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番外編3-2 私の愛おしい家族
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ピクニックの当日、空には少しの雲がかかっていたけれど、それでも悪い天気ではなかった。
自然公園に着いた私とルーシーとヴィオ嬢の三人は、侍女達が用意してくれたシートに腰をかけた。
「肌寒くない?」
ルーシーとヴィオ嬢に声をかけると、彼女達は大丈夫だと答えた。
「しかし、もう何日かしたら、本格的に冷え込みそうですね。そうなる前にこうして誘っていただけて嬉しいです」
ヴィオ嬢が言うと、ルーシーはちらりと遠くにいるヘンリーを見た。彼はエドに魔法の話を聞かせながら、散策をしている所だった。
「お兄様も折角のピクニックなんだから、魔法の話をやめてお姉様と一緒にいればいいのに」
愚痴るルーシーを見て、ヴィオ嬢は笑った。
「ヘンリー殿下にとって魔法の研究は趣味であり生きがいですから。止めるだけ無駄ですよ」
「でも、ピクニックなのに」
むっと頬を膨らませるルーシーは相変わらずかわいらしくて、私は微笑んだ。
「ヘンリーはお父様に話したい事が山程あるのよ。私にはよく分からなかったのだけれど、すごい発明をしたのでしょう?」
「ええ」
それからヴィオ嬢は簡単に説明をしてくれた。彼女によると、ヘンリーは魔法式の簡略化に成功したらしい。現状、初級魔法でさえ、複雑で難しい式があり、長い詠唱があるのだけれど、ヘンリーはそれを簡素で分かりやすく変換することに成功したそうだ。
魔法式を簡素にする事がどれ程、難しいのかはよく分からないけれど、数百年もの間、誰もやらなかった事だ。きっととても難しかったか、あるいは面倒な事だったに違いない。
「魔法式の簡略化に成功した事により、今までよりも高度な魔法を日常的に扱える人間が増える事となるでしょう。そして、魔法に男女の差はないですから。女性が魔法関連の事業で頭角を現す可能性をヘンリー殿下は期待しているのです」
「ありがとう。ようやく私にも分かったわ」
ヘンリーから話を聞いていたけれど、彼の話は専門的過ぎてよく分からなかった。それを理解できているなんて。ヴィオ嬢は頭が良くて、彼の話を熱心に聞いてくれているのだと改めて思った。
「ヘンリーはきっと、新たな魔法式を国の全ての人に教えて、新たな技術や雇用を生み出したいのでしょうけれど・・・・・・。何かしらの課題や問題点がありそうだから、お父様に相談したくて仕方がないのね」
私が言うとヴィオ嬢は頷き、ルーシーは「真面目なお兄様らしいわ」と言った。
「本当にそうですね」
ヴィオ嬢は笑った。
「二人の話は長引きそうだから、先にお茶をいただきましょうか」
二人は頷き、ヴィオ嬢は傍らのピクニックバスケットから食器やお茶菓子を取り出してくれた。
お茶を飲みながら、私達はあれやこれやと他愛もない話をした。カップに入った2杯目の紅茶を飲み終わった時、エドとヘンリーが帰ってきた。
「おかえりなさい」
微笑んで言えば、エドは優しく「ただいま」と答えた。彼は靴を脱いで私の隣に座った。
「ルーシー、見たことのない花があっちに咲いていたよ。・・・・・・新種の花かも」
ヘンリーが元来た道を指差して言った。
「そんなに簡単に新種の花は見つかりませんよ」
そう言いながらもルーシーは立ち上がる。念のために確認に行くらしい。ヴィオ嬢がこちらをちらりと見てきた。どうやら彼女もそれが気になるらしい。
「いってらっしゃい」
私が言うとヴィオ嬢は返事をして立ち上がった。
三人を見送ると、エドはお皿にのったクッキーを一つ口にした。私は彼のためにお茶を淹れてあげた。
「ベラのクッキーは今日も美味しいね」
「それ、ヴィオ嬢が焼いたものですよ?」
「え?」
顔色が変わった彼が面白くて、私は吹き出した。
「冗談ですよ」
「おいおい、びっくりさせないでくれよ。失言をしてしまったかと思ったじゃないか」
「ごめんなさい」
ふふっと笑ったら、エドはむっとした顔になった。その顔付きルーシーと似ていて、やっぱり彼女は父親似なんだと思った。
「でも、嘘ではないんです。今日の朝、二人で焼いたのですから」
