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1章 神様が間違えたから
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それから、私達は気まずい空気の中、無言で作業を進めた。
ニコラス殿下は手際良く資料の記入と仕分けをして、気が付いたら半分以上が終わっていた。
「ニコラス殿下、もう、お帰りになられては?」
これは世間体の話ではなく、長時間、作業を手伝わせてしまった事の後ろめたさからきた言葉だった。
ニコラス殿下は怒るかと思ったけれど、そんな素振りもなく、ペンを置いた。
「大丈夫。ただ、少し休憩をしたい」
「では、カフェテリアでお茶を買ってきますね」
「うーん、それなら、ここじゃなくてカフェテリアで一緒にお茶をしたいな・・・・・・」
そう言って彼は立ち上がった。
━━ああ、まずいわ。
一緒に行くのは嫌だと遠回しに言えば、彼はまた怒り出すに違いない。そして、私がここに残り、ニコラス殿下だけがカフェリアに向かうというのも変だ。
だから、彼と一緒に行くしかない。
━━余計な事を言わなけば良かった。
私は後悔を胸に抱えたまま黙って立ち上がった。
※
放課後のカフェテリアは、静かな空間のはずだった。
しかし、今日は違うのだと、扉を開けた瞬間に分かった。
カフェテリアには人こそ少なかったけれど、大きな声で話をする人達がいた。彼らは、ニコラス殿下が開けた扉の音に反応して、こちらをじっと見てきた。
「あら、やだ。レイチェルまで来ちゃったの」
ミランダは面倒くさそうに降ろした髪をかき上げた。
「彼女とは親しい仲なの?」
惚けて質問するニコラス殿下に対して、「まさか」と鼻で笑って答えた。
「そうか。じゃあ、あれは、愛人の分際で不遜な態度を取る、ただの礼儀知らずか」
彼の言葉にミランダと、そして彼女に向かい合っていたエレノアが反応した。
ミランダは顔を歪ませて鋭い目付きでニコラス殿下を睨んだ。一方のエレノアは、「ニコラス様、いくら事実でも、そういう事は言ってはいけませんよ」と注意した。
そんな彼女達に対して、ニコラス殿下は作り笑いを崩さずに、無反応でいる。
━━ああ、意味が分からない状況だし、すごく面倒くさい。
先程までの作業のせいも相まって、どっと疲れが押し寄せてきた。この場から何も言わずに逃げ出したい。それか、この場にいる全員が今この瞬間に爆ぜてしまえ。
内心、ヤケになっていると、後方から怒鳴り声が聞こえた。
「何やってるんだ!」
その声の主はケイン殿下で、彼は私達を押しのけてミランダに駆け寄って行った。
「ケインさまっ!」
途端にミランダは弱々しい小うさぎの様に震えだし、彼に抱きしめられる。その変わり様に、私とエレノアは呆れ果て、ニコラス殿下は口元を押さえて笑うのを我慢していた。
「もう大丈夫だ。何があったんだ?」
「みんな酷いんです。私の事を悪く言ってきて・・・・・・」
涙をほろりと流した事には、呆れを通り越して、すごい演技力だなと感心してしまった。
「エレノア様は私の家が男爵家な事を馬鹿にしますし、レイチェル様は、私の事を身の程知らずの愛人だと言うんです」
ミランダはケイン殿下の胸に顔を埋めるとしくしくと泣いた。
すると、ケイン殿下は私をキッと睨みつけた。どうやら怒りの鉾先は私に向かうらしい。
━━ああ、もう! 煩わしい。
腸が煮えくり返りながらも、私は無言を貫き通すことに決めた。
私の言葉に耳を傾けない彼に、何を言ったって無駄だから。それに、この場には、複数人の目撃者がいて、ミランダが嘘を吐いている事を証明してくれる。だから、わざわざ、弁明の言葉を私が言う必要などないのだ。
私がじっとケイン殿下を見つめていると、エレノアが割って入った。
「違います! 私もレイチェル嬢もそんな事を言っていません」
「そうそう。『身の程知らずの愛人』と言ったのは俺だから。どうやら、その子の記憶力は壊滅的みたいだね」
ニコラス殿下はそう言うなり、私の肩を引き寄せてきた。
「レイチェルはこんなにも大人しくて分別のあるレディなのに」
優しく見つめられ、髪を撫でられる。私を愛おしむかの様な行動に、ケイン殿下やエレノア嬢は勿論の事、他の学生達までもが目を丸くしていた。
突然の彼の行動に、私は驚きのあまり固まってしまった。けれど、数秒経つと、ようやく頭が回りだし、「これはまずい」と感じた。
だから、私は慌てて彼から距離を取った。
さっきの彼の発言は、私とミランダの愛人としての振る舞いを比較した様にも受け取れる。というよりも、この場にいた誰もがそう受け取ったに違いない。
そんな誤解を与えてしまっては、ニコラス殿下にもダメージが行くだろうに。彼は何を考えているのだろう。
しかし、今はそれを考えている場合じゃない。何とかしてこの空気を変えないといけなかった。
そうしなければ、私がニコラス殿下の愛人だというイメージが強いインパクトとして記憶に残ってしまうだろう。
私はエレノアに向けて言った。
「私達がここに来る前、モニャーク公爵令嬢とミランダ嬢の間に、何があったのです?」
話を逸らすために質問を投げかけると、彼女ははっとした表情になり、事の経緯を教えてくれた。
