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1章 神様が間違えたから
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※
季節は移り変わり冬になった。半年の時が経ったというのに、未だに私の婚約は解消されていない。
多額の賠償をドルウェルク家が払うと伝えているのに、第一王妃様は「婚約の解消は絶対にあり得ない」と頑なに拒否している。
一方、国王陛下は、賠償の内容に難色を示しているらしい。少しでも多く利益を得ようという意図が見え見えなのだとお父様は言っていた。
そして、ケイン殿下は、というと。婚約解消に大手を振って賛成すると思いきや、反対している。
しかし、それは彼の本当の意思ではないのだろう。きっと、両親の手前、賛成する事ができないのだ。
彼は相変わらずミランダと付き合っていて、私とは目も合わさず、口も利かなくなっていた。
彼は何も変わっていない。今日だって、先輩の卒業パーティーへの参加を拒否し、ミランダとデートしているのだから。
━━仲が悪いとはいえ、兄の代の卒業パーティーなんだから、参加するべきなのに。
彼は相変わらず傍若無人に振る舞っている。
私は、一人で卒業パーティーに参加した。私まで礼儀知らずと思われたくないから。ケイン殿下の婚約者である以上、その立場に見合った行動を取るつもりだった。
エレノアとニコラス殿下が一緒にいる時に、声をかけて、一言挨拶して帰ればいい。それが、周囲に誤解をされず、穏便な形で礼を尽くせるはずだ。
そう思ってチャンスを伺っているのに、エレノアはニコラス殿下のもとに全然来ない。
━━婚約者なら、隣りに立って一緒に挨拶してよ。
内心、エレノアに悪態をついていると、ニコラス殿下と目が合った。
彼はにこりと笑うと、わざわざ私の所にやって来た。
「来てくれてたんだ」
「ええ。ケイン殿下の体調が良くないみたいですから、私、一人ですが・・・・・・」
「ははっ」
彼は面白そうに笑った。
「いいんだよ、そんな嘘は。婚約、やめるんだろう?」
言われてはっとする。ケイン殿下の婚約者としての振る舞いを無意識のうちに考えてやってしまっていた。
私は彼のためではなく、自分の名誉のためにここに来たというのに。
「そう、ですね。あはは・・・・・・」
笑って誤魔化すと、私はパーティーに参加した目的を思い出した。
「ご卒業おめでとうございます。ニコラス殿下」
「ありがとう」
「これから寂しくなりますね」
社交辞令的に言えば、彼は何処となく嬉しそうにしていた。
「またすぐに会えるよ」
それは知っている。ゲーム後半でのニコラスは理事として、登場したのだから。
ニコラス殿下は、学園の卒業を機に学園の理事として名を連ねる事になる。それが成人した彼が就く役職の一つだった。
だから、ゲームの彼は卒業してからも、頻繁に学園を訪れていた。そして、彼が理事会に参加した後に、ヒロインはよく遭遇していたのだ。
「何だ、驚かないんだ」
「理事になるって噂で聞きましたから」
「流石の情報収集だ」
彼はそう言って笑った。
「ああ。もうそろそろ行かなきゃいけないな・・・・・・」
彼は名残惜しそうにつぶやいた。
「それじゃあ、パーティーを楽しんでね」
「ええ」
ニコラス殿下は、別の人のもとに挨拶へ行く。私はそれを見守ると、会場を後にした。
※
時はあっという間に過ぎ去り、17歳の、3年生になった。秋も終わりかけ、木々の葉は完全に抜け落ちてしまった。
━━葉っぱと一緒に、私達の婚約も飛んでいったら良かったんだわ。
空を見上げながらそんな風に思った。
