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2章 世界で一番嫌いな人
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私達はそれぞれ好きなものを注文し、カフェテリアの一角に集まっていた。文化祭の話はもちろん、日常の些細な出来事や社交界での噂話まで、女の子だけの集まりらしい賑やかさが漂っていた。実行委員のメンバーは全員女性ということもあって、話題は尽きなかった。
そんな中、ミランダがふいに現れた。片手にドリンクを持った彼女は、こちらへ一直線に歩み寄ると、私の目の前で足を止めた。
「ちょっと、その席、代わってくれない?」
放課後のカフェテリアは、お昼時と違って空席が目立つ。それなのに、なぜわざわざ私に代われと迫ってくるのか。意味が分からない。
「空いてる席、たくさんあるよね?」
私は穏やかに返しつつも、はっきりと拒否の意思を示した。
ミランダは鼻で笑うと、肩をすくめて言った。
「ここ、私のお気に入りの席なの」
「だから何?」
「私が代われって言ってるのよ? 早くどいて!」
周囲の友人たちは困惑していた。ミランダとは特別仲がいいわけでもないから。男爵令嬢が、なぜ急にこんなことを言い出すのかと思っているに違いない。
でも、私はミランダが言いたい事が何となく分かった。彼女はきっと「私がヒロインだから、悪役令嬢のあんたは私の欲しい物を譲るべき」と思っているのだ。
前々から思っていたけど、彼女は嫌な性格をしている。遠巻きに見ていても分かるくらい、レイチェル嬢に対して勝ち誇り見下したような態度を取っているから。それは、ゲームの中のミランダでは見られない嫌な顔付きで、本来の彼女なら行わないような言動を平気でしていた。
きっと、目の前にいるミランダは私と同じ転生者だ。
彼女はヒロインである自分が“絶対的な正義”で、私達悪役令嬢は“ミランダの下にいるべきもの"と信じて疑わないのだろう。
だから、公爵令嬢である私を前に失礼な態度で意味不明な事が言えるのだ。
「そんな理由じゃ譲らないわ」
私はきっぱりと言った。
何か事情があって席を代わって欲しいというのなら譲るけれど。彼女の優越感を満たすために行動する気は起きない。
そう思ってミランダの顔をじっと見つめると、彼女はいつもレイチェル嬢に向けている醜い表情を私に向けた。
「はぁ? 意味わかんない」
その後に続く言葉は支離滅裂で、この場にいた誰もが困り果てた。見かねた令嬢の一人が、ここから去るようにと、やんわりと伝えた。
しかし、それで収まるミランダではなかった。声を荒げながら、わざとらしくこう吐き捨てた。
「へぇ、エレノア様の金魚の糞って、レベッカだけじゃないんだぁ」
その言葉に私は思わず立ち上がった。
「なんでそこでベッキーの名前を出すのよ!」
「あら? そんなに怒るなんて、図星だったのかしら?」
ケラケラと嘲笑うミランダに、私は怒りがこみ上げるのを必死で抑えていた時。
カフェテリアの扉が開き、ドアベルの音が軽やかに鳴った。
現れたのは、ニコラス様とレイチェル嬢だった。
レイチェル嬢は私達の様子に気づくと、微かに顔を引き攣らせた。一方、ニコラス様はいつも通りの涼しい顔で。その温度差が、不気味に思えた。
「あら、やだ。レイチェルまで来ちゃったの?」
ミランダがうんざりしたように髪をかき上げる。
言われたレイチェル嬢は冷めた視線を送るだけで何も言わない。隣りに立つニコラス様が「彼女とは親しい仲なの?」と声をかけると、彼女は「まさか」と鼻で笑った。
「そうか。じゃあ、あれは、愛人の分際で不遜な態度を取る、ただの礼儀知らずか」
ニコラス様は珍しく本性を丸出しにしてミランダを罵倒した。
彼の言っている事に間違いはないけれど。それでも、言い方というものがある。
「ニコラス様、いくら事実でも、そういう事は言ってはいけませんよ」
窘めてみたものの、彼の心には響かないようで、彼はいつもの笑顔を作って私を見つめるだけだった。
そんな私達のやり取りをレイチェル嬢は気怠そうに見ていた。
━━やっぱり、ニコラス様に無理やり連れて来させられたのかな?
