【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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2章 世界で一番嫌いな人

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 アーサー様は、私に向き合うと微笑んだ。私は胸の内にひしめく想いをひた隠しにして、微笑み返した。
「エレノア妃は、元気にしてた?」
「はい。おかげさまで」
「新婚旅行から帰って間もないからパーティーに誘うべきか、ライオネルと二人で迷っていたんだけど……。こうやって会ってみると、遠慮しないで良かった」
 そう言ってもらえた瞬間、胸のモヤモヤは嘘のように晴れた。

「私も、アーサー様にお会いできて嬉しいです」
「勿論、これから会うニュルンデル伯爵にも。……でしょ?」
 ベッキーは私に同意を求めてきた。その目がいつになく力強くて、私はなぜそんな風に見られるのかと戸惑った。

「うん、そうだね」
「ライオネルはこの後に行われる魔導具の発表が終われば話ができると思うよ」
「アーサー様は、何かされないのですか」
「うん。今回は彼に任せているから。俺は、出資者に挨拶をする程度だよ」
「そうですか」
 挨拶回りの役割を担当しているであろう彼をこれ以上、引き止めるのは気が引けて……。名残惜しかったけれど、一時の別れの挨拶をした。

「行っちゃったね」
 ベッキーはアーサー様の背中を見つめながら言った。
「うん」
「エリー、あのね……」
 ベッキーは何かを言おうとした。けれど、私達のもとに夫人が挨拶に訪れて、言葉は途切れてしまった。

 ━━何を言おうとしたのかしら?

 それが気になりつつも、私達に声をかける人が絶えず訪れて、聞く事ができなかった。
 そして、気がつけばニュルンデル伯爵による魔導具開発の進展が発表される時間になっていた。

 壇上に立った伯爵は、いつになく真面目な様子で、説明をした。けれど、時折、彼らしくおどけてみせる事もあって、会場は和やかな雰囲気に包まれ、誰もがその話に引き込まれていた。

「この改良によって、“魔導四輪車”の実現は、夢物語ではなくなったと言ってもよいと断言できます。そして、それが実現できたとなると……。ここにいらっしゃる皆様なら、お分かりいただけますよね」
 ニュルンデル伯爵の言葉に、ある者は頷き、またある者は息を呑んでいた。
「では、今回の発表は以上となります。何か質問等がありましたら、ぜひ、私にお声がけをお願いします」
 そう言って彼がお辞儀をすると、壇上を降りた。

「前回お話を聞いた時は出資を断ったが……。検討の余地がありそうだな」
 近くにいた壮年の男がそうつぶやくのが聞こえた。それをきっかけに、人々の感想が飛び交い始めた。耳に入ってくる限り、概ね好評のようだった。

「良かったね、発表は大成功みたい」
 隣りにいたベッキーに向かって言うと、彼女は頷いた。
「折角だから、私もこれを機に投資してみようかしら?」
「ベッキーのお父様は認めてくれるの?」
「大丈夫。家のお金じゃなくて、私のお金だから」
 ベッキーはにっと笑った。
「目指せ! 億万長者」
 彼女が冗談めかして笑っていると、タイミングよく、ニュルンデル伯爵が現れた。

「ライネ伯爵令嬢が大金持ちになれるようにするためにも、開発を次の段階に持っていかないとね」
「あら、伯爵。聞いていらしたんですか」
「うん。それにしても、君は相変わらず面白い子だね」
 二人はあははと笑い合った。
「でも、投資の話は本気なんですよ?」
「それなら、後日資料を送るから……」

 二人が話し合う中、私は何の気なしに周囲を見渡すと、令嬢の集団に話しかけられているアーサー様を見つけた。
 彼は笑顔で受け答えをしていて……。また胸の中でざわつきを感じた。

「お、アーサーのやつ、今回もモテてるね」
 私の視線に気付いたであろう、ニュルンデル伯爵が言った。
「アーサー殿下は未婚な上、浮ついたお話もありませんから。令嬢達が群がるのも無理はありませんね」
 ベッキーがそう言うと、伯爵は頷いた。
「でも、アーサーの理想は高いから。あの令嬢達は徒労に終わるんだろうな」
 アーサー様の理想の女性。それはどんな人かと聞いてみたいと思った。けれど、伯爵は苦笑いを浮かべるだけで、それ以上の事は言わなかった。自分から積極的に聞くのは気恥ずかしくて、残念ながらその話題は終わってしまった。

 伯爵とベッキーはその後も軽い雑談を交わしていたけれど、別の人の所に挨拶へ行かないといけないと言って、彼は立ち去った。
 それから、また私達は二人で一緒にいたのだけれど、ベッキーのもとに、王女殿下のお知り合いの方が話しかけて来た。二人の会話が盛り上がる中、アーサー様が再びこちらへとやって来た。よく見ると、手には空になったロックグラスを持っている。

「エレノア妃、よければテラスで一杯飲みませんか」
 突然の提案に驚きつつも、私は小さく頷いた。
 ベッキーに一声かけようかと思ったけれど、楽しげな笑い声が耳に入ってきて、結局そのまま席を外した。
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