【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
7 / 103
1章 神様が間違えたから

7

しおりを挟む
 通信機を手に取り、ボタンを押すと、通話が始まった。
「はい。レイチェルです」
「うむ。私だ」
「どうなさいました、お父様?」
「入学式は問題なく終わったか心配でな」
 この王都から遠く離れたドルウェルク領では、中央貴族の社交会での出来事が伝わるの数ヶ月先になる。
 今回、お父様はそれを待つのではなく、直接私から聞き出す事を選んだらしい。

 ━━この通信機そのものも馬鹿みたいに高い値がするけれど、こうした通話にもそれ相応の値がしたわよね・・・・・・。

 パーティーでの事や、今日の王宮での出来事を黙っていようかと一瞬思ったけれど、やめた。
 気軽に使える物ではないそれを使ったにも関わらず、数ヶ月後に娘の報告が嘘だと知ると、お父様は失望するだろう。
 そうなれば、お父様は私の管理と監視を兼ね備えた人材をこちらに送ってくるかもしれない。

「昨日の入学祝いのパーティーで、問題が発生しました」
 昨日と今日の話を、お父様は唸り声をあげながら聞いていた。
「うむ・・・・・・。そんな状況なら、昨日のお前の行動は致し方なかっただろう」
「はい」
「ケイン殿下に送ったという手紙に反応はあったか」
「全く。王宮でもお会いしてくれませんでしたし、無視を決め込まれていますね」
「うむ・・・・・・」
 芳しくない状況を伝えると、一瞬沈黙が走った。

「・・・・・・しかし、ケイン殿下がそこまで賢くないとはな」
 お父様は控えめな声で彼を非難した。顔は見えないけれど、きっと眉間に皺を寄せ、険しい表情をしているに違いない。
「ただ、それが今回、良く分かったのだから、今後はそれを考慮して立ち回りなさい」
「かしこまりました」
「手綱はしっかりと握っているのだぞ」
「はい」
「では、何かあったら連絡してくれ」
「はい。お父様もお母様も、身体にお気をつけ下さい」
「ああ。レイチェルも元気でな」
 そして、すぐに通信は切れた。

 ━━手綱か。あれを制御するのは大変そうだわ。

 一抹の不安を抱えながら、私は通信機をデスクの上に戻した。







 私の抱いた不安は払拭される事はなく、日を追う毎にケイン殿下の行動の統制はとれなくなっていった。

 ミランダはケイン殿下を狙っているらしく、彼のイベントを引き起こしていた。それに気が付いて阻止しようと何度も試みたが、全てが失敗に終わっている。
 そうなってしまうのが「ゲームの強制力」のような理不尽で残酷な運命が原因だったのなら、まだ納得がいった。
 しかし、そんな力が、この世界に存在しているとは到底思えなかった。
 イベントが起こるのは、ミランダの意図した行動がきっかけで、それにケイン殿下が考えなしに乗ってしまうから。
 彼は私の話を聞かない。そもそも、彼にとって耳障りの悪い言葉は、誰が何を言おうと全て遮断してしまう。だから、彼が聞くのは、ミランダの囁く甘くて優しい都合の良い言葉だけだった。

 そんな彼の態度に、当然、第一王妃様は気付いている。
 しかし、彼女は、その責任を私に押し付けて叱責するばかりで、息子に対して何かをする素振りはなかった。勿論、私のために彼女が動いてくれるはずもなかった。
 だから、1年生の秋になった今現在、私の社交界での立場は非常に危うい状態になっていた。

「レイチェル様、これ、やっておいて下さい」
 そう言って机の上にドンと荷物を置いたクラスメイトの伯爵家の令嬢は、私と同じ文化祭実行委員のメンバーの一人だった。
「これを一人で? 冗談でしょう?」
 そう言うと、彼女とその友人達は顔を見合わせてケラケラと笑い出した。

「やだっ、優秀なレイチェル様ならこれくらい、すぐに終わらせられるでしょうに。冗談がお上手ですわ」
「ねえ」
「第二王子妃として幼い頃から妃教育を受けてきたレイチェルですもの。私達と違って一人でできますよね?」
「ケイン殿下もようですから、しばらくは一人で作業に没頭できるでしょうし」
 ニヤニヤと笑い顔を向けてきて、幼稚な嫌味を言ってくる彼女達が煩わしい事この上ない。これ以上、彼女達と関わるくらいなら雑用を押し付けられた方がマシだと思った。

「そうね。あなた達の言う通りかも。それに、多くの人がいたって作業が遅いのなら意味がないし・・・・・・。私一人でやっておくわね」
 彼女達に合わせた幼稚な発言をすると、一部の令嬢はあからさまに顔を歪めた。

 ━━これくらいでいちいち顔に出すなんて。やっぱりおこちゃまだわ。

 私は作り笑いを浮かべた。
「さあ。あなた達はもう帰って。放課後はのでしょう? 人目についたら大変だわ」
 一人の令嬢は私の言いたい事が理解できたらしい。顔を赤くして、足早に立ち去った。その彼女を追って令嬢達は教室から出ていった。

「はあ・・・・・・」
 ため息を吐いてから、私は席を動かし始めた。作業スペースを確保して、椅子に座ると、教室の扉が開く音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

義兄様と庭の秘密

結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...