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1章 神様が間違えたから
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※
文化祭の日から、一週間が経っても、頭痛は治る事はなく、むしろ悪化の一途を辿っていた。
薬の量は日増しになり、遂には、学園を休むにまで至った。
再度呼んだ医者の先生に、精密検査を行ってもらうと、「脳に異常はない」と診断された。
「心因性のものでしょう。強いストレスを感じる事はありませんか」
身に覚えしかなくて、私が苦笑いをすると、先生は黙って頷いた。
治療方針は前回と変わらず、軽い運動とマッサージ。それから、ハーブティーとアロマを勧められた。
ただし、痛み止めの薬は前回よりも効果が強い物を処方された。効果が強い分、連続して飲まないようにと注意を受けた。
先生が帰ると、私は通信機でお父様に電話をした。
「どうした?」
定期的にこれで連絡を取り合っていたけれど、私の方から発信するのは初めてだった。そのせいで、お父様の声が少しピリついてる。
「ごめんなさい。そんなに深刻な話ではないのです」
私は断りを入れて、最近の頭痛と今日の診断結果を話した。
「それだけか」
それなら手紙でいいだろうと言いたげな反応に思わず苦笑する。もし、お母様が隣りで聞いていたら、きっと怒っていただろう。
「いえ、ここからが本題なのですが」
「ああ」
「ケイン殿下との婚約は、本当に続けるべきなのでしょうか」
「何だと?」
お父様の声が冷たくなった。
それでも、私はめげずに言葉を続ける。
「既にご報告した通り、最近のケイン殿下の暴走は目に余るものがあります」
「そうだな。それは分かっているが・・・・・・」
「残念ながら、私には彼を止める術がなく、フォローをして回るにも限界が来ているのです」
社交界でのケイン殿下の評価と、私達の関係、そして、私の評価を詳細に話した。
「だから、これ以上、ケイン殿下とドルウェルク家がともにあるべきではないと思います。今までかけてきた物の事を考えると惜しく思う事は当然ですが・・・・・・。しかし」
「そうだな」
お父様はぽつりと声を漏らした。
「泥船に乗っている可能性があるのなら、お前の主張も一理ある」
「では・・・・・・」
「ただ、こちらでも、お前が言っている事が事実か調べさせてもらう」
「はい」
「それから、もし、婚約を解消すると私が決めたとしても。解消までにそれなりの時間を要すると覚悟しておきなさい」
「はい。なるべく、穏便に事を済ませましょう」
「報告は以上か」
「はい」
「それなら、今日はゆっくりと休みなさい。もし、頭痛が何日も続くなら、また休みを取っていいから。くれぐれも無理はしないように」
「はい」
「では、また」
そう言って、通信は途切れた。
私は一息吐くとベッドに向かった。少しでも、頭痛を軽くするために、お昼寝をする事にしたのだ。
痛む頭も、目を閉じて横になっていれば、比較的マシになっていった。
それから、数時間後。眠りから目が覚めると、ベッドの脇のサイドテーブルにラベンダーの鉢が飾られているのに気が付いた。
━━いい香り。
起き上がってそれをよく確認すると、メッセージカードが添えられていた。
"早く治りますように。
ニコラス・ルトワール"
たった一言の見舞いの言葉。それに、涙が出そうになったのは、きっとまだ疲れが取れきっていないからだ。
コンコンと扉がノックされた。
「お嬢様、入りますよ」
侍女は小さな声で言うと、扉を開けた。
「あら、起きていらっしゃいましたか。すみません、お返事も待たずに入ってしまって」
「いいのよ。それより、これ」
ラベンダーに顔を向けると、侍女の顔がぱっと顔を明るくした。
「王宮の使いの方が持って来て下さったんです。ケイン殿下も、たまには気が利きますね」
