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1章 神様が間違えたから
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放課後、文化祭実行委員会の集まりの前に、私は"花壇のお世話係"としての仕事をする事にした。じょうろに水をいっぱい入れると、私は花壇に水やりをした。
その係はくじ引きで決まったものだけれど、やってみると案外悪くはなかった。水やりの作業は淡々黙々と行えるし、綺麗な花をじっくりと間近で見れる良い機会だから。それに、放課後、毎日水をやっているおかげで花達にも愛着が湧いてきた。花の勉強にもなるから来年からは自分で立候補してもいいかもしれない。
でも、一つだけ嫌な事があった。
私がここで水をやっていると、ニコラス殿下がやって来る事があるのだ。今みたいに・・・・・・。
「レイチェル」
彼は穏やかに笑うと私のすぐ側まで近寄ってきた。
階上を見れば、校舎の中には人がいて、数人は私達をじろじろと眺めていた。
━━また"逢瀬"だと、言われちゃう。
想像力の逞しい女の子達は、私とニコラス殿下がここで待ち合わせをして、一時の愛を育んでいると妄想しているそうだ。
人には言えない愛を、「花の水やりをする人」と「花を眺める人」という関係で誤魔化しているのだと。
━━馬鹿みたい。
私は校舎から目を離して、今度はニコラス殿下を見た。
「ごきげんよう。ニコラス殿下」
私は重たいじょうろを地面に置く事なく、彼に挨拶をする。
「今日も花が咲いているね」
「はい」
「花の病気は治ったのかな?」
「・・・・・・多分、そうです」
2週間前、私は不自然な萎れ方をしている花を見つけた。屈んでよくよく観察してみると、葉の裏に赤茶色の点々が付いていて、一目で病気にかかっている事が分かった。
それから薬剤を与えてみても花の調子が良くならず、1週間の時が経とうとした時、ニコラス殿下がやって来て花に魔法をかけたのだ。
その時は、お礼を言って何事もなく終わったけれど。これから何かを要求されるのではないかと不安になる。
しかし、私の心配をよそに、彼は穏やかな表情で病気にかかっていた花を指先で撫でた。慈しむかのように、そっと、優しく。
彼の意外な一面を見て、内心驚いていると、彼は顔をあげて私を見た。
「幸運な花だね。こうやって生き長らえて」
「ええ。ニコラス殿下に治していただけて、きっと花も感謝しているのではないでしょうか」
彼を褒めそやかして話を終わりにしようとした。けれど、彼は花を見ながらこう言った。
「もしそうなら、感謝するべき人を間違えている。俺は君のお気に入りじゃなければ見向きもしなかっただろうから」
そう言って、彼は私に微笑みかけてきた。
「・・・・・・ニコラス殿下はお優しいのですね。ケイン殿下にもそういう姿をお見せすれば、きっと兄弟仲が深まるでしょうに」
私はあえてケイン殿下の名前を出して、ニコラス殿下を牽制した。
そして、彼が喋り出す前に、花に向き合い、じょうろの水をあげた。
「また困った事があれば頼って? 俺はケインと違って優しいから・・・・・・」
彼はそう言うと返事も聞かずに去って行った。
━━何があってもあなただけは頼らないわよ。
これ以上、私の立場を揺らがせてはいけないから。私は第二王子の婚約者で、ケイン殿下を王太子にしなければいけない。
それが、"レイチェル・ドルウェルク"にとって、最高の形のバッドエンド回避だから。
愛や恋なんてどうでもいい。ケイン殿下からも、ニコラス殿下からも求めていない。私にはそんな物は必要ないのだ。
「ああ、でも・・・・・・。どうせなら、同じ目標に向かってともに歩める人と一緒になりたかったな」
花に向かって愚痴ってみても、意味はない事は百も承知だ。けれど、そうでもしないと、今の陰鬱な気分は晴れそうもなかった。
文化祭の時は近い。ミランダとケイン殿下はきっと、数々のイベントを起こすだろう。その後処理を思うと、文化祭なんてとてもじゃないけれど、楽しめる気がしなかった。
