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2章 世界で一番嫌いな人
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※
それから数週間後、私はレイチェル妃に手紙を書いた。内容は、王太子妃として魔導具の開発資金の援助を決めたというもの。
ニュルンデル伯爵は、彼女の意見を聞かなくて良いと言ったけれど、与えられた予算は私達二人の物だから。彼女にも、その使用用途を説明しておくのが筋だと思った。
手紙を書き終えると、私は侍女にそれを送るようにと指示を出した。侍女はレイチェル妃宛と知ると、顔色を変えた。
「レイチェル妃様は、10日後に帰国する予定です。急ぎの用事でなければ、帰還後にお渡しする方がよろしいかと」
いつも明るい表情で接してくれている彼女は伏し目がちに言った。きっと、私とニコラス様の関係が上手くいっていない原因がレイチェル妃にあると侍女は思っているのだろう。
私は、彼女の思いに気づかないふりをして微笑んだ。
「そう。彼女が帰ったらすぐに渡してちょうだい」
「かしこまりました」
私は侍女にお願いをすると、明日の朝に備えて早々に寝た。
※
それから10日後の昼前に、レイチェル妃はリュミエール王国から帰還してきた。侍女に手紙はどうなったかと確認すると、レイチェル妃の侍女に渡したと言われた。
「レイチェル妃が帰られて間もなく、ニコラス殿下が彼女のもとを訪ねましたゆえ……」
侍女に申し訳なさそうに言われて、私は知りたくもなかった彼の動向を知る事になった。
それから3日間、彼はレイチェル妃の寝室から出る事はなかった。彼女は1ヶ月近く国を離れていた上、これからは私との新婚旅行に行くのだ。離れ離れになる事で恋しさが募ったのだろう。
━━新婚旅行は、私とじゃなくてレイチェル妃と一緒に行けばいいのに。
私の想いとは裏腹に、侍女達は張り切っていた。レイチェル妃からニコラス様を取り戻すチャンスなのだと。私が彼との夜を避けているというのに、彼女達はレイチェル妃が奪ったと思い込んでいるようだった。
ニコラス様が、新婚旅行の出発ギリギリの時間までレイチェル妃の部屋から出て来なかったのが、原因の一つなのかもしれない。
だから、私は侍女達の手によって、過剰なまでに着飾られた。王太子妃としての“威厳”を見せているといえば、聞こえは良いけれど。私の意志とは裏腹に、ニコラス様に媚を売っているようで嫌だった。
馬車で久しぶりに顔を合わせた彼は、気怠そうな目で私を見た。そして、馬車が発進するなり、窓際に頬杖を付き、目を閉じたのだ。
その姿を見て改めて思わされた。彼にとって、私の事などどうでもいいのだと。
━━服装で彼の目を気にしていた自分が馬鹿みたいだ。
そう思いながらも、私はただ黙って窓の外を見つめていた。
結婚旅行の移動中は、息の詰まる思いを抱えながらずっとそうしていたのだ。
私は新婚旅行の最中、ずっと苦しかった。
彼と二人きりになる事も、他国の重鎮から賛辞の言葉を聞かされる事も、侍女達の期待も、私には苦しくて重い出来事だった。
そして、何より、ニコラス様と同じ寝室にいる事が━━
彼はベッドに来ると、必ずといっていい程、私の身体に触れてきた。
その行動に、結婚式の夜よりも嫌悪感を持った。
━━旅行前に散々愛する女を抱いていて、どうして私に触ろうと思えるの?