去年から状況は何も変わっていない。変わった事と言えば、新しい悪役令嬢フローラ・アイズ子爵令嬢が入学してきた事くらいだ。彼女とは直接の接点はないけれど、私は彼女の事が好きだった。
━━あ、聞こえた。
昼休みに校舎2階のテラス席に座っていると、フローラの歌声が聞こえてくる。次代の歌姫と名高い彼女は努力家で、毎日、昼休みに音楽室で歌うのだ。
彼女の歌声はハイトーンにも関わらず、不思議と頭に響く感じがしない。むしろ、その高音が心地良くてたまらない。
だから、最近の日課は昼休みにテラス席に来て、彼女の歌を聴き入る事。目を閉じて、ゆったりとしていると、気分がとても和らいだ。
「寝てるの?」
声をかけられて目を開ける。
私の癒しの時間を邪魔した人の正体はニコラス殿下だった。
彼は断りもなく椅子に座った。
「最近はどう? 姉上が心配していたよ」
ローズ王女殿下にはお世話になりっぱなしだった。彼女は私の身体を気にかけてくれて、定期的にリラックス効果の高いお茶を送ってくれる。
それに、社交界で私が嘲笑の的にならないようにと気を使ってくれているおかげで、何とか孤立せずに済んでいる。
「まあまあですね」
歌声を聴きたくて、短くて適当な返事をした。
ニコラス殿下は私が話をする気がないと悟ったらしい。ぼんやりと、下の様子を眺め出した。
━━外の景色なんて、見なくていいのに。
ミランダは私が昼休みにここで過ごしている事を知ると、中庭のベンチでケイン殿下といちゃつく様になった。彼女の私への対抗心の強さと、幼稚な嫌がらせには、本当に呆れ返ってしまう。
「ケインも馬鹿だね」
「今、その名前を出さないで下さい。いいところなんですから」
ニコラス殿下は不思議そうに首を傾げた。
歌はサビの部分に差し掛かり、フローラの美しい高音が鳴り響いている。私はもう一度目を閉じて、じっくりとそれを聞こうとした。
━━ああ、癒される。
そう思っていたら、唇に不思議な感触がした。驚いて目を開けると眼前にニコラス殿下の顔があった。それで、ようやく、私はキスをされているのだと認識した。
季節は移り変わり冬になった。半年の時が経ったというのに、未だに私の婚約は解消されていない。
多額の賠償をドルウェルク家が払うと伝えているのに、第一王妃様は「婚約の解消は絶対にあり得ない」と頑なに拒否している。
一方、国王陛下は、賠償の内容に難色を示しているらしい。少しでも多く利益を得ようという意図が見え見えなのだとお父様は言っていた。
そして、ケイン殿下は、というと。婚約解消に大手を振って賛成すると思いきや、反対している。
しかし、それは彼の本当の意思ではないのだろう。きっと、両親の手前、賛成する事ができないのだ。
彼は相変わらずミランダと付き合っていて、私とは目も合わさず、口も利かなくなっていた。
彼は何も変わっていない。今日だって、先輩の卒業パーティーへの参加を拒否し、ミランダとデートしているのだから。
━━仲が悪いとはいえ、兄の代の卒業パーティーなんだから、参加するべきなのに。
彼は相変わらず傍若無人に振る舞っている。
私は、一人で卒業パーティーに参加した。私まで礼儀知らずと思われたくないから。ケイン殿下の婚約者である以上、その立場に見合った行動を取るつもりだった。
エレノアとニコラス殿下が一緒にいる時に、声をかけて、一言挨拶して帰ればいい。それが、周囲に誤解をされず、穏便な形で礼を尽くせるはずだ。
そう思ってチャンスを伺っているのに、エレノアはニコラス殿下のもとに全然来ない。
━━婚約者なら、隣りに立って一緒に挨拶してよ。
内心、エレノアに悪態をついていると、ニコラス殿下と目が合った。
彼はにこりと笑うと、わざわざ私の所にやって来た。
「来てくれてたんだ」