そんな事を考えていると、扉が再び開き、今度はケイン様が入って来た。
「何をやっているんだ!」
声を荒げながら、ケイン様は駆け寄ってきた。その勢いに、私達は言葉を失った。ニコラス様とレイチェル嬢は、彼が傍らを通り抜ける時、二人して冷めた視線を彼に送っていた。
しかし、その表情はすぐに変わる事になる。
「ケインさまっ!」
突然、ミランダが弱々しい声を上げて、ケイン様の胸元に飛び込んだ。そのまま彼は、彼女を優しく抱きしめる。
あまりの豹変ぶりに、私もレイチェル嬢も唖然とした。文化祭実行委員の皆も、何とも言えない表情を浮かべている。ただ一人、ニコラス様だけが口元を押さえ、彼らを嘲笑っていた。彼はミランダの猿芝居と、それに騙されるケイン様を見て面白がっているのだろう。
しかし、その嘲笑に気づく者は誰もいなかった。みんなの視線はケイン様とミランダに釘付けだったから。
「もう大丈夫だ。何があったんだ?」
「みんな酷いんです。私の事を悪く言ってきて……」
涙をほろりと流して嘘を吐くミランダに、私は嫌悪感を持たずにはいられなかった。男の人から同情を買って何とかしてもらおうだなんて、卑怯にも程がある。
「エレノア様は私の家が男爵家な事を馬鹿にしますし、レイチェル様は、私の事を身の程知らずの愛人だと言うんです」
ミランダはケイン様の胸に顔を埋めるとしくしくと泣いた。
すると、ケイン様はレイチェル嬢に鋭い視線を送った。あまりにも理不尽な行動に私達が呆気に取られる中、レイチェル嬢は何も言わなかった。彼女はただ、彼をじっと睨みつけるだけだった。
そんな中、ミランダがふいに現れた。片手にドリンクを持った彼女は、こちらへ一直線に歩み寄ると、私の目の前で足を止めた。
「ちょっと、その席、代わってくれない?」
放課後のカフェテリアは、お昼時と違って空席が目立つ。それなのに、なぜわざわざ私に代われと迫ってくるのか。意味が分からない。
「空いてる席、たくさんあるよね?」
私は穏やかに返しつつも、はっきりと拒否の意思を示した。
ミランダは鼻で笑うと、肩をすくめて言った。
「ここ、私のお気に入りの席なの」
「だから何?」
「私が代われって言ってるのよ? 早くどいて!」
周囲の友人たちは困惑していた。ミランダとは特別仲がいいわけでもないから。男爵令嬢が、なぜ急にこんなことを言い出すのかと思っているに違いない。
でも、私はミランダが言いたい事が何となく分かった。彼女はきっと「私がヒロインだから、悪役令嬢のあんたは私の欲しい物を譲るべき」と思っているのだ。
前々から思っていたけど、彼女は嫌な性格をしている。遠巻きに見ていても分かるくらい、レイチェル嬢に対して勝ち誇り見下したような態度を取っているから。それは、ゲームの中のミランダでは見られない嫌な顔付きで、本来の彼女なら行わないような言動を平気でしていた。
きっと、目の前にいるミランダは私と同じ転生者だ。
彼女はヒロインである自分が“絶対的な正義”で、私達悪役令嬢は“ミランダの下にいるべきもの"と信じて疑わないのだろう。
だから、公爵令嬢である私を前に失礼な態度で意味不明な事が言えるのだ。
「そんな理由じゃ譲らないわ」
私はきっぱりと言った。
何か事情があって席を代わって欲しいというのなら譲るけれど。彼女の優越感を満たすために行動する気は起きない。
そう思ってミランダの顔をじっと見つめると、彼女はいつもレイチェル嬢に向けている醜い表情を私に向けた。
