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2章 世界で一番嫌いな人
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「ね?」
ベッキーは苦笑いをした。
「だから、もう、関わらない方がいい。エリーは公爵様に報告をして、婚約破棄の準備をした方がいいよ?」
ベッキーの言う通りだ。きっと、今回の事は、婚約解消をスムーズに進められるきっかけになるだろう。ニコラス様と別れられたら、それで良いのだから、ベッキーの言うように彼らとは関わり合わない方がいいに決まっている。
━━でも、もし仮に噂が本当だとして、レイチェル嬢の気持ちはどうなるんだろう?
あのファーストダンスを除けば、彼女はずっとニコラス様に冷たくして、距離を取っていた。
それなのに、ミランダはまるで、レイチェル嬢からニコラス様を誘ったように言いふらしていた。
レイチェル嬢はミランダが流したあの噂が広まってからというもの、暗い顔で過ごすようになった。きっと人々からある事ない事、言われて辛いのだろう。
「好きでもない人に襲われて、そのせいで悪口を言われて……。彼女はどんな気分なんだろうね」
「エリー……」
ベッキーは困り顔で私を見た。
「私、どうしてもレイチェル嬢を悪く思えないの。ごめん」
「ううん……。でも、彼女を巡って口論するのだけはやめて。本当に、酷い恥を搔かされる事になるかもしれないから」
「うん」
私は心配してくれる親友のために約束をした。もう二度とあんな風にミランダと言い争わないと。
しかし、私はレイチェル嬢を見捨てられなかった。
ベッキーとは、あからさまな形でレイチェル嬢を庇わないと約束したけれど、ほんの少しなら手を差し伸べても問題ないと思った。
私は人々に白い目で見られて孤立する彼女に毎朝話しかけた。お昼休みや下校の時も軽く挨拶をして雑談を交わした。
陰鬱そうな表情でぼんやりしていた彼女は、私が声をかけると、穏やかに笑ってくれたから。私は彼女の力になれていると思っていた。
でも、違った。
私の思い違いだった。
数日経った日、下校すると家にニコラス様が来ていた。応接室に通された彼はそこで私の帰りを待っていたのだ。
それを聞いた時、悪い予感を感じたけれど、私は一先ず彼のいる応接室に向かった。
私が部屋に入るなり、彼は私にだけ話したいと言って人払いを求めてきた。本当は彼と二人きりになる事が嫌で堪らなかったけれど、私は渋々それを受け入れた。
侍女が部屋から出ていき、扉が閉まるのを確認すると、彼は早速本題に入った。
「レイチェルは俺の愛人になったから」
開口一番、彼はそう言い放った。
「え……?」
顔を引き攣らせる私を見てニコラス様は鼻で笑った。
「知らなかった? 俺達の噂。それなりに広がっていると思ってたけど」
「いえ、それは、まあ……」
天気や昨日の夕飯を話すかのように平然と、彼は穏やかな口調で話を続ける。
「だから、愛人の管理をエレノアがしないといけないけど。レイチェルはケインの所のあれとは違うから。特別することはないだろうね」
「ちょっと待って下さい!」
「ん?」
「レイチェル嬢は、ケイン様の婚約者ですよね?」
「そうだね。そのうち破談になるだろうけど」
「それを、レイチェル嬢が認めたのです?」
「じゃなきゃ君に話していない」
彼はそう言うと、ソファから立ち上がり、部屋の中を無作為にうろうろし始めた。
「安心して? ドルウェルク辺境伯はモニャーク公爵と目的をともにするんだ。だから、彼らがモニャーク家に楯突く事はない。俺と結婚するのはあくまで君で、レイチェルは“側室”だから。今までと何も変わらないよ」
薄ら寒い笑みを浮かべた彼は壁に掛けられた絵をじっと見つめた。
━━同じ目的?
レイチェル嬢は、ニコラス様を第二王妃から引き離すための“道具”にされたの?
そのために彼女は第二王子の婚約者から第一王子の愛人へ転落させられたというなら、あまりにも不憫だ。
「どうして、こんな酷い事を……」
思った事が口から漏れた。
ニコラス様は相変わらず絵をじっと見つめている。
「ニコラス様は、レイチェル嬢の事が好きなんですよね?」
いつかと同じ質問をした。彼は答えないと思っていたけれど━━
「好きだよ」
彼は絵から目を離し、私を見てはっきりと言った。
「俺はずっと昔からレイチェル・ドルウェルクを愛している」
彼は今になって、やっとその気持ちを認めてくれた。けれど、どうして今さら……。
気が付けば、彼はあの冷たい視線を私に送っていた。
「やっと言えるんだ。彼女を手に入れたから」
彼の目には狂気が見え隠れしていて、気味が悪かった。私は視線を落として目を合わさないようにした。
「でも、ケイン様は婚約破棄に応じるのでしょうか」
「応じるように手は打っておいたから大丈夫」
「……何をしたんですか」
「レイチェルを破瓜させたから。彼女はケインに嫁げない」
衝撃的な発言に私は顔をあげてニコラス様を見た。
「レイチェル嬢は、それを大人しく受け入れたのですか」
「そうだね」
彼は短く答えた。
私は愕然としてしまって、一瞬頭が真っ白になった。
ベッキーは苦笑いをした。
「だから、もう、関わらない方がいい。エリーは公爵様に報告をして、婚約破棄の準備をした方がいいよ?」
ベッキーの言う通りだ。きっと、今回の事は、婚約解消をスムーズに進められるきっかけになるだろう。ニコラス様と別れられたら、それで良いのだから、ベッキーの言うように彼らとは関わり合わない方がいいに決まっている。
━━でも、もし仮に噂が本当だとして、レイチェル嬢の気持ちはどうなるんだろう?
