、感情豊かなのにポーカーフェイスで、ずる賢い人なのに。"氷細工の今にも壊れてしまいそうな儚く美しい王子様"と思い込んでいるなんておかしいですわ」
「何で急に貶すの?」
「貶してなんていませんよ。私は私しか知らない殿下の顔を思って優越感に浸っているんです」

 ズケズケとはっきりと物を言うヴィオらしい表現。その中に俺は確かに彼女の愛情を感じた。



「氷の王子と呼ばれたお兄様の静かな恋」了
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