「ああ。だから、今日は、おはようのキスの後に二度寝をしなかったんだね」
エドはそう言うとお茶を飲んだ。
ピクニックの当日、空には少しの雲がかかっていたけれど、それでも悪い天気ではなかった。
自然公園に着いた私とルーシーとヴィオ嬢の三人は、侍女達が用意してくれたシートに腰をかけた。
「肌寒くない?」
ルーシーとヴィオ嬢に声をかけると、彼女達は大丈夫だと答えた。
「しかし、もう何日かしたら、本格的に冷え込みそうですね。そうなる前にこうして誘っていただけて嬉しいです」
ヴィオ嬢が言うと、ルーシーはちらりと遠くにいるヘンリーを見た。彼はエドに魔法の話を聞かせながら、散策をしている所だった。
「お兄様も折角のピクニックなんだから、魔法の話をやめてお姉様と一緒にいればいいのに」
愚痴るルーシーを見て、ヴィオ嬢は笑った。
「ヘンリー殿下にとって魔法の研究は趣味であり生きがいですから。止めるだけ無駄ですよ」
「でも、ピクニックなのに」
むっと頬を膨らませるルーシーは相変わらずかわいらしくて、私は微笑んだ。
「ヘンリーはお父様に話したい事が山程あるのよ。私にはよく分からなかったのだけれど、すごい発明をしたのでしょう?」
「ええ」
それからヴィオ嬢は簡単に説明をしてくれた。彼女によると、ヘンリーは魔法式の簡略化に成功したらしい。現状、初級魔法でさえ、複雑で難しい式があり、長い詠唱があるのだけれど、ヘンリーはそれを簡素で分かりやすく変換することに成功したそうだ。
魔法式を簡素にする事がどれ程、難しいのかはよく分からないけれど、数百年もの間、誰もやらなかった事だ。きっととても難しかったか、あるいは面倒な事だったに違いない。
「魔法式の簡略化に成功した事により、今までよりも高度な魔法を日常的に扱える人間が増える事となるでしょう。そして、魔法に男女の差はないですから。女性が魔法関連の事業で頭角を現す可能性をヘンリー殿下は期待しているのです」
「ありがとう。ようやく私にも分かったわ」
ヘンリーから話を聞いていたけれど、彼の話は専門的過ぎてよく分からなかった。それを理解できているなんて。ヴィオ嬢は頭が良くて、彼の話を熱心に聞いてくれているのだと改めて思った。
「ヘンリーはきっと、新たな魔法式を国の全ての人に教えて、新たな技術や雇用を生み出したいのでしょうけれど・・・・・・。何かしらの課題や問題点がありそうだから、お父様に相談したくて仕方がないのね」
私が言うとヴィオ嬢は頷き、ルーシーは「真面目なお兄様らしいわ」と言った。
「本当にそうですね」
ヴィオ嬢は笑った。
「二人の話は長引きそうだから、先にお茶をいただきましょうか」
二人は頷き、ヴィオ嬢は傍らのピクニックバスケットから食器やお茶菓子を取り出してくれた。
お茶を飲みながら、私達はあれやこれやと他愛もない話をした。カップに入った2杯目の紅茶を飲み終わった時、エドとヘンリーが帰ってきた。
「おかえりなさい」
微笑んで言えば、エドは優しく「ただいま」と答えた。彼は靴を脱いで私の隣に座った。
「ルーシー、見たことのない花があっちに咲いていたよ。・・・・・・新種の花かも」
ヘンリーが元来た道を指差して言った。
「そんなに簡単に新種の花は見つかりませんよ」
そう言いながらもルーシーは立ち上がる。念のために確認に行くらしい。ヴィオ嬢がこちらをちらりと見てきた。どうやら彼女もそれが気になるらしい。
「いってらっしゃい」
私が言うとヴィオ嬢は返事をして立ち上がった。
三人を見送ると、エドはお皿にのったクッキーを一つ口にした。私は彼のためにお茶を淹れてあげた。
「ベラのクッキーは今日も美味しいね」
「それ、ヴィオ嬢が焼いたものですよ?」
「え?」
顔色が変わった彼が面白くて、私は吹き出した。
「冗談ですよ」
「おいおい、びっくりさせないでくれよ。失言をしてしまったかと思ったじゃないか」
「ごめんなさい」
ふふっと笑ったら、エドはむっとした顔になった。その顔付きルーシーと似ていて、やっぱり彼女は父親似なんだと思った。
「でも、嘘ではないんです。今日の朝、二人で焼いたのですから」
「ああ。だから、今日は、おはようのキスの後に二度寝をしなかったんだね」
エドはそう言うとお茶を飲んだ。
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