【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
84 / 103
2章 世界で一番嫌いな人

30

しおりを挟む




 ニコラス様の夜の誘いは、ある日を境にぱたりとなくなった。
 何がきっかけでそうなったのかは分からないけれど、彼に触れられないで済むと思うと、その理由はどうでもよかった。

 私達は、昼間は完璧な新婚夫婦を演じ、夜は別室で眠った。そして、それは、最後に訪れたリュミエール王国でも変わらなかった。

 リュミエール王太子夫妻にもてなされた私達は、並び立って微笑んだ。
 ニコラス様との結婚を祝う言葉は少しも嬉しくなかったけれど、彼らに他意はないのだ。彼らの善意を無碍にしたくなかったから、私は精一杯、喜んだふりをした。

 四人での社交的な話が落ち着くと、エドワード様は、ニコラス様と散歩がてら二人で話がしたいと言った。ニコラス様は愛想笑いを浮かべながらそれを受け入れると、私に視線を送った。
「そっちは任せた」
 彼は小声でつぶやくと、エドワード様と行ってしまった。

「エレノア様」
 イザベラ様は柔らかな微笑みを浮かべて私を呼んだ。
 “氷の令嬢”という不名誉なあだ名をつけられた悪役令嬢は、破滅ルートを回避し、王太子妃になった。彼女はゲームの中では見せなかった愛らしい笑顔が浮かんでいる。

「今日はお天気が良いので、庭園を散歩しませんか」
「ええ。いいですね」
 私は彼女に案内されて、庭園に向かった。
 そこで目に入ったのは、一面に乱れ咲く花々だった。見頃の花から季節外れのものまで、一様に咲いている。

「これは……」
「隣国から大切なお客様がいらっしゃると聞いて、庭師が張り切ってしまったのです」
 イザベラ様は苦笑した。
「もしかして、魔法で?」
「そうなんです。魔法で花に適切な栄養を与える事によって、季節外れのものでも咲かせる事ができるんです」
「それを魔法使いではなく、庭師がやったのですか」
「ええ。この程度の事で魔法使いを呼ぶ必要はありませんから」
 リュミエール王国の人々は、魔法を当たり前のように使えるとは聞いていたけれど、まさかこれ程までとは思わなかった。

「エレノア様はニコラス様に花を贈られた事はありますか」
「ええ。お誕生日の際には贈っていましたが……」
 彼との関係を少しでも良い物に変えたくて贈っていた事もあったけれど。返ってくるのは、侍従に書かせたであろう形式的なお礼のメッセージだけだった。少しも喜んでくれず、お礼の一言すら自分で書かない彼に、私はいつしか、自分で花を選ぶ事をやめてしまった。

 私の返事にイザベラ様は目を輝かせた。
「もうすぐ、エドのお誕生日なので、よければアドバイスをいただけませんか」
「アドバイス、ですか」
「恥ずかしながら、家族以外に花を贈る経験をした事がないのです。ですから、恋人や夫に何を贈れば良いのか私には分からなくて……」
 しょんぼりとした様子で悩みを打ち明ける彼女は、やっぱり幸せな結婚生活を手に入れられたのだと思わされた。

「エレノア様ならどんな花を贈りますか」
「ニコラス様は秋生まれなので、秋の花を花束にしてもらいましたね。確か、コスモスやダリアの花が中心になっていたと思います」
「そうですか……。もし、季節関係なしに選べるとしたら、どうします?」
「そうですね……」
 ニコラス様に贈る花を考えても、一向に答えは出てこなかった。彼は何を贈っても、きっと反応が返ってこないだろうから。

 不意に、アーサー様の顔が頭に浮かんだ。彼なら、どんな花を贈っても、喜んでくれるような気がした。彼は真心を汲み取ってくれる優しさを持っているから━━

 虚しさが込み上げてきて、私は小さく頭を振った。そして、微笑むと彼女に向かって言った。
「そんなに難しく考えなくていいと思いますよ? 家族の時と同じように相手の事を思って選んだらどうでしょう」
「エドの事……」
 ピンと来ていない様子だったから、もう少し具体的にアドバイスをした。
「エドワード様の好きな花や、二人の思い出の花はありませんか」
 イザベラ様は唇に手をあてて、目の前の花をじっと見つめた。そして、目を見開いたかと思うと、私を見た。

「初めてのデートで一緒に見た花でも、大丈夫でしょうか」
「ええ。ステキな贈り物になると思いますよ」
「……あ。でも、エドは初デートで見た花の事を覚えているかしら?」
「もし、覚えていなかったとしたら、教えてあげればいいんですよ。初デートで見た花を今でも覚えているくらい、大切な思い出だって」
 イザベラ様ははにかんだ。その顔を見て、私はうらやましいと思ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...