【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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2章 世界で一番嫌いな人

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「……王妃様の妄想なんて聞きたくありません」
 彼女の妄言にこれ以上、揺さぶられたくなかった。
「妄想なんてとんでもない。これはあなたへの警告」
 王妃様は満面の笑みを浮かべる。

「あなたは王太子妃として子を成して、少しでもレイチェルに勝らないと。子供を通して自分の価値を高める事が、馬鹿なあなたにできる唯一の方法よ?」
「私は王妃様のように、自分の子を道具にするつもりはありませんから」
「本当に甘い女。折角親切で言ってあげてるのに。……もういいわ。幽閉でも暗殺でもされればいいのよ」
 そう言って彼女は立ち上がり、部屋から出て行った。







 ニコラス様は諦めの悪い人だった。
 彼は毎夜、私の部屋にやって来て夜の営みを持ちかけようとしてきた。その度に私は全力で拒否をして、結果的に激しい口論を行う事になる。
 そんな日々を送っていたら、次第に、夜が億劫になっていった。

 ━━何とかして、夜を共にしない方法はないかしら?

 考えた末に浮かんだのは、社交活動に打ち込む事だった。
 社交界で名声を高めて影響力を持つ事は、王太子妃の重要な仕事の一つだ。
 だから、それを言い訳にすれば、夜の営みも自然な形で断れるのではないかと思った。

 それからというもの、私は、スケジュールにお茶やサロン、パーティーを詰め込んだ。朝早くから王宮を出て、夜遅くに帰って来る。そんな生活を当然のように繰り返した。

「最近は社交活動に随分、熱心なのですね」
 偶然、パーティー会場で出くわしたニュルンデル伯爵は、以前とは違い、かしこまった口調で話しかけてきた。きっと、人目を気にしているのだろう。
「そうですね。王太子妃として頑張りたいので」
 思ってもいないこの返答を口にするのも、もう慣れてきた。
「そうですか」
 伯爵は他の人とは違って、深く追及する事はなかった。彼は穏やかに微笑んで話題を変えた。

「そういえば、アーサー殿下から、新しく開発している魔導具の話について聞きましたか」
 伯爵がアーサー殿下と敬称を付けて呼ぶ事に違和感を覚えつつ、私は首を振った。
「披露宴で挨拶をした時に少しだけその話を聞いたんですけど、その後お会いする機会がなくて・・・・・・」
「それは勿体ない。私達の新しい商品を見ていただきたいので、お時間を作っていただけないでしょうか」
「ええ。勿論」
「では、改めてお手紙を差し上げますので、日取りは後日決めましょう」
「はい。なるべく早く会えるように日程を調整しますね」
「ありがとうございます。きっと、アーサー殿下も喜ぶ事でしょう」
 ニュルンデル伯爵は笑った。

 ━━また、魔導具を見られる。

 この憂鬱な日々を吹き飛ばしてくれる気がして、早くその日が来て欲しいと思った。





 それからすぐに、私達の会う日はやって来た。
 王都のニュルンデル伯爵邸でアーサー殿下は笑顔で私を迎え入れてくれた。
「久しぶりだね」
 結婚式の日から半月ちょっとしか経っていないのに、彼と会ったのはとても昔の事ように思えた。
「おいおい、結婚式の時に会ったんだろ?」
 ニュルンデル伯爵はそう言って茶化した。パーティーの時とは違って婚前に会った時のような気さくな態度だ。

「そうだけど、随分昔のように思えてさ」
「何だよ、それ」
 伯爵はアーサー殿下を笑った。
 私も同じ気持ちだと言いづらかった。はにかむアーサー殿下と目が合ってしまい、私は気まずくて、咄嗟に目を逸らした。

 それから、少し近況報告を兼ねた雑談を挟んだ後、アーサー殿下は本題である開発中の魔導具について教えてくれた。
「俺達は今、魔導技術を用いて馬なしで動く馬車のような物を作ろうとしているんだ。“魔導四輪車”という物なんだけど」
 それを聞いて、すぐに前世の自動車が思い浮かんだ。
 アーサー殿下が見せてくれた図面には、四つの車輪と円いハンドル、排気口らしきものまで描かれていた。それは、前世の自動車を思わせる造りだった。

「ゆくゆくは、これを街中で自由に走らせるのですか」
 尋ねると、アーサー殿下は目を見開いた。
「よく分かったね、これは、魔導列車のように決められたレールの上を走らせる物ではないんだ。それこそ、馬車のように自由に往来させたいと思っている」
「そうなれば、人の暮らしはますます良い物になりそうですね」
「ああ。ただ、これを作るのに大苦戦をしていてね……」
 アーサー殿下の言葉にニュルンデル伯爵は頷いた。伯爵はどういう状況にあるのかを説明してくれた。

「試作品を何度か作ってはみたんですが、あまり出来が良くないんですよ。おまけに、魔導列車の時と同様、頭の固い貴族達は、これを素晴らしい発明品と理解できません。だから、資金集めに苦労しているんですが……」
 彼は私の目をじっと見つめた。
「エレノア妃なら、魔導四輪車の価値は分かりますよね?」
 資金を求める意図が、視線に滲んでいた。私は思わず苦笑いをしてしまった。
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