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1章 神様が間違えたから
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※
結局、私は彼とのラストダンスは踊れなかった。それどころか、ケイン殿下は一緒に帰る事を拒否したのだ。
ニコラス殿下と踊った事が、彼のプライドをこれ程までに傷付けるとは思ってもみなかった。
━━まずいわ。何とかしなきゃ。
とりあえず、家に帰ってすぐに、謝罪とおべっかを書いた手紙を送ることにした。
その最中、執事が至急の用件を伝えにやって来た。
「第一王妃様の使者が先程やって参りました。『今日の事を説明せよ』との事ですが」
ケイン殿下の母親からの突然の命令に、執事は驚いた事だろう。何をやらかしたんだと言いたげな顔で見られて、私はいたたままれない気持ちになった。
「分かったわ。明日の朝一番に謁見に向かうと伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
「それから、もうすぐ、ケイン殿下宛の手紙を書き終えるから。今日中に殿下のもとへ届けてくれるかしら?」
「今日、ですか」
彼は戸惑っているようだった。夜も遅いのだ。無理もない。
「早く伝えないといけない大事な話があるの」
「・・・・・・かしこまりました」
執事は訝しがりながらも部屋から出ていった。
※
そして、次の日の朝、私は約束通りに王宮の謁見の間に向かった。
「参りました。第一王妃様」
恭しくお辞儀をすると、第一王妃様は座る様に言った。私は指示に従い、彼女の前のソファに腰掛ける。
「入学祝いのパーティーで、ニコラス王子と踊ったそうね」
「はい」
「なぜそうしたのか、説明なさい」
「はい」
私は何があったのか、そして、どのような意図でそうしたのかを明確に説明した。また、ケイン殿下が私とラストダンスを踊る事を拒否した事も伝えた。
話を聞き終えた第一王妃様は眉間に皺を寄せてこう言った。
「あの子一人の気持ちを掴めないなんて。・・・・・・失望したわ」
私は笑いそうになるのを必死に我慢した。
━━それ、あなたが言うの?
第一王妃様は国王陛下からの愛情をもらえなかった唯一の王妃だった。正室だった王妃陛下が亡くなって、「側室」として迎えられた彼女は、その立場を未だに納得していない。
━━つまらないプライドを優先させて、国王陛下を怒らせてばかりいる哀れな女のくせに。
私は腹に据えたものを隠して「申し訳ありません」と言った。
しかし、謝っても、第一王妃様の怒りは収まらなかったらしい。その後も、責任転嫁とも取れるような内容の説教をされて、私はほとほと疲れさせられた。
第一王妃様の長い説教が終わり、謁見の間から出て廊下を歩いていると、第二王妃様と出くわした。
「あら、レイチェル嬢。ごきげんよう」
「ご機嫌麗しゅうございます。第二王妃様」
本当はこうやって挨拶をするのも嫌だけれど、無視するわけにもいかない。
私は、ニコラス殿下の生みの親である第二王妃様が嫌いだ。もし、神様が「人生で一度だけ、人を殺しても許される権利」を与えてくれるなら、私は迷わず彼女を殺す。それくらい、彼女の事が嫌いだ。
私がそう思う様になったのは、それなりのわけがある。
あれは確か、私が8歳になったばかりの時だった。広い王宮の庭園の中で迷子になった私は、偶然にも、倒れている少年━━ニコラス殿下を見つけた。
駆け寄ってみると、彼は胸を押さえて浅い呼吸を何度も繰り返した。
「大丈夫?」
全然大丈夫じゃない事は明白なのに。私はそう言って彼の背中を擦った。
そうしている間にもニコラス殿下の容体は悪化していった。彼はゲホゲホとむせた咳をして、口から吐しゃ物を出した。そして、苦しさのせいだろう。涙をぽろぽろとこぼし、また浅く激しい呼吸を繰り返したのだ。
私はパニックになりながらも周りを観察した。テーブルにはティーセットが置かれていて、芝生にはクッキーが転がっていた。よく見れば、齧ったものも一つあって、私はそれが原因なのだと断定した。
━━毒だわ! 誰かにそれを伝えなきゃ。
「待ってて。今すぐ助けを呼んでくるから!」
そう言って私は駆け出した。
人を求め、叫びにも似た大きな声で助けを呼ぶと、運良く、一人の侍女に出会えた。
「来て! 人が倒れているの!!」
彼女の手を引きニコラス殿下のいた所に戻った。
幸いな事に、彼はまだ生きていた。私が去った後にも吐いたらしく、顔や服がかわいそうなくらい、ぐしゃぐしゃになっていた。
「あの子を助けてあげて。お医者様をすぐに」
「必要ありません!」
侍女は私の言葉をぴしゃりと遮った。
私が困惑する最中、彼女は冷たい目でニコラス殿下を見下ろした。
「仮病か何かでしょう。放っておいても治りますよ」
私は酷く混乱した。荒い息、吐しゃ物、青白い顔に、涙。あれが仮病だなんて、誰がどう見てもあり得なかったからだ。
「そんなはず、ないでしょう!?」
「あります」
「でも・・・・・・」
侍女の口の端が上がっているのに私は気付いた。
━━もしかして、この人が・・・・・・?
