【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
83 / 103
2章 世界で一番嫌いな人

29

しおりを挟む




 それから数週間後、私はレイチェル妃に手紙を書いた。内容は、王太子妃として魔導具の開発資金の援助を決めたというもの。
 ニュルンデル伯爵は、彼女の意見を聞かなくて良いと言ったけれど、与えられた予算は私達二人の物だから。彼女にも、その使用用途を説明しておくのが筋だと思った。

 手紙を書き終えると、私は侍女にそれを送るようにと指示を出した。侍女はレイチェル妃宛と知ると、顔色を変えた。
「レイチェル妃様は、10日後に帰国する予定です。急ぎの用事でなければ、帰還後にお渡しする方がよろしいかと」
 いつも明るい表情で接してくれている彼女は伏し目がちに言った。きっと、私とニコラス様の関係が上手くいっていない原因がレイチェル妃にあると侍女は思っているのだろう。
 私は、彼女の思いに気づかないふりをして微笑んだ。
「そう。彼女が帰ったらすぐに渡してちょうだい」
「かしこまりました」
 私は侍女にお願いをすると、明日の朝に備えて早々に寝た。







 それから10日後の昼前に、レイチェル妃はリュミエール王国から帰還してきた。侍女に手紙はどうなったかと確認すると、レイチェル妃の侍女に渡したと言われた。
「レイチェル妃が帰られて間もなく、ニコラス殿下が彼女のもとを訪ねましたゆえ……」
 侍女に申し訳なさそうに言われて、私は知りたくもなかった彼の動向を知る事になった。

 それから3日間、彼はレイチェル妃の寝室から出る事はなかった。彼女は1ヶ月近く国を離れていた上、これからは私との新婚旅行に行くのだ。離れ離れになる事で恋しさが募ったのだろう。

 ━━新婚旅行は、私とじゃなくてレイチェル妃と一緒に行けばいいのに。

 私の想いとは裏腹に、侍女達は張り切っていた。レイチェル妃からニコラス様を取り戻すチャンスなのだと。私が彼との夜を避けているというのに、彼女達はレイチェル妃が奪ったと思い込んでいるようだった。
 ニコラス様が、新婚旅行の出発ギリギリの時間までレイチェル妃の部屋から出て来なかったのが、原因の一つなのかもしれない。

 だから、私は侍女達の手によって、過剰なまでに着飾られた。王太子妃としての“威厳”を見せているといえば、聞こえは良いけれど。私の意志とは裏腹に、ニコラス様に媚を売っているようで嫌だった。

 馬車で久しぶりに顔を合わせた彼は、気怠そうな目で私を見た。そして、馬車が発進するなり、窓際に頬杖を付き、目を閉じたのだ。
 その姿を見て改めて思わされた。彼にとって、私の事などどうでもいいのだと。

 ━━服装で彼の目を気にしていた自分が馬鹿みたいだ。

 そう思いながらも、私はただ黙って窓の外を見つめていた。
 結婚旅行の移動中は、息の詰まる思いを抱えながらずっとそうしていたのだ。

 私は新婚旅行の最中、ずっと苦しかった。
 彼と二人きりになる事も、他国の重鎮から賛辞の言葉を聞かされる事も、侍女達の期待も、私には苦しくて重い出来事だった。
 そして、何より、ニコラス様と同じ寝室にいる事が━━

 彼はベッドに来ると、必ずといっていい程、私の身体に触れてきた。
 その行動に、結婚式の夜よりも嫌悪感を持った。

 ━━旅行前に散々愛する女を抱いていて、どうして私に触ろうと思えるの?

 私は彼の手を払い除けた。それでもなお、触ろうとしてくる彼が気持ち悪くて堪らなくて、私は思わず叫んでしまった。
「気持ち悪い! 私に触らないで下さい!!」
 漏らした本音に、私は酷い事を言ってしまったと後悔したけれど。彼はそれを意に解する様子はなかった。

「王太子妃の重要な仕事の一つだ」
 彼は冷めた目で私を見下ろし、“仕事”のできない私を責め立てる。そして、その行為をさせるために、再び触ろうとしてきた。

 ━━本当に、優しさの欠片もない人。

 私は枕で彼をはたいた。
「何があっても、好きでもない人とはそういう事はしませんから」
 口にした途端、言葉よりも先に涙が滲んだ。
「それはいけないな。君が俺を好きになれるわけがないから」
 嘲笑う彼の神経がまるで分からない。泣かせた女に嘘でも優しく接する事ができない彼の事が。
 不意に頭の中に、アーサー様の顔が思い浮かんだ。ニコラス様とは対称的に思いやりにあふれた彼ならきっと、こんな事は言わないだろう。彼なら、無理強いをせずに、私の気持ちが決まるのを待ってくれるはずだ。

 私が涙を流し、現実逃避をしていると、ニコラス様は舌打ちをした。
「もういい。辛気臭い顔を見るのもうんざりだ」
 彼はそう言うなり背を向けて寝始めた。
 私はベッドの端に寄り、なるべく彼から離れて静かに涙を流した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...