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2章 世界で一番嫌いな人
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それからは気が楽になった。
ニコラス様との苦しい関係に終わりが見えて、ようやくバッドエンドから遠のく事ができた。
その上、12月にニコラス様が卒業した事で、物理的な距離もできた。理事として学園に残ったため完全に接点が絶たれたわけではないけれど、以前ほど顔を合わせる事もなくなった。
だから、3年生になってからの私は、毎日何事もなく平穏無事に暮らしていた。
不満があるとするなら、それはケイン様とミランダに対してだ。
ケイン様は、レイチェル嬢を嫌っている癖に、彼女との婚約解消に賛成しない。それどころか、ミランダと一緒にいちゃつきをレイチェル嬢に見せびらかしていた。性格が悪い事、この上ない。
婚約解消をする気でいるレイチェル嬢は、もう二人に構う事はなかった。彼女は品行方正に過ごし、花を愛で、馬に乗って、穏やかな日々を過ごしている。
だから、ケイン様には、早く婚約解消を認めて欲しかった。そうすれば、私もニコラス様から解放されるのだから。ケイン様はミランダと結婚し、ニコラス様はレイチェル嬢を手に入れて、みんな幸せになれる。そう思っていたのに━━
“ニコラス様がレイチェル嬢を襲った”
そんなスキャンダルが学園の中を駆けて行ったのだ。
それを広めたのは、ミランダだった。
彼女は昼休みに中庭でケイン様と過ごしている時に、レイチェル嬢とニコラス様の不貞を見たのだという。
「レイチェルったら、ニコラス様を誘惑して、人前で堂々とキスしてたんだから」
卑しい者を蔑むかのように彼女は語っていたけれど。「人の婚約者に手を出しているあなたが言うの?」と誰もが思った事だろう。
だから、私はそれがミランダの作り話だと思った。レイチェル嬢に数々の嫌がらせをしても無視されるから、こんな暴挙に出たのだろうと信じて疑わなかったのだ。
私は嘘を並び立てて人を貶めるミランダが許せなかったから、教室で騒ぎ立てる彼女を非難した。
「やめなさいよ。どうして嘘を吐くの!?」
私がミランダに注意をすると、彼女はニタニタと嫌な笑顔を向けて来た。
「婚約者を取られたからって、現実逃避をしてないで、あなたも頑張った方がいいわよ? 向こうは色仕掛けなんだから」
ミランダが言うと、彼女の周りにいた何人かはクスクスと笑った。
「やっぱりニコラス様もああ見えて男なのかしら? 胸のある女の方が好みみたいだし」
彼女はわざとらしく私の胸をじっと見つめた。
それを横で見ていたベッキーがすっと一歩前に出て言った。
「あら? そんなに胸が重要な物って理解しているって事は、あなたは日頃からそういう風にケイン様に接しているのよね?」
ベッキーの言葉にミランダを嫌う人々が嘲笑った。それを見たミランダは顔を赤く染めて「一般論よ!」と反論する。
「そう。それにしても、夜の教育を随分熱心にやっているのね」
ベッキーは笑顔で言うと、私の手を引いて教室を出た。そして、廊下を歩き、非常階段まで私を連れて行った。
そして、人気のないそこに着くと、彼女は足を止めて私と向き合った。
「もう、エリーったら!」
そう言ったベッキーは、いつもの彼女でホッとした。
「さっきの嫌味すごかったね。びっくりしたよ」
「王女宮で働いていたら嫌味の一つや二つ覚えるわよ……。って、そうじゃなくて!」
彼女はご立腹らしい。怖い顔で私を見つめる。
「エリー、今は優しくしてる場合じゃないの! 恥かくのはあなたなんだから!」
どうやら彼女は、私がレイチェル嬢を擁護した事が気に入らなかったらしい。
「でも、レイチェル嬢はあんな嘘を吐かれているんだよ? 可哀想じゃない」
「ミランダは大袈裟に言ってるかもしれないけど。嘘だと決まったわけじゃないよね?」
「でも、本当だとも限らないわ!」
「もう……。どうして、ドルウェルク辺境伯令嬢をそんなに信じちゃうかな……」
ベッキーはそう言って頭を抱えた。
「そんなに変?」
「うん。すっごく、変」
「でも、レイチェル嬢はミランダが言うような下品な事をする人に見える?」
「彼女はしないと思うよ。ただ、ニコラス殿下はどうかな?」
そう言われて私は何も言えなかった。
━━ニコラス様ならやりかねない。