毒を食べさせたのは彼女ではないのかしら。そうじゃなかったとしても、彼女はそれを知っていたのだろう。そして、あの男の子を殺そうとしているのかもしれない。
━━私の考えが正しいのなら、彼女は助けを呼びに行かないし、私の動きを封じるに違いないわ。そして、彼を殺して、知らん顔をするのよ。
恐ろしいこの状況を前に、私は天啓を受けたかのように、彼を助ける方法を思い付いた。
そして、それが危険で無謀な方法だと理解していた私は神に祈りを捧げたのだ。
━━神様、私を・・・・・・。そして、あの子をお救い下さい。
祈り終えるとともに、地面に落ちたクッキーを拾い上げると、迷いなく食べた。一か八かに賭ける事でしか、彼を救う方法がないのだと。あの時の私は思ったのだ。
結局、私は彼とのラストダンスは踊れなかった。それどころか、ケイン殿下は一緒に帰る事を拒否したのだ。
ニコラス殿下と踊った事が、彼のプライドをこれ程までに傷付けるとは思ってもみなかった。
━━まずいわ。何とかしなきゃ。
とりあえず、家に帰ってすぐに、謝罪とおべっかを書いた手紙を送ることにした。
その最中、執事が至急の用件を伝えにやって来た。
「第一王妃様の使者が先程やって参りました。『今日の事を説明せよ』との事ですが」
ケイン殿下の母親からの突然の命令に、執事は驚いた事だろう。何をやらかしたんだと言いたげな顔で見られて、私はいたたままれない気持ちになった。
「分かったわ。明日の朝一番に謁見に向かうと伝えてちょうだい」
「かしこまりました」
「それから、もうすぐ、ケイン殿下宛の手紙を書き終えるから。今日中に殿下のもとへ届けてくれるかしら?」
「今日、ですか」
彼は戸惑っているようだった。夜も遅いのだ。無理もない。
「早く伝えないといけない大事な話があるの」
「・・・・・・かしこまりました」
執事は訝しがりながらも部屋から出ていった。
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そして、次の日の朝、私は約束通りに王宮の謁見の間に向かった。
「参りました。第一王妃様」
恭しくお辞儀をすると、第一王妃様は座る様に言った。私は指示に従い、彼女の前のソファに腰掛ける。
「入学祝いのパーティーで、ニコラス王子と踊ったそうね」
「はい」
「なぜそうしたのか、説明なさい」
「はい」
私は何があったのか、そして、どのような意図でそうしたのかを明確に説明した。また、ケイン殿下が私とラストダンスを踊る事を拒否した事も伝えた。
話を聞き終えた第一王妃様は眉間に皺を寄せてこう言った。
「あの子一人の気持ちを掴めないなんて。・・・・・・失望したわ」
私は笑いそうになるのを必死に我慢した。
━━それ、あなたが言うの?
