【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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2章 世界で一番嫌いな人

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 ━━レイチェル嬢は、ニコラス様の事が好きだった?

 そんな事を考えていると、彼は再び部屋の中を歩き始めた。そして、今度は暖炉の前で止まったかと思うと、その上に置かれた飾り壺を鑑賞する。

「ニコラス様」
「ん?」
「お二人が愛し合っているなら、私は身を引きます。あなた達の愛の障害にはなりたくないんです。だから、もう、私達の婚約は終わらせましょう」
 訴えかけると、彼は首を振った。
「そんな事、しなくていい」
「でも……」
「エレノアは甘いよ。世の中は愛よりも大切なものがごまんとあるのに」

 ━━レイチェル嬢にこんなにも執着するあなたがそれをいうの!?

 憤りを感じる中で、ニコラス様は話を続ける。
「ドルウェルク辺境伯は、俺とエレノアの関係はこのままである事を望んでいるんだ。それを条件に娘を差し出したくらいにね。だから余計な事はしないでくれ」
 彼はそう言うと「話は済んだから」と言って、応接室から出て行った。

 私は彼がいなくなった部屋で、一人呆然としていた。すると、扉がノックされて、返事を待たずに開かれた。
「エレノア様、公爵様がお呼びでございます」
 侍女はそう言うと、私に書斎に来るようにと伝えてきた。

 書斎に入ると、お父様は険しい顔で「座りなさい」と言ってきた。私は黙ってお父様の指示に従った。
「ニコラス殿下から話は聞いたんだろう?」
「はい……」
「お前にとって、より厳しい状況になったな」
「……一刻も早く婚約を破棄して下さい」
 お父様は唸り声をあげて目を伏せた。

「お父様……?」
「すまない、エレノア。最早、ニコラス殿下との婚約解消は絶望的な物になった」
「え……?」
 お父様は私に説明をしてくれた。
 王国法によると、王族に愛人がいるのを理由に婚約を解消する事は不可能だと。
 そして、ケイン様の婚約が、ニコラス様がレイチェル嬢を寝取る形で破棄されるのなら、国王陛下は私とニコラス様の婚約解消を絶対に認めないだろうと言った。
「国王陛下はこれ以上、王室の醜聞を広げる事は望まないはずだ。だから、ニコラス殿下に有責が認められない今、婚約解消は不可能と言っていい」
「そんな……」

 私は絶望のあまり、ドレスの生地をぐっと掴んだ。
「他に方法は、ないのですか!?」
「お前がドルウェルク辺境伯令嬢と同じ事をするしかない……」
「同じ事って?」
「エレノアが誰かと不貞関係になるのだ。そうすれば、世継ぎの都合上、処女性を重視する王室は婚約破棄を突き付けてくるだろうが……」
「それは絶対に嫌です!」
 私は叫んでいた。

 ━━好きでもない人とそういう事をするのは嫌! まして、その相手が夫婦関係ですらないなんて……。

「そうだろうな」
 お父様はそう言うと、額に手を置いて首を振った。
「わずかに可能性があるとすれば、ニコラス殿下との初夜を拒み続ける事だろうか。結婚して数年経ってもそういう状況なら、離婚を突き付けられてもおかしくないだろう。モニャーク家が払うべき代償は婚約解消に比べて大きくなるが。それはエレノアが気にしなくてもいい。全て、私の責任だから……」
 お父様はうなだれた。
「お父様のせいじゃないです」
「いや。あんな男と婚約をさせた私のせいだよ」
 お父様は力なく笑うと、私の顔をじっと見つめた。

「やれる事は全てやって行くつもりだ。すまないが堪えてくれ」
 誠心誠意謝るお父様を前に、私は「はい」と答える事しかできなかった。

 書斎を出た後、その日はずっと自室に籠もった。
 ニコラス様との婚約がこれからも続くと思うと憂鬱で。そして、レイチェル嬢とどのように向き合えばいいのか、分からなくなった。
 私はベッドの上で天井を見つめながら、これから私はどうするべきなのかを考えた。







 次の日の朝、私はレイチェル嬢の顔をまともに見れなかった。陰鬱な表情で席に座る彼女を見た瞬間、私は衝動的に教室を飛び出した。
 廊下を走って、三室隣のベッキー教室に入ってようやく、私は酷い事をしたのだと認識した。
 私があんな行動を取ってしまったら、レイチェル嬢はまた、みんなに悪く言われるのに。

 勢いよく教室の扉を開けると、クラスの人々が驚いて私の顔を見た。
「エリー?」
 ベッキーが心配そうに私の所へ来た。
「ちょっと、場所変えよ?」
 彼女はそう言うと、私を空き教室まで引っ張って行った。

「どうしたの? 何かあった?」
 私は彼女の胸に飛び込んで、子供みたいにわんわん泣いた。そんな私を彼女は何も言わずに優しく抱きしめてくれた。

 朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った時、私はようやく彼女から離れた。
「ごめん……」
 私のせいでベッキーが遅刻扱いになった。今からでも教室に戻らないと。
 そう思って踵を返そうとした時、ベッキーは私の手を掴んだ。

「そんな顔で教室に戻る気?」
 彼女は苦笑いを浮かべて言った。
「でも……」
「いいのよ。私達、優秀じゃない? 少しくらいサボったって、神様は見逃してくれるわ」
 そう言うとベッキーは椅子に座った。
「はい、エリーも座って!」
 彼女はそう言うと、私の分の椅子を引いた。私は戸惑いながら、結局は腰を掛けた。
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