私は彼の手を払い除けた。それでもなお、触ろうとしてくる彼が気持ち悪くて堪らなくて、私は思わず叫んでしまった。
「気持ち悪い! 私に触らないで下さい!!」
漏らした本音に、私は酷い事を言ってしまったと後悔したけれど。彼はそれを意に解する様子はなかった。
「王太子妃の重要な仕事の一つだ」
彼は冷めた目で私を見下ろし、“仕事”のできない私を責め立てる。そして、その行為をさせるために、再び触ろうとしてきた。
━━本当に、優しさの欠片もない人。
私は枕で彼をはたいた。
「何があっても、好きでもない人とはそういう事はしませんから」
口にした途端、言葉よりも先に涙が滲んだ。
「それはいけないな。君が俺を好きになれるわけがないから」
嘲笑う彼の神経がまるで分からない。泣かせた女に嘘でも優しく接する事ができない彼の事が。
不意に頭の中に、アーサー様の顔が思い浮かんだ。ニコラス様とは対称的に思いやりにあふれた彼ならきっと、こんな事は言わないだろう。彼なら、無理強いをせずに、私の気持ちが決まるのを待ってくれるはずだ。
私が涙を流し、現実逃避をしていると、ニコラス様は舌打ちをした。
「もういい。辛気臭い顔を見るのもうんざりだ」
彼はそう言うなり背を向けて寝始めた。
私はベッドの端に寄り、なるべく彼から離れて静かに涙を流した。
それから数週間後、私はレイチェル妃に手紙を書いた。内容は、王太子妃として魔導具の開発資金の援助を決めたというもの。
ニュルンデル伯爵は、彼女の意見を聞かなくて良いと言ったけれど、与えられた予算は私達二人の物だから。彼女にも、その使用用途を説明しておくのが筋だと思った。
手紙を書き終えると、私は侍女にそれを送るようにと指示を出した。侍女はレイチェル妃宛と知ると、顔色を変えた。
「レイチェル妃様は、10日後に帰国する予定です。急ぎの用事でなければ、帰還後にお渡しする方がよろしいかと」
いつも明るい表情で接してくれている彼女は伏し目がちに言った。きっと、私とニコラス様の関係が上手くいっていない原因がレイチェル妃にあると侍女は思っているのだろう。
私は、彼女の思いに気づかないふりをして微笑んだ。
「そう。彼女が帰ったらすぐに渡してちょうだい」
「かしこまりました」
私は侍女にお願いをすると、明日の朝に備えて早々に寝た。
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それから10日後の昼前に、レイチェル妃はリュミエール王国から帰還してきた。侍女に手紙はどうなったかと確認すると、レイチェル妃の侍女に渡したと言われた。
「レイチェル妃が帰られて間もなく、ニコラス殿下が彼女のもとを訪ねましたゆえ……」
侍女に申し訳なさそうに言われて、私は知りたくもなかった彼の動向を知る事になった。
それから3日間、彼はレイチェル妃の寝室から出る事はなかった。彼女は1ヶ月近く国を離れていた上、これからは私との新婚旅行に行くのだ。離れ離れになる事で恋しさが募ったのだろう。
━━新婚旅行は、私とじゃなくてレイチェル妃と一緒に行けばいいのに。
私の想いとは裏腹に、侍女達は張り切っていた。レイチェル妃からニコラス様を取り戻すチャンスなのだと。私が彼との夜を避けているというのに、彼女達はレイチェル妃が奪ったと思い込んでいるようだった。
ニコラス様が、新婚旅行の出発ギリギリの時間までレイチェル妃の部屋から出て来なかったのが、原因の一つなのかもしれない。
だから、私は侍女達の手によって、過剰なまでに着飾られた。王太子妃としての“威厳”を見せているといえば、聞こえは良いけれど。私の意志とは裏腹に、ニコラス様に媚を売っているようで嫌だった。
馬車で久しぶりに顔を合わせた彼は、気怠そうな目で私を見た。そして、馬車が発進するなり、窓際に頬杖を付き、目を閉じたのだ。
その姿を見て改めて思わされた。彼にとって、私の事などどうでもいいのだと。
━━服装で彼の目を気にしていた自分が馬鹿みたいだ。
そう思いながらも、私はただ黙って窓の外を見つめていた。
結婚旅行の移動中は、息の詰まる思いを抱えながらずっとそうしていたのだ。
私は新婚旅行の最中、ずっと苦しかった。
彼と二人きりになる事も、他国の重鎮から賛辞の言葉を聞かされる事も、侍女達の期待も、私には苦しくて重い出来事だった。
そして、何より、ニコラス様と同じ寝室にいる事が━━
彼はベッドに来ると、必ずといっていい程、私の身体に触れてきた。
その行動に、結婚式の夜よりも嫌悪感を持った。
━━旅行前に散々愛する女を抱いていて、どうして私に触ろうと思えるの?
私は彼の手を払い除けた。それでもなお、触ろうとしてくる彼が気持ち悪くて堪らなくて、私は思わず叫んでしまった。
「気持ち悪い! 私に触らないで下さい!!」
漏らした本音に、私は酷い事を言ってしまったと後悔したけれど。彼はそれを意に解する様子はなかった。
「王太子妃の重要な仕事の一つだ」
彼は冷めた目で私を見下ろし、“仕事”のできない私を責め立てる。そして、その行為をさせるために、再び触ろうとしてきた。
━━本当に、優しさの欠片もない人。
私は枕で彼をはたいた。
「何があっても、好きでもない人とはそういう事はしませんから」
口にした途端、言葉よりも先に涙が滲んだ。
「それはいけないな。君が俺を好きになれるわけがないから」
嘲笑う彼の神経がまるで分からない。泣かせた女に嘘でも優しく接する事ができない彼の事が。
不意に頭の中に、アーサー様の顔が思い浮かんだ。ニコラス様とは対称的に思いやりにあふれた彼ならきっと、こんな事は言わないだろう。彼なら、無理強いをせずに、私の気持ちが決まるのを待ってくれるはずだ。
私が涙を流し、現実逃避をしていると、ニコラス様は舌打ちをした。
「もういい。辛気臭い顔を見るのもうんざりだ」
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