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2章 世界で一番嫌いな人
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「魔導四輪車が完成すれば、世紀の大発明になると思います。それを作る一助になれたらとは思うのですが……」
「何か問題が?」
「それをニコラス様やレイチェル妃が許してくれるかどうか」
そう言うと、アーサー様とニュルンデル伯爵は顔を見合わせた。
「ニコラスはともかく、どうしてレイチェル妃の顔色を伺わなければいけないんだい?」
「え? だって、私達に充てられた予算を使う訳ですから、彼女にも確認を取らないと」
「彼女がそうしろと?」
「いいえ、そんな事はないです」
レイチェル妃とは、もう何年もまともに話していない。私達は特段、連絡を取り合う事もなく、話をしても必要最低限の形式的なやり取りだけだった。
「レイチェル妃からは、『王太子妃の権限に踏み込むつもりはない』とはっきり言われてますから」
そう言うと、アーサー様は息を吐いた。それから、小さな声で「それなら良かった」とつぶやいた。
なぜそんな反応をされるのだろうと思って見つめていると、彼は慌て始めた。
「支援金をどうしてももらいたいわけじゃないからね?」
「ええ……。あの、どうしたんですか、急に?」
尋ねると、伯爵は吹き出した。
「アーサー、素直に言ったら? エレノア様を心配しているだけだって」
「心配?」
「充てられたお金の使い道を側室に確認すると言われたら、普通は焦りますよ? エレノア様が不遇な扱いを受けてるんじゃないかって」
「そんなつもりじゃ……」
アーサー様は伯爵を睨みつけた。
「ライオネル、余計な事は言わなくていい」
「でもね。俺も心配なんだ」
笑っていた伯爵の顔が急に引き締まった。
「エレノア様の事だから、レイチェル妃様に優しさで配慮をしていると思うんですけど。ただ、もし、レイチェル妃様が『ダメだ』と言ったらどうするつもりですか」
「え……。それは、理由を聞いてみてから決めると思います」
「彼女はあなたを補佐する侍女ではないのですから、そうする必要はないのですよ」
「ライオネル。王太子妃が予算の振り分けをどのように行おうとも、それは俺達が口を挟んでいい事じゃない」
いつになく真剣な眼差しでアーサー様は言った。ニュルンデル伯爵はどことなくさみしげな顔で「そうだね」とつぶやいた。
「すまない、ライオネルが失礼な事を言って」
「いえ。私を心配してくれての事ですから」
「魔導四輪車の開発の援助に関しては、君の判断に任せるから。嫌だと思うなら遠慮なく断ってもらっていい。それで、俺達の縁が切れる訳ではないから」
「はい。……決めるのにお時間をいただいても?」
「勿論。納得がいくまでゆっくりと考えて」
アーサー様はそう言うと優しく笑った。
それから、私は他の開発中の魔導具を見せてもらった。ニュルンデル伯爵は用事があるからと言って、途中で帰ってしまったけれど、その後もアーサー様は、熱心に説明をしてくれた。
「すごいですね」
見せられたヘアアイロンに対して称賛の言葉を投げかけると、アーサー様はふふっと笑った。
「褒めてもらえるのはありがたいけど、その言葉はもう何度も聞いているよ」
言われて、無意識に同じ言葉を繰り返している事に気が付いた。
「でも、本当にすごいんですから。早く私の手元に届くくらい、普及して欲しいと思ってるくらいに」
「それなら、後で試作品を一つ送らせてもらうよ」
「え……」
物をねだってしまったみたいになってしまった。そう思っていると、アーサー様はまた笑った。
「遠慮しなくていいんだ。王太子妃が使用しているとなれば、宣伝になる上、商品に箔が付くから」
「そうなんですか」
「ローズが良い例だろう?」
「ああ……」
ローズ王女殿下の持ち物は話題に上がるようになると、爆発的に流行する傾向にあった。
「私が王女殿下のように流行らせる事ができるのでしょうか」
「大丈夫だよ。王太子妃の動向にみんな注目しているから。君が振る舞ったお茶菓子は、絶賛されていて、工房が大忙しになっているくらいだからね」
アーサー様に微笑みかけられて、気恥ずかしくなった。
「それに君も最近は社交活動を頑張っているそうじゃないか」
そう言われて思わず苦笑いを浮かべそうになった。ニコラス様から逃れるためにしていた行動がまさか、役に立つとは思わなかった。