「はぁ? 意味わかんない」
その後に続く言葉は支離滅裂で、この場にいた誰もが困り果てた。見かねた令嬢の一人が、ここから去るようにと、やんわりと伝えた。
しかし、それで収まるミランダではなかった。声を荒げながら、わざとらしくこう吐き捨てた。
「へぇ、エレノア様の金魚の糞って、レベッカだけじゃないんだぁ」
その言葉に私は思わず立ち上がった。
「なんでそこでベッキーの名前を出すのよ!」
「あら? そんなに怒るなんて、図星だったのかしら?」
ケラケラと嘲笑うミランダに、私は怒りがこみ上げるのを必死で抑えていた時。
カフェテリアの扉が開き、ドアベルの音が軽やかに鳴った。
現れたのは、ニコラス様とレイチェル嬢だった。
レイチェル嬢は私達の様子に気づくと、微かに顔を引き攣らせた。一方、ニコラス様はいつも通りの涼しい顔で。その温度差が、不気味に思えた。
「あら、やだ。レイチェルまで来ちゃったの?」
ミランダがうんざりしたように髪をかき上げる。
言われたレイチェル嬢は冷めた視線を送るだけで何も言わない。隣りに立つニコラス様が「彼女とは親しい仲なの?」と声をかけると、彼女は「まさか」と鼻で笑った。
「そうか。じゃあ、あれは、愛人の分際で不遜な態度を取る、ただの礼儀知らずか」
ニコラス様は珍しく本性を丸出しにしてミランダを罵倒した。
彼の言っている事に間違いはないけれど。それでも、言い方というものがある。
「ニコラス様、いくら事実でも、そういう事は言ってはいけませんよ」
窘めてみたものの、彼の心には響かないようで、彼はいつもの笑顔を作って私を見つめるだけだった。
そんな私達のやり取りをレイチェル嬢は気怠そうに見ていた。
━━やっぱり、ニコラス様に無理やり連れて来させられたのかな?
そんな事を考えていると、扉が再び開き、今度はケイン様が入って来た。
「何をやっているんだ!」
声を荒げながら、ケイン様は駆け寄ってきた。その勢いに、私達は言葉を失った。ニコラス様とレイチェル嬢は、彼が傍らを通り抜ける時、二人して冷めた視線を彼に送っていた。
しかし、その表情はすぐに変わる事になる。
「ケインさまっ!」
突然、ミランダが弱々しい声を上げて、ケイン様の胸元に飛び込んだ。そのまま彼は、彼女を優しく抱きしめる。
あまりの豹変ぶりに、私もレイチェル嬢も唖然とした。文化祭実行委員の皆も、何とも言えない表情を浮かべている。ただ一人、ニコラス様だけが口元を押さえ、彼らを嘲笑っていた。彼はミランダの猿芝居と、それに騙されるケイン様を見て面白がっているのだろう。
しかし、その嘲笑に気づく者は誰もいなかった。みんなの視線はケイン様とミランダに釘付けだったから。
「もう大丈夫だ。何があったんだ?」
「みんな酷いんです。私の事を悪く言ってきて……」
涙をほろりと流して嘘を吐くミランダに、私は嫌悪感を持たずにはいられなかった。男の人から同情を買って何とかしてもらおうだなんて、卑怯にも程がある。
「エレノア様は私の家が男爵家な事を馬鹿にしますし、レイチェル様は、私の事を身の程知らずの愛人だと言うんです」
ミランダはケイン様の胸に顔を埋めるとしくしくと泣いた。
すると、ケイン様はレイチェル嬢に鋭い視線を送った。あまりにも理不尽な行動に私達が呆気に取られる中、レイチェル嬢は何も言わなかった。彼女はただ、彼をじっと睨みつけるだけだった。
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