【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 お父様が、私の婚約解消を決めたのは、15歳の冬の真っ只中だった。
 そして、王室にそれを伝えたのが16歳の春、2年生に昇級して1ヶ月経った時だった。

 お父様はまず、第一王妃様に宛てた書簡でその旨を伝えた。すると、彼女はドルウェルク領にいるお父様の代わりに私を呼び出し、説明を求めた。
 穏便に済ますためには、強硬的な態度をとってもいけないと思い、彼女の指示に従ったのだけれど。第一王妃様は、私の説明をろくに聞かず、なじるばかりだった。

 ━━ケイン殿下は母親に似たのかもしれない。

 前々から思っていた事を、今、改めて実感させられる。
 彼女のキンキンした声を何時間も聞かされて、最近は落ち着いてきたと思っていた頭痛が酷くなった。
 彼女から解放されたのは、謁見してから約3時間後の事で、その間に彼女が重要な内容をしゃべる事はなかった。
 おまけに、第一王妃様は怒り心頭をアピールするために、見送りの侍女を付けてくれなかった。
 酷い罵倒の言葉に疲れ切った私は、ぼんやりとした意識の中、一人王宮の廊下を歩いていた。

 すると、向かいから、ローズピンクの髪をした優雅な女性がやって来た。彼女が二人の王子の異母姉であるローズ王女殿下だと分かったから、私は挨拶をしたのだけれど。
「どうしたの!?」
 彼女は私の顔を見るなり、挨拶の返事もせずに言った。品行方正で礼儀正しい彼女がそんな行動を取るだなんて。私はよっぽど酷い顔をしているのだと思った。

「第一王妃様との謁見が長引いてしまって・・・・・・。少し疲れてしまいました」
 力なく笑うと、彼女は顔を歪めた。
「あの人は、本当に・・・・・・」
 ローズ王女はつぶやくと、私の手を取った。
「うちの宮で休んで行きなさい」
「いえ、このまま真っ直ぐ家に帰りますので・・・・・・」
「駄目よ。真っ白い顔をして。馬車の中で倒れてしまうか、酷い乗り物酔いをする事になるわ」
 そう言って彼女は、私の手を引いて歩き始めた。

 彼女に導かれるがまま、見たことのない廊下を歩くと、いつの間にか温室に辿り着いていた。
「ここって・・・・・・」
 王宮の温室には、希少な花がいくつもあると聞く。そして、そこは、王家を象徴する薔薇の管理がされている場所でもあるのだ。
「入ってしまって、大丈夫なのですか」
 聞くとローズ王女殿下は笑った。
「勿論。ここの管理を任されている私が招いたのだもの」
 彼女はそう言って奥へ奥へと私を連れて行った。
「さあ、ここならゆっくりできるわ。座って」
 彼女はソファに私を座らせると、温室の管理をしていたであろう研究員に指示を飛ばした。
 彼が去っていくと、ローズ王女殿下は一人掛けのソファに座った。

「聞いたわよ。ケインとの婚約解消を望んでいるのですってね?」
「どうしてそれを?」
 お父様は穏便に済ませるために、第一王妃様だけに知らせたのに。
「第一王妃が騒いでいたからよ。ドルウェルク辺境伯が彼女宛に書簡を送った事の意図を、彼女は全く理解できないのだから・・・・・・」
 呆れた様子でローズ王女殿下は言った。
「まあ、でも・・・・・・。婚約の解消をドルウェルク辺境伯が認めてくれて、良かったわね」
「ええ・・・・・・」
 話が一区切り着いた所で、ライネ伯爵令嬢がお茶を持ってやって来た。

 彼女は私の顔を見て、一瞬、険しい表情をした。
 しかし、何も言わずに、テーブルにお茶とお菓子を置いていく。
「すごいですね。ローズ王女殿下に認められるなんて」
 ライネ伯爵令嬢に話しかけると、彼女は短く謙遜の言葉を返した。
「ああ、そういえば、あなた達は同級生だったわね」
「ええ」
 ライネ伯爵令嬢は数週間前からローズ王女殿下の侍女見習いとなった。ライネ伯爵は未だに、どちらの王子の支持も表明していないけれど。娘をローズ王女殿下に仕えさせたとなると、それは「彼女こそが王太子に相応しい」という意思を表明しているのかもしれない。

「安心して。ここで見た事を彼女は喋らないから。お喋りな人はうちにはいられないの」
 ローズ王女殿下は、私への気遣いの言葉と同時に、ライネ伯爵令嬢に釘を刺した。
「それより、ほら。このハーブティーを飲んでみて? この温室で摘んだミントは香りがいい上に、疲れがよく取れるのよ」
 勧められて飲んでみると、爽やかなミントの香りが口いっぱいに広がった。
「美味しいです」
「でしょう?」

 そう言いながら、王女殿下は取り皿にチョコレートとナッツ、フルーツを盛って、私の前に置いた。
「レイチェル嬢は痩せすぎよ。もっと食べないと」
 最近は食欲が落ちていたせいか、少し痩せてしまった。今は食べ物を口にしたい気分ではなかったけれど、気を使ってもらったのだ。私はチョコレートを食べた。
 それを見たローズ王女殿下は、ようやくお茶を飲んだ。
 私は彼女に世話を焼かれながら、気分が落ち着くまで温室にいさせてもらった。
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