「だから、遠慮しないで。ね?」
優しく微笑まれて、私はつい頷いてしまった。
「何か問題が?」
「それをニコラス様やレイチェル妃が許してくれるかどうか」
そう言うと、アーサー様とニュルンデル伯爵は顔を見合わせた。
「ニコラスはともかく、どうしてレイチェル妃の顔色を伺わなければいけないんだい?」
「え? だって、私達に充てられた予算を使う訳ですから、彼女にも確認を取らないと」
「彼女がそうしろと?」
「いいえ、そんな事はないです」
レイチェル妃とは、もう何年もまともに話していない。私達は特段、連絡を取り合う事もなく、話をしても必要最低限の形式的なやり取りだけだった。
「レイチェル妃からは、『王太子妃の権限に踏み込むつもりはない』とはっきり言われてますから」
そう言うと、アーサー様は息を吐いた。それから、小さな声で「それなら良かった」とつぶやいた。
なぜそんな反応をされるのだろうと思って見つめていると、彼は慌て始めた。
「支援金をどうしてももらいたいわけじゃないからね?」
「ええ……。あの、どうしたんですか、急に?」
尋ねると、伯爵は吹き出した。
「アーサー、素直に言ったら? エレノア様を心配しているだけだって」
「心配?」
「充てられたお金の使い道を側室に確認すると言われたら、普通は焦りますよ? エレノア様が不遇な扱いを受けてるんじゃないかって」
「そんなつもりじゃ……」
アーサー様は伯爵を睨みつけた。
「ライオネル、余計な事は言わなくていい」
「でもね。俺も心配なんだ」
笑っていた伯爵の顔が急に引き締まった。
「エレノア様の事だから、レイチェル妃様に優しさで配慮をしていると思うんですけど。ただ、もし、レイチェル妃様が『ダメだ』と言ったらどうするつもりですか」
「え……。それは、理由を聞いてみてから決めると思います」
「彼女はあなたを補佐する侍女ではないのですから、そうする必要はないのですよ」
「ライオネル。王太子妃が予算の振り分けをどのように行おうとも、それは俺達が口を挟んでいい事じゃない」
いつになく真剣な眼差しでアーサー様は言った。ニュルンデル伯爵はどことなくさみしげな顔で「そうだね」とつぶやいた。
「すまない、ライオネルが失礼な事を言って」
「いえ。私を心配してくれての事ですから」
「魔導四輪車の開発の援助に関しては、君の判断に任せるから。嫌だと思うなら遠慮なく断ってもらっていい。それで、俺達の縁が切れる訳ではないから」
「はい。……決めるのにお時間をいただいても?」
「勿論。納得がいくまでゆっくりと考えて」
アーサー様はそう言うと優しく笑った。
それから、私は他の開発中の魔導具を見せてもらった。ニュルンデル伯爵は用事があるからと言って、途中で帰ってしまったけれど、その後もアーサー様は、熱心に説明をしてくれた。
「すごいですね」
見せられたヘアアイロンに対して称賛の言葉を投げかけると、アーサー様はふふっと笑った。
「褒めてもらえるのはありがたいけど、その言葉はもう何度も聞いているよ」
言われて、無意識に同じ言葉を繰り返している事に気が付いた。
「でも、本当にすごいんですから。早く私の手元に届くくらい、普及して欲しいと思ってるくらいに」
「それなら、後で試作品を一つ送らせてもらうよ」
「え……」
物をねだってしまったみたいになってしまった。そう思っていると、アーサー様はまた笑った。
「遠慮しなくていいんだ。王太子妃が使用しているとなれば、宣伝になる上、商品に箔が付くから」
「そうなんですか」
「ローズが良い例だろう?」
「ああ……」
ローズ王女殿下の持ち物は話題に上がるようになると、爆発的に流行する傾向にあった。
「私が王女殿下のように流行らせる事ができるのでしょうか」
「大丈夫だよ。王太子妃の動向にみんな注目しているから。君が振る舞ったお茶菓子は、絶賛されていて、工房が大忙しになっているくらいだからね」
アーサー様に微笑みかけられて、気恥ずかしくなった。
「それに君も最近は社交活動を頑張っているそうじゃないか」
そう言われて思わず苦笑いを浮かべそうになった。ニコラス様から逃れるためにしていた行動がまさか、役に立つとは思わなかった。
「だから、遠慮しないで。ね?」
優しく微笑まれて、私はつい頷いてしまった。
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