あのファーストダンスを除けば、彼女はずっとニコラス様に冷たくして、距離を取っていた。
それなのに、ミランダはまるで、レイチェル嬢からニコラス様を誘ったように言いふらしていた。
レイチェル嬢はミランダが流したあの噂が広まってからというもの、暗い顔で過ごすようになった。きっと人々からある事ない事、言われて辛いのだろう。
「好きでもない人に襲われて、そのせいで悪口を言われて……。彼女はどんな気分なんだろうね」
「エリー……」
ベッキーは困り顔で私を見た。
「私、どうしてもレイチェル嬢を悪く思えないの。ごめん」
「ううん……。でも、彼女を巡って口論するのだけはやめて。本当に、酷い恥を搔かされる事になるかもしれないから」
「うん」
私は心配してくれる親友のために約束をした。もう二度とあんな風にミランダと言い争わないと。
しかし、私はレイチェル嬢を見捨てられなかった。
ベッキーとは、あからさまな形でレイチェル嬢を庇わないと約束したけれど、ほんの少しなら手を差し伸べても問題ないと思った。
私は人々に白い目で見られて孤立する彼女に毎朝話しかけた。お昼休みや下校の時も軽く挨拶をして雑談を交わした。
陰鬱そうな表情でぼんやりしていた彼女は、私が声をかけると、穏やかに笑ってくれたから。私は彼女の力になれていると思っていた。
でも、違った。
私の思い違いだった。
数日経った日、下校すると家にニコラス様が来ていた。応接室に通された彼はそこで私の帰りを待っていたのだ。
それを聞いた時、悪い予感を感じたけれど、私は一先ず彼のいる応接室に向かった。
私が部屋に入るなり、彼は私にだけ話したいと言って人払いを求めてきた。本当は彼と二人きりになる事が嫌で堪らなかったけれど、私は渋々それを受け入れた。
侍女が部屋から出ていき、扉が閉まるのを確認すると、彼は早速本題に入った。
「レイチェルは俺の愛人になったから」
開口一番、彼はそう言い放った。
「え……?」
顔を引き攣らせる私を見てニコラス様は鼻で笑った。
「知らなかった? 俺達の噂。それなりに広がっていると思ってたけど」
「いえ、それは、まあ……」
天気や昨日の夕飯を話すかのように平然と、彼は穏やかな口調で話を続ける。
「だから、愛人の管理をエレノアがしないといけないけど。レイチェルはケインの所のあれとは違うから。特別することはないだろうね」
「ちょっと待って下さい!」
「ん?」
「レイチェル嬢は、ケイン様の婚約者ですよね?」
「そうだね。そのうち破談になるだろうけど」
「それを、レイチェル嬢が認めたのです?」
「じゃなきゃ君に話していない」
彼はそう言うと、ソファから立ち上がり、部屋の中を無作為にうろうろし始めた。
「安心して? ドルウェルク辺境伯はモニャーク公爵と目的をともにするんだ。だから、彼らがモニャーク家に楯突く事はない。俺と結婚するのはあくまで君で、レイチェルは“側室”だから。今までと何も変わらないよ」
薄ら寒い笑みを浮かべた彼は壁に掛けられた絵をじっと見つめた。
━━同じ目的?
レイチェル嬢は、ニコラス様を第二王妃から引き離すための“道具”にされたの?
そのために彼女は第二王子の婚約者から第一王子の愛人へ転落させられたというなら、あまりにも不憫だ。
「どうして、こんな酷い事を……」
思った事が口から漏れた。
ニコラス様は相変わらず絵をじっと見つめている。
「ニコラス様は、レイチェル嬢の事が好きなんですよね?」
いつかと同じ質問をした。彼は答えないと思っていたけれど━━
「好きだよ」
彼は絵から目を離し、私を見てはっきりと言った。
「俺はずっと昔からレイチェル・ドルウェルクを愛している」
彼は今になって、やっとその気持ちを認めてくれた。けれど、どうして今さら……。
気が付けば、彼はあの冷たい視線を私に送っていた。
「やっと言えるんだ。彼女を手に入れたから」
彼の目には狂気が見え隠れしていて、気味が悪かった。私は視線を落として目を合わさないようにした。
「でも、ケイン様は婚約破棄に応じるのでしょうか」
「応じるように手は打っておいたから大丈夫」
「……何をしたんですか」
「レイチェルを破瓜させたから。彼女はケインに嫁げない」
衝撃的な発言に私は顔をあげてニコラス様を見た。
「レイチェル嬢は、それを大人しく受け入れたのですか」
「そうだね」
彼は短く答えた。
私は愕然としてしまって、一瞬頭が真っ白になった。
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