「・・・・・・そうね」
私は苦笑をした。
ニコラス殿下には悪いけれど、彼女にはこのまま誤解させておく事にする。彼女に事実を知られても、いらぬ心配を招くだけだ。
私はメッセージカードをテーブルの引き出しに仕舞った。
※
それから3日後、私は復学した。
3日の間、ケイン殿下は見舞いの手紙一つ送って来なかった。
心配して尋ねてきてくれた友人によると、彼はミランダとのびのびと過ごしていたのだそうだ。そして、ミランダの態度がいつにも増して不遜なのだと友人は憤っていた。
きっと、ケイン殿下にとって、私のいない学園生活は楽しくて仕方がないものだった。
だから、彼は、登校した私を見た瞬間、とても嫌な物でも見たとでも言いたげな顔をして立ち去ったのだ。
━━早く婚約の解消が成立して欲しい。
そんな事を思いながら教室に向かって廊下を歩いていると、ニコラス殿下に出会った。
「頭痛は治った?」
「おかげさまで」
本当は完治していない。今も、軽くではあるけれど、頭に痛みが走っている。
「ああ、そうでした。これ」
そう言って、鞄から包装されたハンカチを二枚取り出した。
「何、これ?」
「ハンカチです。一枚はモニャーク公爵令嬢の分なので彼女と使って下さい」
「見舞いの品は俺一人で贈ったんだけど?」
「あれは連名です。そうしないと、モニャーク公爵令嬢が気の利かない人になっちゃいますから」
やや強引な理屈で、私はニコラス殿下個人の見舞い品を否定して、連名という体でハンカチを押し付けた。
ニコラス殿下は不服そうではあったけれど、何とかハンカチを受け取ってくれた。
「まあ、・・・・・・こうやってお礼の品を持って来てくれたんだから、気に入ってもらえたと信じてるよ」
彼はそう言うと、それを鞄に仕舞った。
私は「エレノア嬢にもありがとうと伝えて下さい」と言ってから、彼のもとを立ち去った。
━━これでもう、お見舞いのお礼は済ませたから。
私はニコラス殿下に恩を感じなくても良いのだと思うと、気が楽に思えた。
文化祭の日から、一週間が経っても、頭痛は治る事はなく、むしろ悪化の一途を辿っていた。
薬の量は日増しになり、遂には、学園を休むにまで至った。
再度呼んだ医者の先生に、精密検査を行ってもらうと、「脳に異常はない」と診断された。
「心因性のものでしょう。強いストレスを感じる事はありませんか」
身に覚えしかなくて、私が苦笑いをすると、先生は黙って頷いた。
治療方針は前回と変わらず、軽い運動とマッサージ。それから、ハーブティーとアロマを勧められた。
ただし、痛み止めの薬は前回よりも効果が強い物を処方された。効果が強い分、連続して飲まないようにと注意を受けた。
先生が帰ると、私は通信機でお父様に電話をした。
「どうした?」
定期的にこれで連絡を取り合っていたけれど、私の方から発信するのは初めてだった。そのせいで、お父様の声が少しピリついてる。
「ごめんなさい。そんなに深刻な話ではないのです」
私は断りを入れて、最近の頭痛と今日の診断結果を話した。
「それだけか」
それなら手紙でいいだろうと言いたげな反応に思わず苦笑する。もし、お母様が隣りで聞いていたら、きっと怒っていただろう。
「いえ、ここからが本題なのですが」
「ああ」
「ケイン殿下との婚約は、本当に続けるべきなのでしょうか」
「何だと?」
お父様の声が冷たくなった。
それでも、私はめげずに言葉を続ける。
「既にご報告した通り、最近のケイン殿下の暴走は目に余るものがあります」
「そうだな。それは分かっているが・・・・・・」
「残念ながら、私には彼を止める術がなく、フォローをして回るにも限界が来ているのです」
社交界でのケイン殿下の評価と、私達の関係、そして、私の評価を詳細に話した。
「だから、これ以上、ケイン殿下とドルウェルク家がともにあるべきではないと思います。今までかけてきた物の事を考えると惜しく思う事は当然ですが・・・・・・。しかし」