「ええ。ケイン殿下の体調が良くないみたいですから、私、一人ですが・・・・・・」
「ははっ」
彼は面白そうに笑った。
「いいんだよ、そんな嘘は。婚約、やめるんだろう?」
言われてはっとする。ケイン殿下の婚約者としての振る舞いを無意識のうちに考えてやってしまっていた。
私は彼のためではなく、自分の名誉のためにここに来たというのに。
「そう、ですね。あはは・・・・・・」
笑って誤魔化すと、私はパーティーに参加した目的を思い出した。
「ご卒業おめでとうございます。ニコラス殿下」
「ありがとう」
「これから寂しくなりますね」
社交辞令的に言えば、彼は何処となく嬉しそうにしていた。
「またすぐに会えるよ」
それは知っている。ゲーム後半でのニコラスは理事として、登場したのだから。
ニコラス殿下は、学園の卒業を機に学園の理事として名を連ねる事になる。それが成人した彼が就く役職の一つだった。
だから、ゲームの彼は卒業してからも、頻繁に学園を訪れていた。そして、彼が理事会に参加した後に、ヒロインはよく遭遇していたのだ。
「何だ、驚かないんだ」
「理事になるって噂で聞きましたから」
「流石の情報収集だ」
彼はそう言って笑った。
「ああ。もうそろそろ行かなきゃいけないな・・・・・・」
彼は名残惜しそうにつぶやいた。
「それじゃあ、パーティーを楽しんでね」
「ええ」
ニコラス殿下は、別の人のもとに挨拶へ行く。私はそれを見守ると、会場を後にした。
※
時はあっという間に過ぎ去り、17歳の、3年生になった。秋も終わりかけ、木々の葉は完全に抜け落ちてしまった。
━━葉っぱと一緒に、私達の婚約も飛んでいったら良かったんだわ。
空を見上げながらそんな風に思った。
去年から状況は何も変わっていない。変わった事と言えば、新しい悪役令嬢フローラ・アイズ子爵令嬢が入学してきた事くらいだ。彼女とは直接の接点はないけれど、私は彼女の事が好きだった。
━━あ、聞こえた。
昼休みに校舎2階のテラス席に座っていると、フローラの歌声が聞こえてくる。次代の歌姫と名高い彼女は努力家で、毎日、昼休みに音楽室で歌うのだ。
彼女の歌声はハイトーンにも関わらず、不思議と頭に響く感じがしない。むしろ、その高音が心地良くてたまらない。
だから、最近の日課は昼休みにテラス席に来て、彼女の歌を聴き入る事。目を閉じて、ゆったりとしていると、気分がとても和らいだ。
「寝てるの?」
声をかけられて目を開ける。
私の癒しの時間を邪魔した人の正体はニコラス殿下だった。
彼は断りもなく椅子に座った。
「最近はどう? 姉上が心配していたよ」
ローズ王女殿下にはお世話になりっぱなしだった。彼女は私の身体を気にかけてくれて、定期的にリラックス効果の高いお茶を送ってくれる。
それに、社交界で私が嘲笑の的にならないようにと気を使ってくれているおかげで、何とか孤立せずに済んでいる。
「まあまあですね」
歌声を聴きたくて、短くて適当な返事をした。
ニコラス殿下は私が話をする気がないと悟ったらしい。ぼんやりと、下の様子を眺め出した。
━━外の景色なんて、見なくていいのに。
ミランダは私が昼休みにここで過ごしている事を知ると、中庭のベンチでケイン殿下といちゃつく様になった。彼女の私への対抗心の強さと、幼稚な嫌がらせには、本当に呆れ返ってしまう。
「ケインも馬鹿だね」
「今、その名前を出さないで下さい。いいところなんですから」
ニコラス殿下は不思議そうに首を傾げた。
歌はサビの部分に差し掛かり、フローラの美しい高音が鳴り響いている。私はもう一度目を閉じて、じっくりとそれを聞こうとした。
━━ああ、癒される。
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