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1章 神様が間違えたから
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「レイチェルは、同級生の子達に雑用を押し付けられて一人で文化祭の準備をしていたんだ」
私が喋りたくない事を、彼はあっさりと言ってしまった。途端に、エレノアの友人達は私に同情の眼差しで見つめてきた。
その視線を受けて、私は屈辱を感じた。
しかし、その視線もニコラス殿下の口も止める事はできない。
「当然一人では終わらせられる量ではなかったけど、レイチェルは責任感が強くて真面目だから。誰の助けも借りずに一人で全部抱え込もうとしていたんだ。それをたまたま俺が見かけたんだけど・・・・・・。それを放っておけるはずがないよね?」
ニコラス殿下の話にエレノアは頷いた。
「当然、お手伝いをするべきですわ」
エレノアの発言にぎょっとした。
━━彼女の耳には、私とニコラス殿下の噂が入ってきていないのかしら?
戸惑う私を尻目に、ニコラス殿下は「エレノアは優しいね」と笑った。
「作業が一区切り着いたから、休憩に来たんだけど・・・・・・。まさか、弟とその愛人に出くわすなんて思ってもみなかったよ」
ニコラス殿下は苦笑すると、私を見た。
「ここでお茶をしたかったけど、閉店の時間が近づいている。テイクアウトして教室で飲もうか」
「いえ。・・・・・・後は一人でやれますので、殿下はモニャーク公爵令嬢とお帰り下さい」
私は人前だから、彼の意向に逆らった。
ニコラス殿下は愚かではないから、人前で「王族の俺にお前が命令するな」と言えないだろう。この程度の事でそれを言ったら、駄々をこねる子供と同じだ。
思った通り、ニコラス殿下は怒る事なく、少し不服そうな目で私を見つめるだけだった。
私は穏やかな笑顔を作る。
「ありがとうございました。今度、何かお礼の品をお渡ししますね。・・・・・・そうだ! モニャーク公爵令嬢へのお詫びも兼ねてペアセットの物をプレゼントしてもよろしいですか」
明るく言えば、エレノアは「ぜひぜひ」と照れ笑いを浮かべた。
私は再度お礼を言って彼らと別れて、教室へ戻った。
※
それから二日後、この間のカフェテリアでの話がクラス中に広まりつつあった。
噂を広めた犯人はミランダしかいない。話の中で、彼女のした都合の悪い行為は一切、言及されていないから。彼女の犯行だとバレバレだ。
それにしても、彼女の幼稚な嫌がらせには辟易させられる。
この間、カフェテリアで感じた頭痛がまだ治らないせいか、私は鬱屈とした気持ちになった。
━━このスキャンダルを、どう収集すればいいのかしら。
おそらく噂はそれほど広まってはいない。人々の反応を見る限り、せいぜい「同学年の中で広まりつつある話題」に過ぎなかった。
今のうちに対処をしないと、学園中に噂が広まってしまう。そうなれば、第一王妃様の耳にも入り、彼女はいつもの様に私を烈火の如く叱りつけるだろう。
━━想像するだけでもストレスが溜まるわ。
ピリピリと痛む頭で、対処方を考えてみても、良いものは全く思い浮かばない。
━━いっその事、誰かがもっとスキャンダラスな事をやってのけてくれないかしら?
そんな他力本願な事を思っていたら、次の日に、本当にセンシティブなスキャンダルが学園中を駆け抜けて行った。
"発情期の雌犬"
ニコラス殿下がそう呼んでいた彼女達の悪行が、学園どころか中央貴族の社交界にまで知れ渡ったのだそうだ。
何でも彼女達は、婚約者がいる身でありながら、自分の親よりも年齢が上の男と寝てお金をもらっていたそうだ。
しかも、その男達は違法な物品の販売に手を染めていたらしく、その儲けた金で彼女達を買っていたらしい。
嫌なお金の流れに、学園中の人々が眉を顰めていた。おそらく社交界でも、貴婦人達からの顰蹙を買っているのだろう。
噂が本当なら、彼女達は数ヶ月もしないうちに学園から去らないといけなくなるはずだ。現状、学園の風紀を乱したとして、彼女達は停学になっている。仮に冤罪だとして戻って来たとしても前と同じ様に過ごせないのは明らかだった。好奇の目に晒されながら暮らすよりかは、自主退学をする方が気持ちの上で楽に違いない。
彼女達のスキャンダルのおかげで、私とニコラス殿下の噂は過去の物になった。
それは、私にとって都合の良い出来事だったけれど、タイミングが良すぎる。
━━もしかして、ニコラス殿下が・・・・・・?
