【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 ケイン殿下との婚約解消の話は、1ヶ月経っても全く進まなかった。こちらとしては、穏便かつ早急に進めたい話なのに向こうは違うらしい。
 お父様は「お前はいつも通り、何事もなく過ごしなさい」と言った。だから、私は、ケイン殿下の婚約者として振る舞ってはいるけれど。前のように第二王子派やケイン殿下の素行については考えないようになった。
 どうせ別れる人なのだから。彼が今後どうなろうと、私の知った事ではない。彼がミランダとイベントを起こして周囲から顰蹙を買おうとも、私はもう何も言わなかった。

 ケイン殿下の事を考えなくて良くなった私は、時間を持て余すようになった。第二王子派の基盤を固めるために社交界へ顔を出す必要がなくなったから。今は仲の良い友人が主催するお茶会か、興味のあるサロンにしか出席してなかった。
 だから、カツカツだったスケジュールには随分と余裕が生まれたのだ。

 私は空いた時間を馬術部の手伝いに費やす事にした。きっかけは、地方出身のクラスメイトに入部をお願いされたから。
 馬術部は男性ばかりで、女性の肩身が狭いのだと彼女は言っていた。中央の貴族の女性は馬に乗れる人が少ないから、その比率は仕方がないのだろう。
「ドルウェルク辺境伯令嬢なら、乗馬なんて、余裕ですよね?」
 手を握られてキラキラした目で言われたら、それはもう、断りづらくて。私は「たまの手伝いでしたら・・・・・・」と言ってしまった。

 それ以来、週に3回の頻度で、私は馬術部の馬の世話をしている。馬小屋の掃除をしたり、餌をあげたり。たまに乗せてもらう事もあった。

「レイチェル様、テオに乗って下さいませ」
 今日は掃除を手伝うつもりだったのに、令嬢から乗馬を勧められた。
 芦毛の馬、テオバルトはいつでも乗れるように準備をされていて。彼は私のもとに来るとすりすりと甘えてきた。
「でも、掃除が」
「いいんです。私がやっておくので。それよりその悪魔を・・・・・・。いえ、テオバルトに乗って下さい。この子を御せるのは、レイチェル様しかいませんので」
 大袈裟な物言いに私は苦笑いをした。
「テオは謎のこだわりが強いだけで、良い子ですよ? この子のこだわりを無理な形で否定しなければ、言う事を聞いてくれますから」
 令嬢は信じられないとでも、言いたげな目でテオバルトを見つめる。
 私はテオバルトに一声かけると、その背に飛び乗った。

「では、行ってきますね」
 学園内のレース場に向けてテオバルトを走らせる。彼は機嫌が良いらしく、颯爽と駆けて行った。

 ━━風が気持ちいい。

 夏に入りつつある今、じんわりとした暑さを吹き飛ばすかのような心地よい風。
 それを感じさせてくれるテオバルトはやはり良い子だと思う。

 一通り、彼の気の赴くがままに走らせて、私は乗馬を終わらせた。
「テオ、お疲れ様」
 テオバルトから降りると、私は放牧場に彼を連れて行った。
 彼はるんるんな足取りで歩き、時折、私に甘え寄ってきた。進行先を彼に塞がれてしまうから、歩きづらかったけれど、甘える姿が可愛かったから、私はそれを許した。
 そうしてしばらく歩き、放牧場に辿り着くと、私は馬具を取ってテオバルトを放した。
 彼は元気よく飛び跳ねて走った後、芝生にゴロゴロと寝そべった。

 そんな彼の様子を眺めていると、馬術部の男性に声をかけられた。
「流石はドルウェルク辺境伯家の方ですね。テオバルトをあんなに従順にさせて乗りこなせるとは」
「あはは・・・・・・。皆さん、テオを恐れていますけれど、そんなに悪い子じゃありませんよ?」
 領地にいた気性の荒い軍馬達に比べれば、テオバルトはそこまで乱暴な子ではなかった。馬術部の人達はテオバルトを"悪魔"と呼んでいるけれど。それは、彼らがテオバルトにちゃんと向き合ってあげないから、彼は機嫌を損ねて荒ぶるのだ。
 それをやんわりと伝えてはいるのだけれど。彼らには上手く伝わらない。

「そんな風に言えるのはドルウェルク辺境伯令嬢だけですよ。あなたの乗馬技術には感服いたします」
「いえいえ、そんな・・・・・・。そんなにお世辞を言われる程、私は上手くありませんから」
「ですが、テオバルト以外の気難しい馬も、乗りこなせていらっしゃるではありませんか」
 それはテオバルトが私を気に入って以降、部員達が癖の強い子を私に押し付けるようになったからだ。
 苦笑いをしていると、馬術部の男性はこんな事を言った。
「もしかして、ドルウェルク辺境伯令嬢にとっては、気難しい馬の方が乗りやすいのでしょうか」
 悪気なく失礼な事を言う人だと思いつつも、少しピンと来るものがあった。
「特別乗りやすいとは思いませんが、乗りこなせた時の達成感はありますね」
 それは、その馬の性格を理解し、彼らからの信頼を得て制御できているという事だから。これは喜ぶに値すべき事だ。

 そう思って言ってみたのだけれど、馬術部の男性にはおそらく伝わっていない。彼は「そうだと思いました」と目を輝かせていて、私を歴戦の勇者か何かだと勘違いしている。
 私は否定して事細かに説明をするのも面倒だったから、苦笑いをしてその場を乗り切った。
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