ニコラス殿下は手際良く資料の記入と仕分けをして、気が付いたら半分以上が終わっていた。
「ニコラス殿下、もう、お帰りになられては?」
これは世間体の話ではなく、長時間、作業を手伝わせてしまった事の後ろめたさからきた言葉だった。
ニコラス殿下は怒るかと思ったけれど、そんな素振りもなく、ペンを置いた。
「大丈夫。ただ、少し休憩をしたい」
「では、カフェテリアでお茶を買ってきますね」
「うーん、それなら、ここじゃなくてカフェテリアで一緒にお茶をしたいな・・・・・・」
そう言って彼は立ち上がった。
━━ああ、まずいわ。
一緒に行くのは嫌だと遠回しに言えば、彼はまた怒り出すに違いない。そして、私がここに残り、ニコラス殿下だけがカフェリアに向かうというのも変だ。
だから、彼と一緒に行くしかない。
━━余計な事を言わなけば良かった。
私は後悔を胸に抱えたまま黙って立ち上がった。
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放課後のカフェテリアは、静かな空間のはずだった。
しかし、今日は違うのだと、扉を開けた瞬間に分かった。
カフェテリアには人こそ少なかったけれど、大きな声で話をする人達がいた。彼らは、ニコラス殿下が開けた扉の音に反応して、こちらをじっと見てきた。
「あら、やだ。レイチェルまで来ちゃったの」
ミランダは面倒くさそうに降ろした髪をかき上げた。
「彼女とは親しい仲なの?」
惚けて質問するニコラス殿下に対して、「まさか」と鼻で笑って答えた。
「そうか。じゃあ、あれは、愛人の分際で不遜な態度を取る、ただの礼儀知らずか」
彼の言葉にミランダと、そして彼女に向かい合っていたエレノアが反応した。
ミランダは顔を歪ませて鋭い目付きでニコラス殿下を睨んだ。一方のエレノアは、「ニコラス様、いくら事実でも、そういう事は言ってはいけませんよ」と注意した。
そんな彼女達に対して、ニコラス殿下は作り笑いを崩さずに、無反応でいる。
━━ああ、意味が分からない状況だし、すごく面倒くさい。
先程までの作業のせいも相まって、どっと疲れが押し寄せてきた。この場から何も言わずに逃げ出したい。それか、この場にいる全員が今この瞬間に爆ぜてしまえ。
内心、ヤケになっていると、後方から怒鳴り声が聞こえた。
「何やってるんだ!」
その声の主はケイン殿下で、彼は私達を押しのけてミランダに駆け寄って行った。
「ケインさまっ!」
途端にミランダは弱々しい小うさぎの様に震えだし、彼に抱きしめられる。その変わり様に、私とエレノアは呆れ果て、ニコラス殿下は口元を押さえて笑うのを我慢していた。
「もう大丈夫だ。何があったんだ?」
「みんな酷いんです。私の事を悪く言ってきて・・・・・・」
涙をほろりと流した事には、呆れを通り越して、すごい演技力だなと感心してしまった。
「エレノア様は私の家が男爵家な事を馬鹿にしますし、レイチェル様は、私の事を身の程知らずの愛人だと言うんです」
ミランダはケイン殿下の胸に顔を埋めるとしくしくと泣いた。
すると、ケイン殿下は私をキッと睨みつけた。どうやら怒りの鉾先は私に向かうらしい。
━━ああ、もう! 煩わしい。
腸が煮えくり返りながらも、私は無言を貫き通すことに決めた。
私の言葉に耳を傾けない彼に、何を言ったって無駄だから。それに、この場には、複数人の目撃者がいて、ミランダが嘘を吐いている事を証明してくれる。だから、わざわざ、弁明の言葉を私が言う必要などないのだ。
私がじっとケイン殿下を見つめていると、エレノアが割って入った。
「違います! 私もレイチェル嬢もそんな事を言っていません」
「そうそう。『身の程知らずの愛人』と言ったのは俺だから。どうやら、その子の記憶力は壊滅的みたいだね」
ニコラス殿下はそう言うなり、私の肩を引き寄せてきた。
「レイチェルはこんなにも大人しくて分別のあるレディなのに」
優しく見つめられ、髪を撫でられる。私を愛おしむかの様な行動に、ケイン殿下やエレノア嬢は勿論の事、他の学生達までもが目を丸くしていた。
突然の彼の行動に、私は驚きのあまり固まってしまった。けれど、数秒経つと、ようやく頭が回りだし、「これはまずい」と感じた。
だから、私は慌てて彼から距離を取った。
さっきの彼の発言は、私とミランダの愛人としての振る舞いを比較した様にも受け取れる。というよりも、この場にいた誰もがそう受け取ったに違いない。
そんな誤解を与えてしまっては、ニコラス殿下にもダメージが行くだろうに。彼は何を考えているのだろう。
しかし、今はそれを考えている場合じゃない。何とかしてこの空気を変えないといけなかった。
そうしなければ、私がニコラス殿下の愛人だというイメージが強いインパクトとして記憶に残ってしまうだろう。
私はエレノアに向けて言った。
「私達がここに来る前、モニャーク公爵令嬢とミランダ嬢の間に、何があったのです?」
話を逸らすために質問を投げかけると、彼女ははっとした表情になり、事の経緯を教えてくれた。
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