そう思ったけれど、私にはそれを聞くことなどできなかった。
ただ、あの日約束していたペアセットの品を渡しに行った時、ニコラス殿下はどこか機嫌が良さそうに見えた。
そして、そんな彼を、私は不気味だと思ったのだ。
私が喋りたくない事を、彼はあっさりと言ってしまった。途端に、エレノアの友人達は私に同情の眼差しで見つめてきた。
その視線を受けて、私は屈辱を感じた。
しかし、その視線もニコラス殿下の口も止める事はできない。
「当然一人では終わらせられる量ではなかったけど、レイチェルは責任感が強くて真面目だから。誰の助けも借りずに一人で全部抱え込もうとしていたんだ。それをたまたま俺が見かけたんだけど・・・・・・。それを放っておけるはずがないよね?」
ニコラス殿下の話にエレノアは頷いた。
「当然、お手伝いをするべきですわ」
エレノアの発言にぎょっとした。
━━彼女の耳には、私とニコラス殿下の噂が入ってきていないのかしら?
戸惑う私を尻目に、ニコラス殿下は「エレノアは優しいね」と笑った。
「作業が一区切り着いたから、休憩に来たんだけど・・・・・・。まさか、弟とその愛人に出くわすなんて思ってもみなかったよ」
ニコラス殿下は苦笑すると、私を見た。
「ここでお茶をしたかったけど、閉店の時間が近づいている。テイクアウトして教室で飲もうか」
「いえ。・・・・・・後は一人でやれますので、殿下はモニャーク公爵令嬢とお帰り下さい」
私は人前だから、彼の意向に逆らった。
ニコラス殿下は愚かではないから、人前で「王族の俺にお前が命令するな」と言えないだろう。この程度の事でそれを言ったら、駄々をこねる子供と同じだ。
思った通り、ニコラス殿下は怒る事なく、少し不服そうな目で私を見つめるだけだった。
私は穏やかな笑顔を作る。
「ありがとうございました。今度、何かお礼の品をお渡ししますね。・・・・・・そうだ! モニャーク公爵令嬢へのお詫びも兼ねてペアセットの物をプレゼントしてもよろしいですか」
明るく言えば、エレノアは「ぜひぜひ」と照れ笑いを浮かべた。
私は再度お礼を言って彼らと別れて、教室へ戻った。
※
それから二日後、この間のカフェテリアでの話がクラス中に広まりつつあった。
噂を広めた犯人はミランダしかいない。話の中で、彼女のした都合の悪い行為は一切、言及されていないから。彼女の犯行だとバレバレだ。
それにしても、彼女の幼稚な嫌がらせには辟易させられる。
この間、カフェテリアで感じた頭痛がまだ治らないせいか、私は鬱屈とした気持ちになった。
━━このスキャンダルを、どう収集すればいいのかしら。
おそらく噂はそれほど広まってはいない。人々の反応を見る限り、せいぜい「同学年の中で広まりつつある話題」に過ぎなかった。
今のうちに対処をしないと、学園中に噂が広まってしまう。そうなれば、第一王妃様の耳にも入り、彼女はいつもの様に私を烈火の如く叱りつけるだろう。
━━想像するだけでもストレスが溜まるわ。
ピリピリと痛む頭で、対処方を考えてみても、良いものは全く思い浮かばない。
━━いっその事、誰かがもっとスキャンダラスな事をやってのけてくれないかしら?
そんな他力本願な事を思っていたら、次の日に、本当にセンシティブなスキャンダルが学園中を駆け抜けて行った。
"発情期の雌犬"
ニコラス殿下がそう呼んでいた彼女達の悪行が、学園どころか中央貴族の社交界にまで知れ渡ったのだそうだ。
何でも彼女達は、婚約者がいる身でありながら、自分の親よりも年齢が上の男と寝てお金をもらっていたそうだ。
しかも、その男達は違法な物品の販売に手を染めていたらしく、その儲けた金で彼女達を買っていたらしい。
嫌なお金の流れに、学園中の人々が眉を顰めていた。おそらく社交界でも、貴婦人達からの顰蹙を買っているのだろう。
噂が本当なら、彼女達は数ヶ月もしないうちに学園から去らないといけなくなるはずだ。現状、学園の風紀を乱したとして、彼女達は停学になっている。仮に冤罪だとして戻って来たとしても前と同じ様に過ごせないのは明らかだった。好奇の目に晒されながら暮らすよりかは、自主退学をする方が気持ちの上で楽に違いない。
彼女達のスキャンダルのおかげで、私とニコラス殿下の噂は過去の物になった。
それは、私にとって都合の良い出来事だったけれど、タイミングが良すぎる。
━━もしかして、ニコラス殿下が・・・・・・?
そう思ったけれど、私にはそれを聞くことなどできなかった。
ただ、あの日約束していたペアセットの品を渡しに行った時、ニコラス殿下はどこか機嫌が良さそうに見えた。
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