【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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「何を、仰っているんです?」
 私と踊りたいだなんて、本当に、彼は何を考えているのだろう。そもそも、ニコラス殿下はまだ婚約者のエレノアとファーストダンスを踊っていないはずだ。

 ━━自分の婚約者を無視して弟の婚約者と踊れば、スキャンダルになる事は間違いないのに。

 彼は私の耳にそっと顔を近づけた。

のお礼だと思って」
「お礼?」
「俺が君と踊れば、エレノアの評価が下がる。それに、ケインとあの女のダンスなんて、どうでもよくなるはずだよ。観衆は、ミステリアスな君に惹かれるはずだから」
 それはそうだろう。しかし、その説明を聞いても腑に落ちなかった。
「しかし、それをしてニコラス殿下に何のメリットが?」
 素直に尋ねると、彼は不敵な笑みを浮かべた。
「言っただろう? あの日のお礼だって。命の恩人のためなら、これくらいお安い御用さ」

 ━━なるほど。彼は、を返したいのね。

 彼は、もう一度手を出した。
 私はそれを取る。
 すると、彼は満面の笑みを浮かべた。

「さあ、踊ろうか」
 タイミング良く、一曲が終わった。私達は会場の中央に向かう。

 ニコラス殿下にエスコートされながら歩く私を見た人々は、当然ながらざわつき始めた。その声に反応して、ミランダと一緒にいるケイン殿下が目を丸くしてこちらを見ていた。

「レイチェル」
 ニコラス殿下に呼ばれて、私は彼を見た。
「踊りは得意?」
「いいえ」
 妃教育の中で、ダンスのレッスンが一番嫌いだ。小さな頃は、稽古相手の足を何度も踏んでしまってよく叱られていた。・・・・・・その失敗はまだマシな方かもしれない。酷い時には、よろけて相手ごと転んでしまっていたから。
 そういうわけで、今でこそ人並みには踊れるようになったけれど。それでも踊りには苦手意識があるのだ。
「そうなの?」
 ニコラス殿下は笑った。きっと、馬鹿にしているのだろう。

 ━━腹が立つわ。間違えて足を踏んでも絶対に謝らないから!

 そんな事を考えていると音楽が鳴り始めた。幸いにも流れた曲は初心者にも優しいワルツで、私達はゆったりとした動きでステップを踏んだ。

「何だ。上手じゃないか」
「基本的で簡単な動きをしていれば成立する曲ですから」
「褒めてるんだから、素直に受け取ってよ」
「・・・・・・ありがとうございます」
 私は内心、不貞腐れて言った。
「かわいい」
 ニコラス殿下はぽつりとつぶやいた。穏やかな微笑みを向けられて、私は視線を逸らした。

 やがて曲が終わると、私達は終わりを告げるお辞儀をした。
「楽しかったよ」
 彼はそう言って私の手の甲にキスをした。
 そこまでされるとは思わなくて私は慌てて手を引っ込める。そして、お礼を言うと足早に退散した。

 元いた場所に戻ると、私はドリンクを手に取った。この気恥ずかしさと気まずさをどうにか誤魔化すために、ジュースを一気に飲み干した。できることなら、お酒を飲みたかったけれど、成人していない身でそれは叶わない。
 空のグラスをテーブルに置き、一息吐くと、ケイン殿下がやって来た。
「ちょっと、来て」
 彼は返事も待たず、私の手を引いて歩き始める。彼は早足で、私を会場の外に連れて行った。

 人気のない場所に着くと、彼は私の手を離した。
「どういう事?」
 怒りに顔を歪ませる彼に、私は「それはこっちの台詞だ」と言ってやりたかった。
 しかし、それをしても良いことはない。私は冷静に彼に向き合った。
「私も聞かせていただきたいです。どうして、他の令嬢とファーストダンスを踊ったのですか」
「それとこれとが、何の関係があるんだ!」
 怒鳴られて私は心底嫌気が差した。

 ━━開き直り? それとも、自分がやらかした事に気付いてない?

 まあ、この際どっちでもいいか。ケイン殿下がミランダとファーストダンスを踊ったという事実は変わらないのだから。

「関係ありますよ。あのままだと、私が恥を搔かされてしまったんですもの」
「嫉妬でやったのか」
 私は首を振った。
「"第二王子妃"の立場が危うくなるから問題なのです。私が取るに足らない存在と認識されれば、社交界での立場がなくなります。そうなれば、第二王子派を拡大するための手段が一つ減るのですよ?」
「君の力がなくったって、俺は上手くやれるから!」
 何を根拠に言っているのだろう。

 しかし、それを指摘しても、火に油を注ぐだけの様な気がした。だから、その事を言及せずに、今度はニコラス殿下と踊った意図を説明する。
「・・・・・・私はケイン殿下のために、ニコラス殿下を利用したのです。彼は婚約者とファーストダンスを踊らず、弟の婚約者と誘った変人となりました。私が彼の誘いに乗った事についての言い訳は『脅された』と遠回しに表現しておけば問題ありません。でも、彼は違います。仮に私が誘ったとしても、彼は私と違って断る事が容易にできるのですから。ですので、ケイン殿下は私とラストダンスを踊り、このスキャンダルを」
「踊らない!」
 彼はぴしゃりと言ってのけた。
「殿下、そうおっしゃらずに」
 ラストダンスを踊る事の重要性を説く前に、彼は「もういい」と言って去って行った。
 私は意固地な彼を追いかける気にならなくて、その場に立ち尽くした。
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