第一王妃様は国王陛下からの愛情をもらえなかった唯一の王妃だった。正室だった王妃陛下が亡くなって、「側室」として迎えられた彼女は、その立場を未だに納得していない。
━━つまらないプライドを優先させて、国王陛下を怒らせてばかりいる哀れな女のくせに。
私は腹に据えたものを隠して「申し訳ありません」と言った。
しかし、謝っても、第一王妃様の怒りは収まらなかったらしい。その後も、責任転嫁とも取れるような内容の説教をされて、私はほとほと疲れさせられた。
第一王妃様の長い説教が終わり、謁見の間から出て廊下を歩いていると、第二王妃様と出くわした。
「あら、レイチェル嬢。ごきげんよう」
「ご機嫌麗しゅうございます。第二王妃様」
本当はこうやって挨拶をするのも嫌だけれど、無視するわけにもいかない。
私は、ニコラス殿下の生みの親である第二王妃様が嫌いだ。もし、神様が「人生で一度だけ、人を殺しても許される権利」を与えてくれるなら、私は迷わず彼女を殺す。それくらい、彼女の事が嫌いだ。
私がそう思う様になったのは、それなりのわけがある。
あれは確か、私が8歳になったばかりの時だった。広い王宮の庭園の中で迷子になった私は、偶然にも、倒れている少年━━ニコラス殿下を見つけた。
駆け寄ってみると、彼は胸を押さえて浅い呼吸を何度も繰り返した。
「大丈夫?」
全然大丈夫じゃない事は明白なのに。私はそう言って彼の背中を擦った。
そうしている間にもニコラス殿下の容体は悪化していった。彼はゲホゲホとむせた咳をして、口から吐しゃ物を出した。そして、苦しさのせいだろう。涙をぽろぽろとこぼし、また浅く激しい呼吸を繰り返したのだ。
私はパニックになりながらも周りを観察した。テーブルにはティーセットが置かれていて、芝生にはクッキーが転がっていた。よく見れば、齧ったものも一つあって、私はそれが原因なのだと断定した。
━━毒だわ! 誰かにそれを伝えなきゃ。
「待ってて。今すぐ助けを呼んでくるから!」
そう言って私は駆け出した。
人を求め、叫びにも似た大きな声で助けを呼ぶと、運良く、一人の侍女に出会えた。
「来て! 人が倒れているの!!」
彼女の手を引きニコラス殿下のいた所に戻った。
幸いな事に、彼はまだ生きていた。私が去った後にも吐いたらしく、顔や服がかわいそうなくらい、ぐしゃぐしゃになっていた。
「あの子を助けてあげて。お医者様をすぐに」
「必要ありません!」
侍女は私の言葉をぴしゃりと遮った。
私が困惑する最中、彼女は冷たい目でニコラス殿下を見下ろした。
「仮病か何かでしょう。放っておいても治りますよ」
私は酷く混乱した。荒い息、吐しゃ物、青白い顔に、涙。あれが仮病だなんて、誰がどう見てもあり得なかったからだ。
「そんなはず、ないでしょう!?」
「あります」
「でも・・・・・・」
侍女の口の端が上がっているのに私は気付いた。
━━もしかして、この人が・・・・・・?
毒を食べさせたのは彼女ではないのかしら。そうじゃなかったとしても、彼女はそれを知っていたのだろう。そして、あの男の子を殺そうとしているのかもしれない。
━━私の考えが正しいのなら、彼女は助けを呼びに行かないし、私の動きを封じるに違いないわ。そして、彼を殺して、知らん顔をするのよ。
恐ろしいこの状況を前に、私は天啓を受けたかのように、彼を助ける方法を思い付いた。
そして、それが危険で無謀な方法だと理解していた私は神に祈りを捧げたのだ。
━━神様、私を・・・・・・。そして、あの子をお救い下さい。
祈り終えるとともに、地面に落ちたクッキーを拾い上げると、迷いなく食べた。一か八かに賭ける事でしか、彼を救う方法がないのだと。あの時の私は思ったのだ。
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