放課後、文化祭実行委員会の集まりの前に、私は"花壇のお世話係"としての仕事をする事にした。じょうろに水をいっぱい入れると、私は花壇に水やりをした。
その係はくじ引きで決まったものだけれど、やってみると案外悪くはなかった。水やりの作業は淡々黙々と行えるし、綺麗な花をじっくりと間近で見れる良い機会だから。それに、放課後、毎日水をやっているおかげで花達にも愛着が湧いてきた。花の勉強にもなるから来年からは自分で立候補してもいいかもしれない。
でも、一つだけ嫌な事があった。
私がここで水をやっていると、ニコラス殿下がやって来る事があるのだ。今みたいに・・・・・・。
「レイチェル」
彼は穏やかに笑うと私のすぐ側まで近寄ってきた。
階上を見れば、校舎の中には人がいて、数人は私達をじろじろと眺めていた。
━━また"逢瀬"だと、言われちゃう。
想像力の逞しい女の子達は、私とニコラス殿下がここで待ち合わせをして、一時の愛を育んでいると妄想しているそうだ。
人には言えない愛を、「花の水やりをする人」と「花を眺める人」という関係で誤魔化しているのだと。
━━馬鹿みたい。
私は校舎から目を離して、今度はニコラス殿下を見た。
「ごきげんよう。ニコラス殿下」
私は重たいじょうろを地面に置く事なく、彼に挨拶をする。
「今日も花が咲いているね」
「はい」
「花の病気は治ったのかな?」
「・・・・・・多分、そうです」
2週間前、私は不自然な萎れ方をしている花を見つけた。屈んでよくよく観察してみると、葉の裏に赤茶色の点々が付いていて、一目で病気にかかっている事が分かった。
それから薬剤を与えてみても花の調子が良くならず、1週間の時が経とうとした時、ニコラス殿下がやって来て花に魔法をかけたのだ。
その時は、お礼を言って何事もなく終わったけれど。これから何かを要求されるのではないかと不安になる。
しかし、私の心配をよそに、彼は穏やかな表情で病気にかかっていた花を指先で撫でた。慈しむかのように、そっと、優しく。
彼の意外な一面を見て、内心驚いていると、彼は顔をあげて私を見た。
「幸運な花だね。こうやって生き長らえて」
「ええ。ニコラス殿下に治していただけて、きっと花も感謝しているのではないでしょうか」
彼を褒めそやかして話を終わりにしようとした。けれど、彼は花を見ながらこう言った。
「もしそうなら、感謝するべき人を間違えている。俺は君のお気に入りじゃなければ見向きもしなかっただろうから」
そう言って、彼は私に微笑みかけてきた。
「・・・・・・ニコラス殿下はお優しいのですね。ケイン殿下にもそういう姿をお見せすれば、きっと兄弟仲が深まるでしょうに」
私はあえてケイン殿下の名前を出して、ニコラス殿下を牽制した。
そして、彼が喋り出す前に、花に向き合い、じょうろの水をあげた。
「また困った事があれば頼って? 俺はケインと違って優しいから・・・・・・」
彼はそう言うと返事も聞かずに去って行った。
━━何があってもあなただけは頼らないわよ。
これ以上、私の立場を揺らがせてはいけないから。私は第二王子の婚約者で、ケイン殿下を王太子にしなければいけない。
それが、"レイチェル・ドルウェルク"にとって、最高の形のバッドエンド回避だから。
愛や恋なんてどうでもいい。ケイン殿下からも、ニコラス殿下からも求めていない。私にはそんな物は必要ないのだ。
「ああ、でも・・・・・・。どうせなら、同じ目標に向かってともに歩める人と一緒になりたかったな」
花に向かって愚痴ってみても、意味はない事は百も承知だ。けれど、そうでもしないと、今の陰鬱な気分は晴れそうもなかった。
文化祭の時は近い。ミランダとケイン殿下はきっと、数々のイベントを起こすだろう。その後処理を思うと、文化祭なんてとてもじゃないけれど、楽しめる気がしなかった。
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