【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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2章 世界で一番嫌いな人

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「……私がしたかった話はこんなものではないのです」
 彼女は俯き、小さな声でつぶやいた。
「では、どんな事を言うつもりだったのですか」
 問いかけると、レイチェル嬢は顔をあげて私を見た。

「私はレイチェル・ドルウェルクとしてこの世界に生まれ育ちました。私は貴族の娘です。この世界で貴族の娘として生まれたのなら、それに伴う義務を果たさないといけません。そして、私はそれを理不尽だと思った事がありませんわ。今の私は、“プレイヤー”ではないのですから、“名前を付けられていなかった人達”をただのモブだとは思えないのです。私の言動は彼らの人生に少なからず影響を与えます。私を愛し、育ててくれた人達の役に立ちたい。利益をもたらしたい。……そして、親兄弟を裏切ったり、見捨てたりしたくない。私の考えはおかしいのでしょうか」

 それをおかしいとは言えなかった。けれど、正しいとも思えない。
 親兄弟を喜ばせるために、自分の幸せを犠牲にするなんて……。

 ━━どうして、自分の事をもっと大切に考えられないのだろう。

「話は終わりでよろしいでしょうか」
 レイチェル嬢はうんざりした様子で言った。
「待って!」
 私は叫んだ。
「レイチェル嬢の考えは分かりました。安易に『家門の使命という呪縛から逃げて』なんて、言ったのは反省しているわ。でも、私はあなた自身を大切にして欲しい」
「ええ……。ご忠告、痛み入ります」
 彼女は作り笑いを浮かべると、適当に返事をした。
「お願い。ちゃんと聞いて! レイチェル嬢。最近のあなたは前にも増して辛そうに見えます」

 そう言った途端、彼女は目を丸くした。
 でも、それは一瞬で、今度は顔を引き攣らせ、歪めた。
 きっと私の話など、もう聞きたくないのだろう。
 でも、私は黙るつもりはなかった。彼女には、自分の人生や幸せをもっと真剣に考えて欲しかったから。けれど、どれだけ言葉を尽くしても、レイチェル嬢は顔を顰めるだけだった。

「レイチェル嬢。あなたの人生の結末は“ニコラス殿下の側室”というもので、本当にいいんですか」

 かろうじて反応したのは、この問いだけ。
 彼女は眉間にしわを寄せながらも口角を上げて、はっきりと言った。

「いいのではないでしょうか。ハッピーエンドではないにしろ、バッドエンドとも言えませんから」

 私は絶句した。

 ━━何でそんな事が言えるの?

 愛人という立場に身を落とし、それは一生覆る事がないのに。人に後ろ指をさされ、笑い者にされながら、“二番目の女”であり続ける。
 そんな人生が、バッドエンドではないなんて。私には、到底納得できなかった。

 何も言えなくなった私に、レイチェル嬢は笑顔を向けた。
「ごめんなさい。疲れてしまいました。話はまた後日にいたしましょう」
「ええ……。ごめんなさい、長々と」

 ━━彼女と話をしても無駄なんだわ。彼女は私とはかけ離れた価値観の持ち主だから。

 私はやるせない気持ちを抱えながら、レイチェル嬢を馬車まで送り届けた。







 次の日、私はベッキーの家で、レイチェル嬢と話した事をベッキーに伝えた。勿論、私達が転生者だという話は隠して。
 ベッキーは眉を寄せたまま、じっと話を聞いていた。一通り話し終えると、彼女はお茶を一口飲み、ぽつりと言った。

「真面目もそこまで行くと一興ね」
 彼女のつぶやきに私は頷いた。

「ドルウェルク辺境伯令嬢は愛人として徹するのよね?」
「そのつもりみたいだね」
「なら、争う必要はないわね。エリーは数年間の仮面夫婦で、後の事はあの二人の問題だと、割り切ればいいんだから」
「そうだね」
「もう、ドルウェルク辺境伯令嬢とは関わらなくていいよ」
 そう言われて、私は口をつぐんだ。
 でも、心のどこかに引っかかっているものがあった。
「でも……」
「エリー」
 ベッキーは真剣な顔で私を見た。

「彼女とこれ以上何を話す必要があるの? 彼女はあなたの助けを望んでいない。彼女が辛い状況に身を置いているのは、彼女自身がその道を選んだから。しかも、彼女なりに考えてそうしてるわけでしょ? それを否定するのはどうなのかな……」
「……そうだね」
 ベッキーの言葉が、静かに胸に染みた。
 レイチェル嬢は信念を持って行動をしている。私が何を言っても、彼女の固い意志を変える事はできないだろう。

「だから、もう、ドルウェルク辺境伯の事をどうにかしようと思うのはやめなよ。エリーは神様じゃないんだから、全てを救う事はできないし、許す必要もない。だから、ね?」
 私は頷いた。これ以上、ベッキーに心配をかけたくなかったから。
「もう、レイチェル嬢の事に口を挟む事はやめるわ」
 そう言うと、ベッキーは笑った。

 だから、私も笑顔を作った。そうやって、この話題はおしまいなのだと表現したのだ。
 幼馴染のベッキーには、あっさりと意図が伝わった。彼女は明るい声で、「そういえば」と言って、話を変えた。
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