【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 泣きじゃくるニコラス殿下の背中を私は優しく撫でる事しかできなかった。
 しかし、結果的にはそれで良かったのかもしれない。彼はゆっくりと落ち着きを取り戻した。

「こんな風に優しくしてくれる人は、初めてだったから・・・・・・」
 大泣きしたのが恥ずかしかったのだろうか。彼は突然、言い訳めいた事を言った。
「いいんですよ。今日の事は私達二人の秘密にしておきましょう」
 彼は頷いた。
「辛い時は、誰か信頼できる人を頼って下さい」
「信頼できる人・・・・・・?」
「例えば第二王妃様はどうです?」
 彼女はニコラス殿下の母親だ。いくら野心家とはいっても、お腹を痛めて産んだ息子には優しく接するはずだ。そう思ったのだけれど、ニコラス殿下は暗い顔で首を振った。
「駄目。母上は絶対に・・・・・・。駄目だ」
「・・・・・・どうして?」
「あの人にとって、俺は道具でしかないから。今回毒を盛ったのはきっと第一王妃様だけど、次は母上ではないと否定できないよ」
「待って・・・・・・。どうして、第二王妃様がニコラス殿下に毒を?」
「第一王妃様のせいにするために。それから、父上の関心を引き付けるためでもある」

 私は血の気がさっと引いていった。それと同時に、私を心配して怒っていたお父様の事が頭に浮かんだ。
 冷徹で仕事熱心なお父様ですら、が死にそうになると動揺していた。そして、二度と危険な事はするなと強く叱責したのだ。
 それが、親であり、普通の人間の持つ感性だと思う。

 ━━鬼、悪魔。人の皮を被った化け物。

 第二王妃様に対してそんな単語が頭に浮かんだ。
「そんな人間は、地獄に落ちるべきです」
 気付いたら、思ったことを口走っていた。
「俺もそう思う」
 ニコラス殿下は寂しそうに笑って同調した。
 そんな彼に対して慰めの言葉をかけるべきなのだろうけれど。あの時の私には、何を言っていいのか分からなかった。
 暗い沈黙が流れると、ニコラス殿下は作り笑いを浮かべた。
「ごめん、思ったよりも長く引き留めちゃった。従者のもとまで送るよ」
 そう言ったから、話はそれで終わった。







 あの当時とさほど変わらない美貌を保ったままの第二王妃様は、私をじっと見つめている。そうする事で、私に威圧感を与えているつもりなのだろう。

「入学祝いのパーティーで、ニコラスとファーストダンスを踊ったそうね。ドルウェルク家の子が、まさかそんな事をするなんて思ってもみなかったわ」
 家の名前を出して、遠回しに私の行動に対する家門の責任を問うている。第二王妃様の嫌味な発言に、私も合わせる事にした。
「ええ。今思うと、ニコラス殿下からどんなにお誘いを受けようと、お断りするべきでした。殿、モニャーク公爵令嬢に、すごくご迷惑をおかけしましたもの」
 私はニコラス殿下から迫られたから仕方なく踊り、そのせいでニコラス殿下はモニャーク公爵令嬢に迷惑をかけた。そんな主張を込めて言えば、第二王妃様の顔が一瞬、歪んだ。

「そうね。あの子には言って聞かせておくわ。って」
 私がケイン殿下から大切にされていない事を暗に馬鹿にされた。さらに、第二王妃様は畳みかけてくる。
「そういえば、ケイン殿下と一緒に踊った子はとても美しかったと聞いたわ」
 ミランダの事をわざと話題に出されたから、私はにっこりと笑って言ってやった。
「でも、第二王妃様には負けますわ。美貌は勿論の事、が違いますもの」
 身分の高い男に擦り寄っていく女の行動をそう表現した。馬鹿ならその隠語の意味に気が付かないだろうけれど、彼女は一瞬で理解したらしい。目付きが鋭くなった。
「そう・・・・・・。引き止めて悪かったわね」
「いえ、とても楽しい時間でございました」
 にこりと笑うと、私は恭しくお辞儀をした。

 ━━流石に、子爵家の出身の彼女が国王陛下に取り入り、王妃の地位を手に入れた事を「行動力」と揶揄するのはまずかったかしら。

 去っていく第二王妃様の背中を見送りながら、私はそんな事を考えていた。
 でも、言わずにはいれなかった。それ程、私はあの日、聞いた話に憤っている。

 ━━まあ、これくらいの嫌味は、あの人も聞き慣れていそうだから大丈夫でしょう。

 今はあの人の事よりも、ケイン殿下の事を考えなければならない。
 私はこれからの事を考えながら、王宮を後にした。






 王宮での用事が済むと、私は真っ直ぐに帰宅をした。
 折角の休みの日だったのに、二人の王妃の相手をしたせいで酷く疲れさせられた。ストレスのかかるやり取りをさせられたせいだろうか。頭の奥がじわりと痛いんだ。
 私は自室のソファに深く腰掛けて、目を閉じた。
 そうしていたら、私はいつの間にか眠りに落ちていたらしい。デスクに置いた通信機の通知音で目が覚めた。
 電話の役割を果たすそれは、「緊急時のために」とお父様が私にくれた、魔導具だった。

 私は急いで立ち上がり、デスクへと向かった。
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