「そうだな」
お父様はぽつりと声を漏らした。
「泥船に乗っている可能性があるのなら、お前の主張も一理ある」
「では・・・・・・」
「ただ、こちらでも、お前が言っている事が事実か調べさせてもらう」
「はい」
「それから、もし、婚約を解消すると私が決めたとしても。解消までにそれなりの時間を要すると覚悟しておきなさい」
「はい。なるべく、穏便に事を済ませましょう」
「報告は以上か」
「はい」
「それなら、今日はゆっくりと休みなさい。もし、頭痛が何日も続くなら、また休みを取っていいから。くれぐれも無理はしないように」
「はい」
「では、また」
そう言って、通信は途切れた。
私は一息吐くとベッドに向かった。少しでも、頭痛を軽くするために、お昼寝をする事にしたのだ。
痛む頭も、目を閉じて横になっていれば、比較的マシになっていった。
それから、数時間後。眠りから目が覚めると、ベッドの脇のサイドテーブルにラベンダーの鉢が飾られているのに気が付いた。
━━いい香り。
起き上がってそれをよく確認すると、メッセージカードが添えられていた。
"早く治りますように。
ニコラス・ルトワール"
たった一言の見舞いの言葉。それに、涙が出そうになったのは、きっとまだ疲れが取れきっていないからだ。
コンコンと扉がノックされた。
「お嬢様、入りますよ」
侍女は小さな声で言うと、扉を開けた。
「あら、起きていらっしゃいましたか。すみません、お返事も待たずに入ってしまって」
「いいのよ。それより、これ」
ラベンダーに顔を向けると、侍女の顔がぱっと顔を明るくした。
「王宮の使いの方が持って来て下さったんです。ケイン殿下も、たまには気が利きますね」
「・・・・・・そうね」
私は苦笑をした。
ニコラス殿下には悪いけれど、彼女にはこのまま誤解させておく事にする。彼女に事実を知られても、いらぬ心配を招くだけだ。
私はメッセージカードをテーブルの引き出しに仕舞った。
※
それから3日後、私は復学した。
3日の間、ケイン殿下は見舞いの手紙一つ送って来なかった。
心配して尋ねてきてくれた友人によると、彼はミランダとのびのびと過ごしていたのだそうだ。そして、ミランダの態度がいつにも増して不遜なのだと友人は憤っていた。
きっと、ケイン殿下にとって、私のいない学園生活は楽しくて仕方がないものだった。
だから、彼は、登校した私を見た瞬間、とても嫌な物でも見たとでも言いたげな顔をして立ち去ったのだ。
━━早く婚約の解消が成立して欲しい。
そんな事を思いながら教室に向かって廊下を歩いていると、ニコラス殿下に出会った。
「頭痛は治った?」
「おかげさまで」
本当は完治していない。今も、軽くではあるけれど、頭に痛みが走っている。
「ああ、そうでした。これ」
そう言って、鞄から包装されたハンカチを二枚取り出した。
「何、これ?」
「ハンカチです。一枚はモニャーク公爵令嬢の分なので彼女と使って下さい」
「見舞いの品は俺一人で贈ったんだけど?」
「あれは連名です。そうしないと、モニャーク公爵令嬢が気の利かない人になっちゃいますから」
やや強引な理屈で、私はニコラス殿下個人の見舞い品を否定して、連名という体でハンカチを押し付けた。
ニコラス殿下は不服そうではあったけれど、何とかハンカチを受け取ってくれた。
「まあ、・・・・・・こうやってお礼の品を持って来てくれたんだから、気に入ってもらえたと信じてるよ」
彼はそう言うと、それを鞄に仕舞った。
私は「エレノア嬢にもありがとうと伝えて下さい」と言ってから、彼のもとを立ち去った。
━━これでもう、お見舞いのお礼は済ませたから。
私はニコラス殿下に恩を感じなくても良いのだと思うと、気が楽に思えた。
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