彼はレイチェル嬢の事をずっと愛していて、執着しているから。彼女を手に入れるために卑劣な行為をしたっておかしくはないと思う。
それからは気が楽になった。
ニコラス様との苦しい関係に終わりが見えて、ようやくバッドエンドから遠のく事ができた。
その上、12月にニコラス様が卒業した事で、物理的な距離もできた。理事として学園に残ったため完全に接点が絶たれたわけではないけれど、以前ほど顔を合わせる事もなくなった。
だから、3年生になってからの私は、毎日何事もなく平穏無事に暮らしていた。
不満があるとするなら、それはケイン様とミランダに対してだ。
ケイン様は、レイチェル嬢を嫌っている癖に、彼女との婚約解消に賛成しない。それどころか、ミランダと一緒にいちゃつきをレイチェル嬢に見せびらかしていた。性格が悪い事、この上ない。
婚約解消をする気でいるレイチェル嬢は、もう二人に構う事はなかった。彼女は品行方正に過ごし、花を愛で、馬に乗って、穏やかな日々を過ごしている。
だから、ケイン様には、早く婚約解消を認めて欲しかった。そうすれば、私もニコラス様から解放されるのだから。ケイン様はミランダと結婚し、ニコラス様はレイチェル嬢を手に入れて、みんな幸せになれる。そう思っていたのに━━
“ニコラス様がレイチェル嬢を襲った”
そんなスキャンダルが学園の中を駆けて行ったのだ。
それを広めたのは、ミランダだった。
彼女は昼休みに中庭でケイン様と過ごしている時に、レイチェル嬢とニコラス様の不貞を見たのだという。
「レイチェルったら、ニコラス様を誘惑して、人前で堂々とキスしてたんだから」
卑しい者を蔑むかのように彼女は語っていたけれど。「人の婚約者に手を出しているあなたが言うの?」と誰もが思った事だろう。
だから、私はそれがミランダの作り話だと思った。レイチェル嬢に数々の嫌がらせをしても無視されるから、こんな暴挙に出たのだろうと信じて疑わなかったのだ。
私は嘘を並び立てて人を貶めるミランダが許せなかったから、教室で騒ぎ立てる彼女を非難した。
「やめなさいよ。どうして嘘を吐くの!?」
私がミランダに注意をすると、彼女はニタニタと嫌な笑顔を向けて来た。
「婚約者を取られたからって、現実逃避をしてないで、あなたも頑張った方がいいわよ? 向こうは色仕掛けなんだから」
ミランダが言うと、彼女の周りにいた何人かはクスクスと笑った。
「やっぱりニコラス様もああ見えて男なのかしら? 胸のある女の方が好みみたいだし」
彼女はわざとらしく私の胸をじっと見つめた。
それを横で見ていたベッキーがすっと一歩前に出て言った。
「あら? そんなに胸が重要な物って理解しているって事は、あなたは日頃からそういう風にケイン様に接しているのよね?」
ベッキーの言葉にミランダを嫌う人々が嘲笑った。それを見たミランダは顔を赤く染めて「一般論よ!」と反論する。
「そう。それにしても、夜の教育を随分熱心にやっているのね」
ベッキーは笑顔で言うと、私の手を引いて教室を出た。そして、廊下を歩き、非常階段まで私を連れて行った。
そして、人気のないそこに着くと、彼女は足を止めて私と向き合った。
「もう、エリーったら!」
そう言ったベッキーは、いつもの彼女でホッとした。
「さっきの嫌味すごかったね。びっくりしたよ」
「王女宮で働いていたら嫌味の一つや二つ覚えるわよ……。って、そうじゃなくて!」
彼女はご立腹らしい。怖い顔で私を見つめる。
「エリー、今は優しくしてる場合じゃないの! 恥かくのはあなたなんだから!」
どうやら彼女は、私がレイチェル嬢を擁護した事が気に入らなかったらしい。
「でも、レイチェル嬢はあんな嘘を吐かれているんだよ? 可哀想じゃない」
「ミランダは大袈裟に言ってるかもしれないけど。嘘だと決まったわけじゃないよね?」
「でも、本当だとも限らないわ!」
「もう……。どうして、ドルウェルク辺境伯令嬢をそんなに信じちゃうかな……」
ベッキーはそう言って頭を抱えた。
「そんなに変?」
「うん。すっごく、変」
「でも、レイチェル嬢はミランダが言うような下品な事をする人に見える?」
「彼女はしないと思うよ。ただ、ニコラス殿下はどうかな?」
そう言われて私は何も言えなかった。
━━ニコラス様ならやりかねない。
彼はレイチェル嬢の事をずっと愛していて、執着しているから。彼女を手に入れるために卑劣な行為をしたっておかしくはないと思う。
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